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白い閃光を抜けた。
細かい粒子から形作られた体。
吹き抜けるさわやかな風を感じて柔耶は瞳を開いた。
目の前に現れたのは抜けるような青い空。
見下ろした場所に小さな、素朴な感じのする村があった。
柔耶は自分達のいる場所を確認しようと辺りを見回す。
そこは緑が生い茂る森を抜けた丘であった。
葵は丘からの景色を楽しそうに眺めていた。
「ここでお弁当が食べたいなぁ〜♪」
ニコニコしながら葵は柔耶に抱きつく。
そんな葵を軽く抱きしめて柔耶は口を開く。
「それいいね。また今度ここに来ようか。」
「うん♪」
端から見るとバカップル全開の二人は、とりあえず丘を下り、村を目指した。
森を抜けて途中にある村への道を辿る。
難無く村へと辿り着いた二人。
鍛えているだけあって、整備されていない道でも何の問題もない二人だった。
その辺りの村人に宿のある場所を尋ねると、早速宿へとチェックイン。
女将さんに案内されて部屋へ。
「お二人でご旅行ですか?」
「いえ、なんか召喚されちゃって。どう活動するか悩んでるんですよ。」
「あたしは寝てたからお話し聞いてなーい♪」
どっちが年上だかわからない会話。
葵は無邪気に笑って柔耶にくっついている。
「それは大変ですねー。勇者さんですか?」
なにやら慣れている感じのおかみさん。
「僕は神官です。アオ姉はガンナー。勇者もいいですけど、もう流行らないかな、って。」
勇者からすると、身も蓋もないことを言う柔耶だった。
そんな雑談をしつつ、必要事項を記入して、前金を払う。
そして、女将さんに部屋へと案内された。
ベッドが一つという辺り、ベタというか、粋な計らいというか。
まぁ、特に問題無いんだけどね。
「朝食と夕食は一階の食堂です。時間のほうは言っていただければ融通しますんで。では、ごゆっくり。」
「わかりました。」
女将さんが出ていくと、荷物を置いた。
荷物といっても、白の部屋で買った、護身用程度の短剣とか、薬とか、着るものぐらいなものだ。
戦うためのものは、白の部屋に置いてある中に、合うものが無かった。
アオ姉と僕の戦闘スタイルに合うものはおそらくオーダーメイドするしかないだろう。
こんなことなら持ってきておけばよかった、と一瞬思ったが、あんなもの日常に持つものではない。
なにより、僕がこの世界に期待していることとは対極に位置する。
「柔耶?なんで難しい顔をしてるの?」
間近にアオ姉の顔。キョトンとした表情。
僕はアオ姉のほっぺに手を添えて微笑んだ。
「なんでもないよ、アオ姉。」
くすぐるようにコショコショっとしてアオ姉が気持ち良さそうに笑っているのを確認すると、笑みを絶やさないようにしながら思考する。
さて、行動方針。
一応、目標は魔王を倒すこと、おそらく殺すことが目標だ。
はっきりいって、どうでもいい。
僕は、他の人が遂行してくれればいいと思っている。
もしかすると、アオ姉は戦いたいのかもしれない。
それは気掛かりだ。
うーん、アオ姉の好きなように生きて欲しいんだけど、闘争本能に関しては植え付けられたものだしなぁ……。
とりあえずは静観。
立ち塞がる敵は皆殺しだけど、こちらからのアクションは無しの方向で。
「ねぇー、柔耶。髪といてぇー。」
甘えた声でおねだりするアオ姉。
僕は心からの笑みを向けて頷くと、カバンから櫛を取り出し、膝をポンポンッと叩いた。
アオ姉が満面の笑みを浮かべて、僕の膝の上にちょこんと座った。
「えへへー♪」
嬉しそうに笑うその姿に思わずこちらも笑みがこぼれた。
少しだけアオ姉のほうが背が高くてやりにくかったりするけど、気にしない。
腰よりも長くて、艶やかな黒い髪に櫛を入れる。
これは日課であった。
みだしなみに無頓着(興味を持つように育てられていないのが原因なんだけど)なアオ姉が唯一、おとなしく受け入れていること。
まぁ、アオ姉をサポートするためだけに育てられた僕がやっているからなんだろう。
アオ姉は社会不適合者である。
僕も社会不適合者である。
お互いが存在しないと生活することが出来ない。
もし、アオ姉だけになった場合、簡単に人を傷つけてしまうだろうし、物を盗っても悪いことだという認識に至らないだろう。
ただ、暗殺の技術だけを詰め込まれた人形。
暗殺者として使えなくなれば、子孫を残すためだけの子宮扱い。
アオ姉の母親は、アオ姉を生んでからすぐに死んだ。
なぜなら用を成したから。
家に必要ではなくなったから。
きっとアオ姉もそうなる。
僕はアオ姉がいなくなれば、生きる意味が無くなる。
アオ姉を普通の生活に溶け込ませるのが僕の存在意義。
それ以外は無い。
アオ姉のためなら、笑顔の仮面を張り付かせて、媚びへつらうことも出来るし、靴を舐めることだって出来る。
もちろん、アオ姉に害を為すものには遠慮はしない。
アオ姉の髪をすきながら、色々と考えてしまった。
家のことは仕方ない。
いまさら生まれをどうこうすることは出来ないから。
それよりも、これからどうするかだ。
今回の出来事はチャンスではないかと思っている。
あの家から逃れるための。
もしかして『魔王』を倒さなければ、この世界にいられるんじゃないだろうか?
アオ姉と一緒に。
柄にもなく、希望で心が沸き立つ。
少し、自分から積極的に動いてみてもいいかもしれない。
アオ姉のためだ。
きっと、この感情でさえも植え付けられたものなんだろうけど、何も無いよりはマシだと思いたい。
「柔耶、なんかお話して?」
考え事に熱中しすぎていて、どうやらアオ姉は退屈だったみたい。
髪をすく手を止めて、そっと抱き寄せた。
「いつか、なんにも束縛されない日が来るといいね……。」
温かいアオ姉の体を包み込む。
アオ姉は肩ごしにこちらを見て、口を開いた。
「……そんな日は来ないよ。」
無表情で言ったアオ姉のその一言が、僕の心を突き刺し凍らせた……
お気軽に叩いてやってください、喜びます(笑)
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