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空気が震えた。

夜中にふと、背後に不安な気配を感じるような、得体の知れない何かが心をざわつかせる。

「ピリピリした感じがします……。」

麻衣は不穏な気配を感じて小屋の外へ出た。

九条とダイルも同じものを感じ麻衣に続く。

外には麻衣の見たことの無い光景があった。

モンスターが巣食う森の中、そこから天を衝く白い光りの柱が。

溢れるように白い粒子を撒き散らしながら、白い光りは、澱み、濁り、汚れ、闇に染まっていく。

「あれは……。」

九条が呟く。

ダイルは無言でその光景を見ていた。

「……一体、何が起きてるんですか?」

麻衣は不安気に二人へ尋ねた。

強まる負の気配。

ただひたすらに不安が煽られる。

「……世界の負の感情が、一定量を越えたみたいだ。人々の闇が具現化するぞ!」

光りの柱は黒い影となり、確かな肉を持ち始める。

存在力が集まり、高まる存在感。

「……俺が最初に見たのはガキの頃だった。お袋に、『夜は早く寝なさい、怖い怪物に襲われるから。』って聞かされてた。だが、悪ガキだった俺は夜中に家を抜け出して、それを見たんだ。夜にうごめく闇がモンスターになるのを。」

アレほどのものは初めて見たがな、と付け加えるダイル。

「世界はガス抜きするように、溜った闇を噴出してモンスターを創りだす。存在力というものが意味を持つこの世界では、そうやってモンスターが産み出されていく。普通は雑魚が産み出されるんだが、各地の混乱がアレを産み出すほどの闇を蓄えさせたんだろう。」

そうやって話している間に、黒い影は世界へと誕生した。

30m近くもある巨人。

2足で地を踏みしめ、地面を揺らし、木々を薙ぎ倒す。

三つの目玉がギョロリと動いて、それぞれが別方向を睨んだ。

筋肉質な両腕をブラリと下げて、人を丸飲み出来そうな口を大きく開けて叫んだ。

誕生の産声を。

『オオォォォオオォォオォォォーッ!!!』

耳を塞ぎたくなるほどの豪音。

圧倒的な威圧感が体を貫く。

背を向けて逃げ出したくなる自分を必死で抑える麻衣。

「……アレ、倒さないとマズイですよね?」

麻衣は、自分に言い聞かせるように問いかけた。

「村、いや、街の一つや二つで済まないだろうな。」

九条は笑いながら言った。

絶望的であれはあるほど、笑みがこみあげてくる。

(ははっ!我ながらいい歪みっぷりだぜ!)

「大物だな。とびっきりの。」

ダイルも笑ってしまった。

なぜか楽しくて仕方ない。

(戦場ほど心地の良い場所は無いな!)

「倒しましょう!」

麻衣は一切の恐れの無い二人を見て、決意した。

三人は頷き、意志を確認しあった。

「作戦を立てよう。」

すぐさま小屋に戻り、作戦会議を始めた。

巨人は既に動き出し、迷いの森を抜けるのにそう時間はかからないだろうから。

「敵が大きすぎて生半可な攻撃では大したダメージを与えられないだろう。しかし、俺達には決定打を与えられる攻撃が無い。」

九条は手持ちの武器と三人の戦力を元に、頭の中でシュミレートしながら話す。

「かろうじて麻衣たんのコキュートスでの攻撃が切り札、ってとこか?」

ダイルも腕組みをしながら有効策を考える。

「白兵戦では、あの大きさだと戦いにもなりませんしね……。」

麻衣も良い案が浮かばない。

「こうなったら、ヒット&アウェイでちまちまダメージを与えていくしかないな。」

九条はなんとか思いついた作戦を二人へと説明する。

「なかなか難しそうだが、他に思いつかねぇし、それでやってみるか!」

「そうですね。時間もありませんし、やりましょう。」

二人は頷いた。

その作戦とはこうだった。

九条は敵に近付き、足止めと攪乱。

おそらくダメージを与えることは出来ないだろうが、進行速度を落とすことが出来ればよい。

危なくなったら、『勇者の武具』のヘブンズドアーで退避。

もし、踏み殺されたとしても復活の指輪があるので問題無し。

ちなみに復活の指輪のことはまだ麻衣に話していない。

次にダイルは中距離から大型弓で射撃。

射ったら移動、射ったら移動の繰り返しで地味にダメージを与えていく。

アクシデントに備えて復活の指輪を持つダイルが中距離にスタンバイした。

そして、麻衣は遠距離からの狙撃。

『鷹の目』があるのでかなりの遠くからの射撃が可能。

敵が麻衣に目をつけたとしても、遠距離のため姿をくらますことが可能だろうということで、麻衣の安全も考えられたポジショニングである。

さらに麻衣の所持するグングニルの能力。

目標を外すことのない能力と、命中した後、手元に戻る能力が遠距離からの攻撃を有利にする。

「とりあえず麻衣たんは精神力を温存。コキュートスの能力は色々使えそうだから、しばらくグングニルとかで攻撃してくれ。」

「わかりました。」

装備の確認をして、最後に九条がそれぞれに通話の水晶を渡した。

九条が以前、ダンジョンで発見したものだ。

「基本的には各自が臨機応変に対応してもらう方向なんだが、何かあればこれで連絡を取り合おう。」

準備を整えた三人は巨人のいる森へと出撃した。



麻衣は森の中を走る。

現在、この森で麻衣の脅威となるモンスターは滅多にいない。

というより、あの巨人の出現に同じモンスター同士であっても恐れて、様子を伺っているのだ。

なので遠慮なく全力で走る麻衣。

良い射撃ポジションになりそうな木を見つけて、軽やかに登る。

太い枝に体を預けて、グングニルを構える。

ゆっくりと歩みを進める巨人。

「まずは様子見……。」

『鷹の目』で正確に捉えた巨人の目玉へと、グングニルを投げつける。

軽く投げつけただけだが、グングニルは速度を上げ、空気を斬り裂いて目標へ飛んだ。

しかし、目玉に突き刺さると思った瞬間、見えない何かに阻まれ、はじかれた。

「……今のは?」

麻衣はグングニルを阻んだ何かを探るため、アナライザーを取り出した。

『鷹の目』+アナライザーで、遠くのものも解析可能。

捉えた映像がアナライザーを通すことによって、知りたい情報を映し出す。

まずは、巨人の情報が映し出される。

(これといって特殊な力は無いけど、やっぱり大きさか……。)

さらに目をこらし、グングニルを阻んだものに見つめる。

アナライザーが働き、それを正確に捉えた。

「……これって!?」

映し出された情報に思わず息を飲む麻衣。

(……『刀夜の盾・Lv2』、ってどういうこと!?)

不可視の力場を複数展開する『勇者の盾』。

巨人の体中に張り巡らされたそれは、一定以上のダメージで貫かないと、本体にダメージを与えることが出来ない。

解析を終えると、巨人がこちらを見ていた。

(とりあえず、移動しなきゃ。考えるのは移動しながらでも出来るし。)

スルスルと木を降り、次の狙撃ポジションへ移動。

巨人はさっき麻衣がいたところに岩を投げつけたが、とっくに麻衣はいなかった。

森を疾走していると、手元にグングニルが返ってきた。

今度はさっきより力を込めて投げる。

先程よりスピードを増したグングニルは、巨人の腕に刺さった。

(これぐらいで投げたら盾を突破出来るけど、やっぱり大したダメージにはなってないか……。)

普通の人を爪楊枝で突いた程度のダメージ。

とにかく、作戦通りヒット&アウェイを続けながら、通話の水晶を取り出す麻衣。

「九条さん、聞こえますか?」

枝を避けながら会話。

『よぅ、麻衣たん。どんな感じ?』

九条が気軽な調子で返事をした。

麻衣はアナライザーでの解析結果を伝える。

『あー、道理でこっちの攻撃が通りにくいと思ったぜ。ちっ、厄介だな。』

「どうしますか?」

手元に戻ってきたグングニルを再び放つ。

『打開策を考えてみるさ。とりあえずは作戦通りに。ダイルにも伝えといてくれ。』

「わかりました。」

通話終了。

次はダイルに解析結果を伝える。

『うわぁー、そいつはうざいな。わかった。とりあえずガシガシ攻撃しとくぜ!』

「無茶しないで下さいよ?」

何か無茶をやりそうなテンションだったので釘を刺した麻衣。

通話を終了して、攻撃に集中した。



「さて、どうしたものかねぇ……。」

九条は巨人の足を斬りつけては距離を開け、また斬っては距離を開け、を繰り返す。

ある程度力を込めなければダメージを与えらず、かといって力を込めるタメの時間は、巨人相手だと命取りだった。

(軽く蹴られただけで死ねるな……。)

思うようにダメージを与えることが出来ない上に、足止めにすらなっていなかった。

(むしろ、麻衣たんへの反撃のほうが、足止めになってやがる。)

しかし、それも効果が無いと巨人が考えれば、足止めにならない。

森を脱出するのも時間の問題だった。

「やっぱりここは、コキュートスの力に頼るしかないか……。」

九条の刀が巨人の足を薙ぐ。

巨人の皮膚には、毛筋ほどの線が走っただけだった。

巨人は九条に目もくれず、グングニルが飛んできた方向へ拾い上げた岩を投げた。

九条は舌打ちをしてから、通話の水晶を取り出した。

「もしもし麻衣たん?オレオレ。」

『……詐欺はお断りですよ。』

「はははっ、ちょっとしたお茶目じゃないか〜。で、相談なんだけど……。」

九条は新しい作戦を麻衣に伝えた……。



「けっ、九条のやつ、何の役にも立ってねぇじゃんか。」

茂みに身を潜めながら大型弓の弦を巻きあげて、矢をつがえる。

「まったく、敵はデカイわ、硬いわ……。」

文句を言いながら矢を射出。

勢い良く飛び出した矢は巨人の太ももに当たった。

なんとか刺さったものの、やはり大したダメージは無い。

「さて、移動、移動っと……。」

巨人の反撃が来ないうちに次の射撃ポジションへ移動を開始。

「それにしても、これじゃあラチがあかねぇな。やっば、ここは俺が一肌脱ぐかぁ〜。」

ダイルは腰に下げた小袋を見てニヤリと笑った。

そして、自らが考えた作戦を実行するべく走り出した……。



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