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無機質な鉄格子に閉ざされた牢屋にそれはいた。
光が入りこむことのないそこで、壁に背を預けて座っている存在。
一本の剣が傍に立てかけてある。
その者が持つ唯一の持ち物。
闇と同化し、ただひたすらに暗闇へとその身を委ねる。
その時、少しだけ変化があった。
一点だけを見つめていた瞳が、まるで壁の向こうを見るようにしてギラリと動いたのだ。
「……この感じ、勇者か。」
口の端が上がり、冷酷に笑う。
それに呼応するかのように剣が鳴いた。
禍々しい気配が辺りに満ちてゆく。
「……ククッ、殺したいなぁ……。」
その呟きと共に憎悪が撒き散らされた。
牢屋を見張る兵士が崩れ落ちる。
もう一人の兵士が抱えて牢屋から遠ざかっていった。
「……クックックッ。」
嘲笑いながらきたるべき時を待った……。
遂にやる気を出した騎理の要望で、ある人物を屋敷に招くことになった。
盗賊王・厳重朗。
騎理は勇者の力を使いこなすことこそが、強さを身に付けるための近道だと考えた。
(闘技場での2回目の試合。あの時に内から溢れでた光はきっと勇者の力だ。あれを使いこなせるようになれば……。)
仁に頼んで厳重朗を連れてきてもらうことに。
「うっす。俺が盗賊王と有名な厳重朗様だ!」
Vサインを掲げたおっさんが屋敷に現れた。
「・・・知らねぇよ。」
ぼそっと呟く騎理。
「有名人ですよ?英雄の1人ですからね。」
冷静にエイラは言っているが、実際は少し緊張していた。
同じようにディルフォート氏もいつもよりさらに畏まった態度である。
「仁に話を聞いてから私なりに調べた。ルファではかなりの有名人だぞ?」
慎悟は騎理に聞いたことないか?と尋ねた。
騎理は首を横に振り、
「そもそも興味が無ぇから頭に入ってこないんだよ。なぜ男の情報をインプットしておかなければならん?」
堂々とそう言ってのけた。
「がっはっはっはっ!面白いガキだな!」
腕を組んで豪快に笑う厳重朗。
「おっさんも面白そうだな。」
お互いに物怖じせずに会話を始める騎理と厳重朗。
口では女の子以外興味無いと公言してはいても、嫌いな人間がほとんどいない騎理。
豪快な性格ゆえに、細かいことを気にせずに踏み込んで行く厳重朗。
仲が悪くなることなんてありえないのである。
「俺としては騎理がレベル6なるまでは出張るつもりは無かったんだが、
やる気になってる出鼻をくじくわけにもいくまい。俺が教えられることは全て教えてやるぜ!」
グッと握り締めた拳を突き出す厳重朗。
「あぁ、よろしく頼む!」
騎理も拳を握り、厳重朗の拳に突き合わせた。
勇者としての修行が今、始まる。
「まずは、色々と説明するから静聴するように。」
頷く一同。
屋敷に広い庭の一角、芝生が綺麗に生えそろった場所に陣取る一同。
メンバーは、厳重朗、騎理、エイラ、真矢、仁、後は数人の執事とメイドである。
慎悟とディルフォード氏は用事があって立ち去った。
実際、騎理以外はいてもいなくてもいいのだが、それぞれの思惑があって残ったのである。
「勇者の力は、『勇者の武具』のみだと思うやつが多いのが実情だ。俺も長い間そう思ってた。」
厳重朗の手に光の粒子が集まり、『盗賊の七つ道具』が形成される。
「だが、勇者の力の応用範囲は広い。これは『勇者の武具』が存在力で構成されているからだ。」
『盗賊の七つ道具』がハラハラとゆっくり光の粒子に分解された。
「この光が存在力だ。空気に溶けているように見えるが、実際には俺のところに戻ってきている。」
再び『盗賊の七つ道具』を創り出す。
「存在力自体に確かな形があるわけではない。あえて言うなら、この粒子の形かもな。」
パッと一瞬にして光の粒子になる『盗賊の七つ道具』。
厳重朗は人差し指を立てて、空気に溶けて消えそうになる光の粒子へと指を向けた。
すると、光の粒子が意志を持ったかのように指に集まり始めた。
クルクルと螺旋を描きながら人差し指にまとわりつく。
「この光の粒子状の存在力を使いこなすことが目標だ。ちなみに俺は3年かかった。」
光の粒子を一つにまとめて拳程の大きさのものを創り、軽く放り投げた。
花火のように散って、大気に溶けていく。
騎理達はオオーッと歓声を上げた。
「最初は、自分の持っている『勇者の武具』の形状変化から始めるのがいい。」
『盗賊の七つ道具』を創り、そのうちの鍵を手に取り目の前に掲げる。
そして、特に力を込めたとかの様子も無く形状が変化し始めた。
ぐにゃりと粘土細工のように様々な形状へ。
大きさも変わる万能の鍵。
「どんな家でも入れるな。」
「盗賊王っぽいだろう?」
騎理の感想に満足そうな笑みで答える厳重朗。
「形状は自由だ。各々の創造力次第で、『勇者の武具』はどこまでも強くなる。
最初に設定した状態は、『勇者の武具』を使い易くするために一定の方向性を決めただけに過ぎない。」
「ん?じゃあ、能力も変えられるのか?」
「それは無理。」
「・・・そっすか。」
そこまでの自由性は無いと厳重朗の言葉。
「最終的に、勇者は光の粒子状の存在力を纏い戦うのが本来の姿だ。」
光の粒子がサラサラとこぼれるように厳重朗の脚に集まる。
ぼんやりと輝く厳重朗の両脚。
「俺の場合、努力が足りないのか、才能が無いのか、両脚にしか纏えない。」
片足をあげてプラプラと振ってみせる。
火の粉のように光の粒子が大気を舞った。
「まぁ、この辺のやり方はおいおい説明するとして、まずは形状変化の練習な。」
「うぃっす。」
早速、遅延剣を創り出す騎理。
「既成概念に囚われるな。自分の存在を深く認識しろ。」
「・・・。」
遅延剣を両手で構える。
騎理は、なんとなく目を閉じて集中し始めた。
暗闇の中にぼんやりとイメージする、今とは違う形の剣の姿。
(細かいところは省いて、大雑把にイメージしてみるか。)
今は片手でも両手でも扱える普通の形をした剣。
「そこからもう一度、剣を創り出す感覚だ。」
厳重朗の言った通りに剣を創り出す時の感覚、内から熱いものが溢れ出てくるような感覚を再現する。
そこに、生まれたイメージを流し込む。
一定の方向性を注ぎ込まれた存在力は、確かな存在を得て世に生み出される。
「・・・来い。」
遅延剣が熱を帯びる。
光の粒子がこぼれ、淡く輝きを放つ。
そして両手に構えた状態から、ゆっくりと両手を広げた。
一つの塊だった存在が二つに別たれた。
遅延剣の新たな姿、それは双剣であった。
全く同じ大きさ、デザインの剣。
存在力の量も、均等に別たれていた。
「・・・出来た。」
驚きを隠せない表情の騎理だが、満足気な笑顔を浮かべている。
ある意味、騎理よりも驚いているのは厳重朗だった。
「いきなり出来るとは・・・俺なんか何ヶ月もかかったのに・・・。」
軽く落ち込む厳重朗。
ヤンキー座りをしてうなだれている。
「他の形状も試してみるかぁー。」
俄然やる気が増してきた騎理は、普段は見せない無邪気な笑顔を浮かべていた。
真矢やエイラやメイド達が声援を送るせいで、さらに鼻高々になる騎理。
かたわらで、厳重朗のテンションは下がる一方である。
ちなみに仁は我関せずといった態度で、状況を眺めていた。
そんな若干ほのぼのとし始めた空気の中で、来客の知らせがあった・・・。
あとがきっぽいもの
作者「年内に第2章を終えるつもりだったけど、このペースでは無理っぽい・・・。」
リーア「だったらペースを上げればいいじゃないですか♪」
作者「もうちょい落ち着いたら早まる予感です。」
リーア「早く落ち着くといいですね〜♪」
作者「うむ。本気でそう思う!」
おわり
お気軽に叩いてやってください、喜びます(笑)
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