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ガァァァァァッ―!!

天地揺るがす雄叫びが脳髄を貫く。

それは心を折り、絶望で染めあげようとする。

常人であれば気が狂いそうになるだろう。

空中都市トリオンの上空を舞うのは火竜(ファイヤードラゴン)。

凶暴なる牙、狂暴なる爪、光を閉ざす赤褐色の翼。

その威風堂々たる姿はワイバーンなど霞んでしまう、圧倒的存在感。

「……これが……。」

思わず息を飲む。

唇は乾き、背中を冷や汗が伝う。

忍びよる死の気配に足が震えた。

ここはトリオンの中心に位置する広場。

普段は人が賑わい活気ある場所だ。

しかし、今は光騎達とわずかな戦えるもの達しかいない。

港とは反対の場所に飛空艇は移動し、そこで今も避難が続いている。

この広場で時間稼ぎ、もとい倒してしまうのが光騎達の目標だ。

(でも、こんなものにどうやって……。)

想像できなかった。

光騎の描いていたドラゴンとは圧倒的に違う恐怖とリアリティ。

ギラリとしたドラゴンの目に逃げ出したくなる。

「決まったか?」

朔夜が問掛けた。

光騎は力無く首をふる。

「いくつか考えたんですがダメです。あれに勝つにはもっと違うものを想像しないと・・・。」

美綺達は黙って光騎を見守っている。

今は光騎を信じることしか出来なかった。

グルルルルルルッ――

火竜のうなり声。

胸が膨張し、火竜の口から赤色の暴力がこぼれでる。

「あれって、火を吐くんじゃ……!」

奏歌のひきつった声。

火竜はグンッと体を反らし、その凶悪な口を大きく開くと、紅煉の炎を吐きだした。

「逃げ……、いや、間に合わない!?」

貴人が叫ぶ。

広場へと迫りくる灼熱。

空気がチリチリと乾き、身を焦がす恐怖が体をすくませる。

(ここで!ここで怯んでいる場合じゃない!火竜は僕達の命を理不尽に奪おうとしているんだ!)

光騎は自らを奮い立たせる。

好きな人達を守るため、問答無用で襲いかかるものに逆らうため。

その心に思い描くのは盾。

地獄の業火をも消し去る、絶対炎防御の盾!

「その炎の息吹、消し去れーッ!」

天に突きだす腕から放たれた光は、トリオンに降り注ぐ。

魔術師ならば見えただろう、トリオンに描かれた膨大な対炎防御の魔術文字が。

火竜の吐き出した炎が消えゆく。

まるでそんなものが無かったかのように。

火竜は炎を吐き出そうとするが、ただ息を吐く音しかなかった。

「すごい……光ちゃんすげぇ〜♪」

ピョンッと光騎に抱きつく美綺。

魔術師だけに、今のが相当すごいということが解ったのだ。

「み、美綺姉、まだ喜ぶのは早いって。」

そう言いながらも、自分の思い通りに出来て嬉しい光騎。

「ふむ。」

朔夜はおもむろにマッチを取り出した。

一本取り出し、シュッと滑らせる。

火はつかなかった。

「火属性完全無効化の盾か。まぁ、盾というか結界みたいなものだが。」

「ほんとだ。俺のジッポも点かない。」

貴人も朔夜に倣いジッポを取り出すが火は点かなかった。

「大筒も使えないな。まぁ、ドラゴンには効かないだろうが。」

少し残念そうな朔夜。

「炎は封じたけど、まだこれから……。」

奏歌は呟いた。

楽観的にはとてもなれない状況。

ドラゴンの尾が時計塔を破壊する。

家屋が崩れる。


光騎はこの光景を目のあたりにして、怒りと悲しみに包まれていった。

(アレをぶっ飛ばすもの……それは……。)

光騎の脳裏にフッと浮かんだのはドラゴンに相対する巨人の姿。

一度浮かんだその映像が脳に焼き付いて離れない。

「きっと……これならドラゴンを倒せる!」

(自分が思い描いたものを信じるしかない。信じてくれている皆のためにも!)

「光ちゃん頑張れ!」

「光騎君頑張って!」

「お兄ちゃん信じてるよ!」

「光騎、おまえならやれるさ!」

「君の思った通りにやるがいいさ。」

光騎は美綺達の声援を受けながら光騎の鎧をイメージする。

それは巨大なる力。

それは魔力を貪るモノ。

それはソラを駆けるモノ。

光の粒子が空から降り注ぎ、収束していく。

目を閉じた光騎は心に湧いたその名を叫んだ。

「来い!零式ーッ!」

それはこの世界に具現した。

目を開けた光騎は見たこともない機器に囲まれたシートに座っていた。

まるでアニメやマンガで見たようなその場所は、妙に光騎に馴染んでいた。

『搭乗者ヲ確認シマシタ。脳波パターンノ測定ヲ開始シマス。・・・脳波パターンノ測定終了シマシタ。脳波パターンノ一致ヲ確認シマシタ。』

機械的な声が淡々と起動プロセスをこなしていく。

光騎わけがわからないままシステムが起動していった。

そして機器が光り始め、コックピット内が明るくなった。

『お帰りなさい光騎さん!』

先程の機械的な声とは違った、親しみのある女の子の声が光騎を出迎えた。

「お帰りなさい、って初めて乗ったんだけど……。」

もしかしてメイド喫茶のノリ?、と思った光騎。

『光騎さん寝惚けてるんですか?零式への搭乗回数は千を軽く超えてますよ?』

しっかりしてくださいよー、って感じで光騎に話しかける。

(てか、誰としゃべってんだろ……。)

光騎は思いきって尋ねてみることにした。

「ねぇ、君は誰?」

『何を言ってるんですかぁ?私は愛ちゃんですよ〜。AIだから愛ちゃんなんて安直な名前つけたの、光騎さんなんですからねー。』

「……。」

(どういうことだ?名付けた覚えはないし、AIなんて技術は元の世界にもまだ無い。これは一体……。)

『それより光騎さん。機体チェックの報告しますねー。』

「え?あっ、うん。」

マイペースなAIの愛ちゃん。

光騎が思考に埋没していてもほったらかしである。

『満身痩依ってやつです。センサーの感度は7割減。背部ウィング全壊、背部スラスターは一つだけ使えます。脚部スラスターは両足一つずつ生きてます。装甲に関してはほとんどが第3装甲まで壊れています。武器は頭部バルカンのみ。マナエンジンが無傷なのは奇跡ですねー。』

「真っ赤だね……。」

モニターに映しだされた機体のスペックデータは壊れた箇所が多すぎて真っ赤だった。

(と言ってもよくわからないことが多いからなぁ……。)

満身痩依であることだけは理解した光騎。

だが、満身痩依であろうがやらなければいけないことがある。

モニターに映し出された外の光景。

画面を支配するのは火竜の姿。

「ねぇ、愛ちゃん。」

『なんですか?』

「目の前のアレ、この機体でも倒せる?」

少しの沈黙。零式の目が火竜を見つめる。

『零式は光騎さんの手であり足であり体でもあります。だから、それを動かす光騎さん次第ではなんだって出来るはずです。そう、今までそうしてきたように……。』

愛ちゃんの言葉は光騎の心に染みわたった。

今までがどうだったかは知らない。

それでも零式とならなんでも出来そうな気がした。

(やってやるさ。)

勢いよく操縦悍を握る光騎。

その時、頭の中に操縦法が流れこんできた。

ガァァァァァァーッ!

火竜が自分の敵を認識した。

自分に害なすものを認識し、襲いかかる。

「うわぁぁぁぁー!」

零式が地を駆ける。

それはきっと、それが完全な時と比べれば鈍重としか思えない動きだったが、その走りの力強さは見るものを奮い立たせ、うつむいた顔を上げさせる確かな力があった。

一方、零式が出現して呆気にとられていた美綺達。

「……ロボット?」

美綺は首を傾げて朔夜に尋ねた。

「いや、たぶんロボットではないんだろう。光騎君はアレを『鎧』として認識しているはずだから。」

冷静な分析で答える朔夜。

「じゃあ、なんちゃらスーツ?」

「……まぁ、概念的にはそれだろう。それよりも気になるのは、あの損傷だ。」

「それは……、壊れてる姿をイメージしたからじゃないの?」

「確かにそうかもしれないが、壊れてる姿をイメージするのは完全なものをイメージするより難しいだろう。あの壊れ方はリアリティがありすぎる。」

「う〜ん、じゃあどうしてあんな風になってるの?」

美綺達は見上げる。

そこにいるのは青と黒の巨人。

幾度の戦いを経たようなその姿は痛々しくもあり、その傷を誇らしく思っているようにも見えた。

「きっと光騎君はアレを召喚したんだ。元の世界でもなく、この世界でもない、もっと違う世界から。」

朔夜は呟くように言った。

夢のような考えだったが、素直に納得してしまった。

(そう、何故かは分からないがアレはなつかしい気がするんだ……。)

朔夜は目を細めた。

「クッ、反応が悪すぎる!」

機体が思った通りに動かない。

動かすたびにモニターにエラーの表示が出た。

「愛ちゃん!このエラー、ってなんとかならないの!?」

『すみません、光騎さん。これで精一杯なんです。これだけの損傷度だと、私にはここまでです……。』

火竜の体当たりが零式を揺さぶる。

生きているスラスターでなんとか体勢を立て直した。

(今のも避けられない攻撃じゃなかった。反応の悪さも計算して動かさないと……!)

ガァァァァァァーッ!

火竜が腕を振り挙げて迫る。

鋭い爪が光を反射し、ぎらついた。

(バルカンで牽制!)

飛び退きながらバルカンを放とうとする。

しかし反応が無かった。

「なんで!?」

『原因不明です。炸薬に反応がありません』

「…あっ、そうか!」

自分の発動した盾の存在を思い出した。

(火薬を使うものは一切使えないのか!)

「じゃあ使える武器は無し!?」

『相手の装甲は硬そうですから、パンチやキックでは戦えそうにもありませんね。』

火竜の爪が零式の装甲をえぐる。

装甲の破片が飛び散る中、

「なんだあの役に立たんクズ鉄は。」

朔夜が毒舌をかましていた。

「なんとか援護出来ないかな?」

楽観的な性格の美綺もさすがにハラハラして見ていた。

「状況がわからんことにはな。それにヘタに近付くと踏まれる。」

「……。」

まだ、美綺達には見守ることしか出来なかった。

(でも、いつでも光ちゃんを助けられるように、目を離さない!)

「うわぁぁっ!」

装甲が剥がれる。

大量のエラーが表示され、機体のデータに危険な赤がまた追加された。

『光騎さん、大丈夫ですか?』

「う、うん、大丈夫!」

『胸部装甲、第3装甲が破壊されました。あと2層でコックピットが剥き出しになりますよ?』

「え!?そんな、どうにかしないと……。」

光騎はどうしたらいいかわからなかった。

火竜は丸腰では絶対に勝てず、撤退も許されない。

(一体どうすれば火竜に勝てる!?)

光騎はモニター越しに火竜をにらみつけた。



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