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王城を仰ぐことの出来るどこかの路地で、一人の男がほくそ笑みを浮かべていた。

そして、人目につかぬ場所へ駆け込むと通話の水晶を取り出した。

「たった今爆破を確認しました。」

『分かった。出撃準備に入る。配置につき合図を待て。』

「了解。」

男は水晶をしまうと人ごみに紛れた……。

「何が起こった!?」

勇者王が叫ぶ。 すぐに王城の間へ走り込んできた兵士。

切迫した表情で状況を伝える。

「塔の最上階が突如爆発しました!爆発の規模から塔自体が崩落の可能性もあります!」

「ぬうっ!?魔術師を向かわせて崩落に対処せよ!残された人間の救出を最優先だ!神官も連れてゆけ!」

「御意!」

再び駆け出す兵士。

王座の間が慌ただしくなる。

と言っても大臣連中が右往左往しているだけで、兵士の大半は落ち着いて命令を待っている。

よく訓練されているのだろう。

勇者が王についているだけに、武が発展しているのかも。

「城内に怪しい人物がいないか捜索せよ!……それから高位の神官を集めるのだ。」

高位の神官を集める?

何のために?

おっさんの言葉の意味を考えようとした瞬間に、豪音と共に王座の間の壁が吹き飛んだ。

俺はとっさに真矢とリナをかばって伏せる。

おっさんは王妃をかばって伏せた。

石のつぶてが飛んでくるのを勇者の盾を具現して防ぐ。

おっさんも同じようにして防いでいた。

「なんなんだよ!?」

次から次へとトラブル続きだ。

さすがに苛立つ。

つぶてが止み、視界を覆うものがなくなる。

ゾクリとする殺気にも似た寒気がした。

それを発するものがぶち抜いた壁の所に立っている。

暗闇よりなお暗い、闇の存在。

「……久々に外の空気を吸ったな。」  

真っ黒な髪、真っ黒な瞳、真っ黒な存在力。

俺はアレが魔王だと言われても何の疑いもしないだろう。

しかし、答えは違うのだった。

「……トライハート。」

それは愛するものを呼ぶ声だった。

しかし、悲しみも含まれた嘆きでもある。

「父上、お久しぶりですね。」

背筋が凍りそうな凄惨な笑みを浮かべるトライハート。

父上だと?

「やはり封印が解けていたか……。」

「誰かは知らないが、手助けしてくれたようなんでね。こうやって出てきましたよ、あの牢獄から!」

憤怒が混じった殺気が放たれる。

……やべぇな、明らかに俺よりレベルが上じゃねぇか。

はっきり言って怖い。

「……もしかして、お兄様なのか?」

リナが震える声で問掛けた。

「そうだよ、リナンシアス……。」

まるで慈愛に満ちたかのように笑いかけるトライハート。

「でも!死んだはずじゃ!?」

今にも泣き出してしまいそうなリナの叫び。

「僕は呪われてから、ずっと閉じ込められていたんだよ。ついさっきまでね……。」

トライハートから立ち上る闇色の存在力が蠢きだした。

俺は存在力を自在に操るための特訓のおかげで、存在力を視ることが出来るようになったらしい。

だから、ざわつくトライハートの存在力が危険に思えた。

「僕はこの力を使って復讐するよ!この世界に!」

存在力が凝縮し、力あるものが具現化する。

それは『勇者の剣』。

なぜ、この世界の人間が勇者の力を使える!?

「喰らい尽くせ!『ソウルイーター』!!!」

禍々しい剣だった。

外見もそうだが、気配が恐怖を感じざるをえない。

柄の部分が口の形状をしている。

そこがゆっくりと開き、気持ちの悪い音を発し始めた。

「あはっ!あははははははははははははははははははははははははっ!!!」

トライハートの狂ったような笑いと共鳴する。

・・・そうか、アレは啼いているのか。

獲物を求める獣のおたけび。

「させん!」

おっさんはそう叫ぶと、光輝く存在力を詰め込んだ剣を具現しながら駆け出した。

その表情は悲壮な決意を秘めたもの。

自分の息子を手にかけるつもりか!?

「・・・あんたは邪魔だぁっ!!!」

ほんの一瞬で距離を詰められたはず、しかしトライハートは次の『勇者の武具』を解放した。

その瞬間、トライハートの気配が広がる。

王座の間を覆ってゆく。

それと同時に、おっさんが押し出されてゆく。

おっさんだけが押し戻されてゆくのだ。

「やばい!リナ!真矢!部屋を出ろ!」

と、叫んだところで間に合わない。

おっさんはかろうじて自分の後ろにいた王妃を抱えて王座の間を脱出した。

「良い判断ですよ、父上!」

嘲笑うトライハート。

「これは『闇の牢獄』。鎧二つを注ぎ込んだ結界ですよ!」

鎧二つ・・・『勇者の鎧』を二つってことか?

そういう使い方もあるのか・・・。

「ふんっ!」

おっさんが渾身の力を込めて王座の間へと剣を振るう。

しかし、見えない何かに阻まれてはじかれてしまう。

もちろん、俺やおっさんには見えている。

トライハートが創り出した闇の壁に阻まれているのだ。

いや、俺達は閉じ込められたのだろう。

『闇の牢獄』の能力。

おそらく、おっさんだけを除外したところを見ると、レベルが関係するのだろう。

もし、勇者を除外なら俺も除外されるからな。

もしかしたら細かい設定を出来るのかもしれないが、閉じ込められたには違いない。

牢獄というからにはな。

「ああぁぁぁあぁぁぁぁ!?」

周りから苦しみの声があがった。

一緒に閉じ込められた兵士達の声だ。

次から次へと倒れ込んでゆく。

一体何が?

「・・・キリ、苦しい。」

「リナ!?」

外套の裾を引っ張られて振り向くと、リナの顔が青ざめていた。

真矢も口には出さないが青ざめている。

・・・そういえば、トライハートの剣の名前は・・・。

瞬時に振り向き、トライハートの剣を見る。

口の部分に光の粒子が流れ込んでいくのが見えた。

そして、それは闇の存在力へと変換されトライハートに流れ込んでゆく。

「その剣、存在力を喰うのか・・・。」

「ご名答。これで僕は父上を越えるよ。」

ニタリと嗤うトライハート。

なんて、嗤い方をしやがる・・・。

俺は外套を脱いでリナと真矢を一箇所に集めてかぶせた。

「これで少しはマシなはずだ。」

なんせ全属性半減だ。

闇からの影響も半減するはず。

「・・・うん、少し楽になった。」

「・・・ありがとうございます。」

気丈にも微笑む二人。

守りがいのある奴らだ。

しかし、問題は兵士達だ。

このままでは皆殺しにされる。

トライハートの狙いは、存在力稼ぎだろう。

喰らい尽くすまではやめない。

何とかやめさせなければ。

俺も少しづつだが喰われている。

長期戦は無理だ。

何か良い方法はないのか?

考えろ、考えるんだ!

思考放棄すれば戦うしかない。

でも、あれはリナの兄貴なんだ。

思い出せ、リナの言葉を。

『兄がいたら、こんな感じなのかな?』

もういないと思っていた兄貴が生きていたんだぞ?

頭を撫でてくれる兄貴が生きていたんだ。

「俺が必ず兄貴を帰してやるからな・・・。」

今ならまだ間に合うのだから。

ソウルイーターの力は闇。

その力が存在力を喰らってゆく。

ならば、相反する力で相殺してやればいい。

その力は光。

勇者が本来持つ力。

「これしかない!」

集中する。

自分を世界に委ねる感覚。

世界と一体となり、自分を解いてゆく。

俺の体が薄っすらと発光し、光の粒子がサラサラとこぼれ始める。

一粒一粒が、俺。

俺であり、光。

この闇を照らす光。

『闇の牢獄』の中を満たす光。

「くっ!?」

意識が飛びそうになる。

自我が揺らぐ。

たぶんこのまま眠ってしまうと、解けて消えてしまそうだ。

「・・・なんだか、騎理が抱きしめてるみたい。」

真矢の呟きが聴こえた。

そこらに転がっている兵士達から、呻き声が無くなり規則正しい息遣いに変わる。

どうやら成功したらしい。

「ははっ!よくやる!自分を削ってまでの献身とはね!」

面白くて仕方ないといった風に、腹を抱えて嗤うトライハート。

「・・・。」

俺は気合を込めて意識を保ちながら、しっかりとトライハートを見据えた。

さぁ、ここからだ。

次はこいつを救わなければならない。

考えろ、考え続けるんだ。

全てが上手く行く方法を。

誰もが笑って過ごせるように。

悲しみなんてものはくそくらえだ!



あとがきっぽいもの。
作者「盛り上がってまいりました!」
美綺「クライマックスだね!」
作者「ノンストップでいきたいところですなぁー。」
美綺「ペースをガンガンあげていきましょっい♪」
作者「うむ!しかし、携帯での執筆はそろそろやばいね。」
美綺「バッテリー?」
作者「買い替え時かなぁ・・・。」
美綺「むしろ、ノーパソを持ち歩くようにすればぁー?」
作者「小型のノーパソを買うような金は無い!」
美綺「この甲斐性無し!」
作者「反論は出来ない!」
美綺「開き直ったかのような物言い・・・。」
               おわり



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