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控え室に向かう騎理の足取りは、かろうじて平静を保っているようなもの。

いまいち頼りない様子で辿り着くと、崩れるように椅子に座った。

「大丈夫ですかっ?」

騎理を担当する闘技場のスタッフの女の子が心配そうな顔をして駆け付けた。

騎理はなんとか首を持ち上げて、女の子、フェアルに笑いかけた。

心配させまいと。

「・・・あー、大丈夫。うん、大丈夫。」

ヘタクソな笑顔を浮かべているんだろう、と思いながらしきりに大丈夫だと主張する。

「で、でも・・・。」

明らかに大丈夫ではない様子に、フェアルは余計に心配になった。

「・・・少し休めばどうってことないさ。怪我してるわけじゃないしな。」

肉体よりも精神的な問題。

対戦相手の肉を斬った感触が消えない。

飛び散った赤色が脳に焼き付けられた。

「・・・ごめん、しばらく1人にしてくれる?」

声に力は無かった。

そんな騎理の様子が心配でたまらなかったが、フェアルは静かに頷いた。

「あの、ここに水を置いておくので、良かったら飲んでくださいね?」

「ありがと・・・。」

フェアルが控え室から出て行くと、騎理はぐったりとうつむいた。

その時、自分の装備に対戦相手の返り血が付いていることに気が付いてしまった。

「・・・くそっ。」

皮の胸当てと、インナーを脱ぎ捨てる。

血なんて見たくなかった。

斬った事実を突き付けられてしまうから。

汚れてしまったことを認識させられるから。

騎理はフェアルが置いていった水差しに手を伸ばす。

その水で手を洗う。

血で汚れている気がしたから。

実際は汚れてなんかいない。

それでも、熱心に洗う。

何度も。

何度も。

「ガラじゃねぇなぁ・・・。」

自分がこんなにもヤワだったことに苦笑いを浮かべる。

「そうですね。」

唐突な相槌に騎理はビクリと体を震わせる。

そして、声のした方を見るとエイラが扉を開けて立っていった。

ツカツカとヒールの音をさせて遠慮無く室内に入ってくる。

「そんなに力一杯やってると、削れますよ?」

ゴシゴシとひたすら手をこする騎理の手を取って言った。

少しひんやりした手で騎理の手を包み込む。

「・・・。」

騎理は何を言ったらいいか分からずにうつむく。

しばらくエイラは騎理の手を優しく撫でていた。

「貴方の対戦相手、命に別状はありませんでした。」

事実を淡々と告げる。

しかし、騎理にとっては救いにも似た言葉であった。

顔を上げて、安心したような、危機から脱出したような顔をしていた。

「そっか、ははっ、良かった・・・。」

再びうつむく騎理。

まだ汚れきってはいなかった、そんな想い。

今ならまだ、日常に帰れるという安心感。

騎理はどうしようもなく、泣きたくなった。

騎理の手を掴んでいたエイラの手に暖かいものが落ちた。

それは騎理の涙。

騎理の最後のプライド、かろうじて声を押し殺して騎理は泣いた。

「・・・貴方は人を斬ったことが、いえ、命の遣り取りをしたことが無かったんですね。」

エイラは勘違いしていたのだ。

闘技場での戦いは今日で3戦目。

死合いというものに慣れたとばかり思っていた。

しかし、騎理は以前の戦いから今日まで死合いをしているという感覚では無かった。

初めてその感覚に触れたのが今日の戦い。

初めての殺し合いを体験したということ。

「貴方にとってこの場所は向いていないのかもしれません。」

いとも簡単に命の遣り取りが行われる闘技場。

殺し合いに慣れるにはうってつけの場所には違いない。

「でも、貴方には慣れて欲しくないです。貴方に血の臭いは似合わない。」

騎理の顔に手を伸ばし、涙を拭う。

「きっと優し過ぎるんですよ。」

勇者達には世界の修正力が働く。

だから、おそろしく適応力が高い。

殺し合いにもすぐに慣れる。

「なのに、まだ涙を流せるなんて貴方がとても優しい証拠・・・。」

出来ればずっとこのままでいて欲しかった。

けれど世界がそれを許すはずがない。

魔王へのカウンターとして存在する勇者。

魔王を滅ぼすまで、あるいは自身が滅びるまで。

戦い続けることを強制させられる存在。

「理不尽ですよね、ごめんなさい・・・。」

想えば想うほど、謝らなければと想った。

謝って済むはずがないと理解しながら。

ゆっくりと顔を上げる騎理。

エイラの額に自分の額をコツンと合わせた。

騎理とエイラの視線が交わる。

「・・・エイラさんが謝ることなんてないさ。」

さっきよりも騎理の顔色が良くなっていた。

瞳に力が戻っている。

エイラが掴んでいる手を、力強く握り返した。

「俺は後悔したくないから、全力で今を生きることにする。」

騎理は決意する。

「もっと強くなる。人を傷付けることなく勝てるようになればいいだけなんだ。」

それが騎理の決めたこと。

傷付けることが嫌なら、傷付けなければいい。

単純明快な答え。

その道は果てしなく遠く、険しい道に違いない。

それでも、その道を突き進むと決めたのだ。

「人を傷付けるより、辛いことかもしれませんよ?」

「それより辛いことなんて俺には無いさ。」

騎理は笑顔を浮かべて即答した。

それは一切の迷いが無い、純真無垢な笑顔だった。

「入りにくい雰囲気だなぁ・・・。」

白いワンピースの女の子が扉から中を窺いながらそんな感想を呟く。

「でしたら帰りましょうか。」

初老の付き人は直立不動できっぱりとそう言った。

「それでは来た意味が無いだろう?せっかくだから直接話したいじゃないか。」

ちっちっち、と人差し指を立てて左右に振る。

「後日改めて呼びつければよろしいのでは?」

「こちらの都合の話だぞ?こっちから出向くのが礼儀だ。」

えへん、と薄い胸をそらす女の子。

やれやれとため息まじりに首を振る付き人。

「何か用ですか?」

「おわっ!?」

突然声をかけられて思わず飛びのく女の子。

いつの間にか扉の前に立っていたエイラ。

「騎理のファンとか?」

女の子の容姿を見ながら、思いついたことを呟くエイラ。

「微妙に違うが、近いかもしれん。ちょっと興味があるのだ。」

気を取り直した女の子は鍔の広い帽子を取ってそう言った。

「ん?どこかで見たことのあるような・・・。」

エイラは女の子を顔をジロジロと眺めた。

「ひ、いえ、お嬢様、わざわざ帽子を取らなくても・・・。」

「失礼だろ?」

「ですが・・・。」

「うるさい。」

「むぅ・・・。」

もう知りませんよ?、とぼそりと呟く付き人を捨て置き女の子は口を開いた。

「あの勇者、キリというのか?直接話がしたいんだが、大丈夫かな?」

「どうでしょう?聴いて見ましょうか?」

「頼む。」

「わかりました。」

エイラが再び控え室の扉をくぐろうとしたところ、

「俺に何か用なのか?」

先程よりも足取りが確かになった騎理が現れた。

気だるげに壁によりかかりながら女の子と付き人を眺める。

「む、体調が良くはなさそうだな。」

気遣わしげな顔をする女の子。

「ん?あぁ、ちょっと疲れただけ。」

「やはり、また今度にしたほうがいいかな?」

「内容によるが・・・。」

「ふむ、簡潔に用件を伝えるとだな。『勇者』に直接会いたかったのだ。」

「ほー、で、感想は?」

騎理がそう尋ねると、女の子はしげしげと騎理の顔を見てから、ニコッと花のように笑った。

「なんとなくお父様に似てる気がする!」

「・・・それ老けてるってことか?」

精神的にショックを受けて軽くへこむ騎理。

「そうじゃなくて、雰囲気とかってことだぞ?」

「似てますかねぇ〜?」

女の子の言葉に付き人が異論を唱える。

「ふーん、そっか。」

ぽんぽんと女の子の頭を撫でる。

騎理のその行為に、女の子はとても嬉しそうな顔をした。

「兄がいたら、こんな感じなのかな?」

「・・・。」

付き人は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

その反応に怪訝そうな表情をした騎理だが、なんとなくその話題に触れないでおこうと思った。

「よし、今日はこのくらいにしておこう。また来るぞ!」

満足した様子の女の子は、帽子をかぶった。

「もういいのか?」

「うむ。また今度、キリが元気一杯の時に訪ねる。」

「ははっ、いつでも来い。」

女の子の明るさとどこか芯の通った感じが、騎理の心を軽くした。

話していると、清々しくなる。

女の子は付き人を連れて去って行く。

廊下の角を曲がる時、振り向いて無邪気に手を振った。

騎理も軽く手を振って応えた。

「なんか良い子だな。」

「そうですね。」

「ところで、エイラさん。」

「なんですか?」

「あの子、誰?」

「・・・やっぱり気付いてませんでしたね。」

「知ってるの?」

「教えないということは、何か意味があるのでしょう。教えてもらえるまで待つべきですね。」

そう言い放つと、クルッと背を向けるエイラ。

「では私はこれで。次の試合が待っていますから。」

「はいよ、お気をつけて〜。」

ヒラヒラと手を振る騎理。

エイラはピンと背筋を伸ばした綺麗な姿勢で歩みを進めた。

「あっ、エイラさん。」

「はい?」

呼び止める騎理。

少しだけ照れた様子で口を開いた。

「今日はありがとう。そして、これからもよろしく。」

「ふふっ、了解しました。」

パチッと上手なウィンクを飛ばしてエイラは去っていった。

騎理も真似をしてみたが、残念ながら上手く出来なかった。

「・・・修行、修行っと。」

かすかに苦笑いを浮かると、騎理も控え室を去っていった・・・。



あとがきっぽいもの
作者「なかなか筆が進まなかったな・・・。」
リーア「不調ですかね?」
作者「うーん、調子がわからくなったというか、なんというか・・・。」
リーア「書きまくって取り戻すべし♪」
作者「頑張るさー!」
               おわり



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