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……何か温かいものに触れている。
それは不快なものなんかじゃなくて、慈愛に満ちた優しいもの。
私はゆっくりと目を開けた。
ここはどこ?
一体、私は何をしていたんだろう?
「目が覚めましたか?体調はいかがです?」
目の前には柔和な笑顔を浮かべた女の人。
どうやらこの人に膝枕されてるらしい。
綺麗な人だなぁ、と思って眺めていると、次第に記憶が鮮明になっていった。
「私、確かモンスターに……。」
しかし、どこも痛む場所も無く、五体満足である。
「我々が偶然通りかかったんだ。君は喰われる寸前だったよ。間一髪だった。」
目線を横にやると、たき火のそばにとても理性的で端正な顔をした男の人が。
「傷も癒しましたよ。解毒もね。」
女の人の言う通りで、体の異常は無かった。
私が起き上がろうとすると、女の人はそれを制した。
「体力のほうはまだまだ回復していないようですから、まだ寝ていて下さい。」
「は、はい……。」
膝枕されているのが、少し居心地悪い感じだった。
いや、決して悪いのではなく、恥ずかしいのである。
「あの、それで、皆さんはどういった……」
皆さんと言ったのは、人数が多かったから。10人である。
そして、皆が白の外套を纏い、十字架に似た刺繍があった。
「我々は神官や神官戦士で構成された、派遣討伐神官団だ。今回の任務はこの森のモンスターを駆逐することなんだ。」
「だから、私達は任務でこの森を探索していて、あなたを見つけることが出来たのよ。」
男はグレットと名乗り、女はユイリと名乗った。
他のメンバーも名乗ったが割愛。
「我々は定期的にこの森のモンスターを狩っているんだ。この森はたくさんのモンスターが巣食っている。そいつらが近隣の町や村に
被害を及ぼさないように間引きをする必要があるんだ。」
たき火の火をいじりながらグレットさんが語る。
「それにしても驚いたよ。この先を偵察に行かせたら、モンスターがたくさん倒されていた。君が倒したんだろう?その装備でよく戦
えたよ。」
私はグレットさんに称賛されてなんだか微妙な気分だった。
「……そんな、私はただ生き残るために戦ったんです……。」
私は正直な気持ちを言葉にした。
「しかし、それで民は救われるはずだ。我々も君のおかげで使命を遂げやすくなる。」
「……使命ですか?」
グレットさんが頷く。
「我々の宗教は救世主信仰なんだ。そして、今はこの森のモンスター討伐と同時に救世主を探しているというわけだ。」
「別世界からの召喚者が活躍するこの世界では、流行るべくして流行った宗教ですね。」
ユイリさんが付け加えるように話す。
「……はぁ。」
正直、宗教がどうのとかいう話は興味が無かったが、グレットさん達がどうしてここに来たかは分かった。
その日はグレットさん達のパーティーに入れてもらい、休ませてもらった。
次の日、グレットさん達はこのまま森の奥へと進むみたいで、ここでお別れだ。
「すっかりお世話になりました。ありがとうございました。」
私はグレットさん達に頭を下げる。
「頭を上げて下さい。我々があなたを助けるのは当たり前のことなんですから。」
「え?」
グレットさんは微笑みながら、
「麻衣さん、あなたも召喚されたのでしょう?」
「……えっと、解っていたんですか?」
私は驚き半分、とまどい半分で尋ねる。
「えぇ。格好や言動もそうですが、この森をたった一人で3日も生き残れるのは、能力の高いあなたがたぐらいですから。」
「あ、あの、私は救世主なんてものじゃなくて……。」
「大丈夫です。一応、あなたも候補なんでしょうが、探索対象はあなたではありません。ですが、私達に出来るだけの支援はさせてもらいますよ。」
ユイリさんはそう言うと、白い外套を取り出した。
ユイリさん達が身に付けているものとは違い、刺繍が無い。
「これは、火と冷気から体を守る魔力が秘められています。この森ではあまり役に立たないかもしれませんが、使って下さい。」
「えっ?えっ?」
今度はグレットさんが短剣を取り出した。
「これは魔力が込められた短剣です。相手がドラゴンでも無い限り歯こぼれはないでしょう。斬れ味も折り紙つきです。」
外套と短剣が手に持たされた。
他の人からも回復薬、解毒薬、銀の矢、保存食、エトセトラ……。
いつの間にか何かよくわからないものまで持たされていた。
「こんなに色々……、もらえませんよ!」
私の言葉にユイリさんは笑みを浮かべてこう言った。
「受け取って下さい。私達の宗教上の勝手な気持ちもありますが、あなたに生きてもらいたいという意味もあるんですよ。この世界に勝手に召喚されて、戦いを強いられる。恐らくは戦いとは無縁の場所から来たんでしょう?」
私は頷く。
グレットさんが言葉を繋いだ。
「申し訳ないんです。我々の力だけで平和を得られないことに。だから許されはしないでしょうが、あなたを助けたいんです。」
真摯な目で気持ちを語るグレットさん。
「……そうですか。分かりました。ありがたく使わせてもらいます。」
私は礼を言って受け取ることにした。
一方的に召喚されたとはいえ、この人達のために、こんな心を持つ人達のために、少し頑張ってみようと思った。
「我々はこれで行きます。また、会いましょう。探索が終わればリプルという国にいますんで、気が向いたら訪ねて下さい。」
グレットさん達が去っていく。
私はグレットさん達の背にもう一度だけ礼をして、荷物を抱えて出発した。
さぁ、この森を脱出しよう……。
お気軽に叩いてやってください、喜びます(笑)
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