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日の光が入らないほどに鬱蒼と繁った森。

それはいわゆる迷いの森とか呼ばれるもので、怪物や獰猛な獣がそこらじゅうにいた。

暗くじめじめした獣道を歩いているのは麻衣。

この世界に来た時と比べて、薄汚れ、擦り傷を負い、凄惨な顔つきへと変わっていた。

自信の無い弱々しい目つきは消えていた。

油断無く辺りを見回し、容赦せずに敵を狩るような狩人の目つきへと変貌している。

「……。」

無言で辺りを見回して、自分を狙う存在の有無を確かめる。

殺気や視線が無いのを確認すると、手近の胴の太い木に登り始める。

麻衣は定期的にこうやって木に登り、太陽の位置を確認するのだ。

そうして方角を確かめなければならないほど、この森は広く、迷いやすい。

数時間ぶりの空と太陽に目を細める麻衣。

弓矢を枝にひっかけないよう注意しながら手頃な枝に腰をかけた。

やはり数時間ぶりの休憩である。

「……はぁ。」

まとめていた髪がとめどない戦闘で乱れていた。

それを直して、弓の点検。

矢の本数を数えて麻衣は顔をしかめる。

「けっこう買っておいたんだけど……。」

随分と消耗していた。

使えそうなものは回収していたが、これからのことを思うと不安な数であった。

回収した矢にこびりついた怪物の血を布で拭う。

研ぎ石も買っておけばよかったと思いながら、麻衣は自分が生き残るために出来ることを全力でやった。

麻衣はそこらにいた蛇を捌きがてら体を休めていると、空から飛来するものを視認した。

「何か…墜ちてる?」

それは飛んでいるのではなく墜ちていた。

麻衣は目を凝らしてしっかり見ようとした。

アーチャーとして身に付いた『鷹の目』の力がここで役に立った。

「……人!?」

確かに人が墜ちているのが見えた。

完全な自由落下。

魔術やその他の要因で落下を防いでいるようには見えなかった。

そのまま、麻衣のいる位置から離れた場所に墜ちた。

森の木々がクッションになってくれるだろうが、無事なわけはない。

「……いかなきゃ。」

自分自身のことで精一杯の麻衣だったが、せめて、生きているなら助けたかった。

だから手早く装備を整えて、登った時と同じようにスムーズに木を降りると墜ちた場所に駆け出した。

運良く、怪物には出会わなかった。

もしかしたら怪物も落下したものに興味を持ったかもしれないと麻衣は思ったが、怪物達は不信感の方が勝ったらしい。

しかし、麻衣がそこに辿り着いた時には既に先客がいた。

グルルルルルゥッ――

灰色の毛皮を纏う牙を持つもの、灰色狼だ。

2匹の牙は血に濡れている。

捨てられたようになっている人の体。

そこから一匹は臓物を引っ張りだして喰らい、一匹は腕を千切ってかじりついている。

「ッ!?」

麻衣は顔をそむけたくなった。

涙が出そうになった。

それは残酷な現実で、あれは近い未来の自分の姿かもしれなくて、そんなものは見たくなかった。

こんなところに召喚されたがゆえに体験しうる、ありえない現実。

しかし、目をそむけるわけにはいかなかった。

狼は麻衣の存在に気付いていたから。

目をそらせば2匹はなんのためらいもなく麻衣に襲いかかり、その喉笛を噛みきるだろう。

「……。」

麻衣はにらみつける。

矢を取り出し構えた。

弓につがえる隙を狼は与えてはくれないと判断し、白兵戦の思考へと切り替える。

右手に矢を、左手に弓を持って狼に対峙する。

「ガルルルッ!」

臓物を噛みつぶし、血しぶきを巻き散らした狼が姿勢を低くした。

全身のバネを使って麻衣に飛びかかろうという構え。

もう1匹は麻衣の方をチラリと見ただけで、構えた方に任せるといわんばかりに食事を再開した。

手首の部分にかじりつく。ブチブチッと噛み切られた指が、血液をこぼしながらボトボトと地面に落ちた。

見せつけるようにして喰らう狼に激しい怒りを感じながらも麻衣は冷静さを失わない。

(相手が1匹ならやれる……。)

狼が飛びかかる。

前足の鋭い爪が麻衣を切り裂こうと振るわれた。

それをバックステップでかわして、矢を投げつける。

狼は矢を払いさらに迫る。

麻衣は次の矢を取り出し、狼の牙を右に体を投げ出して避けた。

追従しようと狼が方向転換する一瞬の動きの硬直を狙って、体勢を崩しながらも狼の足を狙って矢を投げた。

「ぎゃん!?」

決して深くは無いが、傷を負わせた。

狼の瞳が怒りに染まる。

だが、怒っているのは麻衣も同じであった。

次の矢を取り出し、もう一度同じ足に投げつける。

狼は同じ場所へのダメージはごめんだとばかりに大袈裟に避けた。

それが、狼の過ちだった。

「ふっ!」

鋭い息を吐きながら、麻衣は狼の間近に迫っていた。

矢を振りあげて、狼の眉間へとめがけて振り下ろす。

狼は野生の本能とでもいうべき動きで、辛うじて顔を動かすが避け切れずに矢は左目に突き刺さった。

「ギャウンッ!!!」

痛みと恐怖が混じった鳴き声。

麻衣はうるさいな、と思って短剣を取り出し追い撃ちをかけようと、のたうつ狼に迫る。

命の危険を感じた狼は痛みをこらえて麻衣から距離を取った。

そしてそのまま、森の中に逃げようと麻衣から目を背けて走り始めた。

「……。」

麻衣は短剣を捨てて弓を矢につがえた。

狼は木々がめくらましになると思ったのだろうが、麻衣には関係無かった。

枝という枝を避けて狼に命中する道筋を見つけると、弓をひきしぼり放った。

針を通すような正確さで、狼の頭蓋を貫き、狼が動かないことを確認すると、弓を下ろした。

「……はぁ。」

ため息をついて、肩の力を抜いた。

もう1匹のほうはとっくに逃げ出していた。

どうやら単なる臆病者だったらしい。

しっかり腕をくわえていったが。

短剣を拾って、収めると喰い散らかされた誰かへと歩み寄る。

「……もう息は無いだろうけど……。」

それでもちゃんと確認しようと思って、血まみれの体のそばへ屈む。

右腕は喰いちぎられ、左腕は黒焦げて炭化していた。

胴体も喰われたせいでぐちゃぐちゃになっており、恐らく重要な内臓のほとんどがぶちまけられていた。

麻衣は吐き気をこらえながら顔を確認しようと、うつ伏せになった体を起こした。

腹から血がこぼれて地面を濡らす。

そこは水溜まりのようになっていた。

「……うっ……。」

顔の半分の皮膚がズルズルになって、皮膚の下が剥き出しになって神経まで見えている。

判別出来ないかと思ったが、麻衣には見覚えがある人物に思えた。

「……もしかして、でも、そんな……。」

麻衣は信じられなかった。

自分の知った人がこんな無惨で悲惨で、漫画や映画でしか見たことのないような姿になっているなんて。

(親しかった人じゃないけど、こんなになるなんて想像もつかないような人だった……。)

「……刀夜さん……。」

無事な半分の顔は穏やか表情をしていた。

何かをやり遂げたような満足した顔。

麻衣には何があったかわからない。

でもその表情で少しは麻衣の心は救われた。

「私に出来ること……今から応急処置じゃ意味が無いし……。」

せいぜい埋めてあげるしか出来なかった。

街まで連れて帰るには麻衣にとって荷が重すぎる。

刀夜と親しかった人達に会わせてあげたかったが、遺品を持って帰ることしか出来なさそうだ。

「……。」

今や五体満足とは言えない刀夜を見下ろす。 どこか大きな木の下にでも葬ろうと思った時に、人の気配がした。

「麻衣様、ちょっとお待ちくださいませ♪」

現れたのは万能メイドのリーアだった。

何故か違和感なくこの森に存在するリーア。

「え?リーアさん?どうして?」

麻衣は思いがけない人物の登場に唖然としていた。

リーアはニッコリ微笑む。

「刀夜様のことは私におまかせ下さい♪」

何の根拠もない言葉だったが、妙に信頼させるオーラがでていて思わず麻衣は頷いた。

何をするかはわからないがリーアに任せようと思った麻衣。

リーアは刀夜に歩み寄ると、どこからか剣をとりだした。

「リ、リーアさん!?一体何を!?」

死者をさらに貶めるような行為に及ぶかと思い、焦る麻衣。

「麻衣様、大丈夫です。見てて下さい。」

剣を刀夜へとかざす。

メイド姿だとかなりシュールな光景なのかもしれない。

青い輝きを放つ刀身を見つめるリーア。

麻衣も吸い込まれるようにしてその剣を見つめる。

そしてリーアは口を開いた。

「コキュートスよ、その力を解放せよ!『アイス・コフィン』。」

リーアが呪文のような、力のある言葉を放つと剣がきらめいた。

ぼんやりとしていた青い輝きがはっきりとした輝きを放ち始める。

そして『コキュートス』と呼ばれたその剣から冷気が吹き出す。

それはキラキラと刀夜の体を回り始め、包み込む。

周囲の空気をも冷やしながら、刀夜の体は凍っていった。

「……氷漬け?」

「氷の棺ですよ。」

麻衣はリーアの意図がわからなかった。

だから、思ったことを口にする。

「……保存ですか?」

氷漬けにするならそれぐらいしか思いつかない。

「えぇ。腐らないようにですよ♪」

「でも、運べないですよ。」

氷漬けにした分、さらに持ち帰ることが困難になった。

2人ではとても運べそうに無い。

「運びませんよ?」

リーアはあっけらかんと言い放つ。

「え?じゃあ……。」

リーアがそういたいのかわからない。麻衣は混乱していた。

リーアはニコッ、と麻衣に微笑みかけた。

「今回は時間切れですね。後ほど説明します♪」

「え?」

麻衣が問いかけようとした時、世界が明滅した。

いや、世界がではなく麻衣自身がこの世界への存在感を薄くしていた。

体が白い粒子を放ち解けていく感覚。

世界が白かった。



お気軽に叩いてやってください、喜びます(笑)


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