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「はぁぁっ!」

コキュートスを振り下ろす。

今日、何匹目かわからないゴブリンの首を落とした。

即座に次の標的へと視線を移す。

大きな棍棒を振り上げるオーガ。

雄叫びを発しながら、私に向かってきた。

「コキュートス!雹弾を放て!」

私は『力』を込め、オーガに向かってコキュートスを振るう。

コキュートスが青白く輝き、氷のつぶてを生み出した。

発射された氷のつぶてがオーガの体に次々と食い込んでいった。

その中のいくつかは、頭や首を貫いてオーガを絶命させた。

「……ふぅ。」

近くに殺気が無くなって、一安心。

コキュートスを鞘に収めて再び歩き始める。

前回同様、戦いの連続である。

何回目かの戦闘で気付いたのだが、モンスター達が以前より殺気立っている気がする。

遭遇する数も多い。

数が多くても、殺気立っているから見つけやすく、戦いやすいと言えばそうなんだけど、何かが起こっているのだろうか?

災害の前に動物が騒ぎだすみたいな。

もしかしたら、何かが起こった後なのかもしれないけど。

考えていても、現状ではどうしようもない。

とりあえずは、この森を脱出しなければ。

そういえば、リーアさんはどうしてるかな?

こっちに再び召喚された時、同じ場所にいたんだけど、用があるとかで、逆方向に去っていっちゃったんだ。

一応、こっちの方向を行けば森を脱出出来るとは教えてもらったんだけど、やっぱり謎な人だ。

考え事をしながら黙々と、茂みやら枝やらを払いながら進む。

たまに、高い木があれば登って方向を確認しながら街道を目指す。

……その時、殺気をかすかに感じた。

一瞬で消えたので、勘違いかと思った。

でも、この森での戦いの経験が、間違いないと感覚で理解する。

息を潜めてやりすごすか、先手必勝か。

一瞬の迷いの間に、ついさっき感じた気配が膨れあがる。

「……くっ!」

見つかってる!

確かな殺気を纏って、迫りくるそれを迎撃するために、コキュートスを抜き放つ。

銀色が閃く。

とっさにその銀色へ刃を合わせて対応。

キィンッ、と刃と刃がぶつかる音が響いた。

「人!?」

私は思わず叫んだ。

久しぶりに人に会った驚きと、人と戦っていることに驚いた。

「ん?女?」

一旦離れる私達。

私は戸惑い、あっちは珍しさ?で距離をおいた。

その人は刀を武器にしていた。

多少汚れたり、破れたりしているが、着ているものはスーツ。

ネクタイはだらしくなくぶらさがっているだけなんだけど、ワイルドな感じでなぜか似合っていた。

「……もしかして、召喚された人?」

格好からして、この世界の人間である確率は低いと思えた。

その人は薄く笑ってから、

「だとしたら?」

と言った。

「戦うのをやめませんか?」

私はきっぱりと言う。

その人は品定めするように私を見た。

いやらしい視線では無いが、何かを測っているには違いなくて居心地悪い。

「おまえも召喚されたんだな?」

その人は殺気を消して刀を降ろす。

「はい。つい最近ですけど。」

私もコキュートスを降ろした。

「そうか。名前とレベルを教えろ。」

一方的な物言いに、少しだけ不快になりながらも、

「麻衣です。レベルは4です。」

と、素直に答えた私。その人は、

「4か……。」

と、呟きながら刀を鞘にしまう。

私もコキュートスをしまいながら、次の言葉を待った。

「俺は九条だ。ちなみにレベルは6。」

ニヤッと笑う九条。

ちょっと自慢気だった。

「……はぁ。」

なんだか適当な返事だなぁ、と思いながらも他にどう反応していいかわからないのが、正直なところ。

九条さんは、なんだか私の反応が無さすぎてがっかりしていた。

「……あぁ、まぁ、なんだ、何してんだ?」

ふてくされた感じの九条さん。

「森を脱けようと思って。出現地点がほとんど森の中心だったんです。」

「そりゃ、難儀だったな。初心者にこの森は難易度が高い。」

歩きだす九条。

とりあえず九条さんの後をついていく。

「九条さんはこの森で何を?」

九条さんの背中に問いかけた。

「レベル上げ、兼掃除ってとこだ。定期的に森のモンスターを狩っておかないと、溢れでてくるからな。」

そういえばグレットさん達が同じことをやっていたことを思い出した。

「神官団の人達もやってましたね。」

「ん?あぁ、そういやそうだな。あいつらも忙しそうにしてるぜ?モンスターの凶暴化のせいで、各地でモンスター退治だ。」

九条さんの歩く場所は道が出来ていた。

おそらく、九条さんを襲おうとしたモンスター達の死骸。

返り討ちにあって、死臭をまきちらすだけの存在に成り果て、道を作るように転がっていた。

私はそれに顔を背けながら後を追う。

「……その原因はわからないんですか?凶暴化した原因。」

おずおずと尋ねる。

それが分かれば苦労はしないのかもしれない。

「決まってるだろ?統制してたやつがいなくなったんだ。」

九条さんがあっさりと答えを提示した。

「え?統制って……」

「どっかのバカが魔王を殺したんだよ。だからモンスターが暴れてんの。」

血の気が引くのを自覚した。

背中を冷や汗が伝う。

それって……もしかして……

「……と、刀夜さんのこと?」

思考がうまくまとまらない。

一体、どういうこと?

「そいつかどうかは知らんが、大体3ヶ月前ぐらいから、モンスター共は凶暴化した。その時期に魔王を殺して、放ったらかしにしたやつが元凶だよ。」

冷静に言い放つ九条さん。

刀夜さんの死に顔を思い出す。

穏やかな顔で何かをやり遂げたような表情をしていた。

シルビアさんの嘆きを思い出す。

まるでこの世の終わりのような表情で、絶望というものが感じ取れた。

「でも!きっと刀夜さんは、仲間やこの世界の人のためにって!」

普段はあげないような声を出して、九条さんへ叫ぶ。

九条さんは目を細めてそれを受け止めて、ただ事実を告げる。

「過程や想いがどうであれ、結果は大失敗。招いたのは大量殺戮と大混乱。今、世界は混沌としているぜ?」

私は何も言えなくて、ただうつむいた。

刀夜さんのやったことは無駄だったの?

無駄死にだったの?

私が哀しくて、悔しくて、どうすればいいのかわからなくて、そんな様々な感情が混ざった複雑な表情をしていたら、九条さんは、咳払いをして、頭をかいてから口を開いた。

「あー、なんだ、まるっきり無駄でもないみたいだぜ?俺達とは違う次元で色々動きがあるみたいだし、今回のことで大多数の人間が一丸となってる。」

私は九条さんを見た。

どうやらフォローをしてくれてるみたい。

「あ、あの、大きい声を出してすみませんでした……。」

九条さんが悪いわけでは無い。

私達より色々知ってはいるみたいだけど、まだこの世界の理の全てを知っているわけではないそうだ。

「……その刀夜?、ってやつ……死んだのかよ?」

「……はい。魔王と相討ちになったようなんです……。」

「そうか、……えっと恋人とか?」

「違いますけど、知り合いです。同じ時期に召喚されたんです。」

揃って召喚された時を思い出した。

この世界の時間の流れだと、3ヶ月以上前のことだけれど、私達の感覚からすると10日ほど前のことである。

……あぁ、これがこの世界に呼ばれることなんだ……。

私は、そう再認識した。

「……そいつは立派に『勇者』をやったんだな。」

九条さんは呟くようにそう言うと、うんうんと何度か頷いた。

私達はしばらく無言で歩いた。

九条さんは、最初の印象で怖い人かと思っていたけど、どうも一概には言えないみたい。

「ところで、それ。」

思い出したかのように口を開く九条さん。

振り向いて、目線を私の腰の辺り、コキュートスを見ていた。

「もし、大事なものなら、しっかり持ってろよ?魔剣好きの奴が奪いに来るぜぃ?」

ニヤッと笑って言い放つ。

私は、何か怪談めいたものを想像してしまった。



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