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「・・・んあ?」

日の光が眩しくて目が覚めた。

自然な覚醒。

こんなにすっきりと晴れやかに目が覚めるのは珍しい。

「おはようございます、騎理様。」

カーテンを開けたのはメイド長だった。

気持ちのいい笑顔で挨拶された。

挨拶を返し、立ち上がろうとした時にふと気づいた。

ベッドの隣がまだ温かい、ということは朝まで隣にいてくれたようだ。

だから、ぐっすり眠れたんだな。

「ありがと。」

思わず抱きしめたくなったけど、自重。

「これも務めですから。」

クールな物言いでも、微笑みを浮かべていれば意味もかわってくる。

着替えを手伝ってもらって、朝食へ。

「と、その前にお願いがあるんだけど。」

一歩後ろからついてくるメイド長へと振り返った。

なんでしょう?と首を傾げている。

手短に用件を伝えておく。

優秀そうな人だから、大丈夫だろう。

「かしこまりました。そろえておきます。」

優雅なお辞儀をして去っていく。

さて、飯食ったら今日も試合だぁー。



2戦目の試合。

今回も相手はレベル5。

前回の筋肉だるまとは違い、細身の剣士が相手だ。

おそらく、前回の俺の戦いを見て対策をしていることだろう。

といっても、見破れたかどうかはわからないが。

そもそも、遅延剣をどうにかするには打ち合わないこと以外はない。

もしくは、よっぽど高い剣技でもって一瞬にして勝負をつけるかだ。

だが、レベル的に考えてそれは無理だろうな。

きっと相手は打ち合わないように戦うことはず。

ならば、相手のとる手段は飛び道具に違いあるまい。

なので、俺はその辺の対策をしつつ、試合に臨む。

審判にお姉さんの後について、入場。

轟く歓声。

応援の声6割、残りは意味の無い野次や、罵詈雑言。

まぁ、こんなもんだろう。

これからどう変わっていくか、楽しみである。

「・・・今回は荷物が多いですね。」

お姉さんから話しかけられた。

一歩前進かな?

「色々やってみようかと思いまして。」

左右の腰に一本ずつの剣。

さらに後腰に一本。

おまけに背中に一本、ななめにぶらさがっている。

今日は左手に盾もある。

盾の内側にクナイみたいな武器も数本。

しっかりとサイズを合わせた皮鎧も着込んだ。

うむ、メイド長良い仕事だ。

遅延剣と盾以外は全て揃えてもらった。

これが、朝に頼んだ用件である。

ちなみに盾が自前ということは、要は勇者の武具だってこと。

「今回もトリッキーな戦い方ということですか。」

冷静に分析されてしまった。

「そうなるね。なんつーか、勝てばいいのさ。」

勝てば正義、ってのはどうもしっくりこないが世の中はそうなっている。

だったら、勝つためにはどんなことでもするべきだ。

「確かにそうですね。敗北は死につながりますから。」

勝負うんぬんよりも、生きるか死ぬかの話っぽい。

いやだ、いやだ、物騒な世の中だよ、ホント。

かといって逃げ場なんてないし、逃げたところでどこまでも逃げられるわけじゃあない。

この世界でも、元の世界でも戦い続けるしかないのである。

死にたくなかったら。

・・・めんどくせぇなぁ。

「・・・惰性な気もするが、必要としてくれる限りは頑張るか。」

俺の呟きにお姉さんは首を傾げるが、俺は無言で舞台へあがる。

余計なことは置いといて、集中。

相手はゆったりとした服装。

外套で身を包んでいやがる。

あー、あれは剣以外の武器も持ってるな。

俺の予想通り。

つまらんやつだ。

「お主、勇者らしいな?」

髭を生やした、鋭い視線の男。

闘気がビシバシと伝わってくる。

「それが?」

殺気も何もない、リラックスした状態が俺のスタイル。

「嘘か真かは関係無い。世間がお主を勇者と認識しているのならばそれでよし。

お主を倒して私は名声を得る!」

鞘から剣をスラッと抜き放った。

相手の獲物はレイピア。

しかし、それが問題なのではない。

さて、他の武器は何を使うのかな?

とりあえず、俺からは攻めずに待ち。

向こうの出方に合わせる。

普通に打ってくれば、遅延剣で合わせればいいだけだし。

「前回の戦いは拝見させていただきました。おそらくは魔剣ですね。

距離を取らせてもらいますよ。」

やっぱり。

「どうぞ、ご自由に。」

余裕の笑みで応対。

挑発の意味もあるんだが、乗ってはこない。

今回の相手は冷静沈着な様子。

まぁ、相手がどうであれ、勝つだけだ。

「炎のレイピアよ!我が敵を燃やせ!」

レイピアを掲げると赤くきらめき、炎が現れた。

それは真っ直ぐに俺のほうへと向かってくる。

「魔剣には魔剣ってことか!」

魔術を使うのは禁止だが、魔剣による効果は問題無いルール。

案外、派手な戦いが見られるってことだな。

俺は余裕を持って回避。

単純に真っ直ぐ飛んでくるだけなら楽勝だ。

「そこ!」

外套に下に隠されていた片方に腕が振るわれた。

日の光を反射しながら、何かが飛来する。

「ちっ!?」

避けられないと判断。

盾で受けると、キンッと甲高い音がして何かが地面に落ちた。

短剣だ。

「破裂せよ!」

落ちたと同時ぐらいにそんな声がかかった。

やべぇな!

反射的に危険を感じてその場から飛び退く。

その瞬間、短剣が爆発した。

バンッ!と音をたてて爆風が起こる。

規模としてはたいしたこと無いが、至近距離で食らうと危険な感じ。

勢いよく吹っ飛ばされたが、何とか受身をとれた。

爆発跡にはサッカーボールぐらいの穴が開いていた。

短剣が無いことから、おそらくは使い捨て。

「やってくれるぜ・・・。」

爆発で飛んできた舞台の破片が腕をかすっていた。

たいしたことはない。

でも、むかついたから本気だす。

「炎よ!」

さっきと同じように炎を打ち出してきた。

俺は後腰から剣を抜き放ち、構える。

「氷よ!」

考えることは同じってね。

距離を取って戦ってくるなら、俺も距離を取って戦えるようにするだけだ。

用意してもらった氷の魔力剣。

あっちもどうせ魔力剣だろうから、これで十分。

同等の力、打ち消すだけでも違ってくるもんさ。

「ぬ!?」

遅延剣以外の魔剣の存在に計算が狂ったんだろう。

爆発の短剣を投げる手を止めている。

さて、次はこっちの番かな?

「うりゃっ!」

次の手を考えている一瞬の隙に、俺は左右の腰の剣を抜いた。

そして、投げる。

まさか短剣でも無い剣を投げるとは思っていなかったようで、少しのとまどいがあったみたいだ。

だが、しっかり回避する辺りなかなかのツワモノ。

ちゃんと見極められ、それぞれ右に左に通りすぎていく。

「まだまだ!」

俺は両手を交差させて、手にあるものをクンッと引っ張った。

すると、二本の剣が弧を描くようにして軌道を変える。

背後から男を狙い定める。

「なにぃ!?」

咄嗟に男はレイピアと短剣で二本の剣を打ち払う。

俺は手元に剣を引き寄せた。

「ちっ!」

男は短剣を放り捨てた。

すると、爆発。

どうやら、男のタイミングで爆発させるわけではないらしい。

たぶん、衝撃を与えたらってことか。

「まさか、剣自体を飛び道具とするとはな・・・。」

「剣に思い入れがあるわけじゃないんでね。」

タネは簡単、剣に鎖をまきつけていただけである。

ちょっと鎖鎌っぽい?

「・・・どちらかが、先日の魔剣ということか。」

バレたか。

片方は遅延剣のモデルにした普通の剣。

だから、デザインは全く一緒。

距離を置いてチクチクやっていれば、そのうち動きが鈍くなるだろうという戦法。

戦法がバレたところで、へこたれたりはしないぜ。

「よっと!」

再び二本の剣を投げつける。

ちなみに、この鎖鎌を操るような技術は屋敷の執事からの直伝。

即席ではあるが、どうも勇者というクラスは学習能力が高くなるらしい。

ばっちり身についている。

てか、屋敷の執事って、元は何のクラスだったんだろう?

「ふっ!甘いわ!」

違うことを考えていたら、男の気迫を込めた叫びが聞こえた。

腰から、レイピアとは違う剣を取り出している。

ぶ厚い刃のバスターソード。

片手で扱うにはギリギリといったサイズ。

それを両手で操り、上段に振り上げる。

「ぬぅぅん!」

髪一重で避わした次の瞬間、伸びきった鎖へとそれを振り下ろす。

たいした抵抗も無く分断されてしまった。

「マジかよ!?」

しかも、偶然だろうが遅延剣を結んでいたほう。

解き放たれた遅延剣は場外へ飛んでいった。

・・・これはちょっとへこむかもしれん。

さらに、そのままの勢いで流れるようにもう片方へと振り向いた。

「ふん!」

振り下ろされる渾身の一撃。

こちらも割りとあっさり断ち切られた。

同じく場外へ。

・・・あー、あっという間に戦力半減しちゃった・・・。

ニヤリと笑う男が非常に憎たらしい。

・・・うーん、ここからどうしよう?



あとがきっぽいもの。
作者「中途半端なところだから、続きは早めに書くぜ!」
                          おわり



お気軽に叩いてやってください、喜びます(笑)


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