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トライハートを救い出す。
そのためには属性反転の呪いを何とかしなければならない。
「……だったら答えは決まってる。」
残りの手札を使えばいいんだ。
残りの勇者の武具を。
「いつまでも保ち堪えられると思っているのかな?」
口の端をつり上げて嘲笑う。
端正な顔立ちでそんな表情をされるとけっこう怖い。
しかし、おそらくは年下相手にビビッているのを見せられん。
とにかく、やることは決まった。
あとは、それをどう実行するかである。 ト
ライハートの中で澱み、蝕んでゆく呪いの力はかなり強い。
残りの武具を使ってもギリギリ対抗出来るか出来ないかだ。
たぶん、直接叩きこまないと力を発揮出来ない。
それほどまでに強力なのだ、命を賭けるということは。
どこの誰か知らんがやってくれるぜ……。
トライハートが再び存在力を集中し始めた。
馬鹿の一つ覚えかよ、まったく!
なんとしても、接近しなければならない。
だが、はっきり言って向こうのほうが動きがいい。
レベル2の差はでかいな……。
この差を埋める上手い方法。
……あの力を使うしかないな。
盗賊王のように光を纏う。
ぶっつけ本番だが、今はそれしか思いつかない。
「……光脚。」
難しく考えてはいけない。
光の守りと手順は同じだ。
要は存在力に一定の方向性を持たせるということ。
速く。
どこまでも速く。
疾風のように。
閃光の如く。
脚が熱を帯び始める。
光の粒子が集まってくるのを感じる。
脚が光を纏い、体が軽くなったような気がした。
「……それは……。」
トライハートが言葉を言い終える前に、俺は動いた。
まるで跳ねるようにして一瞬でトライハートの目の前へ。
「おおうっ!?」
自分でもびっくりだ。
初の試みゆえに加減がわからなかった。
トライハートも驚愕の表情になってはいたが次の瞬間には剣を振るっていた。
「おっと!」
とっさに遅延剣を具現してガード。
そして、すぐさま距離を取る。
「盗賊王が使っていた力か……。よく使えたね。」
「俺は本番に強いんだよ。」
足を使って攪乱しつつ隙をうかがいながら、勇者の武具で決める。
立ち止まらずに動き続ける!
「遅延双剣!」
二本に分かち、すかさず一本を投擲。
「そんなもの!」
あっさりと弾かれるがそんなものは計算の内だ。
移動しながら再び剣を分かち、投擲。
また弾かれても、動きを止めずに同じことを繰り返す。
「ははっ!いくら速くても決定打が無けりゃ意味ないね!」
「……言ってろ。」
攻撃力なんてものにこだわるつもりはない。
結局のところ勝てばいいのだから。
生き残るでも可。
だから、考えて考えて最善策を探すのだ。
ベターよりベストを。
「ふっ!」
投擲。
弾くために剣を振るうモーションに入るトライハート。
俺は時間差でもう一本の剣も投げた。
一本目を剣で弾き、二本目を避ける。
かかった!
俺は次の手順の用意をしながらトライハートへと距離をつめた。
「突っ込んできたところで……ちぃっ!?」
トライハートの背後から迫る遅延剣、ではなく遅延ブーメラン。
投げる寸前に形状を変化させておいた。
ずっと剣を投げていたのは罠である。
トライハートはギリギリの間隔で腰を落として回避した。
遅延ブーメランはそのまま俺の所へ向かってくるが、具現化解除で対応。
そして、あらかじめ手の平に集中させておいた光の粒子。
それがバレないように手を軽く握っておいた。
トライハートにその手を突きだし、それを開放する。
そこには大して力を込めていない。
攻撃の意志も防御の意志もなく、ただ輝くだけの力。
そう、ただの目くらましである。
もちろん、俺は目をつぶっておく。
部屋に満ちた光の粒子が、俺の目となり耳となるから大丈夫。
「ぐあっ!?」
どうやら思惑通り予想外だったらしく、目を押さえて苦しむトライハート。
よし!今だ!
トライハートへと肉薄しつつ、新たな勇者の武具をイメージする。
「……舐めるなよぉぉぉーっ!!!」
突如、獣の咆吼のような叫びを上げたトライハートは闇の粒子をばらまき始めた。
「くっ!?」
肌に触れるとジュッと音を立てて火傷のようになる。
俺は真矢達に及ばないように光の粒子をばらまくが、足りない。
これ以上ばらまくとレベルが下がる。
打ち消せない闇の粒子が広がってゆく。
……仕方ない、ほんの少しの間我慢してもらうしか……。
「ヒャハッ!視える!視えるぞ!」
トライハートめ、俺と同じ方法で知覚を拡大したか。
だが、止まる訳にはいかない!
「このぉぉぉぉっ!」
俺は拳を放つ。
「させるかよっ!」
剣が迫る。
拳と剣が交錯する。
俺の左肩に剣が突き刺さる。
「……っ!!!」
激痛。
痛すぎるがそんなものを気にしてはいられない。
肉を貫き、骨を砕く感触を感じながら前へ。
トライハートの体へ拳が当たる瞬間、手を開きトライハートの胸へと手を置いた。
「こいつをくれてやるぜ!『属性反転の鎧』!」
レベル1と2の勇者の鎧を合わせて創り出す幻想武装。
呪いを解くものは、今の俺の力では無理だ。
だから、もう一度属性を反転させるものを創り出した。
ちなみに鎧と言っておきながら鎧としての能力は無い。
そこまで力をまわすことが出来ないほど、呪いが強力なのだ。
だから不可視の鎧。
要はトライハートのイージスの盾みたいなものだ。
「あ?あああぁぁぁぁああぁぁぁっ!!?」
属性反転の鎧の力が発揮される。
闇から光へ。
真っ黒な髪は鮮やかな金髪に。
真っ黒な瞳は澄みきった青に。
これでどう見ても、リナンシアスと兄妹に見える。
闇の存在力が薄れて消えてゆく。
闇の牢獄は神々しい空間へと変わった。
一瞬で空気が入れ変わった感じだ。
俺は散布していた存在力を戻し、ホッと一息ついた。
……超痛ぇ。
左肩に刺さったままの剣のことを忘れていたぜ……。
血がだくだく出ているんだが……。
目まいがする。
こいつはヤバイ気がするなぁ……。
「……うう、うあぁぁぁぁぁ……。」
蹲って苦しいのか、悲しいのか、そんなような声をあげるトライハート。
光の空間が消え去り、勇者王達が駆け寄ってきた。
「治療しましょう。」
む、ギニアスいつの間にいたんだ。
そういえばこの人もレベル10だから、立ち往生していたんだな。
「剣を抜きます。我慢して下さい。」
「いてぇー!!?」
セリフを言い終える前に抜きやがった。
思わず声を上げてしまったではないか、カッコ悪い。
そして、『癒し』の奇跡で傷を治してもらった。
治してもらうところを凝視していたんだが、巻き戻しの映像を観てるみたいでキショかった。
「傷は塞いでありますが、出血が多かったので血が足りないでしょう。
肉を喰らって安静にしているように。肉を喰らえばついでに筋肉も付きますから。」
どっかの先生が言いそうな言葉だな。
てか、そんな簡単に筋肉が付いたら苦労はしねぇのである。
まぁ、今はなによりも寝たいんだが。
「ち、近寄るなぁ!」
何事?と思って振りむけば、トライハートに拒まれる勇者王の姿。
「……トライハート。」
息子に煙たがれる親父の図。
いや、かなり深刻な雰囲気ですよ?
「反抗期かてめぇ!」
もう疲れたので、手っ取り早く額にチョップを喰らわせてやった。
目をパチクリさせて驚くトライハート。
とりあえず黙らせることに成功。
「何が気にくわないんだ?言ってみろ。」
若干上から目線だが、気にしてはいけない。
トライハートはキッと勇者王を睨みつけて口を開いた。
「僕は!僕はずっと閉じこめられていたんだ!助けようともせず!闇に呑まれてゆくのを放っておかれた!」
分かっていた。
属性反転の鎧を使って光の属性に戻しても、心に芽生えた感情が消えることはないと。
「阿保か!」
再びチョップ。
さっきまで戦ってたやつとは思えないほど、綺麗に入るぜ。
ちょっと涙目になってるあたり、本来は気の弱い性格なのかもしれない。
「まぁ、長い間閉じ込められたのは辛いと思う。俺が軽く言えることじゃない。
だがな、閉じ込めておいたってのは生かしておいたってことなんだぜ?」
疑問符を浮かべるトライハート。
「さっきまでのお前、闇属性のお前は魔王のように思えた。魔王と直接対峙したことが無くてもそう思った。
たぶん、一般人なんか恐慌状態になるぜ?この世界は、魔王=敵というのが揺るぎようのない事実なんだ。
そんな所にお前を出してはおけない。暴動が起こるだろうな。
王が、いや、勇者王が魔王を匿ってるとか言ってな。」
勇者王は悩みに悩んだだろう。
自分の息子と国民を天秤にかけなければならなかった。
結果として、息子を見捨てることが出来ず、人目につかないよう閉じこめた。
「生かしておいたからには、呪いをどうにかする手段を探したんだろう?」
おっさんへ問掛ける。もうなんかおっさんでいいや。 今回役に立ってなかったし。
「探した。いや、今も探している!ずっと探してきているが、まだ見つけることが出来ないんだ……。」
悔しい、歯がゆい、そんな苦々しい表情を浮かべるおっさん。
「聖都の教皇に頼んでもダメだった。
『解呪』の奇跡で解けないのであれば、もう残されたものは勇者の武具しか無い。
しかし、私は使い切っていたし、あてもなかった。」
おそらく、前回の勇者達は使いきっているのだろう。
勇者王、盗賊王、未だ見ぬ勇者達……。
「もちろん騎理に頼むことも出来なかった。勇者が現れるということは、魔王が現れるということ。
我が息子と引き替えに力を使わせるわけには出来ない。……結果的にはそうなってしまったがね。」
「応用効くから気にするな。」
ぶっちゃけると、呪いを解いたわけではないしな。
「そうすると、探してるのはなんなんだ?」
勇者の武具を使わせるのをしのびないと言うのであれば、探しているのは勇者以外の何かだ。
でも、勇者の武具でないと呪いを解けないと言う。
これいかに?
「勇者が遺した勇者の武具だ。勇者が放棄、もしくは死んだ場合、勇者の武具が遺る。
他にも例外はあるが、その遺った勇者の武具で呪いを解くものを探しているのだ。」
具現化していたものに限るが、と付け加えるおっさん。
俺が死んだ時、もし遅延剣を具現化していれば遅延剣が遺るということ。
きっと、そうやって勇者の武具が受け継がれてきたのだろう。
伝説の武器とか言うものは、昔々の勇者が創り出したものなのかもしれない。
「ずっとある聖剣を探している。聖属性のみに特化した剣で、魔や闇に絶大な効果を発揮する剣だ。
呪いを断ち切ることも出来るはずだ。」
「トライハートごと切ってしまうことはないのか?」
「ない。それは人体に影響を与えられない剣だから。剣としての能力は皆無なんだ。」
属性反転の鎧みたいなものか。
それがあれば、属性反転の鎧なんか無くてもトライハートは光になることが出来る。
万事解決するということ。
「トライハート、お前の親父はちゃんとお前のことを考えていたんだぜ?
お前のことを見捨てたりなんかしていなかった。」
うつ向くトライハートへと、説き伏せるように語りかける。
ちゃんと聞いてたか?今までの話。
「……でも、僕は死んだことにされていたんだ。見捨てられていたも同然だよ!」
泣きそうな声で心の内をさらけだす。
「しつこいわ!」
チョップ!
こっちは疲労困廢なのでいい加減納得して欲しいんだが……。
「死んだことにしとかないと不審だろうが。お前は王子なんだぜ?
王子が真っ黒な気配放って引きこもってたら王城が疑われる。
まぁ、幽閉されてた塔が意図的に爆破されたみたいだから、情報が漏れていたんだろうが。」
そこが気になる。
塔は王城の敷地内にあるのだ。
長距離砲撃か、侵入しての爆破。
どっちにしろ、由々しき事態だ。
王城は大丈夫なのか?
「とにかく、今は親父のことが納得できなくても、せめてリナとは仲良くしろよ?」
トライハートの肩に手を置く、半ば無理矢理に体を方向転換させてリナの方へと向けた。
「……お兄様。」
「……リナ。」
感動の対面ってやつだな。
もう眠過ぎてどうでもよくなってきたが。
「お疲れ様です。」
「うむ。本来は弱音を吐きたくないんだが、今回はもの凄く疲れたな。」
足元がおぼつかない。
体力的な疲労は『癒し』の奇跡をかけてもらえば回復するみたいだが、精神的な疲労が強い。
たぶん、存在力を酷使した反動だと思う。
存在力を使うというのは身を削る行為に等しい。
もっと上手に扱えれば改善されるかもしれないが……。
今日は無茶をしたんだと思う。
「真矢ちゃん、頼みがある。」
「なんでしょう?」
こんな時は甘えたい。
「ハグしてくれ。」
「いいですよー。」
快い返事。
抱きしめられて超リラックス。
……癒されるなぁ。
……おやすみ。
ぐぅ……。
「あ、寝ちゃったし……って、わわっ!?」
真矢に持たれかかって熟睡する騎理。
支えきれずに、騎理が押し倒すような形で倒れてしまった。
「……ふー、ま、いいですけど。」
全然起きそうにない騎理の髪をいじりながら微笑んだ。
「とりあえずギニアスさん、運んじゃって下さい。」
「承知しました。」
ヒョイッと片手で抱えあげられ運ばれてゆく騎理。
事態は一件落着……したかのように思えた。
切迫した表情の兵士が駆け込んでくるまでは……。
あとがきっぽいもの。
作者「話はここからだぜ!電池がもたないんだぜ!次回をお楽しみに!」
美綺「……はやく携帯買えば?」
おわり
お気軽に叩いてやってください、喜びます(笑)
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