TOP
戻る




巨人を倒してから数日が経った。

いつも通りモンスターを狩りつつ、修行の日々。

「今日は刀夜さんの盾も使ってみようと思います。」

むんっ、と気合を入れる麻衣。

巨人を倒した場所から回収した刀夜の盾。

普通の目では見えないものでも、アナライザーを持ってすれば問題なく発見出来た。

麻衣はフル装備をして自分の戦闘力を把握しようと思っていた。

もちろん相手は、九条とダイルである。

「レベル7になった俺に勝てるかな?」

ニヤリッと笑う九条。

「俺はレベル6になったぜ!」

ガハハと笑うダイル。

「私もレベル6になりましたよー。」

少し伸びた髪をゴムでまとめながら麻衣は言った。

ダイルはなんとなくやるせなくなって、落ち込んだ。

「……ダイル、もうお前が麻衣たんに勝てることは無いだろう。」

フォローする気ナッシングの九条。

むしろ追い討ちをかけるのだった。

「ところで、なぜ刀夜さんの盾を巨人は使っていたんでしょう?」

麻衣はこの前から疑問に思っていたことを聞いてみた。

九条はうーん、と唸ってから考えを述べる。

「仮説1、刀夜、ってやつが落としたのを拾って使った。

人、それをネコババという。

仮説2、依り代にした。

刀夜が死んで、属性が反転したから。あー、生が光で、死が闇な。闇属性に傾いたんで、それを核にしたと。

闇側の存在力が集まりやすくなり、巨人が創造された、ってとこだろうな。

勇者の武具は存在力の塊だから、核には持ってこいだったわけさ。

いや、普通に盾として使っていたところを見ると、核では無いのかもしれない。

引き金、きっかけになったのかもな。

発火装置か?存在力が集まり始めるまでに必要だったということか。」

話しながら考えをまとめていく九条。

(えっと、短くまとめると刀夜さんの落とした盾が、刀夜さんの死によって闇の巨人を創りだすきっかけになった、ってことなのかな?)

麻衣は自分なりに噛み砕いて理解した。

「死んでからもハタ迷惑なやつだなぁー。」

ダイルが容赦無い言葉で締めくくる。

九条もその言葉に、うんうんと頷いている。麻 衣は複雑な心境で、曖昧な表情だった。

そこでその話を終わりにして、修行開始。

麻衣は色々試したいことがあるので、ちょっと積極的である。

「じゃあ、はじめようかー。」

九条のやる気があるかどうか微妙なかけ声。

麻衣は二人に本気を出してもらうために、かなり本気でいこうと思った。

早速、コキュートスを抜き放つ。

巨人に風穴を開けたところを見ていた九条、思わず身構えた。

麻衣が斬りかかりに行くと、九条は抜刀。

二刀流で麻衣を迎えうつ。

キンッ!キンッ!キィンッ!

斬り結ぶこと数回。

ダイルは入りこむが出来ずにしばし観戦。

さすがに二刀流とは戦いにくいと感じた麻衣は、『収納の小手』を発動させた。

その手には聖槍グングニル。

二刀流には二刀流で対抗してやろうという、単純明快な解答であった。

こうなると、器用で両利きの麻衣が、負けるはずは無いのである。

「ちくしょー、勝てる気がしねぇよ!」

九条は防御に専念。

二刀流なんてものは、よっぽど器用で無いと扱えない。

それほど二刀流に向いているとはいえない九条。

弾いては受け流し、身を捻っては避けながら、格好よくはない戦いを繰り広げた。

「ガハハハッ、俺ならそんなに保たん。」

開き直って豪快に笑っているダイル。

加勢する気は全くもって無い。

麻衣はグングニルを回転させ、柄の部分で九条の手を叩いて刀を落とした。

続けてコキュートスと刀を合わせた瞬間、能力を発動。

コキュートスと刀が氷でくっつき、刀を絡め取るのだった。

麻衣がどうしますか?これ以上続けますか?という顔で問いかけてくるのに対し、九条は軽く心が折れて、

「……負けました。」

と、潔く負けを認めるのだった。

麻衣は九条に刀を返してから感想を述べる。

「なんか前から思ってたんですけど、戦い方が荒いですよね。ダイルさんのほうは言うまでもなく、そうなんですけど。」

「ガーンッ!」

九条は自分ではスマートに戦ってると思っていただけにショックを受けた。

ダイルは明後日の方向を見て口笛を吹いている。

「『復活の指輪』があるんで、死んでも生き返れるから大丈夫、みたいな戦い方をしてるんじゃないですか?」

「あぁー、そうかもしれんなぁ……。」

思いあたる節がありまくりなので反省する九条。

(指輪も残り少ないからなぁ、初心に帰って特訓するか……。)

ガックリと膝をつきながら、密かに決意するのだった。

「さて、本番行きましょうか。」

「えぇー!?」

精神的にかなり打ちのめされた九条は、非難の声をあげる。

「だって、全然やりたいことを試してませんし。」

「……うむぅ。」

低く唸ってから、渋々構える九条。

ダイルもそれに習う。

麻衣はコキュートスを構え、力を込めた。

「深深。」

コキュートスが淡く光りを放ち、冷気を漂わせる。

九条が警戒して様子を見ていると、雪が降り始めた。

視界を妨げだした雪の中に麻衣が姿を隠す。

「げ、そんなことも出来んのかよ!?」

寒いのが苦手なダイルが体を震わせた。

「局地的なものだろ。範囲外から出ればいいだけだ。」

九条が動き出す。

しかし、何かにつまずいて転んだ。

「ぶほっ、かっこわる!」

そう言ってダイルは、倒れた九条をほったらかしにしてダッシュで横を通り過ぎ、やっぱり何かにぶつかって派手に倒れた。

「ぐはっ!?」

「人のこと言えねぇなぁ、おい。」

九条は自分がつまずいたものを確認しようと辺りに手をやったが、発見出来なかった。

「どういうことだ?」

ダイルも同じように探したが、何も見つけられない。

「こっちも無いぜ。」

とりあえず、二人は背中合わせで警戒。

「……そうか、刀夜の盾をランダムで配置しては、解除してるんだろう。いい感じに足止めになってやがる。」

楽しそうに笑う九条。

対照的にダイルはげんなりしている。

「……風邪引く、っての。」

視界を奪うほどの雪。

吹雪といっても過言ではない。

ヒュゴッ!

その時、風を切る音が頭上から聞こえた。

九条は瞬時に抜刀し、迎撃する。

「グングニルか!?」

吹雪の中、グングニルは持ち主の手元へ帰っていった。

「てか、なんで上から降ってきたんだ?」

「……木に登って投擲したのかもしれんが、俺は今、嫌な想像を思いついた。」

ヒュゴッ!

再び迫るグングニルを今度はダイルが大剣で打ち払う。

「どんな想像だよ?」

帰っていくグングニルを眺めながら九条が話した。

「……麻衣たんは、刀夜の盾を足場にして、空中を移動しながらグングニルを投擲してるかもしれない。」

「鬼だ!」

ヒュゴッ!

なんとか弾いたが、二人はちょっと泣きそうだった。

「籠の鳥だな……。」

「いや、なぶり殺しじゃね?殺る気まんまんなのか麻衣たん!?」

ヒュゴッ!

ギリギリで避けた。

「……よし、ヘブンズドアーで撤退だ。」

「戦略的撤退、ってやつだな。」

完全に逃げ腰の二人。

ヘブンズドアーを具現し、空間を斬り裂く。

小屋の中が見えた。

ヒュゴッ!

小屋へと逃げ込もうとする二人にグングニルが迫る。

「おい九条!早く閉めろよ!」

「そんなに早く閉まらねぇよ!どわっ!?」

空間が閉じる前にグングニルも二人が通った道をくぐり抜けた。

二人に迫りくる。

辛うじてグングニルの軌道を反す。

麻衣のもとへ帰るグングニルは、小屋のドアを突き破って出ていった。

「……帰ってきた方向から、俺達が小屋に逃げ込んだことがバレるな。」

「……だな。素直に降参したほうがよかったような気がするぜ。」

小屋から外を見ると、局地的に雪が降っている場所の上空に、空を舞うようにして麻衣がいた。

グングニルを受け止め、二人のほうを見た。

鷹の目でばっちり二人を確認している。

「……うわぁ、なんか反則っぽいんだが。」

「麻衣たん、素で強いのに、頭良いわ、努力するわで……、惚れ直すぜ……。」

二人が麻衣を惚れ惚れして見ていると、麻衣は雪を降らすのを止めて上空から階段を降りるようにして小屋へと帰ってきた。

刀夜の盾を上手く使いこなしている。

あまり盾としては使っていないが。

「もう休憩ですか?」

ニコッと笑って、二人の肩に積もった雪を払ってあげる麻衣。

頭に積もってるのは背が届かないので、盾を展開して足場を作り、それに登って払ってあげるのだった。

『まいりました!』

二人は直角に体を曲げて、完全無欠に負けを認めた……。



お気軽に叩いてやってください、喜びます(笑)


TOP
戻る