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嫌な静けさが満ちる王座の間。

トライハートは嘲笑うのをやめ、ソウルイーターを構えた。

俺のことを本格的に敵だと認識したらしい。

やっぱり戦うしかないのか!?

「……遅延剣。」

勇者の剣を具現化。

形状はシンプルな片手剣。

「僕は貴方を殺して、リナンシアスも殺して、ここにいる全てを殺す。僕の糧にさせてもらうよ!」

「……誰も殺させはしない。」

殺気が突風のようになって肌を刺す。

足が震えそうになる。

弱音を吐いてしまいたくなる。

それでも、後ろの二人を、目の前の助けを求める人達を救うためにも、立ち止まってはいられない。

「ハッ!」

鋭い突きを放ちながら突っ込んでくる。

俺はあえて前に踏み込みスピードが乗る前のところで弾いた。

「やるね!」

トライハートはすぐに腕を引き戻し、瞬時に打ち込んでくる。

速い。

そして、そのままつばぜりあうことになる。

闇が俺を蝕もうと手を伸ばしてきた。

俺はそれを光の粒子を放って打ち消す。

……ダメだ、これじゃあ存在力がいくらあっても足りない。

こんな戦い方をしていると、『俺』という存在がどんどん劣化してゆくだけだ。

「考え事をしている余裕があるのかな!?」

押される。

連撃。

「くっ!?」

防ぐので精一杯。

俺のレベルは4。

しかし、トライハートのレベルは6。

この差は大きい。

基本能力が俺達と変わらないように思える。

あとは単純にレベルの差だけがものを言う。

キンッ!

強弱をつけた巧みな攻撃を受けて、遅延剣が俺の手から離れた。

少し手が痺れている。

俺はすぐに宙を舞う遅延剣を消し、両手に具現する。

「……遅延双剣。」

攻撃力は分散してしまうが、両手を使わないとトライハートの攻撃を受けきれない。

もちろん、それだけが目的ではない。

狙いは別にある。

遅延剣の能力だ。

遅延剣に触れれば触れるほど相手の時間の流れが遅れてくる。

そうすれば殺し合いをしなくて済む。

まだ効果が現れるほどに触れてはいないが、多少の攻撃をうけたとしても、乗りきってみせる。

「……その剣、少し厄介な力だね。」

ボソリと呟いたトライハートの言葉に、内心ギクリとした。

もしかしてこいつ、この剣の能力を知っているのか?

そんなまさか。

どうやって?

ハッタリなのか?

「ははっ。ルファでの出来事で知らないことなんてないさ。」

その台詞とともにザラザラと闇の粒子がトライハートの体から溢れ落ちてゆく。

「……そうか、闘技場での戦い、見られていたのか。」

あの闇の粒子、一粒一粒があいつ自身。

牢獄にいた時、あの力を使ってずっと外を観ていたのだろう。

きっと憧れと憎しみを抱きながら。

「『イージスの盾』展開!」

かなりの量の存在力を凝縮した盾が具現化され、すぐにトライハート自身へと染みるように消える。

「これでもう貴方の使う武器の能力は効かない。」

言葉通りを捉えるなら武器の特殊能力を無効化する盾か。

どうやら蓄積していた遅延も消されている。

厄介だ。

これで生け捕りは難しくなった。

救いとしては、あの盾がレベル1と2を消費しているということ。

ソウルイーターがレベル1の勇者の剣だろうから、トライハートの手札はレベル2の勇者の剣のみ。

こっちはレベル1の鎧とレベル2のどれかが使える。

イージスの盾がある限り武器は意味が無い。

残りの手札を上手く使わなければ。

「さぁ、続きだ!」

「……。」

神経を研ぎ澄ます。

気を抜けば終わりだ。

鮮やかとも言える流れるような連続攻撃を、受け止め、流して、避けて、浅いと判断したら気にしない。

反撃の糸口が見つけられない。

そもそも反撃していいのかもわからない。

「どうしたんだぃ?反撃しないのかな?」

ニヤニヤと笑いながらも容赦なく攻撃を続ける。

「うるせぇ!今、考えてんだよ!」

上段からの斬撃を、双剣を交差させて受け止めた。

すかさず、腹に蹴りを放たれて吹き飛ばされる。

むせるが、我慢してすぐに体勢を整える。

追撃をかわし、バックステップで距離を取った。

……このままだと、いずれ追い詰められる。

せめて、スピードだけでも同じ域に達していないと……。

「……もうめんどくさいなぁ。手っ取り早く殺しちゃおうか。」

トライハートが物騒なことを言い出した。

有言実行。

剣に存在力を集中し始めた。

その存在力に込められたのは純粋な破壊の意志。

存在力は一定の方向性を持たせることによってその力を発揮する。

込められ想いは、『破壊』という単純で原始的な想い。

剣を振りかぶり、込めた想いを解き放つ。

「『黒の斬撃』!」

破壊の意志が込められたエネルギー塊が放たれた。

純粋ゆえに絶大。

思ったよりもスピードが遅く、避けられそうだった。

しかし、俺の後ろには真矢とリナがいる。

絶対に止めなければならない。

遅延双剣を消して身構える。

アレは同じ威力のものをぶつけないと相殺出来ない。

同じように存在力へ『破壊』の意志を込めるのか?

……いや、きっとそれは違う。

俺は『守る』意志を込めたそれをぶつける!

体中から力を集めるイメージ。

それらを『守る』という意志の基に統合してゆく。

上手く出来るか?

不安はある。

だが、迷っている時ではない。

なんとしてもやる。

絶対にやってやる。

前方に両手を構えて、集めた力を解き放つ。

熱い。

火傷してしまいそうなほどに両手が熱い。

流れ込んでくる存在力が熱を帯び、意志を汲みとり、確かな力へと変わる。

「守りやがれぇぇぇーっ!!!」

迫る黒の斬撃と光の守りが衝突。

せめぎあう二つの力。

お互いを飲みこもうとぶつかりあうが、拮抗した力のために打ち消される。

台風に襲われたような豪音が終わると、何事も無かったかのように静けさだけが残った。

「はぁはぁ……。」

頭がクラクラする。

これは存在力を消費し過ぎる。

ただでさえ、この空間に光を充満させておかなきゃならんのに。

レベルが下がるほどには消費していない。

しかし、連続でやられるとマズイな。

向こうも消費するのだから、連発はないと思うのだが……。

「さーて、次も防ぐことが出来るかな?」

やんのかよ!?

再び集まる黒色の存在力。

さっきよりも多くの存在力を込めた『破壊』の意志が放たれた。

「あー、もう!やるしかねぇよ!」

自身を巡る存在力をかき集める。

黒の斬撃に込められた力を見極め、光の守りへと込める力を測る。

だって無駄には出来ないから。

絶対量がこっちのほうが少ないのだ。

撃ち合いになれば負ける。

……打開策を考えなければ本格的にヤバイ。

「おい、オッサン!」

後方、闇の牢獄の外で未だに剣を振るっている勇者王へと叫んだ。

同時に黒の斬撃を相殺する光の守りを展開。

「こっちの音は聴こえてるのか!?」

豪音にかき消されないように声を張り上げて問掛ける。

「聴こえているぞ!」

OK、こっちも外の音が聴こえる。

ならば聞きたいことを聞けるな。

黒の斬撃を相殺。

また力が抜けてゆくのを自覚した。

「質問だ!トライハートは最初から呪われていたのか!?呪いとはなんだ!?」

そこが問題なんだ。

呪いとは何か。

それが解れば事態は変わってくるはず。

「無駄口叩いてると死にますよ!」

黒の斬撃、三発目。

うぜぇなぁ、おい!

「幼少時に自称魔法使いに呪われたのだ!それも己の命を使った超強力なやつだ!

高位神官でも祓うことが出来なかった!」

悔しそうな叫びが聴こえた。

存在力を何とか絞り出して光の守りを紡ぎ出す。

……もう少しでレベル下がりそうな気がする。

「呪いの効果は!?」

黒の斬撃と光の守りがぶつかる衝撃で足元がふらつく。

腹に力を込めて踏ん張る。

「属性反転の呪いだ!トライハートは生まれつきの勇者だったために、光から闇へと反転してしまったんだ!」

属性反転の呪い。

そうか、だからあんなにも禍々しく、暗闇よりも暗い気配がするのか。

まるで魔王のように感じたのもあながち間違っていなかったのだ。

勇者とは魔王のカウンターとして喚ばれた存在。

表裏一体。

相反しながらも密接なもの。

裏返してしまえばそういう結果になるのも当然なのだ。

そして、おそらくは闇の属性へと反転したために負の感情が増幅されているのだろう。

少しの憎しみが溢れんばかりの憎悪に。

少しの怒りが荒れ狂う憤怒に。

……あの呪いを解かなければトライハートを救うことは出来ないということか。

「……やったろうじゃねぇか。」

存在力が枯渇する前にあいつを救う。

なんとしても。



あとがきっぽいもの。
作者「なかなかペースが上がってるぜぃ。」
美綺「でも、いまだに勇者王の名前がないという(笑)」
作者「もうオッサンでいいんじゃないかと思ってたり。」
美綺「いいのかなぁ……。」
作者「まぁ、機会があればということで。」
美綺「もう呼ばれることがなさそうだ(笑)」
                  おわり



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