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カツン、カツン―
足音がやけに響く迷宮内部。
外よりもひんやりとした空気が暗闇を引き立たせる。
松明の炎が頼りなく揺らめいて、麻衣達の周囲を遠慮がちに照らした。
先頭に立っているのは九条。
松明を掲げ、警戒しながら進んでいく。
真ん中には麻衣。
今日は髪をまとめて戦闘モードである。
最後尾にダイル。
実力的に真ん中(三人の中で一番弱いから)なのだが、そこは男としての意地で殿を務める。
「……来るぞ。」
モンスターの気配を感じた九条が警告を発した。
後ろの二人が戦闘に備えて身構える。
前方の暗闇から、赤い目玉が不気味浮かびあがった。
『グルルルゥッー!』
唸り声が回廊にこだました。
九条は松明を片手に持ちながら、片方の手で刀を抜き放つ。
モンスターが暗闇から振るった爪攻撃をそれではじいた。
明かりの届く範囲に姿を見せたのはキメラ。
ライオンをベースにコウモリの翼、蛇の尾、角はバッファロー、硬い鱗まで備えていた。
「見た目は動物図鑑に載ってそうなもんで揃えてやがるが、実際のところはわからんねぇな。二人共、気を付けろよ!」
二人は頷いて、剣を抜き臨戦体勢へ。
キメラは大きく息を吸い込み、勢いよく吹き出した。
それは、燃え盛る炎。
「ブレス!?」
来ると思っていなかった攻撃に対応が遅れる九条。
とっさに前へ出たのは麻衣だった。
コキュートスをかざして力を解放した。
「桜吹雪!」
氷の粒が舞い散る桜のように炎へと降り注いだ。
キメラのブレス攻撃を相殺すると、そのまま攻撃へと移る麻衣。
素早く周りこんで、コキュートスで胴体を斬りつけた。
「くっ!、硬い!?」
鱗が想像以上に硬く、刃を通さなかった。
キメラの反撃を避わしながら、チラリとダイルのほうを見た。
「よし、任せとけ!」
麻衣の意図を読み取ったダイルは大剣をかついで、いつでも動けるように構える。
三人の中で一番攻撃力が高いのはダイル。
鱗の防御力を突破するために、ダイルの攻撃へと繋げるための連携動作に入ったのだ。
「いいところを譲ってやるんだ、しっかり決めろよ!」
「わかってら!」
九条は正面へ立ちはだかりキメラを引き付ける。
爪攻撃を刀と松明でうまく捌いている。
麻衣は短剣を抜き、一瞬にして尾の蛇を斬り落とした。
『ギャアッ!』
キメラの悲鳴。
隙が出来た瞬間、ダイルが走り出した。
九条はキメラの片腕を斬り落とし、松明でキメラの顔を焼いた。
麻衣は短剣を投げつけて、後ろ足を地面へと縫いつける。
「とうっ!」
地を蹴り、高く跳び上がったダイル。
大剣を大きくふりかぶり、一気に降り下ろした。
「どりゃあぁぁぁ!」
ダイルの剣は硬い鱗をものともせずに、胴体を真っ二つに斬り裂いた。
『グギャァァッ!!』
耳障りな断末魔を残して息絶えるキメラ。
三人はハイタッチで健闘を称えあった。
「ちょっと強いのが出てきたな。」
刀をしまいながら九条は言った。
現在、それなりに深い階層にいる三人。
浅い階層ならば、個人の力で十分だった。
しかし、この辺りになると連携で相手をしないと、手強いモンスターが出現するようになっていた。
「あぁ。だが、それに見合ったお宝が手に入ったんじゃね?」
キメラの背後には突き立っているものがあった。
「槍ですね。」
白が基調の厳かなデザインの槍。
麻衣の身長より長かった。
『いらねぇな。』
九条とダイルは声を合わせて、残念!という顔をしている。
「え?でも、なんか強そうですよ?」
それはかなりの存在感があった。
もし、美術館に飾ってあったとすれば、立ち止まって見入ってしまいそうなものである。
「槍使わないしな。」
「俺も。」
刀をくれ、という九条と、大剣をくれ、というダイル。
「まぁ、とりあえず持ってくか。麻衣たんが使うならそれでいいし、使わないなら売っ払えばいいしな。」
地面から槍を抜く。
「なぁ、そろそろ帰らねぇ?腹減った。」
確かに随分長い間潜っていた。
適当なところで食事を取りながら進んだが、丸一日が経つ頃だ。
「帰るか。麻衣たんもOK?」
「はい。でも、帰りも同じ道のりを行くんですよね……。」
げんなりとする麻衣。
しかし、九条は得意気な表情を浮かべた。
「ここで『勇者』の出番、ってわけだ。」
「そういえば、九条さんもクラスが『勇者』でしたね。でも、何の関係が?」
不思議そうな表情の麻衣。
「『勇者の武具』を使うんだ。見てろー。」
九条は右手を虚空にかざした。
光の粒子が集まり、九条の思い描くものが形成される。
その手には短刀が具現化した。
「ヘブンズドアー。」
九条は器用にクルクルッと手の中で回した。
「刀なのに英語の名前って、なんだかちぐはぐですねー。」
「いや、いい名前が思いつかなくて……。」
麻衣の一言に少し落ち込んだ九条だった。
気を取り直して、説明を始める。
「その辺の空間を斬って、別の空間と繋げる刀だ。問題は、行き先が限定されてて、いつもの小屋にしか繋がらない。」
「今は便利ですけど、汎用性が問われると微妙ですねー。」
「ちょっと高レベルなものを要求した代償というか、まぁ、レベル不足というか……。」
またしても麻衣の一言に軽く落ちこむ九条。
「まぁまぁ、九条の爪が甘いのはいつものことじゃないかー。」
ダイルが追い打ちをかけた。
「けっ、さっさと帰るぞ!」
ふてくされ気味の九条は、スパッと空間を斬り裂いて小屋への道を繋いだ。
三人は小屋へと帰還した。
「さて!お宝の鑑定しようぜ!機嫌直せよ、九条!」
ご飯を食べ終わって上機嫌のダイルは、テーブルの上に手にいれたものを広げた。
「別に、いつも通りだっての。」
九条も鑑定を楽しみにしていたので、内心はウキウキしていた。
「鑑定、ってどうやるんですか?」
興味津々といった感じの麻衣は、お行儀良く椅子に座って様子を見守っている。
「ふっふっふー、それはな、これを使うんだぜー。」
ダイルはシンプルなデザインの眼鏡を取り出した。
「アナライザー、っていう、まぁ、名前のまんまの眼鏡だ。それを掛けると、対象の詳細な情報が解る。」
それも、以前ダンジョンで見つけたものだと説明する九条。
そこで九条は良いことを思いついた。
「麻衣たん、やってみたら?てか、やれ。」
なぜか命令系の九条。
「あっ、やってみていいんですか?」
特に断る理由も無いので、ダイルからアナライザーを受け取った麻衣は、早速それをつけてみた。
「眼鏡っ子、降臨!」
「眼鏡っ子、豪誕!」
麻衣のよくわからないところで、異様に盛り上がる二人。
とりあえず、麻衣は手にいれたものを一つ一つ、視ていった。
手にいれたアイテムは以下の通りである。
武器化の指輪
盾化の指輪
爆発石
収納の小手
聖槍グングニル
その他、換金アイテム
「この槍、かなり良いものでは?」
眼鏡っ子の麻衣が二人に尋ねる。
「うむ。でも使わないけどな!」
「麻衣たんにプレゼントするぜ!」
槍より眼鏡っ子麻衣に夢中な二人だった。
お気軽に叩いてやってください、喜びます(笑)
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