TOP
戻る




俺達は光の奔流を抜けると、草の匂いがする場所にいた。

「…静かだな…。」

厳密に言えば全く音が無いわけじゃない。

風によって起こる木々のざわめき、草花の触れ合う音。

もっと耳を澄ませば虫の音も聞こえてくるに違いない。

そうだな、ここにあるのは自然の音。

俺達の世界では少しばかり遠くなってしまった音が、景色がここにはある。

道がコンクリートに塗り固められていない。

俺達の感覚で言えば道と呼べるような代物じゃないかもしれない。

だがこれがきっと本来の道なんだろう。

「騎理、向こうに町があるようだ。」

真悟のいつもと変わらぬ、冷静な声。

俺は少し感傷的になっていたみたいだ。

ぼんやりとした感情を振り払う。

「ああ。行こう。」

真悟が先頭に立ち、俺と真矢が続く。

少し距離を置いて仁がついてくる。

ひとまず四人で町へと向かった。

特に会話もなく、それが苦というわけでもないのだが、要は暇なのだろう。

ただ町に向かって歩いている時、真矢が口を開いた。

「町ではまず、情報収集ですか?」

「そうだな。最終的な目的は決まっているから、まずはそれに向けてどうするかを考えねばならない。」

真悟が腕を組み、考えをまとめようと頭を働かせている。

「とりあえずは、あの町を拠点にして情報収集だろ?期限が決まってるわけじゃない。ゆっくりやろうぜ?」

真悟の真面目さは尊敬するが、力を入れ過ぎる傾向がある。

こんな訳のわからないことを真面目にやる必要は無い。

俺達に出来ることならやってもいいが、今はまだ気楽にやるべきだ。

「僕も賛成ですね。」

自信の無い表情で仁が言った。

演技だってことはわかっているんだがな。

風貌、言動からすれば気弱で、存在感が無く、ダメなやつと言われるだろう。

だが、そんなやつが、この生徒会メンバーの中で自己主張は出来るはずがない。

状況が状況だけにそういうこともあるかもしれないが、本当に気弱なやつだったら、逆に取り乱し、食ってかかってくるだろう。

こんなに落ち着き、前髪に隠れた目から時折覗く鋭い視線が、本当の仁を浮かびあがらせる。

「ふむ、そうだな。まずはじっくり準備をしなければな。」

真悟は頷いているが、たぶんこっちの伝えたいことは届いていないだろう。

「気楽にいこうぜ。」

俺は真悟の肩をポンッと叩いた。

真悟は頷くが、やっぱり生真面目に頭を働かせていた。

町へと辿りつく。

ここはルファ。

始まりの町と呼ばれる場所で、町ではなく国と言ったほうが正しいほど、大きな、そして人の多い場所だった。

大通りは雑多に人が溢れ、露店が並び活気ある声が飛び交う。

俺達はそういった場所には目もくれずに、ひとまず宿を目指した。

そこを拠点にしようという考えだ。

適当な宿をとり、俺と真悟で一つ、真矢で一つとった。

仁は別の所にとるらしい。

俺と真悟は部屋に荷物を置くとベッドに腰かけた。

「どうやらこの世界の中心と呼べる場所に飛ばされたようだな。」

「そうみたいだ。俺達は運がいい。」

もっと辺境に飛ばされているメンバーもいるはずだ。

そのことを思えばかなりの幸運に違いない。

その時、ドアがノックされて開けられた。

メガネをはずして、髪型を整えた仁が現れる。 

「ここから俺は別行動をさせてもらう。」

制服を着崩し、シャツをはだけて鍛えられた体が覗く。

「あぁ、わかった。私達はここにいるから、定期的に情報交換をしよう。」

真悟は仁にいくらかの金を渡した。

仁はそれを受け取るとポケットに突っ込み、背を向けて手をヒラヒラと振って部屋を出ていった。

「……。」

俺はそのやりとりを無言で見ていた。

仁が色々とやっていたことは気付いていた。

だから信用していないことは無いが、金が縁の切れ目じゃないだろうなぁ、と思いながらベッドに身を預けた。

「騎理、疲れたか?」

真悟が剣やら鎧やらを手入れしながら声をかけてくる。

くそ真面目なやつだな、と苦笑しながら身を起こす。

「いんや。色々あって頭の中、整理しないといけないなって。」

「そうか。気分転換に外でも行ってきたらどうだ?」

外を指差す真悟。

確かに外は賑やかで楽しそうだったな。

「……それはいいかもな。」

「真矢を誘っていってくるがいいさ。私は留守番をしている。」

真悟は手入れしながら言った。

俺は真悟に悪いな、と思いながらもお言葉に甘えることにした。

「そんじゃ行ってくるわ。」

「あぁ。」

財布だけ持って部屋を出る。

さて、とりあえず真矢でも誘ってみるか……。



お気軽に叩いてやってください、喜びます(笑)


TOP
戻る