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「久しぶりに訪ねてみれば、どうやら非常事態らしいな……。」
響はルファを眺めることが出来る数Kmほど離れた場所にいた。
ルファは今まさに襲撃を受けている最中であった。
ドラゴンと降り注ぐ勇者。
一般人にとって脅威以外の何者でもない存在が暴れている状況。
「あちらさん、やっぱり勇者の殲滅が狙いどすやろか?」
ローブをはおった女、織葉がたおやかにフードを取って響と同じ方向を見つめて目を細めた。
「ああ。あとは呼び水と言ったところか。」
眉間に皺が寄り、ルファの空に浮かぶドラゴンを睨みつける響。
体から怒りのオーラがフツフツと沸き上がっていた。
「これは放っておけませんなぁ。それでは早速、行きましょか?」
「……行こう。」
響の傍らに停めてあるものは大型のバイク。
黒を基調としたカラーで、どんな悪路も駆けて抜けていけそうなタイヤを備えた、存在感のあふれた代物。
それに跨るとキーを回してエンジンを起動。
力強い駆動音が響の胸を高鳴らせた。
織葉はローブを脱ぎ捨てて、勇者の鎧を発動させる。
何の変哲もない旅装束が再構成されてゆく。
体のラインが出るようなピッタリとしたボディースーツを纏い、胸部や肩、腰などにアーマーを着込んだ状態になった。
そして、フワリと宙に浮かび上がる。
響は排気音を響かせルファに向かって地を駆け抜け、織葉は風を切り裂いて空を駆け抜けるのだった……。
ドラゴンの背に仁王立ちしながらルファの街を見渡すキリング。
眼下ではドラゴンのブレスや、勇者達の攻撃で火を上げる箇所がいくつもあった。
「つまらねぇなぁ!歯応えが無ぇ!そろそろ王城行っとくかぁ?」
ドラグーンランスを振り回し、王城へとその穂先を向けた。
その瞬間、キリングの顔が険しいものとなった。
近くに人の、いや、勇者の気配を感じ取ったから。
「炎を吐け!」
騎乗しているドラゴンへ命令を飛ばすと、すぐさまドラゴンは前方へ炎を吐いた。
「なんだ、見つかっちまったか。」
バサリと布が揺れる音がすると、宙に厳重郎の姿が現れた。
その脚に光を纏い、大気に光の足場を作って宙に浮いている。
「ん〜、上手く隠れてるつもりだったんだがなぁ。」
「光が漏れてんだよ!存在力が強すぎるのも難点だぜぃ?」
楽しそうに笑うキリング。
強力な相手と出会えた喜びで笑みを隠せそうになかったのだ。
厳重郎は、姿を消し、気配を消し、匂いを消す勇者の鎧、
『隠遁者の外套』の具現化を解くと、右手に赤と黒の手袋を具現した。
勇者の剣、『強奪の右手』。
命以外のあらゆるものを盗むことが出来る厳重郎の剣。
「そんなもんで俺の攻撃が防げるかよっ!」
ドラゴンを巧みに操って厳重郎へと迫るキリング。
ランスを構えて、凄まじい突きを放った。
「よっとぉっ!」
左手に具現化した『盗賊の七つ道具』の中の一つの短剣を取り出して迫りくるランスを軽く受け流す。
「やるな!」
さらに速度が増してゆく突きを、盗賊王は真剣な目つきで払い、流し、避けることでかいくぐった。
「ハハッ!反撃してこねぇのかよ!?」
「……。」
しかし、そんな軽口に対して言い返す余裕が無い盗賊王。
防戦に徹すればなんとか渡り合えるものの、こちらから攻撃を加えるとなると難しい。
衰えを感じていた。
肉体的にというよりも、存在力の劣化が勇者としては痛い。
(時は移ろうもの、といったところか。しかし、まだやるべきことが残っている。
それを成すまでは力尽きるわけにはいかない。)
そのためには目の前の壁を乗り越えなければならない。
集中力を研ぎ澄まし、次の突きに全神経を注ぐ。
「おらぁっ!」
放たれた突きを紙一重で避わし、『強奪の右手』でキリングのランスに触れた。
もちろん盗みとる魂胆である。
しかし、力が発動することはなかった。
(やはり、勇者の武具か。)
勇者の武具は勇者の存在力に武器や鎧や盾の属性を持たせたもの。
勇者の命そのものゆえに、命を盗むことの出来ない『強奪の右手』では勇者の武具を盗むことが出来ない。
この場合、勇者の武具かどうかの判別が出来たのが唯一の成果である。
(問題はどんな能力があるか、だ。奴の言動、態度からして、小細工をやるようなタイプではない気がする。
例の爆破犯ではないな。おそらくは、自分が前線で戦うタイプ。となると、身体強化や何らかの追加効果系の能力か……。)
思考を続けながら、左手に短剣、右手には『盗賊の七つ道具』の一つの万能鍵で、重いランスの攻撃を受け流し続ける。
鋭い突きの連続に幾度も戦慄しながら、少しでも多くの情報を得ようと戦う。
それが厳重郎の、盗賊としての戦い方であった。
「ちまちまとしやがって!」
厳重郎の戦い方にイラつき始めるキリング。
真正面からのぶつかりあいこそが、キリングの求める戦いなのだ。
「おまえ、何が目的で戦っているんだ?」
厳重郎にはどうにもキリングの戦い方に複雑な信念が無いように思えた。
そこにあるのは単純明快なもののような気がしてならない。
だから単刀直入に尋ねてみたのだ。
「あん?決まってんだろが!戦いたいからだよ!」
厳重郎が突きを払いのけた瞬間、キリングは素早く回し蹴りを放った。
受け止めることが出来ずに左肩にそれを喰らう厳重郎。
よろめきながらも体勢を整えるべく一旦距離をおく。
「戦闘狂か……。」
たまにそんな勇者が存在する。
力を持ってしまうことで、そんな風に持てる力を振るいたくなるものや、性格を豹変させてしまうものもいる。
逆に自らの力の大きさに恐怖を抱くものもいた。
「あんた、盗賊王と呼ばれた人だろ?こんなもんじゃないはずだ。本気を出せよ!」
キリングは獰猛な表情を浮かべながら、ランスを盗賊王の方向へと向けた。
同時に穂先の刃が左右に展開する。
その行動に警戒して身構える盗賊王。
「炎を吐け!」
ドラゴンが炎を吐く。
さらにランスの先からも炎が吐き出された。
業火が巻き起こり、厳重郎を飲み込もうと燃えたぎる。
汗が噴き出し、産毛がチリチリと焼けた。
「熱いな……。」
苦笑いを浮かべながら頬を伝う汗を感じた。
肺が焼けそうになる空気の中で、厳重郎は右手を掲げた。
『強奪の右手』の力が発動する。
眼前に迫る炎が、その右手へ吸い込まれるようにして消えてゆく。
炎を盗んだのだ。
しかし、キリングの放った炎は盗めていなかった。
(やっぱりあの炎は存在力で創り出したものか……。)
光の足場を創り出し、それを勢い良く蹴りつけて離脱する。
多少服を焦がしはしたが、厳重郎は無傷であった。
「チッ。避けられちまったか。よくわからねぇが、今のは勇者の武具だな?」
キリングはやっと楽しくなってきたとばかりに、凶悪な笑みを浮かべた。
より濃い殺気が放たれて、体中に闘気がみなぎっていた。
その様子を見た厳重郎は体をリラックスさせつつも、精神を研ぎ澄ませ、強敵と対峙するのだった……。
あとがきっぽいもの。
作者「まだこのルファでの戦いは序章にすぎないのだー。」
真矢「次は私の出番ですね。」
おわり
お気軽に叩いてやってください、喜びます(笑)
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