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石造りの円形の舞台が二つ並んでいる。
スタッフの人の先導で俺は戦いの場へと向かう。
聴こえる歓声。
観客席を埋め尽くす人の群れ。
暇人だねぇ〜。
先導するお姉さん、てか、女の人多いな、受付も選手チェックも女の人だったし。
とりあえず、ゆらゆら揺れるお姉さんのお尻を眺めながら気楽に付いてゆく。
手には鞘に収まった勇者の剣だけ。
適当に買ってきた鞘に合わせて作った剣で、形状も武器屋にあったものを真似して作っただけのかなり適当なものである。
大切なのは外見より中身ってことで。
「ねぇ、お姉さん?」
「なんです……きゃあっ!?」
背中の開いた服装だったから、背中につつっと指を這わせてみました。
前を歩くのをやめたお姉さんは横に並びながら、半眼で警戒している。
全然気にしないが。
「もしかして、お姉さんって審判?」
「……そうです。」
応対が冷たい。
やはりセクハラはダメだね。
「舞台に上がるのか?危なくね?」
お姉さんの顔を覗きこむ。
ん〜、クールビューティーって感じ。
着替えを手伝ってくれたお姉ちゃんは、可愛い系だったな。
闘技場ってむさくるしいイメージだったが、なんか案外そうでもないな。
「……言っておきますが、あなたよりも強いですよ?」
「あん?」
目が全然笑っていない微笑みを浮かべて、ズイッと間合いが詰められた。
ただでさえ近かったから、唇が触れるほどの距離。
その唇、いただき!
と思った瞬間、体が回転していた。
目の前には地面。
「おおっ!?」
とっさに腕を伸ばして地面に手をつく。
力を受け流すべく、自然に腕を曲げて衝撃を打ち消した。
そして、クルッと前回り受身。
地面といっても石造りなので、受け身が出来ないとかなり危ない。
てか、受け身をしても痛いはず。
お姉さんがフワッと投げていなければ試合前に怪我をするところだった。
「危ないなぁ〜。お姉さんって武闘家かなんか?」
「教えません。」
ツンって感じで顔を背けられてしまった。
ふっ、必ず振り向かせてみせよう!
そんなこんなで、舞台に到着。
対戦相手はとっくに到着していた模様。
「おまたせー。」
ヒラヒラと手を振る。
筋肉隆々のオッサンが待ち構えていた。
……嫌だなぁ。
既に抜き身の大剣を持ち、仁王立ち。
どうやらなかなか現れなかったので、ご立腹の様子。
「……貴様が勇者か?」
ふっしゅー、と息を吐くオッサン。
ピクピクと筋肉がうごめく。
きもっ!
「新米勇者ってとこだがな。」
なんとなく鞘から剣を抜き放つ。
きっとそれはジンジンと殺気を感じ取ったから。
「……そうか。勇者を倒せばハクがつくというもの。俺様にも運がむいてきたぜ!」
大剣を肩にかつぐようにして構えた。
「あぁ、そうかい。しかし、そう簡単に勝てるかな?」
ニヤリッと余裕の笑みを浮かべる俺。
それがダメ押しになったようだ。
「ぶち殺してやる!」
オッサンは審判の合図を待たずに突進を始めた。
『試合開始!』
遅れて審判のお姉さんの合図。
俺は鞘を投げ捨て剣を構えた。
「敗れたり!鞘を捨てるとは、再び剣を収めることは出来ぬぞ!」
「アホう。なんのジンクスだ。」
上段から振り下ろされる大剣。
力任せの一撃をまともには受けてやらんよ。
剣を傾けた格好でそのまま受け流す。
連続した動作で振り上げてきた大剣を力を込めた振りで迎えうち、相殺。
うん、けっこう動けるな。
「らあぁぁぁぁっ!」
胴を狙った大振り。
バックステップで避わして、反撃。
む、素早く戻した大剣で防がれた。
まぁ、いいけど。
「フッ!ホッ!ハァッー!」
三連打。
面、胴、脚を狙ってきやがった。
力だけかと思っていたが、スピードもなかなかのもんだ。
体を捻り、ステップを生かしてなんとか打ち払う。
初戦にしては難易度高めだわ。
「やるなぁ。しかし、逃げてばかりではどうにもならんぞ?」
「いえいえ、おかまいなく。」
面倒だが、負ける気はしないので。
俺の態度が気に食わないらしく、眉間に力を込めたオッサンが迫りくる。
おー、怖っ。
「ふっ!」
俺からの三連打。
面、喉、心臓狙い。
殺す気まんまんの狙いだが、オッサンに防がれるのは分かっていたさ。
当たれば儲け、俺の狙いは防がせること。
胴狙いでさらに一撃。
あっさりと大剣の平で受け止められた。
「ふはははは!そんなものかぁっ!」
嵐のように振り回される大剣。
避ける隙間も無く、ただ斬り刻まれるだけ。
のように、一見思えるが実はそうでもない。
次第にズレ始めるオッサンの動き。
剣を合わせれば合わせるほど、俺の動きに追いつけなくなる。
俺の剣、『遅延剣』。
この剣で対象に触れるたび、(対象とは、対象が身に付けているものも含める)一定範囲内にいる間、
時間が0.01ずつ遅れるようになる。
現在、0.1秒の遅れ。
一瞬の攻防が勝利を分ける中で0.1秒の遅れは大きい。
俺は剣撃の嵐の中へと突っ込んだ。
そして、次々と剣を合わせてゆく。
この剣、一度ハマるとどこまでも能力を発揮する。
観客も何が起こっているかわかるまい。
オッサンの動きがみるみる内に遅くなってゆく。
怪我一つ無いのに、亀より鈍いぜ。
もう動いているのか止まっているかもわからないオッサンのおでこを剣の平でペチペチと叩きながら、
審判のお姉さんへと視線をやった。
「まだやるかぃ?」
これ以上やってもつまらんだろ?と問いかけた。
目をパチクリさせた審判のお姉さんが、俺の名前を高らかに宣言したのは言うまでもなかった……。
あとがきっぽいもの。
作者「騎理の話ばっかだから、次あたり違う話を書こうかな。」
リーア「かな?」
作者「……書きたいものを優先するスタンスだから断定は出来ません。」
リーア「ですね〜♪」
おわり
お気軽に叩いてやってください、喜びます(笑)
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