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リーア達が歩いているのは深いようで深くない森の中。

道らしきものがあるからには、人が通ることもあるに違いない。

「気をつけてくださいね〜、熊とかモンスターが出ますから♪」

先頭歩くリーアが注意を促す。

「りょうかいっス!」

ビシッと敬礼するのはシロウ。

リーアの後ろを歩いている。

「リーアの足ばっか見てんじゃねぇぞ。」

シロウの後ろを歩くのは雅輝。

後方を警戒しながらついていく。

リーアの案内でこの森を抜けようというのである。

「それにしてもリーアさん、よくこんな場所を案内出来ますね。森なんてどこも同じでしょうに。」

シロウは、規則正しく動くリーアの足の動きを目で追いながら言った。

「メイドのたしなみですよ♪」

手にした大きな鉈で邪魔な草を刈る。

一見シュールな光景である。

「ここは地理的にはどこなんだ?いきなり飛ばされたはいいが、森じゃわからん。」

雅輝の言うことはもっともである。

ここで世界マップのイメージを伝えておこう。

みなさん、リアルの世界地図を思い浮かべてください。

そして、それをヨーロッパ中心のものに置きかえてください。

見慣れた日本中心のものではないので、注意してください。

それがおおまかな形です。

色々違ってますが、詳しい物はおいおい用意します。

「ここは皆さんの世界でいう、アジアの大陸の東のほうです。ちなみにルファはヨーロッパの中心部に位置します♪」

リーアは鉈を振るう手を止めずに説明する。

シロウも頷きながら足にくぎづけである。

「おおまかにはわかった。で、俺達はどこに向かってるんだ?」

「ベンドです。ルファに次ぐ大きな都市なんですよ♪」

ペースを落とさず森を進む三人。

どうでもいいが、こんな森の中でもメイド服のリーア。

汚れることも無く、動きを阻害することも無く、ただそれを当然のように着こなす。

それは完成されしメイドの姿だった。

「メイドのたしなみですよ♪」

「今、誰に言ったんですか?」

「いいえ、なんでもないですよ〜♪」

謎多き万能メイドである。

そして、しばらく歩いていると、

「俺、もう疲れた。」

シロウがぐったりとしていた。

体力がそれほどあるわけではないシロウ。

リーアもそれほどあるわけではないのだが、メイドだから大丈夫として、雅輝は体力魔人である。

そんな二人のペースについていけないシロウであった。

「ちっ、軟弱者め。」

雅輝があからさまな悪態をつく。

「もう少し先に泉がありますから、そこまで頑張りましょう♪」

リーアがにっこりと微笑みかける。

シロウの体力がちょっと回復した。

「俺、リーアさんのために頑張るよ!!!」

やる気を取り戻したシロウは歩いた。

そして、リーアの言葉通り、少し先に進むと泉があった。

こんこんと湧き出る泉。

「飲めるのか?」

雅輝は念のためにリーアに尋ねた。

「えぇ、美味しいですよ♪」

リーアはコップをどこからか取り出して二人に配る。

二人はそれを受けとって泉の水をすくって飲んだ。

「うめぇー!」

「うむ、なかなか。」

シロウと雅輝の体力が回復した。

荷物を降ろしてしばし休憩。

水場の近くということもあり、涼しく過ごしやすい場所である。

「泉といえばあれですよね、リーアさん!」

体力を回復したせいでシロウのテンションが上がり始めた。

「なんですか?シロウ様。」

リーアはきょとんとして首を傾げる。

シロウは立ち上がり拳を固めて叫ぶ。

「泉といえば水浴び!リーアさん!水浴びとか!水浴びとか!水浴びとか!水浴びとか!しないんですか!?」

キラキラしたある意味純粋な瞳でリーアを見つめるシロウ。

たぶん、どっか壊れている。

「……あははは…。」

リーアは困ったように笑うだけである。

リーアもマイペースだが、シロウも己の欲望に対しては譲らない。

「おまえ、うるさい」

こめかみに青筋立てた雅輝がシロウの前に現れる。

そして腕を伸ばすとアイアンクローをお見舞いした。

「ぐわぁっ!?」

シロウはなんだか生々しい、メキメキと頭蓋骨が軋む音を聞いた。

「ふんっ。」

雅輝はそのまま片手でシロウを持ち上げると放り投げた。

「うわぁぁぁ……。」

綺麗な放物線を描きながらシロウは宙を舞った。

ポチャンッ。

そして泉に落ちた。

「ガボガボガボ!?」

派手な音を立ててシロウが泉から這いでようとする。

この泉、意外と深いようだ。

「わはははー。」

雅輝が愉快愉快という感じで笑う。

サディストかもしれない。

「ま、雅輝様、助けないとですよ!」

リーアがオロオロと狼狽する。

「あれぐらいなら大丈夫だろ。ほらな。」

シロウが泉から出てきた。

グッショリと濡れている。

「リーアさん…。」

シロウは息も絶え絶えだった。

リーアはどこからか取り出したタオルでシロウの顔を拭った。

「大丈夫ですか、シロウ様?」

手際良くふきふきするリーア。

うつむいたシロウが顔をあげる。

「寒いから暖めてほしい!裸と裸のスキンシップ!」

冷めたと思っていたテンションは一向に下がっていなかった。

迫るシロウ。

対するはタオルだけを持つリーア。

「おい。」

ガツンと雅輝の蹴りがシロウの脇腹に喰いこむ。

「なんすか!?今、いいとこなのにっ!」

シロウが脇腹を押さえながらわめく。

リーアはシロウの髪をわしゃわしゃとふいていた。

「あれを見ろ。泉が光ってやがる。なんだあれは?」

シロウはかすかに当たるリーアの胸の感触に全神経を集中させながらも泉を見る。

泉が派手に光っていた。

派手すぎて逆に安っぽく感じるほどに。

きらびやかな原色やら、マーブルやらで、気分が悪くなりそうな光を放ちながらそこに人の形の影が浮かびあがる。

「うふっ、ワタシは泉の精霊よ♪」

「……。」

「……。」

「……。」

三人とも黙りこんだ。

「あらあら、ワタシの登場にびっくりしすぎちゃったのかしら?それともワタシの魅力に声も出せないほど、く・ぎ・づ・け?あふ〜ん、罪なワタシねぇ〜」

体をくねらせる泉の精霊らしきもの。

シロウはガクガクと震え始める。

雅輝は背中を伝う冷や汗を自覚した。

リーアはニコニコとしているが内心はどうかわからない。

「ギャーッ!!助けてぇ!おかま怖ーい!」

ガクガクプルプルのシロウの表情は青ざめて、リーアに抱きつく。

下心無しのこの行動、奇跡である。

「まぁ、失礼なボウヤだこと!おかまじゃなくてよ!ゲイといいなさい!」

うっすらと青ひげの残る泉の精霊がプンスカと怒る。

キモい。

「でも、ほら、キモかわいいのが流行ってますしね。」

リーアが微妙なフォローをいれる。

しかし、シロウは恐怖で泣いていた。

「えっ?違いますよ!僕はここが近道だから通っただけで、そっちの趣味は無くて、あっ、違いますって!なんでズボンを下ろすんですか!?やめて下さいよ!うわっ!あっ!?あぁぁぁぁぁ〜……」

リーアの服を掴んでそのまま固まってしまったシロウ。

時折、思い出したかのように痙攣する以外に反応が無くなった。

「かわいそうにシロウ様……。」

「さすがに同情してしまうな……。」

何か深い心の傷に触れてしまったようだ。

二人がシロウを哀れんでいると、

「ちょっと、ちょっと〜、ワタシを無視しないでくれるぅ?泉の精霊のお仕事をさせてよね〜。」

激しく腰を振る泉の精霊。

シロウがビクンと震えた。

「泉の精霊といえば、泉に落ちたものがどうの、っていうやつか?」

雅輝が嫌そうに相手をする。

「そうよ〜ん。よく知ってるじゃな〜い♪」

ご機嫌に体をくねらせてウィンクする。

泉の精霊の精神攻撃を雅輝は驚異の反射神経で避けた。

特に意味は無いが。

「落ちたといっても、泉に落ちたのはシロウ様だけですよね?」

リーアはシロウの頭をよしよしと撫でながら言った。

シロウはまだ再起不能である。

「だからそのボウヤの持ち物よ♪さぁ、始めるわよ〜♪」

泉の精神の手に現れたのは金の拳銃と、銀の拳銃。

「あなたが落としたのは金の拳銃?それとも銀の拳銃かしら?」

精霊が微笑む。

はっきり言って不気味としか言いようがない。

「なぁ?これどうしたらいいんだ?」

雅輝がどうしたらいいかわからずリーアに尋ねる。

なぜなら、答えはどちらでもないが正解であることを知っているから。

誰でも知っているような答えで本当にいいかわからないのである。

「罠っぽいですね〜」

リーアはシロウの介抱に飽きたのでシロウの背中にまわり、喝をいれた。

「えい♪」

「は!?俺は一体!」

シロウは正気を取り戻した。

辺りを見回し、泉の精霊を見て後ずさる。

「おいシロウ。あのゲイがどっちの拳銃か選べってよ。」

雅輝が指を差す。

シロウはそれを見てこう答えた。

「両方くれ。」

素直にそう言ったシロウ。

欲望に忠実であった。

「ふははははっー!強欲なるものめぇ!あんたのようなものには死をくれてやるわぁ!」

金の拳銃と銀の拳銃は消え去り、泉の精霊から殺気が膨れあがる。

筋肉がはちきれんばかりに膨れ、なんか下半身もえらいことになってた。

「ひぃぃぃ〜!?きょわい〜っ!?」

シロウがガタガタと震えてどこかに隠れようとして、でも隠れる場所が無くて、挙動不審の極みに達した時、やっと見つけた隠れ場所はリーアのスカートの中だった。

「リーアさぁぁぁん!助けてぇぇぇ〜!」

「おまえは眠ってろ」

雅輝のカカト落としが決まり崩れ落ちるシロウ。

リーアは苦笑いを浮かべながら、邪魔にならないようにシロウをどけた。

「うふっ、ワタシと戦おうと言うの?あぁん、いたぶってあげるわぁん♪」

精霊は纏う布切れ(たぶん服だが、実はあまり役目を果たしていない。)を、ババッと放り捨てた。

「はん!ごたくはいいから、かかってこいやぁ!」

上着を脱ぎ捨て雅輝が構える。

筋肉が隆起した、力強い肉体。

2人共、かなり自分の肉体に自信があった。

「くらいなさい!ゲイパンーチ!」

「くらいやがれ!雅輝スペシャール!」

単なる右ストレートを放つ二人。

この後も、似たようなことを叫びながら二人は野蛮に殴る蹴るをやっていた。

リーアはお茶を飲みながら観戦していたが、ふと重要なことに気づく。

「あの泉って、泉の精霊さんが住んでいたというわけで、あの精霊のダシが出てたということになるんですよね〜。ということはあの泉の水を飲んだらダシが効いてるわけで……。」

何気ないリーアの言葉

「げふぅっ!?」

会心の一撃だった。

シロウと雅輝は吐き気に襲われた……。



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