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白い光を抜けると、そこは何処までも続く森の中。

その鬱蒼とした様子に辟易しながら、辺りを眺める。

「……私一人?」

少し待てば誰かが現れるんじゃないかと思って、しばらくぼんやりと佇む。

しかし、誰も現れなかった。

心細くなって、弓をギュッと握る。

光騎さん達と一緒に旅立ったはずなのに、私だけのようだ。

「……。」

少し泣きそうになったけど、グッとこらえて歩き始める。

ここで止まっていると、光騎さん達に二度と会えない気がしたからだ。

短剣を振るって、歩くのに邪魔な草木を払いながら進む。

時には獣道のような場所を進んで、獣が出てこないかビクビクしながら通り抜けた。

そうやって進んでいると、茂みの向こうで生き物の気配を感じた。

私は反射的に身を潜めると、茂みの向こうをこっそりと窺う。

そこにいたのはモンスターと呼ばれる存在。

おそらくはゲームやファンタジー世界のポピュラーな存在、ゴブリンだ。

漂ってくる異臭はゴブリンの体臭だろうか?

その生々しさに私は顔をしかめる。

ゴブリンは2匹で私には解らない言葉でしゃべっている。

そのまま様子を窺い、ゴブリン達が立ち去ってくれるのを願った。

しかし、願いは通じなかったようだ。

私が来た方向から足音がする。

ガサガサッと音を鳴らして近付いてきた。

こっちからもゴブリンが現れる。

こちらは茂みの向こうのゴブリンより体格が良かった。

屈んだまま移動しようと思った。

だけど、身を隠す場所は無くて一つの選択を迫られる。

戦うしかない。

このまま何もしないでいれば、ゴブリンに見つかって挟撃されるだけだ。

私は矢筒から矢を取り出す。構える弓はショートボウ。

対象が近いからロングボウより小回りのきくこっちのほうがいいだろう。

身を伏せつつ、矢を引く。

体格の良いほうのゴブリンが徐々に近付いてくる。

足が震え、手の平が汗ばむ。

それでも集中する。感覚を研ぎ澄まして、イメージする。

ゴブリンの額を貫く軌跡を。さらに深く研ぎ澄ましてゆく。 胸を貫く軌跡、首を貫く軌跡……。

そのイメージに気分が悪くなる。

だって、それは身を守る術であったとしても、生命を奪う行為に違いないのだから。

一気に走り出す。

身は地を這うように低く、矢を引き絞る。

ゴブリンが私を捉えたと同時に、矢を放った。

「グゲッ!?」

首に突き刺さる。

耳障りな声を上げてゴブリンが地に臥した。

空気を求めて首をかきむしるようにしてあがく。

ヒュー、ヒューと音をさせて力尽きた。

それを見届けることなく、私は地を駆ける。

私の存在に気付いた2匹のゴブリン。

矢を取り出してつがえる。

そして瞬時に引き絞ると矢を放った。

「ウガァァァァァ!」

棍棒をデタラメに振り回す。

それをすり抜けてゴブリンの額に矢が突き立った。

もう1匹が棍棒を振りかぶり、私の頭を叩き割ろうとする。

思ったより近付き過ぎていて驚いたが、私は冷静さを失っていなかった。

矢をつがえるのは間に合わない。

だから、体を低くく沈ませて横に飛び退く。

そして矢を投げつけた。

腹に突き刺さり、ゴブリンが叫び声を上げ、逃げようと背を見せた。

私はダガーを取り出すと、ゴブリンの心臓を貫くよう、狙いをつけて投げた。

崩れ落ちるゴブリンを見ながら、私は思い出したかのように息をする。

一瞬の出来事であったが、とても長い一瞬だった。

「はぁ……はぁ……」

息絶えた3匹のゴブリン。

血の匂いが嫌で嫌でたまらなかった。

木の幹に腰かけ、しばらく呆然とする。

自分がこんなに簡単に生命を奪うことが出来ることに愕然とした。

ガサッ、ガサガサッ

私はビクッとして辺りに視線をやる。

グルルルルルッ……

唸り声

立ち上って見渡すと、いたのは狼だった。

血の匂いをかぎつけてきたのだろう。

弓を構える

狼は既に臨戦体勢だった。

今にも飛びかかろうと、私を睨みつける狼。

矢を取り出す隙が無いまま、狼が飛びかかってきた。

とっさに横へ飛び退いた。

あわよくば木の幹に狼がぶつかってくれればいいと思ったが、それは甘かった。

前足で木を蹴り、同時に後ろ足でも蹴りつけ加速。

そのまま私へ喰らいつこうと、狼は口を開けた。

弓を盾にして狼の噛みつきを防ぐ。

弓に牙が刺さり、グイグイと狼は体重をかける。

私は冷や汗を流しながら力を込めて狼を押し戻そうとした。

しかし、私の筋力ではそれは難しかった。

「ええいっ!!」

狼の腹へ膝を打ち込んだ。

ギャンッ!

鳴き声を上げ、一瞬、力が弛む。

その隙に右腕は弓を離し、短剣を掴む。

そして躊躇無く、狼の首筋に突き刺した。

肉をえぐる感触

食い込んでいく短剣を見つめながら、冷えていく思考がなんだかおかしかった。

短剣を捻る

傷口をどこまでも広げてやるかのように

血が吹き出し、私の顔にかかった

血が吹き出るにつれて、狼から力が抜けていき私の上で力尽きた。

「……。」

私は無言で狼の体を押し退ける。

短剣を抜いてしまってから、ゴブリンに刺さったままの矢も回収した。

武器は出来るだけ持っていこう。

なぜなら、ここは命を奪いあう場所だから。

戦う術を持たない、または未熟なものから死んでいく。

油断してはいけない。

あらゆるところに気を配り、目を離さず、ためらってはいけない。

「……とりあえずはここから離れなきゃ。」

血の匂いは新たな敵を呼ぶ。

顔についた狼の血を布で拭ってその場に捨てる。

そして、私は森に身を潜めた。

足音を殺し、気配を殺し、敵を殺していくのだ。

・・・私が生き残るために。



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