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一週間の修行を経て、俺は三回目の試合へと挑んだ。
野次と応援が入り混じったものを浴びながら舞台へと向かう。
「同レベルならまず負けることはないでしょう。1レベル差でも油断しなければまず勝てます。」
右斜めちょい前を歩くエイラさんのお墨付きが出た。
実は前回の試合で気が付くとレベル4になっていた。
なので、おそらくはレベル6までの相手とは戦えるんじゃなかろうか?
とエイラさんに言ってみたら、
「自分の力を過信しないで下さい。」
あっさりと一蹴されてしまいましたとさ。
だから、今回の相手はレベル4。
着実に勝ってゆくようにとのご指示。
「ちなみに審判に関しては公平にやりますから。」
「冷たいなぁ〜。俺とエイラさんの仲じゃないかぁ〜。」
「……。」
そんな軽口を言ってみたら、無言で睨まれてしまった。
さて、今回対峙する相手はどんなかな?
「……。」
手を振ってみるが反応は無い。
見るからに寡黙そうな男。
細い体、例えるなら柳だろうか?
しかし、男の気配には凄味がある。
鬼気迫るとはこのことをいうのだろう。
これは気を引き締めなければ。
なんだか殺されてしまいそうだ。
少し緊張。
いや、ほどよい緊張と言うべきか?
一週間の修行の成果を試す時だ。
「あまり気負うことのないように。公私混同はしませんが、一応は応援しています。」
クールな物言いだが、かすかに口許が微笑みの形になっていたのを見逃さない。
俺は投げキッスでエイラさんに答えた。
む、華麗に避けられてしまった、やるな。
今日の試合の俺の装備は、遅延剣をメインに予備の剣が一本腰に差さっているのみ。
小細工無しで戦うつもりだ。
いつまでも小細工が通用する相手と当たるわけではない。
ここらで、正面からの真っ向勝負に挑戦というわけなのだ。
まぁ、遅延剣の能力がハマれば、一回目の試合と同じ感じになるんだけど。
ここは殺伐とした斬り合いを避けるという意味で。
さてさて、そろそろ時間いっぱい。
観客のボルテージが上がってゆく。
相手の男はズラリッと剣を抜き放った。
剣というか、刀だな。
俺も遅延剣をそろりと抜く。
両者が各々の構えをとる。
審判のエイラさんは両者の顔を順番に見ると、
「試合開始!」
凛とした合図で試合が始まった。
「おおー、やっておるなぁー♪」
鍔の大きい白い帽子をかぶり、白いワンピースに身を包んだ女の子。
帽子からこぼれ出た透き通るような金髪が風に揺れる。
意志の強そうな瞳がきらきらと輝く。
少女は身を乗り出して闘技場の舞台をのぞき見ていた。
一見おてんばそうな印象の女の子だが、
どことなく気品が漂い、仕草の端々に優雅さがあった。
「ひ、ゴホン、ゴホン、お嬢様、おとなしく席に着いてご観覧を。」
ビシッとタキシードを着込んだ初老の男がたしなめる。
女の子は水を差されて頬をふくらませる。
「むぅ、今日ぐらいはいいではないか。」
「いいえ、ダメです。本来ならこのようなところに来ることさえもままならないものを・・・。」
ぶつぶつと小言を続けようとするところを、少女はうっとうしそうに手を振って制止した。
「私はおまえが何を言おうと、今日は見事に堪能してやるつもりだ。おまえも堪能するがいい。」
「そうはいきませぬ。常に目を光らせておきますから、そのおつもりで。」
「むぅ、固いやつだ・・・。」
つまらないなー、と呟いてとりあえずは席に着いての観戦。
反抗期じみた態度を見せてはいても素直なお嬢さんに違いはなく、
それなりに行儀良く試合を見つめるのだった。
正面からの対峙。
どちらからともなく斬りかかった。
お互いが風を斬り、身をひるがえす。
場所を入れ替えて、再び同様の動作へ。
相手は騎理の剣の能力を警戒しているため、まともに打ち合わせようとはしなかった。
だから、いま一歩の踏み込みが足りず、その剣の鋭さを半減させていた。
一方、騎理のほうはというと、鍛練の効果で相手の動きをしっかりと捉えながら軽やかに戦っている。
観ていて明らかに余裕のある戦いぶりであった。
しかし、端から観ているエイラにとっては不本意な戦い方にしか映らない。
(……相手が様子をうかがっているうちに一気に決めればいいものを……。)
それが出来るだけの力を持っているのを知っているだけに、エイラは歯がゆく思った。
しかし、自分は審判として公平に試合を見届けなければならない。
軽い葛藤を感じながら試合に集中した。
「よっと!」
身を捻って、剣を避ける。
続いて繰り出された拳を、左手で払いのけて右脚で蹴りを放つ。
相手の左脇腹を掠めてだけだったが、体勢を少しだけ崩すことに成功。
剣を振るうと、肩当てで上手く防がれてしまった。
なんとか1回目の命中。
続けて2度3度と振り回す。
相手はしゃがみこみ、左前方へ回避行動を取る。
俺は立ち上がる隙を与えないように、容赦無く男の背に向かって蹴り放った。
「カハッ!?」
一瞬の呼吸困難からすぐに復旧して、転がりながら俺から距離を取る男。
刀を下段に構えて立ち上がる。
双眸は憎しみを込めた鈍い輝き。
・・・憎悪とかってきついな。
よく考えたらまともにそれを感じたのは初めてかもしれない。
試合というか、お仕事と割り切って対処するしかない。
うーん。本当に割り切れるのか?
今は考えるな、試合に集中・・・。
「おおおぉぉぉぉぉおおおぉぉっ!」
魂を込めた叫びを上げての突撃。
きっとこれは、俺との打ち合いを覚悟したに違いない。
少しの攻防で感じ取ってしまったのだろう、力量の差を。
だから、こっちの剣の能力がまともに機能する前に試合を決めてしまおうという腹積もり。
はっ!そう簡単にやられやしないさ。
渾身の突きが放たれた。
空気を斬り裂きながら眼前に迫るそれを、叩き付けるようにして遅延剣ではじく。
そのまま流れるようにして間合いを詰めて拳を鳩尾に向かって撃つ。
「グブゥッ!?」
顔を歪ませて石造りの舞台に膝をつく男。
見事にクリーンヒット。
エイラさんの特訓の賜物だ。
歓声が聞こえる。
やはりこういう解りやすい状況がお好みのようだ。
どこからか『トドメを刺せ!』という声が聞こえてしまった。
「・・・降参したらどうだ?」
命を奪う気なんて毛頭無い。
すんなり降参してくれることに期待。
力の差は歴然なんだ、当然だろう?
男はうつむきながら荒く呼吸をしていた。
腹を押さえながら、じわじわと俺のほうを見上げた。
そして、まるで呪いでもかけてきそうな目でこう言った。
「勝ちたいなら殺せよ!俺は負けられないんだ!」
震える体を捻じ伏せて再び立ち上がる男。
だが俺は、
男の本気の台詞に
頭の中が真っ白になっていた。
そうだ、こいつは、いやここにいる奴らは、命を賭けてここにいるんだ・・・。
今になってようやく、俺はそれを認識した。
そして、俺はその覚悟無くここに立っているという現実。
審判であるエイラさんのほうをみる。
救いを求めて。
しかし、エイラさんは首を振った。
「まだ、戦闘の意志があります。」
まるで何も問題無いとばかりの解答。
・・・試合続行ってわけか。
突っ立ったままの俺に向かって男は斬りかかってくる。
反射的に剣を合わせて、力を受け流してすり抜ける。
すぐに打ちかかってきたところを、バックステップでかわす。
「どうした!?攻撃してこいよ!!!」
血走った目つきが、背筋を震わせた。
明らかに俺のほうが強いはずなのに、恐怖を感じた。
これが覚悟したものと、覚悟していないものの違い。
「くそっ!」
力を込めて剣を刀にぶつける。
男の手から刀が離れた。
遅延剣の柄の部分で胸を打ち、さらに蹴りを叩きこむ。
胸の強打で肺から空気が逃げていった。
空気を求めるようにしながら、仰向けに倒れる男。
俺は男の落とした刀を場外に蹴り落とした。
「これで、もう降参だろ・・・。」
頼む、降参してくれ。
そう願いながら、呻き声を上げて苦しむ男を見る。
しかし、願いは届かなかった。
涎を垂らし、ヒューヒューと息をしながらも、また立ち上がったのだ。
「俺は、まだ、死んで、ないぜ?」
ギラギラとした視線が突き刺さる。
衰えない殺気。
俺のほうが次第に追い詰められていく感触。
苦しい。
息が苦しい。
落ち着け。
何とか奴を降参するように仕向けるんだ。
ほら、何かあるだろ?
考えろ。
考えるんだよ!
・・・
・・・・・・
・・・そもそも、なんで降参させなきゃならんのだ?
男が向かってくる。
殺意をむき出しにして向かってくる。
怖い、怖すぎる。
嫌だ、嫌すぎる。
俺は死になかったし、誰も死んだりしてほしくなかったけど。
自分のことを優先させた結果、
「うわあぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁっ!!?」
無意識に領域で、剣を振り上げる。
奴の右肩から左の腰まで一気に振り下ろす。
肉とか骨とかを斬り裂く感触。
溢れだす真っ赤な血液。
生暖かいそれが降り注ぐ。
白目をむいて崩れ落ちる男。
そう、結局のところ、
俺は今、初めて人を斬ったのだった。
「・・・最悪だ・・・。」
もちろん人を斬ったこともだが、俺はこんなところにいながら
人を斬る覚悟が出来ていなかった自分に嫌悪した。
『ワアァァァァァァァァァァ!!!』
かつてないほど盛り上がる会場。
賞賛の嵐。
さらに理解したことがある。
ここの客達が求めていたもの。
それは血沸き肉踊る興奮の死合いだったのだ。
・・・あぁ、ちくしょおー、気持ち悪い。
感触が消えない。
吐きそうだ。
勝者の名乗り上げなんてどうでもいい。
早く俺を控え室に帰してくれ。
・・・早く俺を日常に帰してくれ・・・。
あとがきっぽいもの。
作者「久々更新。」
リーア「一気にペース落ちましたねー。」
作者「忙しくてさぁ・・・。ちょいと時間が出来た気配なんで書きまくったるぜぃ。」
リーア「キャラ絵のほうも頼みますよ?」
作者「両方一遍には・・・。なんとか善処する方向で〜。」
おわり
お気軽に叩いてやってください、喜びます(笑)
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