TOP
戻る





アサシンの襲撃のあと、リナンシアスは再び仕切り直しをするということで一旦帰った。

微妙に間の悪いお姫様だ。

今度も自ら屋敷を訪れるということなので、俺はそれまで修行に明け暮れることに。

勇者として修行を重点に置きながら、他のクラスの修行も進めている現状。

今日も屋敷の庭に陣取り、見事に手入れされた芝生に座禅を組んで修行。

イメージとしては瞑想に似た感じ。

目を瞑り、世界を意識しながら自分という存在を広げていく。

掴みづらい感覚を探り探り、意識をひき伸ばす。

ひたすら集中。

内面へと沈みながらも、外へ手を広げる。

矛盾するような行為だが、俺のイメージはそんな感じなのだ。

他は知らない。

厳重朗は個人によって違うと言っていた。

だから俺は俺の道をただ疾走するのみ。

次第に体からこぼれ始める光の粒子。

目をこらさなければ捉えられない、細かい粒子が周りを飛び交う。

ここまで出来るようになるのに1週間かかった。

さらさらとこぼれ出る光の粒子が庭に満ちていく。

知覚範囲が広がる。

まるで庭が俺の体みたいだ。

「ん?真矢とエイラさんか・・・。」

庭に足を踏み入れたのが分かった。

目を閉じていても、脳裏に二人の姿が浮かぶ。

「どうやら真面目にやっているみたいですね。」

二人はティーカップとポットを持って現れた。

「休憩しませんか?お茶にしましょう。」

「・・・んー。」

生返事。

自分がここにあるということは確かなんだが、

この修行をやっている時は境界がひどく曖昧になる感じがする。

展開した光の粒子を呼び戻す。

自我がより強固になるのを感じながら、座禅を解いた。

「・・・腹減った。」

集中を解いたら急に空腹が・・・。

「クッキーならありますよ?」

「おはぎが食いたい。」

「・・・唐突ですね。」

呆れた口調の真矢。

エイラさんはそれ何?って顔をしている。

説明してみるが、いまいち伝わらないのでこの世界には無いのだろう。

用意された椅子に座りつつ、うなだれる俺。

「材料があれば作れるんですけどねー。」

「なぬ!?」

そういえば、真矢って和食に関してはかなりの腕だったな。

和菓子もいけるとは・・・素晴らしい。

「ぜひ作ってくれたまえ。」

「随分と上からな言い方ですねぇ?」

ふんぞりかえる真矢に対して、俺は・・・

「作ってください!お願いします!」

椅子と一緒に用意された丸いテーブルに額をこすりつけんばかりに頭を下げてやった。

てか、額打ちつけた・・・いてぇよ・・・。

「卑屈な態度ですね。」

「やらせておきながらその態度!」

「そのうえ、食い意地まで張るとは・・・。」

「言いたい放題じゃねぇか!」

「ふっ、あなたの食欲が満たされるかどうかは私の手にかかっているんですよ?」

「くっ!卑怯な!」

「くすっ。」

「その笑顔が怖ぇー!」

真矢の手の平で踊りまくっている気分だ。

いや、まさしくその通りなんだろうけど!

それにしても、こういう感じは久しぶりだ。

最近は闘技場やら修行やらで忙しかったから。

こんな何気ない時間も貴重だよな。

「お二人は仲が良いですね。」

香茶を飲む姿がやたらと様になっているエイラさんが、こともなげにそんなことを言った。

「ラブラブですよ。」

「友達以上恋人未満といったところですね。」

俺の言葉は真矢のきっぱりとした台詞に打ち消されてしまった。

残念無念。

そんな雑談で盛り上がっていると、来客があった。

「よう!俺もまぜてくれよ。」

「なんだ厳重朗か。」

「なんだとは失礼な。」

厳重朗は新たに執事が用意した椅子に座った。

香茶ではなく、酒を注文するあたりやりたい放題な気がする。

「今日はこの前のことについて報告しようと思ってな。」

「この前って、アサシンの襲撃のことか?」

「そうだ。ギルドのほうで色々と調査させたんだ。それの報告。」

運ばれてきたエールをグイッと一気に飲み干す。

代わりを注文をしてから続きを話し始めた。

「結局、依頼主を見つことは出来なかった。」

「ダメじゃん。」

「そういうな。それでだな、アサシンを育成している部族の村へ密偵を放ったんだ。」

「この前、ちらっと言ってたな。ルファの南東にあるとかなんとか。」

厳重朗から密偵の報告を聞くことに。

そもそも、アサシンを育成している南東の村とはハサン村という名前だそうだ。

そのまんま過ぎるのが笑える。

一説によると、その昔、暗殺を生業とする勇者が作った村だという。

洒落で名付けたのか、もしかしたら本物なのか・・・。

どっちにしろ、今となっては分からないことだ。

それはさておき、密偵が報告したこと。

ハサン村が大量の武器を購入した、という不穏な情報。

ただでさえ、アサシンの育成をしているなんていう物騒な村ゆえに、

何か企んでるんじゃねぇか?、と誰もが思うだろう。

俺だってそう思う。

「かといってもなぁ、五千人ほどの村だぜ?

戦えるものをかき集めても二千人ぐらいだろうし。騎士団に軽く鎮圧されるなー。」

ルファの騎士団はベンドの傭兵団をぶつけでもしない限り無敵と言われている。

一万の騎士団を保有するルファ。

他にも、魔術師隊や神官団もいるらしい。

この目で見たことが無いから俺としては何とも言えないが、戦力は充実してように思える。

「今は何かと忙しいから、全ての戦力を集結させるのは無理だがな。

それでも、十分いつでも動かせる戦力がある。」

要は力のある国だってことだ。

「引き続き何かあれば報告するように指示してあるから、とりあえずは待ちだな。」

「そんなに呑気でいいのか?またアサシンが出てきても撃退出来るとは限らないだろ?」

「そのための修行じゃないか。」

「そりゃそうだが・・・。」

一朝一夕で身に付くものでもないし・・・。

「結局、アサシンに依頼した者の狙いがわからんかったからなぁ。

ちょっと怪しいからといって、村一つ潰すわけにもいかんし。」

「いや、潰さんでも。」

「今は世界が混乱してるからな。訳わからん行動にでる奴もいるかもしれん。」

「それはそれで怖いな。予測出来ない。」

やっぱり平和が一番だ。

よく考えたら俺達がこの世界にいる時=平和じゃないんだよな。

平和だったら召喚されないんだから。

還らずに残れば平和を満喫出来るのか?

でも、また魔王が現れる可能性があるのなら、元の世界に還るべきなのかもしれない。

やめやめ、今考えてもしょうがない話だ。

目の前のことを片付けていかなければ。

「・・・休憩終了。修行の続きするか。」

なにはともあれ、力が無ければお話にならない。

リナンシアスに守護騎士のお誘いがあったんだ。

守るための力が必要だろう。

真矢もエイラさんも守りたいし、慎悟とか仁もついでに守ってやろう。

「女の子優先なあたりが俺らしいぜ。」

「口ではそんなことを言っておきながら、騎理は正義感強いんですよねー。」

訳知り顔でニンマリと微笑む真矢。

む、一体何を言いだすつもりなんだ?

「中学の時なんか、いじめられてる人を片っ端から助けてたじゃないですか?」

「・・・あれは単なる友達百人計画の一環だよ。」

「いじめた人も仲間に引き入れる手腕は見事でしたね。」

「・・・友達二百人計画に変更したんだよ。」

いじめられる、いじめるの関係は周りの者が介入すればいい話だ。

そうならないように見張っとけばいいというのが俺の持論。

よほどの阿呆でも無い限り、突っかかってこなくなる。

・・・たまにいる阿呆には人数で対抗。

被害者の気持ちが分かれば向こうも改めるだろうってな。

俺はそれをやっただけだ。

平和が一番だから。

時間も労力もかかることだけど。

俺は俺が気持ち良く過ごせるためにやった。

「それはなかなか出来ないことだなー。俺なら見て見ぬふりかもしれん。」

厳重朗は正直だな。

でも、それが一般的なんだろうねぇ?

「・・・今思うと俺もよくやったと思うよ。しんどくて今はやってない・・・。」

本当に労力がかかるのだ。

いじめられる側といじめる側、どっちにも悪いところがある場合があるのだ。

遺恨があれば解決しなければならないし、人の心は容易ではない。

なによりも、無くならない。

一つを解決すれば、二つ三つと現れる。

だから、俺はもうあきらめてしまった。

薄っぺらい正義感に蓋をして、ただ怠惰に生きる毎日。

楽だった。

だけど、足りない感じだった。

「でも、私は知ってますよ?いじめがエスカレートしそうになると現れる騎理の姿を。」

ニッコリと微笑む真矢の顔を真っ直ぐ見れなかった。

偽わりきれない自分。

中途半端だった自分が浮き彫りになる。

もっとがむしゃらにすればよかった。

失敗しても後悔のしなかった日々が恋しい。

「・・・久々に本気出すか。」

思い出した熱い心。

とりあえずは目の前にあるもの全部を守ってやるさ。



あとがきっぽいもの。
作者「なかなか話が進まない気がするなぁ(笑)」
リーア「まぁ、内容を濃くしてるということでよいのでは?」
作者「そうなってると思いたい。」
リーア「ポジティブにいきましょ♪」
                  おわり



お気軽に叩いてやってください、喜びます(笑)


TOP
戻る