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膝から崩れ落ちる泉の精霊。
荒い呼吸が戦闘の激しさを物語る。
雅輝は油断なく、まだ構えを解かない。
「まだよ!まだワタシは負けてないわぁ!」
泉の精霊が気力を振りしぼり立ち上がる。
「次が最後の一撃になりそうだな……。」
お互いに全力をぶつけあい、わずかに雅輝が優勢に見えたが、ほぼ互角と言っても過言ではない戦いだった。
「……えぇ、次の一撃にワタシの全てを込めるわ。」
不敵な笑みを浮かべる泉の精霊。
雅輝も同じようにニヤリと笑った。
その頃、少し離れた所で復活したシロウとリーアがお茶をすすりながら観戦していた。
「なんかあれですね、むさくるしいですよね。」
シロウが身も蓋も無いことを言った。
「熱血ですねぇ〜♪」
シロウのティーカップに二杯目を注ぎながらリーアは微笑む。
「そもそも、なんで先生はあんなに戦えるんですかねぇ?クラスは無いし、レベルも高くないでしょうに。」
シロウはリーアの手作りクッキーをつまみながらしゃべる。
口からボロボロこぼしているのはお約束だ。
「素で強いんでしょうね〜♪もしくは泉の精霊さんのほうが合わせているかです。」
シロウの口元を拭いながら答えるリーア。
2人は和んでいた。
緊張感は高まり、雅輝と泉の精霊の周りの雰囲気を変えていく。
ピリピリとした空気。
何かがきっかけでこの空気は断ち切られる。
「……ゴクリッ。」
見入っていたシロウの喉の音がやけに大きく響いた。
「うおぉぉぉーっ!」
「きえぇぇぇーっ!」
二人が動きだす。
「砕け散れ!ビックバン・トルネード!」
「貫け!ジェネティック・バイオレンス!」
2人の叫びが響き渡る。
そしてお互いの必殺技が、お互いの腹に直撃した。
「必殺技と言っても、単なる右ストレートですけどね〜♪」
「技の名前とか、かなり適当だよね。」
リーアはあははー、と笑いながら深くはつっこまなかった。
シロウは半眼で茶をすすっていた。
雅輝と精霊はお互いの腹に拳をめり込ませていた。
そして、崩れ落ちたのは精霊のほうであった。
「……ぐふぅ、ま、負けたわ、完敗よ……」
精霊は苦しそうにうめく。
雅輝は精霊に反撃の意思が無いと判断すると構えを解いた。
「おまえもなかなか歯応えのあるやつだったぜ。」
雅輝がさわやかに笑った。
拮抗した戦い、一瞬たりとも気の抜けない戦いをしてストレスを解消した感じだ。
「ようやく終わりましたねー、リーアさん。」
すっかりくつろいでいたシロウ、なんだかよくわからない、先程のトラウマが嘘のようだ。
たぶんリーアのメイド成分に癒されたのだろう、いや、癒されたに違いない。
「あっ、お二人が握手してますよー。友情でも芽生えたんでしょうか?」
雅輝と精霊が固い握手をかわしていた。
死力を尽くして戦った男達(片方はゲイだが)には言葉など不要だった。
「……うふっ、まだワタシの仕事は終わってないわ。」
よろめきながらなんとか立ち上がる精霊。
雅輝は無言でたたずむ。
「ワタシを倒したものにはご褒美をあげなくちゃいけないの。それがワタシ達、泉の精霊の役目なのよ。」
そう言って、精霊が呪文のような言葉を呟くと、その手には一振りの剣が現れた。
「それは?」
「これは『嵐を呼ぶ剣』よ。これをあなたにあげちゃうわん。」
精霊が差し出した剣を雅輝は受け取った。
その剣は凝った装飾こそないにしろ、無機質な外見からは考えられないほどの魔力が込められていた。
「あのぉ、それ、本当に『嵐を呼ぶ剣』なんですか?」
いつの間にか雅輝の隣に現れたリーアが剣をまじまじと見つめて言った。
「えぇ、正真証明本物よ。泉の精霊の名に賭けて誓うわ。」
ありふれんばかりの自信を持って精霊は言い放つ。
「あの『嵐を呼ぶ剣』がこんなところにあるなんて驚きですねー」
気がつけばメガネをつけたリーアが剣を品定めしていた。
「眼鏡っ娘メイド!ちょっと気弱なドジッ娘メイドに早変わり!」
テンションのやたら上がったシロウ。
すごい勢いで万歳している。
「風属性ですね。かなり魔力が込められてますよ。」
リーアはメガネを取り替える。
今度はきつめの印象を与える物だ。
「おぉっと!現れたのはメイド長!失敗したメイドにお仕置きを与える頂点メイド!その足で踏んでぇ!お仕置きされてぇー!」
最高潮のシロウ。
目がイってしまっている。
とりあえず、誰もシロウにツッコまなかった。
「まさしくこれは、伝説の七剣の一つ、『嵐を呼ぶ剣』のようですね。」
鑑定を終えたリーアはメガネをしまう。
いつものリーアに戻った。
少し残念そうなシロウだった。
「そういうことよん。ワタシは消えるけど、その剣を見るたびに思い出してねん♪」
精霊の体が光の粒子に分解されていく。
「死ぬのか?」
雅輝が無表情に尋ねる。
精霊は笑みを浮かべながら頷く。
「それがワタシ達、泉の精霊の宿命よ。でも死ぬのとはちょっと違うかもねん。ワタシ達は還るのよ。」
足から分解されていき、もう胸の辺りまで分解されていた。
「最期にいい戦いが出来てよかったわ。……ありがとう……。」
もう首から上しか残っていない。
……かなり不気味である。
「じゃあな。」
雅輝が笑って見送る。
「えぇ、さよなら。」
精霊は笑って逝った。
光の粒子が天に昇り、散っていった。
「……。」
雅輝が押し黙る。
なんとなく声をかけづらい雰囲気。
雅輝はズボンのポケットから煙草を取り出し火をつける。
うまそうに吸ってから口を開いた。
「つーか、この剣、いらねぇなぁ。」
「えぇー!?先生、なんかしんみりした感じだったじゃないですか!形見っぽい感じで持っとくのがスタンダードでしょう!?」
「だってあいつキモいし。」
「うわぁ、正直者だ・・・」
身も蓋もない雅輝だった。
「これ、おまえにやるから。おまえが代わりにあいつのことを覚えていてやれ。」
剣をシロウに渡す。
「俺もいらねぇっす」
と言いつつも、もらえるものはもらっておくシロウだった。
しばらく休憩してからベンドを目指すべく、また3人は森を進む。
枯れ木を踏み折りながら歩を進めていると、
「ぶっちゃけ、このメンバーだと剣って、いらないですよね。」
シロウがボソッとそんなことを言った。
雅輝は、確かに、と頷く。
雅輝は無手、シロウは銃、リーアは……よくわからないが、剣はいらないメンバー構成である。
「持て余すなら売っ払っちまえ。」
雅輝が言い捨てる。
完全に興味を失っているのだった。
「売る、って言ってもベンドまでいかないとどうにもならないっすよ。てか、重くて邪魔になってきた……。」
軟弱なシロウには重たかった。
弱音を吐きつつも、頑張って歩いていた時、右斜め前方の茂みがガサガサッと動いた。
3人が立ち止まって様子を見ていると、人が出てきた。
「こんにちわー。」
青みがかった髪の青年が現れた。
人当たりの良い笑顔を浮かべて3人に近づいてくる。
「なんか怪しいやつだな。」
雅輝は警戒心剥き出しで青年をにらむ。
「笑顔がうさんくさいっすね。」
シロウもなかなか厳しいことを言う。
リーアは普通に挨拶を返していた。
常識といえば、まぁ、常識である。
「いやぁ、怪しくなんて無いですよ。実は頼みたいことがありましてね。」
青年は手を挙げながら用件を語る。
敵意は無いという意志表示だ。
「言ってみろ。聞くだけは聞いてやるぜ。」
雅輝は大仰に言う。
シロウはうんうんと頷いた。
リーアは笑顔で事態を見守るだけだ。
「じゃあ言うだけ言ってみますよ。あなた達が持つ『嵐を呼ぶ剣』を譲ってもらえませんか?もちろんタダでとは言いません。相応の代価は払いますよ。」
青年の言葉に、雅輝とシロウが顔を見合わせた。
どうする?、という顔である。
「いらないなら譲っていいんじゃねぇか?」
「代価次第じゃないですか?」
「あれ、風を起こせるから便利なんですけどね〜。」
リーアは少し反対派だった。
風を起こす能力が惜しいらしい。
ついさっきも、泉に落ちたシロウの服を乾かしたりと役に立ったのだ。
「お金なら100万G出しますよ。」
青年は言う。
「100万G、ってどれぐらいなんだ?」
雅輝はリーアに尋ねる。
「そうですねー、一生遊んで暮らせますよ。」
リーアの回答。
おぉー、っと2人が感嘆の声をあげる。
「アイテムでの交換なら、いいのがありますよ。けっこうレアアイテムなんですけど…」
と、青年がどこからか取り出したのは……
「ねこ耳だぁー!?」
見た瞬間にシロウが食い付いた。
雅輝は半眼で遠くを見ていた。
「実はこのねこ耳、ただのねこ耳じゃないんですよ。」
青年がテレビショッピングのように語り始める。
シロウはそれを三角座りで聞いている。
その瞳は夢見る少年そのものだった。
「じゃあ、ちょっとリーアさんにアシスタントしてもらおうかな」
ちょいちょいと、リーアを手招きする青年。
気軽にリーアは青年のアシスタント役に。
「論より証拠、リーアさんに装着してみまーす。」
青年はリーアの許可を待たずに早業でリーアの頭にねこ耳をドッキングさせた。
「っ!?ねこ耳メイドだとぉーっ!?神が降臨なされたぁぁぁ!」
シロウのテンションが未だかつてないほどに高まった。
夜道を歩いていたりすると、軽く職務質問されるぐらいに危険な表情である。
「ほーら、よく見て下さい。ちゃんと本物みたいに動くんですよ」
青年の言う通り、ピクッと耳が動いた。
「すげぇー!ごっさ触りてえー!」
目をグルグルさせ、シロウが魂の叫びをあげた。
その声が大きかったのか、耳が少し垂れる。
「リーアさん、今から言うセリフを言ってくれませんか?」
リーアは頷く。青年はねこ耳のほうにコショコショと囁く。
リーアはちょっとくすぐったそうにしながら、次の言葉を言った。
「ご奉仕するニャン♪」
リーアは会心の一撃を放った!
「ギャぁぁぁー!萌え死ぬ!」
シロウが悶えた。
悶死寸前である。
「このように語尾に『ニャン』がつきます。あ、他にも、舌がザラザラになったりしますねー。」
「舐められたーい!舐め殺されたーい!」
シロウは頬を赤らめて地面を転げまわり悶えている。
なんか昇天寸前であった。
リーアは苦笑いを浮かべていた。
雅輝はついていけないとばかりに、その辺で一服している。
「100万Gか、このねこ耳で『嵐を呼ぶ剣』譲って欲しいのですが、どうですか?」
青年はニッコリと笑ってシロウに問掛ける。
「……。」
シロウは真面目な表情で、青年の肩をガッシと掴んで言った。
「じゃあ!ねこ耳で!」
最高潮のシロウ。
人生の最良の日だった。
シロウはレアアイテム『ねこ耳』をゲットした!!!
「……あの、私はいつまでこれをつけてるニャン?」
リーアがポソッとつぶやくのだった。
お気軽に叩いてやってください、喜びます(笑)
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