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奏歌と眞彩は港へと走っていた。

「なんとかっ、援護しないと!」

「お兄ちゃんのために出来ることっ!」

二人は小型飛空艇を取りに走っていた。

それに乗って援護しようという考えである。

しかし、それで具体的にどうするかは考えいなかった。

ただ、光騎のために何かしたいというだけで体が動いているのだ。

飛空艇がしまわれている倉庫に辿りつくと、手早く起動させた。

「今行くから、待っててね光騎君!」



「操縦は慣れてきたけど……!」

機体をだましだまし使い、火竜と渡り合う。

ガァァァァァァーッ!

火竜は上体を低くすると零式へと突っこんできた。

「ちっ!猪じゃあるまいし!」

生きたスラスターをうまく使い、最小限の動きでそれをかわした。

しかし、そうやって避け続けることしか出来なかった。

「やっぱり何か武器がないと!」

火竜の攻撃を避けながら考える光騎だった。

「・・・状況は変わらずか。」

貴人が呟く。

離れた場所に避難して光騎の戦いを見守っていた。

何も出来ずにただ見ているだけの自分が歯がゆかった。

「……光ちゃん。せめて武器があれば……。」

美綺は杖をギュッと握る。

光騎のことが心配でたまらなかった。

出来るなら自分が代わってやりたいと思った。

「ふむ、作戦を思いついた。みんな聞け。」

先程から黙って思案していた朔夜が口を開いた。

美綺と貴人は黙ってそれを聞くと頷く。

「あとは、それを光ちゃんに伝えないと。」

「あぁ、それならきっとあの二人が……。」

朔夜が言い終わる前に、空を駆ける二つの影があった。

飛空艇を駆る奏歌と眞彩である。

「二人共、すぐに降りてこい!」

朔夜が大声で二人を呼んだ。

二人は怪訝な顔をしながらも朔夜達のいる場所へと向かう。

「なに?朔夜さん。光騎君の援護をしようと思ってたんですけど。」

「そうだよー。どうやるかは考えてなかったけどー。」

一刻も早く光騎を助けにいきたい二人は少し不機嫌に朔夜の言葉を待つ。

「光騎君を援護する作戦だ。協力しろ。」

朔夜は冷静に言い放った。

その言葉を聞いて奏歌と眞彩はお互いに顔を見合わせたあと、静かに頷いた。

「くそっ!またエラーか!」

機体がきしむ。

装甲が歪む。

エラーによる一瞬のフリーズで、火竜の攻撃をどうしても受けてしまう。

『エラーの処理が追いつきません!これ以上長引かせると機体が持ちません!』

愛ちゃんの警告。

(そんなこと言ったって!)

それでも避け続けるしかなかった。

(……せめて、みんなが逃げるだけの時間を稼がないと!)

光騎が悲愴な覚悟を構えようとしたその時、モニターの端に空を駆ける影が映った。

「あれは……、美綺姉達!?」

二台の飛空艇それぞれに、二人乗りをしていた。

奏歌と朔夜。美綺と眞彩。

そして零式に向かって手を振っていた。

「一体何を!?火竜がいるってのに!愛ちゃん、外に声はかけられない?」

『かけられますよ。外の音声は拾えませんけど。』

「うわぁ、微妙!しょうがない、愛ちゃん、ハッチ開けて!」

『それは危険です!』

「いいから早く!」

『どうなっても知りませんからね!』

言ったと同時にハッチが開いた。

フレームの歪みからか、異音を発していたが光騎は無視した。

「みんななにやってんのさ!危ないから下がって!」

光騎は叫ぶ。

スピーカーで拡大された声が辺りに響いた。

「よし、ハッチを開いたぞ!今だ、撃て!」

朔夜が挙げた腕を振り下ろす。

そうすると、地上のトリオンの魔術師達が魔術を紡ぎ、火竜へと放った。

『彼のものを絡めとれ、スパイダーネット!』

数人が放ったその魔術が火竜の体へと絡みつく。

いくつかは抵抗されて無散したが、火竜の動きを止めることには成功した。

「じゃあ、行くよ朔夜さん!」

奏歌が飛空艇のスピードを上げた。

それに習い眞彩もスピードを上げる。

「えっ!なんで突っ込んでくるの!?」

光騎は焦った。

二台の飛空艇が、スピードを上げて近付いてくる。

光騎はなんとかハッチを閉めたくなる衝動をこらえた。

ハッチの手前で減速。

ハンドルを切りつつ、逆噴射を操りターンする。

今日初めて乗ったとは思えない運転を魅せる奏歌。

タイミングを見計らい朔夜がジャンプした。

「受け止めてくれ。」

「はぁ!?ぐはっ!」

肘だか膝だかわからないが光騎の腹にいい感じで入った。

光騎がうめいていると、スッと、朔夜がコックピットの後ろへ下がった。

そこへ眞彩がさっきの奏歌と同じような運転をしていた。

「受け止めてね♪」

美綺がジャンプした。

「なっ!ぶふうっ!」

美綺の胸に顔を埋めながらも膝が腹にめり込んでそれどころではない光騎。

「よし、ハッチを閉めるんだ光騎君。」

こんな時でも冷静な朔夜。

光騎は痛みに顔をしかめながらも愛ちゃんに指示を出してハッチを閉じさせる。

モニターを見ると、奏歌と眞彩が後退していた。

『脳波パターン測定完了。朔夜さん、美綺さん、お久しぶりです!』

愛ちゃんが二人に声をかけた。

「誰だ?」

「零式のAIで、愛ちゃんです。」

「安直な。」

「知りませんよ……。」

なんだかげんなりしている光騎だった。

『早速ですが、朔夜さん。エラーの処理をお願いしたいんですが。』

「それは無理だ。まずは火竜を倒す作戦を伝える。スパイダーネットの持続時間にも限りがあるからな。」

「火竜を倒す作戦ですか!?」

半ば諦めかけていただけに驚く光騎。

「そのためにここに来たんだ。ちゃんと美綺にも仕事がある。」

「わーい、光ちゃんだぁ〜♪」

すりすり顔を寄せる美綺。話は全く聞いていない。

「ほら、美綺姉、ちゃんと話を聞かなきゃ。」

「はーい。んふぅ〜。」

返事はするが、ベタベタするのを止めない美綺。

仕方ないのでそのまま話を続ける二人。

「まずは武器だが…。」

と、言いかけた時、 ガァァァァァァーッ!火竜が叫ぶ。

そして絡みついていた魔力の糸が千切れていった。

「チッ、計算より早かったな。さすがはドラゴンか。」

「感心してる場合じゃないですよ!早く、武器は!?」

動き始める火竜に焦る光騎。朔夜をせかす。

「あぁ、武器は二つある。一つは『勇者の剣』。この、零式といったか?零式の武器を創造すればいい。」

「勇者の剣……。それでもう一つは?」

「もう一つは……。」

言い終える前に火竜が突っ込んでくる。

その牙で首を喰い千切ろうと迫る。

「そんなもの!」

膝に美綺を乗せたままだったが、操縦悍に手を伸ばすと機体を動かした。

火竜の牙を上手く避けた。

ガァァァァァァーッ!

避けた後の一瞬の硬直。

そこに火竜はその長い尾を振り回した。

「避けられないっ!」

まともに叩きつけられ吹き飛ばされる零式。

「きゃあああー!?」

美綺と朔夜の悲鳴。

しがみつく美綺をしっかり抱える光騎。

零式が地面に横たわる。

「朔夜さん!大丈夫ですか!?」

美綺は自分が抱えていたから無事だと分かるが朔夜はわからない。

「だ、大丈夫だ。それより、いいところにぶっ飛ばされたな。」

光騎が振り返ると頭から血を流した朔夜がよろめきながら立った。

「朔夜さん!血が…。」

「私はいい。」

「そんな、でも!」

「いいと言っているだろう。どうせ癒しの奇跡が使えるわけでもあるまい?」

「そうですけど、でも!」

「気持ちだけ受け取っておく。今は火竜を倒すのが先決だ。モニターを見ろ。」

「はい、わかりました……。」

しぶしぶながらも光騎はモニターを見た。

モニターに映るのは選定の岩に突き刺さるエクスカリバー。

「光騎君、アレを零式で抜け。」

「でも、あれって抜けないんじゃ……。」

「零式の力なら抜けるはずだ。人間の筋力の何倍もあるはずだからな。」

「でも、人間サイズの剣なんですけど……。」

零式の手には小さすぎるエクスカリバー。

「とりあえず抜け。指で抜けるだろう。」

「やってはみますけど……。」

零式の腕を伸ばし、指を伸ばす。

エクスカリバーをつまむようにして持つと力を込めた。

(壊れないのかなぁ?)

光騎はそんな心配をしつつ、慎重かつ素早くエクスカリバーを抜こうとした。

―ズズッ、と岩からエクスカリバーが抜けていく。

「いける!」

そう思った瞬間、一気に引き抜いた。

背後に迫りくる火竜は幻視した。

聖剣を抜いた勇者の姿を。

抜いた瞬間に光がほとばしった。

目を奪う黄金の輝き。

それは希望の光。

それは闇を照らす星の輝き。

指から離れたエクスカリバーは光を発して見えなくなる。

「な、なんて光……。」

モニターが真っ白になる。

光騎達は眩しくて目を細めた。

そして、光が小さくなって消えた時、巨大な剣が目の前に現れた。

『汝、我が主と認めたり。』

光騎の頭に直接響いたのはは凛々しい女の人の声。

光騎は疑うことなく理解した。

それはエクスカリバーの声。

エクスカリバーが囁いた声だった。

「さすがは伝説の七剣の一つだ。持ち主にサイズを合わせるとは・・・。」

朔夜は感心したように言った。

「え?朔夜さん知ってたんじゃ……。」

「確信は無かった。」

「うわぁ……。」

血を流しながら、ふてぶてしく言い張る朔夜に呆れる光騎。

「光ちゃん!火竜がくるよ!」

美綺が警告する。

光騎はすぐさま反応すると、零式にエクスカリバーを取らせた。

「うおぉぉぉーっ!」

振り向く勢いに乗せてエクスカリバーを振るう。

火竜はその爪を振りあげる。

剣と爪が交錯した。

そして、火竜の片腕が斬り飛ばされていた。

「なんて斬れ味っ!」

グギャァァァーッ!?

火竜が痛みと斬ったものを呪うかのような叫びをあげる。

「このまま倒す!」

零式は剣を上段に構えた。

そして一気に振り下ろす。

火竜はすんでのところでそれを避ける。

「くっ!」

そこで零式が硬直した。

次第に機体の反応が悪くなる。

その隙をついて火竜は翼を広げた。

そのまま翼をはためかせ空へ舞い上がる。

「逃がすか!」

剣を一閃する。火竜の足をかすめたが、舞い上がるのを止められない。

「このままじゃ、逃してしまう!」

今生きているスラスターでは、届きそうにないところまで火竜が飛ぶ。

「美綺、出番だ。」

「オーケー、朔夜ちゃん!いくよ、光ちゃん!」

光騎にウィンクすると美綺は魔術を紡ぎ始めた。

『其のものの重さを軽減せよ、ディクリーズウェイト!』

零式に魔術がかかる。

「これで零式の重さが三分の一は軽減されたはずだ。」

『これなら届きます。』

光騎は朔夜と愛ちゃんの言葉に言葉は頷いた。

精神力を使い果たした美綺は光騎の胸に持たれたまま、

「頑張ってね光ちゃん♪」

と微笑んだ。

「うん。必ず倒すよ!」

スラスターを全開にさせる。

悲鳴をあげる脚部をなだめると零式は天に向かい飛びあがった。

逃げる火竜の背後に迫る。

迫る気配に脅えた火竜は振り向いた。

そこには聖剣をかざした勇者。

エクスカリバーを掲げた零式。

零式はグングンと加速していき、火竜を捉えた。

そして火竜は声を発する間もなく、エクスカリバーによって一刀両断に斬り捨てられた。

「この剣に断てないものは無い!」

大空に、太陽の光を反射した聖剣がきらめいた……。



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