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エイラは人選を終えて四人の小隊を組むと、早々に出発した。
ギニアス達はそれを見送ると、反乱軍を迎えうつ準備を始める。
そして、反乱軍が肉眼で捉えることが出来ると、砦の前に軍を展開した。
「さて、何か隠し玉でも無い限り勝利は確実なのですが……あるんでしょうなぁ……。」
砦から両軍の様子を見下ろしながら、人知れずため息をついたギニアス。
エイラ達が上手くやってくれることを願いつつも、容易ではないことも理解している。
今後の遺恨に成りうるかもしれないが、敵を全滅させなければならないという覚悟は出来ていた。
反乱軍が行くは、足首ほどまでの草が茂る平原。
足元に関しては両軍に不満は無く、数と純粋な力のぶつかりあいになる。
これまでの報告によると、
傀儡と化した村人達は表情が虚ろではあるものの、身体能力については本来の力よりも跳ね上がっているとのこと。
「傀儡だけでなく、狂化もされている可能性があると……。」
だったら、例え捕縛しても元に戻せないかもしれない。
狂化は精神への負担が大き過ぎる。
一般人では精神が壊れてしまってもおかしくないのだ。
傀儡、狂化を施した者を倒せば元に戻せるかもしれないが、可能性は低い。
(やはり、止めを刺してやるのが一番良いのかもしれませぬ。)
断腸の思いでの決断。
非情と思われるかもしれない。
それでもルファの民を守るためにはそうせざるを得なかった。
(こんなことになるとは……あの方がいらっしゃれば、きっと全てを救おうとしたでしょうな……。)
この世界を救うために魔王と戦った日々が懐かしかった。
(私達はこんな……民と民を戦わせるためにあの時戦ったのではないというのに……。)
しかし、悲しみに暮れている場合ではなかった。
ギニアスは背筋をピンと張り、顔を上げた。
そして、揺るぎない魂のこもった声で進軍の指示を下した。
「……動き出しましたか。」
エイラ達は身を潜めながら、後方で騎士団が動き始めたのを確認していた。
遮蔽物の少ない平原での隠密行動は困難だった。
反乱軍の指揮車へ向かうにはかなりの大回りをすることになってしまっていた。
「急がないといけませんね。」
可能性が低いとはいえ反乱軍を止められるかもしれない。
さらに、何らかの伏せられた切り札を潰せるかもしれない。
エイラ達は見つからぬよう、静かに迅速に駆けた……。
ザッ、ザッ、ザッ、と勇ましい足音が聞こえる。
剣と盾を構え、前方に広がる敵を見据える。
ガチャリと鎧の音を響かせ、戦友へ頷いた。抑えられぬ動悸にいてもたってもいられなくなる。
今か今かと待ちわびる号令が、遂に鳴り響いた。
『ワアァァァーッ!!!』
勇ましい声を上げて反乱軍へと迫る。
槍を突きだし、剣を振るい、叫びがこだまする。
一方、反乱軍は無言でただ手近の敵を攻撃するのみ。
包丁を握りしめた虚ろな表情の女が、鉄の鎧を身に纏った騎士に挑みかかる。
盾に阻まれた包丁は、あっさりと刃を空中に踊らせた。
しかし、武器を失ってもなお戦意を失わないのが傀儡兵。
素手で殴りかかってくるものもいれば、その辺りに転がる石を掴んで攻撃してくるものもいる。
装備の整った騎士団に通用するはずもなく、
だが傀儡にはそれを理解出来ないゆえに、一方的な戦いが繰り広げられていた。
戦場は悲惨な状況になりつつあるのだ。
「右翼、左翼、さらに前進!正面は後退!」
ギニアスは戦況を逐次把握しながら指示を飛ばす。
騎士団はUの字に展開していった。
反乱軍を囲ったのである。
(本来なら、このままOの字に囲って完全包囲か、残しておいた穴からわざと撤退させ、
あらかじめ退路に伏せておいた兵と、追撃による挟みうちで攻撃するのがセオリーなんですがね……。)
しかし、反乱軍はただ攻撃するのみである。
(どうやら傀儡兵の動きのパターンは、ひたすら前進と傀儡兵以外の手近のものを攻撃する、その二つのようですな。)
反乱軍の中に時折混じっているまともな装備の人間が厄介であるものの、戦況は圧倒的に騎士団の有利であった。
血しぶき舞う戦場。
反乱軍の人間が次々と倒れてゆく。
ギニアスが魔術師と神官を使う必要はない、と判断しかけた時、戦場に異変が起こった。
ある騎士が縦横無尽に槍を振り回していた時、不意に足を取られてしまった。
反乱軍の兵に足を捕まれていたのだ。
まだ息があったのか、と目を向けた。
やはり虚ろな表情。
しかし、明らかに生気が無さすぎた。
それもそのはず、心臓を槍で貫かれているのである。
それでも足が千切ればかりの腕力で掴んでくる。
槍で腕を斬り落とす。
だが、うめき声一つあげずに立ち上がった。
声ではない、何か音を発しながら襲いかかってくる。
騎士は恐怖にかられながら夢中で串刺しにした。
そして、背後に新たな気配を感じて振り向こうとした瞬間、首筋に牙が突き立った。
腹から内臓をはみださせながら、騎士の肉を噛み千切る。
悲鳴。
しかし、誰も助けには来ない。
なぜなら、周りも同じような状態であったからだ……。
ギニアスに報告が入った。
「戦場で異変が起こりました!死者が立ち上がり、敵味方の区別無く襲いかかっています!」
「……リビングデッドか!?」
リビングデッド、生ける屍。
魂を汚すことにより、死してもなお術者の思い通りに使役するための技。
クラス・ネクロマンサーが得意とする禁断の技である。
命を何とも思わないこの行為に、ギニアスは憤りを隠すことが出来ない。
その特徴として、生への執着から生あるものに襲いかかるものと、
首を落とさなければ何度も立ち上がってくるという恐ろしい特性。
「まずは戦況を立て直します!一旦、全部隊後退!前面に古参兵を中心にして配備。
魔術師は前面部隊に補助魔術を。前面部隊の後ろに神官部隊を配備。リビングデッドを浄化する!」
ギニアスの命令に慌ただしく動き始める全部隊。
リビングデッドにより著しく士気が低下していたのは若い騎士達。
さっきまで共に戦っていた味方がおぞましい存在となって襲いかかってくる姿は、恐怖を感じざるを得なかった。
その騎士を後方に下げて、戦い慣れている古参兵を前にすることによって戦線を維持。
神官の『浄化』の奇跡を使ってリビングデッドを排除する作戦。
しかし、『浄化』の奇跡はレベル6以上の高位の神官にしか扱えない。
それでも、そのやり方でしか魂を救う方法はないのだ。
「私も前に出る。」
ギニアスは古い戦友に指揮を頼むと、自らも前線へと駆けた。
なぜなら、聖騎士にもリビングデッドを倒すことの出来る技があるから。
「……ひとまずは、リビングデッドを排除しなければ話になりませんな。」
神官部隊が射程距離内まで距離を詰めた。
まだ士気の保たれている騎士達を盾にして、奇跡の詠唱を開始。
神官部隊に続きギニアスも詠唱を始めた。
筋肉がたくましく発達した右腕に、聖なる光が集まってゆく。
地上と平行にして腕を伸ばした。
「『浄光剣』!」
右腕が大気を切り裂きながらリビングデッドに向けて振るわれた。
横一文字の光が駆け抜ける。
騎士達をすり抜けてリビングデッドに向かっていった。
この聖なる光は人に対して害は無く、闇に属するもののみに効果がある。
そして、同時に神官部隊の『浄化』の奇跡が発動する。
聖なる光がリビングデッドに降り注いだ。
(精神力が尽きるまでになんとか浄化出来ればいいのですがね。)
ギニアスが再び光浄閃を放とうと構えた時、
『遠見』の魔術で前線の様子を確認していた者から、悲鳴のような報告が届いた。
「リビングデッドは健在です!こちらの『浄化』が通用しているように思えません!」
「そんな馬鹿な!?」
聖なる光を浴びたリビングデッドは何の影響も見られず、見境なく生けるものへの攻撃を続けていた。
(読み違えたか!?しかし、ネクロマンサー以外に考えられない。
他の可能性……やはり勇者なのか?だとしたら、この一連の流れ、勇者が関わり過ぎている……。
爆発物を使うもの、傀儡の技を使うもの、リビングデッドを使うもの。
最悪を想定するならば三人の勇者が関わっている。
楽観的に考えても、『勇者の武具』に相当するマジックアイテムを使っているはず。
これだけの力が集まって、一体何をやろうとしているのか……。)
『浄化』が効かないとなれば直接斬り結ぶしかリビングデッドを葬る術はない。
ギニアスは前線で指揮をしながら自らも戦うことを決意した。
「……エイラ殿達に託すしかないかもしれませんな。」
襟元を緩めながらそう呟いた。
あとがきっぽいもの。
作者「ひさびさ!」
美綺「冬眠してたとしか言い様がない!」
作者「……充電してたのさ。」
美綺「……まぁ、取り返す勢いで書いてくれれば問題ないけど。」
作者「頑張る。このペースだと、いつまでたっても終わらないことに気付いたから(笑)」
美綺「うむ。書きまくるがヨロシ。」
おわり
お気軽に叩いてやってください、喜びます(笑)
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