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3人が着いたここは商業都市ベンド。

ここで手に入らないものは、そもそも世界に存在していないと言われる程にあらゆるものが揃っている。

「ということは、ねこ耳メイドも売っていたり……。」

シロウはリーアの説明を聞きながらハァハァしている。

「買えますニャン♪」

リーアはまだねこ耳をつけていた。

眼鏡の青年いわく、呪いのアイテムなので、はずれないとか。

シロウは青年が神に見えたとか見えなかったとか。

「100万Gで売ればよかったのかー!?」

後の祭りである。

「100万Gあれば、家とメイドが買えますニャン。それで遊んで暮らせるニャン。」

シロウは血の涙を流して男泣き。

「んなことより宿でも探そうぜ。今日は疲れた。」

どうでもよさげに雅輝は言った。

森を歩き、精霊と戦いで雅輝といえど疲労がたまっている。

ちなみにシロウはかなりの貧弱体力でありながらも、テンションだけでここまで持たせていた。

……萌え尽きたけど。

「では宿に向かいますニャン。ついてきて下さいニャ♪」

実はちょっとだけ、ねこ耳が気に入っているリーアだった。

その証拠に耳がピコピコ動いていたりする。

お手頃な値段で、食事もなかなかのものがだされる宿に泊まった。

宿の食堂にて晩ご飯を頂いている3人。

リーアは働きたくてうずうずしているが、宿の主人にやんわりと断られた。

おとなしくシロウと雅輝の世話をしていると、

「飽きましたねー♪」

ごく自然にねこ耳をはずした。

「えぇー!?はずせないはずじゃあ!?」

シロウは何か大切なものを無くしたかのような嘆きと絶望の表情である。

「メイドですから♪」

どうやらメイドに呪いのアイテムは無効らしい。

シロウは固まったまま、一日が終わった。

そのあと、つい居心地が良くて気が付いたら三日ほど経っていた。

「こんなにダラダラしてていいんでしょうかねー?」

シロウはベッドでダラダラしている。

雅輝は親指で腕立てをしていた。

親指立てである。

「他のやつに任せとけばいんだよ。真悟あたりがうまくやってくれるだろうよ。」

喋りながらでも親指立てのペースを崩さない雅輝。

「そんなもんですかねぇー。」

シロウは不満そうな声を出しながらもやっぱりダラダラしていた。

そんな二人の部屋のドアがコンコンッ、と上品にノックされる。

シロウが気だるげに返事をすると、

「お暇なら一緒にお出かけしませんかー?」

リーアからお出かけのお誘いであった。

「イキます!」

即答だった。

「ちょうどヒマだったしな。」

雅輝は立ち上がり、リーアからタオルを受け取り汗を拭き取る。

「えっ?先生も行くんですか?」

シロウがあからさまに不満気な顔をする。

雅輝はそれをジロリとにらみつけながら、

「なんか文句あるのかよ?」

「いいえ!滅相もありません!」

ビクッと後退りながらシロウは敬礼して答えた。

上官には絶対服従である。

いや、教師と生徒なのだが。

「それじゃあ、行きましょうかぁ〜♪」

リーアは雅輝の上着を着るのを手伝い、シロウの服装を整え、各々準備が出来てから出発した。

町は相も変わらず賑わっていた。

昼食の時間を過ぎているため、それほど混んでいるわけではない。

しかし、そこそこ人々が行き交い慌ただしい部分もある。

三人はウィンドウショッピングをしたり、露店で買い食いしたりしながら町を歩いた。

ヒマを持て余していた雅輝とシロウはそれなりに楽しんでいた。

噴水のある町の広場にベンチを見つけてのんびり過ごす三人。

その辺で買った香茶をすすりながら些細なことをダベる。

雅輝なんかは煙草を取り出してうまそうに吸っていて、完全にリラックスモードである。

しばらく平和にぼんやりしていると、辺りが急にざわめきだす。

「なんだぁ?」

雅輝は煙草の火を消しながら周りの声に耳を傾ける。

「……空?」

どうやら空に何かがあるらしい。

三人が揃って空を仰ぎながら、辺りのどよめきの原因を見た。

そこにあるのは光と闇の交錯。

ぶつかっては離れ、離れてはぶつかる。

「空で斬りあってるみたいですね。」

「人……ですかね?」

「みたいだな。飛んでるが。」

三人の驚異的な視力は光を纏いし人と、闇を纏いし人の戦いを捉えていた。

両者の激突は大気を震わせ、火花を散らさせた。

闇から放たれたいくつもの黒炎が降り注ぐ。

「うわっ!?あれ、やばくないですか?」

シロウが慌てふためいた。

「大丈夫だ。こっちにはきてない。」

対称的に落ち着いている雅輝。

事実、黒炎が墜ちるのは違う方向のようだ。

「でも、あんなの町に墜ちたら……。」

大惨事は免れない。

町は燃え盛り、逃げまどう人々。

混沌の極みは間違いない。

「俺達には何も出来ない。せいぜい巻き込まれないように逃げるだけだ。」

冷たいとも言えるような厳しい現実を見つめた雅輝の言葉。

シロウは何も言えずにただうなだれる。

降り注ぐ黒炎。

何も出来ずに墜ちていくのを見ているだけ、と思ったその時

その黒炎のことごとくが不可視の力に止められていた。

空中に止まった黒炎は燃え尽きるようにして力を失い、消滅した。

「……なんだ今の?」

雅輝が信じられないという顔をしている。

シロウはポカンと口を開けている。

「不可視の力場で受け止めたようですね。」

リーアはニコニコしながら雅輝の疑問に答えた。

「あれ、どうやったんですかね?」

シロウはリーアに尋ねる。 なんとなく解っていそうだったから。

「そうですねー、あのようなものを防げるとなると、『勇者の武具』でしょうか。」

「『勇者の武具』かぁ……」

空を見上げて光と闇の攻防を観戦する。

さらによく見ようと目をこらすと、三人はあることに気がついた。

「あの光ってるほうって、刀夜じゃ……。」

黄金の翼を背に、光の剣を携えし者、それはどう見てもあの刀夜だった。

「だな。」

「刀夜様ですねー。」

雅輝とリーアもそう見たようだ。

「でも、なんであんな…、俺達と同じ時期に来たのにもうあんなことが出来るなんて。」

シロウが不思議やら、羨ましいやらな感じで呟く。

「元々、刀夜様はレベルが高かったですからね。あとは勇者の武具で無理矢理レベルを上げていると思います」

「無理矢理ねぇ。リスクが高そうだな。そうでもしないとならん敵とでも出会ったのか・・・」

刀夜が対峙する闇を纏うものを睨む雅輝。

その戦いは終わることなく、激しさを増すばかりである。

野次馬のようにただ下から見上げることしか出来ない三人。

刀夜が闇の攻撃を受けて隙を見せた時、周りの空気が一変した。

ザワリと肌を撫でる殺気。

闇が天に腕をかざした瞬間、魔力が凝縮していった。

「げっ、またなんかやばそうですよ!?」

シロウがテンパる。

「さっきの比じゃねぇな。」

そう言いつつも余裕の雅輝。

先程の黒炎の一つ一つを集めてもまだ足りない、ありえないほど巨大な黒炎が出来上がった。

「あんなので焼かれたら地獄に堕ちそうじゃね?」

「呑気に言ってる場合じゃないですよ!逃げないと!あれが墜ちてきたりこの町全部が吹っ飛びますよ!」

一気にまくしたてるシロウ。

雅輝は妙に落ちついて煙草の煙を吐いた。

「今から逃げても間に合わねぇな。残念。」

「全然、残念そうじゃないし!」

あたふたするシロウ。

実際、どうにもならなそうなのは理解していたりするのだが。

「私一人なら逃げきれますけどねー。」

リーアはサラッとそんなことを言った。

「じゃあ逃げろ。俺達に付き合う必要は無いぜ。生きられるなら生きたほうがいいに決まってる。」

手をヒラヒラさせて、早く行けという雅輝。

「そ、そうですよ!リーアさん行って下さいよ!メイドさん万歳ですよ!」

シロウはテンパりすぎてなんだか変な動きをしながら、なけなしの男気を見せる。

「ありがとうございます。でも、ここはやっぱり刀夜様を信じましょう♪」

スカートの裾を持ち上げペコリと頭を下げてそんなことを言った。

三人は空を見た。

そこには凶々しい黒き炎。

絶望より生まれた地獄の獄火。

それに対峙する光を纏う刀夜はより一層輝いた。

「魔力が渦巻いていますね。刀夜様を中心にして。」

「あぁ、魔力かどうかはわからんが、何か視えない力が集まってるな。」

闇は振り上げた腕を鉄槌のごとく降り下ろした。

地獄の獄火が刀夜もろとも町を飲み込まんと空から墜ちる。

刀夜を中心に集まった魔力が空中に文字のようなものを描く。

それは町より大きい円を描き、円の中も文字が埋め尽くしていく。

ザラザラと文字が、魔力を込めた文字が円を埋め尽くした時、それは発動した。

「あれは・・・盾?」

刀夜が手をかざして盾を支える。

そして盾は地獄の獄火を受け止めた。

「はっ、世界をも支えそうな盾だな。」

楽しそうな雅輝。

その目はなぜか、好敵手を見つけたかのような目だ。

地獄の獄火を目の辺りにした町の住人達は、逃げるのも忘れてその光景を見入っていた。

『あれは神の使徒だ』

『救世主じゃ』

『勇者様が現れた!』

様々な声がとぶ。

悲鳴や叫びはいつしか祈りとなり声援となった。

巨大な盾は獄火を受けきり、やがてそれを消滅させた。

その時、町の人々から歓声があがった。

老若男女全てが喜びと感謝の声をあげた。

「は、はは……。」

シロウはこの光景に鳥肌が立ち、一緒に飛び上がって喜びを分かち合いたい気持ちで一杯になった。

だが、腰が抜けているので無理。

「うーん、ご主人様候補に登録ですねぇ♪」

リーアはニコニコしながらそんなことを呟いていた。

空では光と闇が再びぶつかりあっていた。

三人のところまで聞こえてくる剣撃は、次第に遠ざかりやがて見えなくなっていった。

「行ってしまいましたね。」

「あぁ。」

雅輝は短く答える。

煙草の灰を落としきびすを返す。

「あれ?どこにいくんですか?」

シロウが尋ねる。

雅輝は煙草を踏み消し答えた。

「修行。」

それだけ言ってポケットに手をつっこむと行ってしまった。

「ちょっと待って下さいよー。」

シロウが雅輝を追い掛ける。

それをリーアは静かに見送ると、

「さーて、次は誰のお世話をしようかしら♪」

と微笑み自らの目的のための旅に出た。



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