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空中都市トリオン。
そこは地上から遠く離れた空に位置する都市。
魔力がその浮力を支え、その浮力がこの都市を雄大なる空へと支えている。
トリオンの門、通称『アヴァロン』の前の空間が揺らぎ始める。
そこから光の粒子が溢れでると、それらは収束していき存在を形成した。
「ここは……。」
光騎、奏歌、貴人、眞彩、美綺がチカチカとする視界にまばたきしながら世界に構成された。
そして視力が復帰した時に見た景色は五人の心を打った。
「すごい、空が……。」
それはどこまでも広がる空。
それは果てしない青を纏った風景。
身体に当たる風がどうしようもなく心地よくて愛おしく感じた。
「素敵な景色だね♪」
「わっ!?」
美綺が光騎の背中のほうから首に手を回して抱きついた。
ギュッと、まるでぬいぐるみにでも抱きつくように力を込めて。
光騎は美綺のハグにとまどいながら(いつものことだが)頷くのだった。
「美綺さん、抜け駆けはズルいよ!」
眞彩が美綺を押し退けて光騎に抱きついた。
「ま、眞彩ちゃん?」
光騎は眞彩の勢いに倒れそうになりながらも、なんとか踏み止まった。
「ねぇ、こんな場所でじゃれあうのはやめない?」
光騎にベタベタしたい衝動を堪えて奏歌が言った。
なぜならここは空中都市。
光騎達のいる場所は門の内側ではなく外側。
足を踏み外せば地上にまっさかさまというほど足場が悪いわけではない。
数十cmでそこは空、な場所ではないにしろ、危険な場所ではあるのだ。
「とりあえず、門をくぐろうぜ。話はそれからだ。」
門を指し示す貴人。心なしか小刻みに震えていた。
「あぁ、貴人って高所恐怖症だったよね。」
「光騎ー、このイケメン最大最後の弱点をあっさりバラすなよぅ〜。」
イケメン台無しの貴人だった。
「それより〜、アレなんだろ?」
美綺が青い空の向こうを指差す。
皆がそっちを見ると空に黒い点があった。
それは次第に大きくなり、形がわかってくる。
「大きい……。」
「そして怖そう。」
「鱗と牙と尻尾……。」
光騎、奏歌、眞彩がそれの特徴を呟き、顔を合わせて押し黙る。
そして、その特徴に該当する怪物の名前を口にした。
『ドラゴンだー!?』
キシャァァァァーッ!
推定ドラゴンがおたけびをあげて近付いてきた。
五人は門の内側に逃げようと門に殺到する。
「これ、どうやって開くの!?」
「押してダメなら引いてみる!」
「ビクともしない!」
門が開かずに悪戦苦闘していると、ドラゴン?がすぐそこまで迫っていた。
「こうなったら戦うしかない!?」
奏歌はドラゴン?をにらみつける。
そして拳を握って構えた。
「眞彩も戦うよ!」
ポニーテールを揺らして眞彩も構えた。
「しゃあない!戦うか!」
貴人は高さを意識しないようにハルバードを構えた。
「じゃあ光ちゃん、三人が時間を稼いでる間に逃げようか♪」
美綺は光騎の手を取り逃げ出す気まんまんである。
「そんなのダメだよ美綺姉。皆を犠牲にして助かるなんて出来ないよ。てか、逃げ場があれば皆で逃げるよ。」
「そりゃそうよねー。」
美綺は仕方なく杖を構えて魔術の準備に取りかかる。
光騎も剣を構えた。
そして、ドラゴン?はその鱗がくっきりと確認出来るところまで迫っていた。
『……。』
光騎達は息を飲んだ。
そして理解した。
まだあれには勝てないと。
頭を霞めた幻視はドラゴン?の凶暴なる牙が襲いかかる映像。
圧倒的な力の前に屈する自分の姿だった。
光騎達が絶望しようとした時、背後の門からゴゴッと音がした。
反射的に光騎達が振り向くと門が開き、そこには白衣の女が立っていた。
「……朔夜ちゃん?」
美綺が問掛ける。
同じ学年の同じクラス。特別仲が良いというわけではないが、知り合いではある。
「おまえ達、後ろに下がって伏せろ。」
朔夜がクールに言い放つ。
「え?」
光騎達は反応出来ずに戸惑う。
「早くしろ。」
キッ、と睨みつける朔夜。
それにビビった光騎達はとても素早く門へと後退して伏せた。
ドラゴン?は翼をはためかせて一直線に門へと迫る。
それを見た朔夜はニヤリと笑って手を振り上げた。
キシャァァァァッ!と叫ぶドラゴン?。
「今だ!撃て!」
朔夜は振り上げた腕を下ろす。
その瞬間、ズドーンッ!という音がいくつか重なると、ドラゴン?が吹っ飛んだ。
音のした方を見ると、筒を持った人間が並んでいた。
見上げると、門のすぐ近くの壁に穴が開いており、そこからも筒が覗いていた。
「……大筒?」
光騎が呟くように言うと、朔夜が解説したそうにやってきて口を開いた。
「そうだ。普通の拳銃はあるくせに大筒が無くてな。モンスター相手にはこれのほうがよっぽど役立つだろう。しかも、これの弾は魔弾だ。火薬オンリーよりさらに威力がある。これをガンナーに持たせれば、さらなる命中精度を期待出来る。しかし、問題点もある。単発式がゆえに複数との戦いには向かない。それが今後の改善点だな。」
「はぁ……。」
わかったのかわからなかったのか微妙な反応の光騎。
そこへ美綺がやってくる。
「ねぇ、朔夜ちゃん?そんなことよりも聞きたいことがあるんだけど。」
「そんなこととは聞き捨てならないが、言いたいことはわかる。場所を変えよう。」
そう言うと昨夜は歩き出した。
光騎達は顔を見合わせると、他にどうしようもないので朔夜に付いていった。
「メニューをお持ちしました。」
ウェイターが持ってきたメニューを受け取りそれぞれが飲み物を注文する。
ウェイターが去っていくと、奏歌が口を開いた。
「なぜ、あえてその辺の喫茶店?」
込みいった話をするには若干合わない場所であった。
「私の部屋は散らかっていてな。人を招ける場所ではない。茶も無いしな。」
生活能力の無さがモロバレである。
「それでー、なんで朔夜先輩がここにいるんですか〜?」
眞彩が手を挙げて質問する。朔夜は頷いた。
「いい質問だ。まぁ、簡単に言うと私も君達と同じく、この世界に召喚されたものだ。」
それを聞いて美綺が手を挙げる。
「じゃあ、なんで私達と白の部屋にいなかったのー?」
「ふむ。順を追って説明するとだな、私は君達より前に召喚されたものだ。」
「前ですか?」
奏歌が朔夜の言葉を吟味するように尋ねる。
「そう、召喚は幾度も行われている。そしていまだに喚ばれ続けているのは満足な結果が出されていないからだろう。」
「それって世界を救うってことですよね?」
光騎が少し自信無さげに尋ねた。
「何をもって世界を救ったか、それが問題なんだろう。魔王と呼ばれるものを倒すのか、人に仇なす怪物を駆逐するのか、人々から飢えと貧困を無くすのか、あるいは人々から争いを無くすか……。」
「うわぁ、難しい問題じゃね?」
貴人はお手上げといった感じで肩をすくめる。
「無理でしょ。私達の世界ですら出来てないんだから。」
美綺が身も蓋もないことを言った。
美綺の言葉に光騎は少し寂しそうにした。
「確かにそうだけど、出来るだけ頑張ろうよ美綺姉。」
「うん、頑張る♪」
光騎に言われればとりあえず頑張ってみる美綺だった。
「あ〜、それで話を戻すとだな。どういう区切りかはいまいち分からないんだが、元の世界に戻れる時があるんだ。それで、戻ってから再びこっちに喚ばれる時は、前いた所に戻される仕組みなんだ。」
「あぁー、だから白の部屋にいなかったんですね〜。」
美綺達が納得したように頷く。
「それにしても助かりました。ありがとうございました。」
光騎が改まってお礼を言う。奏歌と眞彩も一緒に頭を下げる。
美綺は運ばれてきたお茶を美味しそうに飲み、貴人は運んできたウェイトレスに夢中である。
「ドラゴンなんか倒せるわけないもんねー。」
眞彩がドラゴン?の姿を思い出し、危なかったなーって顔をする。
「ん?あれは違う、あれはワイバーンだ。」
『えっ?』
朔夜の指摘に光騎達の時が止まる。
あれがドラゴンとばかり思っていたので、少し恥ずかしい気分になった。
「え、えーと、ワイバーン?」
確かめるように尋ねる美綺。
「そうだ。もしあれがドラゴンなら大筒で倒せるわけないだろう?鱗の固さはワイバーンの比じゃない。ドラゴンの鱗を貫くほどの武器を開発するのが目標ではあるが、まだ力不足さ。」
フッ、と笑って肩をすくめる朔夜。
「朔夜先輩はここで武器の開発をしてるのですか?」
「武器に限らずなんでも作っているよ。今は飛行石を使って色々試作中だ。」
朔夜は得意気に話す。
「へー、なんか楽しそう。」
目をきらきらとさせる美綺。
興味のあることには敏感なのだ。
美綺と奏歌が朔夜の話に聞きいってる中で、光騎はトリオンの町の美しい風景を眺めていた。
大理石の町並み、涼やかさをかもしだす噴水に、天へとそびえる時計塔。
計算されたように配置されたそれらは芸術品のようでいて光騎の目を惹き付ける。
「ここって、なんだかすごく人工的だね、お兄ちゃん♪」
眞彩が光騎の胸に飛び込んだ。
猫のような雰囲気で光騎になつく。
気がつけば光騎の膝に横座りしていて、首に手を回してゴロゴロしていた。
「眞彩ちゃんは相変わらず甘えんぼだね。」
光騎は戸惑って苦笑しつつも、眞彩の頭を撫でてあげた。
眞彩は気持ち良さそうに目を細めている。
「眞彩はねぇ、お兄ちゃんにしか甘えにゃいよ〜♪」
光騎の胸に顔を押し付けてすりすりする。
(さすがに恥ずい……。)
光騎は平常心を保ちつつ、そろそろ誰か止めてくれないかなぁ、と思っていた。
「どきなさーい、この泥棒猫ー!」
なかなかよいタイミングで美綺が乱入してきた。
光騎の後ろから抱きつき、光騎の首に回す眞彩の手をはずして押しのける。
「くっ、また出遅れた……。」
奏歌が悔しそうに天を仰ぐ。
ちなみに貴人はウェイトレスにフラれていた。
「ねぇねぇ光ちゃん。あれ何だろねー?」
光騎は美綺が指差す方を見た。
そこには大きな岩があり、剣が刺さっていた。
この町には合わないシロモノだ。
「何だろう?岩に刺さってる剣って、エクスカリバーとか?」
冗談めかして光騎が言った。
いつのまにか隣にいた朔夜が深く頷いた。
「正解。」
「えっ?ほんとに?」
「あれは選定の岩だ。選ばれたものだけが、あの剣を抜くことが出来るんだ。」
朔夜が説明する。そうしたら美綺がダッシュしだした。
「レッツチャレンジ!あたしこそエクスカリバーの持ち主に!」
「俺もやってやるぜ!エクスカリバー、ってカッコイイし!」
なぜかテンションの高い、美綺と貴人が岩へと走る。
しかし、光騎達が岩の元へと行く頃にはそのテンションも冷めていた。
『無理でした!』
「無理だったんだ、残念だったね。」
光騎が声をかけると、美綺が光騎の手を掴んだ。
「さぁ、光ちゃんもチャレンジ!勇者にこそふさわしい剣よ!」
美綺にズルズルと引っ張られる光騎。
「無理だな。」
朔夜があっさりと否定する。
「えー?なんでー?」
美綺が不満たらたらで朔夜に抗議。
「あれは単純に力があれば抜けるんだ。ついでに言えば人間の筋力じゃ無理なんだよ。」
「え〜、つまんなーい。」
美綺はとりあえず光騎にベタついて、気分転換するのだった。
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