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「うらぁぁぁぁっ!」

ダイルさんの大剣が、真っ直ぐに私に向かって振り下ろされる。

鞘を付けているとはいえ、まともに当たれば怪我をするのは必至。

私はコキュートスでそれを受け、滑らすようにして受け流した。

そして、すぐさま片手で銀の短剣を抜き、投げつける。

「うぉ!?」

ダイルさんはかろうじて大剣を戻し、柄の部分で防いだ。

その一瞬の隙にコキュートスを引き戻して、ダイルさんの間合いを侵略。

大剣では対応しづらい位置からコキュートスを振り上げた。

「参った!」

ダイルさんの降参のセリフ。

なんだかやけに早いのは気のせい?

「なんだよダイル、もう降参かよ?」

木に寄りかかりながら九条さんが言った。

私達は、強くなるための特訓をしている。

今日は小屋の前にて、三人で戦闘訓練。鞘を付けての戦いだけど、けっこう危ない。

あと、森の中に入ってモンスターを狩る時もある。

森からモンスターが出てきて、人々を襲わないためにも、率先してやっている。

「うはははー、俺、もう麻衣たんに勝てないかも……」

ダイルさんが乾いた笑い声をあげた後、力無く膝から崩れ落ちた。

「まぁ、地元人と、『勇者』は基本性能が違うからな。それはレベルの差を埋めることもある。」

ダイルさんの様子がおかしいみたいで、ニヤニヤと笑いながら九条さんは言った。

「九条だって、たまに負けるじゃねぇか。」

ふてくされたダイルさん。

地面にあぐらをかいて座り込む。

「俺のほうが勝ち越してる、っつーの。」

確かに九条さんにはなかなか勝つことが難しい。

「けっ、2もレベル差があるくせに負けてんじゃねぇよ。」

口の減らないダイルさんは連続口撃。

「ぐっ、だってよー、麻衣たん、両利きなんだぜー。」

なぜか地面にのの字を書き出す九条さん。

「おまえ、かっこつけて2刀流のくせに、普通に右利きだよな。」

がはははー、と心底楽しそうに笑うダイルさん。

「ちぇ〜、麻衣たん、強すぎー。」

「麻衣たん強すぎ〜」

子供っぽい口調で二人が声を合わせる。

「……麻衣たん言わないで下さい。」

そう言うのが精一杯な私。

二人はとても楽しそうにニヤニヤしていた。

まぁ、いいけど。

今日はこの辺で特訓を終えて、汚れを軽く払ってから小屋の中に入る。

二人も私に習って小屋の中に入った。

装備を外して立てかける。

そして、定位置に置かれた別の装備に手を伸ばした。

私は慣れた手付きでそれを身に付ける。

その動作を視界に捉えた飢えた男達が、ギラリと目を輝かせた。

『今日のご飯はなんですか!?』

私はお料理専用装備エプロンを翻して、今日の献立を告げる。

男共は小踊りして晩御飯を待つのでしたー。



麻衣が晩御飯を作っている一方、男達、九条とダイルが椅子に座って料理が出来るのを、今か、今かと待っていた。

九条はお箸、ダイルはフォークを握りしめて。

「は!?今、俺、重大な事に気が付いた!」

ダイルが驚愕の表情を浮かべて言った。

「……唾を飛ばすな、汚い。」

九条はあまり聞く気がない。

「まぁ、聞けよ。重大な発見だ。」

身を乗りださんばかりのダイルに、九条はとりあえず頷いておく。

「……麻衣たん、最強じゃね?」

ダイルは声を潜めて言った。

九条は続きを促す。

「だってよぉ、戦闘強いし、料理美味いし、てか、家事万能。で、気がきいて、おしとやかで、なにより可愛いんだぜ!?」

ダイルはテンション高めに言った。

九条は、ふっ、と鼻で笑うようにしてから口を開いた。

「おまけに、スレンダーボディーの持ち主だぜ!」

『ひゃっほ〜い!』

二人は立ち上がり、ハイタッチをするほどに盛り上がる。

麻衣が怪訝な表情で見ていたので、咳払いをしてから椅子に座り直した。

「……なぁ、麻衣たんを俺の嫁にしていいかな?」

ダイルが本気と書いてマジな顔で言った。

「ダメだ。なぜなら俺の嫁候補だから。」

余裕を漂わせた笑みを浮かべる九条。

本気になればなるほど、笑うのがこの男である。

ピリピリとした空気が流れる。

何事かと思って麻衣が振り向くと、何も無かったかのように空気が和らいだ。

「……暴れないで下さいよ?」

麻衣は、まったくもー、って感じの表情で二人を注意した。

『美味しいご飯を期待しております!』

二人は麻衣に敬礼。

「もうすぐ出来ますからね。」

そう言って、麻衣は料理に意識を戻した。

再び座り直す二人。

「まぁ、あれだ、真面目な話、麻衣たんは、好きなやつに会うために頑張ってんだろ?」

九条が麻衣の料理をしている姿を見ながら言った。

「入り込む余地は……無いよなぁ〜。」

ダイルは椅子にだらりと背を預ける。

「……俺としては、麻衣たんを全面的に支援する方向でいきたいんだが。」

ニヤリッと笑う九条。

「賛成。もし、麻衣たんがフラレたら俺の嫁にするぜ。てか、フったやつぶち殺す。」

「同じく。」

ガシッと手を組み、なにやら同盟みたいなものを結んだ二人。

光騎危うし!

「ご飯、出来ましたよー。」

麻衣の声。

『待ってましたぁ!』

二人は同時に振り向いて反応した。

麻衣よりも年上な二人だが、どうにも子供っぽかった。

麻衣はクスッ、と笑ってから料理がのったお皿を置く。

ちなみに今日の献立はハヤシライスとサラダである。

サラダには麻衣のお手製ドレッシングがかけられていた。

『いただきます!』

「めしあがれー。」

ガツガツと口に運ぶ二人。

ちゃんと味わっているかどうかは微妙だった。

しかし、麻衣は少し呆れながらも、美味しそうに食べてくれるので満足だった。

食後。

お茶を飲みながら、まったりとした雰囲気。

「食後のこの時間は、麻衣たんに世界の色々なことを教えてあげよう。」

九条がおもむろにそんなことを言った。

「はぁ、なんだかいきなりですね。」

麻衣は突然の提案に生返事。

「とりあえず、麻衣たんを全面支援していこうという話がまとまったわけだ!」

ダイルはテンションが高いままだった。

「はぁ、それは、まぁ、ありがとうございます。」

話の流れが読めないので、とりあえずお礼を言う麻衣。

「さてさて、何を話そうか……。何か訊きたいことある?」

尋ねる九条。

麻衣は少し考えてから口を開いた。

「コキュートスのことなんですけど、使いこなす、ってどういうことなのかな?って。」

「いい質問だ!」

ダイルはそれが言いたかっただけみたいで、説明は九条におまかせした。

「魔剣は、っとその前に、魔剣の区別は知ってるか?」

九条の問いかけに、麻衣は首を傾げて、知らないです、と首を振った。

その仕草が可愛いなぁ、と思いながら説明のために口を開く九条。

「魔剣とは、魔法剣と魔力剣のことを言うんだ。魔法剣は、コキュートスや、俺がカツアゲされた武御雷なんかのことで、特殊で、強力な能力が付与された剣のことだ。」

「なかなか手に入らないレア物なんだぜ?」

「そう、魔法剣は製法が無くて、偶然見つけるしか無い。しかし、魔力剣のほうは、そんなに珍しくもない。なぜなら、生産出来るか らな。」

「麻衣たんの短剣も魔力剣だよな。」

麻衣は短剣とコキュートスを見た。

(よく考えたら、両方貰い物だ……。)

「魔力剣も特殊な能力を付与しているとはいえ、せいぜい切れ味やら、頑丈さが多少上がったり、弱い属性を付与出来るぐらいだ。魔法剣とは比べものにならない。」

「魔法剣と魔力剣で斬り合えば、数回合わせただけで魔力剣の刀身がボロボロになる。普通の剣なんか、すぐに折れちまうぜ。」

ダイルは自分の大剣と九条の武御雷を合わせた時のことを思い出しながら語った。

「もう二度とやらねぇよ。」

「ふはははー、で、魔法剣を使いこなすとはどういうことかというとだな。」

麻衣は頷いた。

「だいたい、大技が設定されてるんだが、それが出来るようになるか、自分で大技を開発するかだな。それ一発で、サイクロプスもぶっ飛ばすような。」

「ドラゴンでも可。」

さりげなく言った二人だが、麻衣はいまいちわからなかった。

サイクロプスってどんなの?

「……えっと、もっと具体的には?」

九条は少し考えてから言った。

「精神力全開で消費して、山に風穴開けてやる感じ?」

スケールが大き過ぎて麻衣の想像力が働かなかった。

なんだか二人があまりアテにならない気がした麻衣だったが、おいおい理解していこうと思った。

(まだまだ、始まったばっかりだ。頑張らなくちゃ……)

密かに決意を新たにした麻衣。

そんな麻衣とは違って呑気なのは男達。

「なぁなぁ、俺の博識っぷりに株が上がったんじゃね?」

機嫌良さそうな九条。

「やっぱ雑学知ってるとモテんのかねぇ?」

ダイルが勉強始めようか悩んでいた。

なにやらまったりとした雰囲気で夜が更けていった……。



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