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ここは何処にでもあるありふれた高等学校。
4時間目の授業が終わってお昼休みである。
食堂、購買組は終了のチャイムと共に、陸上部ばりのダッシュを見せる。
なかには本物の陸上部を超える速さを見せつけ、伝説のこしあんパンを手にする者もいた。
それはさておき。
「今日のおかずは何かなぁ?」
、と光騎が弁当を広げている時、廊下のほうで慌ただしい音がした。
「奏歌ちゃん!廊下は走ったらダメなんじゃない!?」
と、廊下を全力ダッシュする美綺。
「美綺さんこそ、学則は守らないといけないんじゃないんですか?生徒会役員として!?」
奏歌も負けじと言い返す。
美綺に負けず劣らずの速さで廊下を駆け抜ける。
どうでもいいが2人共、陸上部顔負けの速さである。
「生徒会役員が学校のルール!だから、このあたしがルール!よって、廊下を走ろうがなにしようが超自由!」
自分ルール発動中の美綺。とにかく楽しそうである。
「それはダメでしょ、美綺さん・・・。」
美綺と違って奏歌はまともな人であった。
「廊下が騒がしいなぁ・・・。」
まるで人ごとのように呟く光騎。しかし、毎度のこの騒動は人ごとではなかった。
「ははは、いつもの騒ぎだな。」
さわやかな笑顔を浮かべてやってきたのは貴人。シロウも一緒である。
机をガタガタと動かして昼食の体勢を整える。
2人共購買組で、あるルートから事前にパンを入手していた。
光騎もたまにお世話になる謎のルートである。
貴人はスラッとした長身で、整った顔立ちと合わせてかなりのモテる男だ。
学業のほうはあまりよろしくないが、常に女の噂が絶えない人物。
そして、シロウは色黒で白に近い金髪の小柄のアジア系の少年だ。
しかし、モテそうな外見なのだが転校初日に、自分は足フェチだと公言してしまったがためにすっかりイロモノ扱いである。
「光騎は羨ましいよなぁ。」
シロウがモシャモシャとフランスパンを食べながら呟く。
なぜフランスパンをチョイスしたかは謎である。
「当事者はけっこう大変だよ?」
と、贅沢な悩みを持つ光騎。その悩みの原因である奏歌と美綺が教室のドアを勢いよく開けて入ってきた。
「光騎君!一緒にお弁当食べよう!」
「光ちゃん!一緒におべんと食べよー!」
二人共、大きいお弁当箱を掲げて言った。
このお弁当、走ってきたくせに寄っていないというのが凄い。
慣性の法則はどこにいった?
「・・・えーと、はい、両方頂きます・・・。」
いつもと同じ応答。
自分の手元にあるものを合わせると3種類の弁当がある。
「確か、そっちの弁当は麻衣ちゃんが作ったんだよな?」
「うん。だから、残さずに食べないと・・・。」
一回、食べ切れなくて残して帰ったら
『私が作ったお弁当は口に合わないですよね・・・。』
と言って涙目になっていたのを見て以来、米粒1つ残さずに食べて帰るようになった。
ちなみに捨てるという選択肢はない。
「弁当だけで一騒動だな、光騎は。」
完全に人ごとの貴人、かなり気楽である。
「やっぱ、贅沢な悩みだって。」
ピロシキを食べながらシロウは言った。
賑やかな昼食の始まりであった。
「光ちゃ〜ん、はい、あーん♪」
「あ、あーん……。」
美綺が光騎に唐揚げを食べさせる。光騎はとまどいつつも口を開けて頂く。
ほとんど毎日のことだが、いまだに慣れない光騎だった。
「光騎君♪こっちも食べてね?」
次は奏歌から玉子焼きが運ばれる。美味しいのだが、二人から交互に食べさせられのはどうにも落ち着かない。
「俺も世話を焼かれてぇよ!」
と、心の叫びが口からこぼれたのはシロウ。貴人はパンの破片を飛ばすなよ、と思った。
「世話焼かれたいんなら、おまえん家メイドいるじゃん。」
「いや、でも、家のメイド、いわくつきなんだよ……。」
ため息をつくシロウ。
「いわくつきって…、ただのメイドだろ?」
貴人はわからないなぁという顔をしている。
「家のメイド、今まで雇われたことのある旦那様がことごとく死んでるんだ……。」
「怖っ!てか、それ家政婦だろ!」
「どこぞの、体は子供の名探偵ばりな、死神っぷりなんだよ。」
「大変だな、おまえの家。死神な家政婦に、12人の妹もいるし。」
「あいつら、いつも俺を目の仇にするんだ…生傷が絶えない…。」
「現実はうまくいかないもんだな……。」
苦笑いの貴人。ガクガクプルプルなシロウ。
シロウの表情、ちょっと悦が入ってるのはきっと気のせいだ。
その時、教室のドアが勢いよく開いた。ポニーテールでニーソックスの女の子が辺りを見回す。
そして、ターゲットである光騎をロックオンした。
「お兄さま〜♪」
光騎が美綺、奏歌、麻衣の弁当をそれぞれ味わっている時に勢いよくダイブしてきたのは眞彩だった。
「うぐぅ!?眞彩ちゃん!?」
危うく、唐揚げやら玉子焼きが逆流しそうな衝撃だったが惨事には到らなかった。
「わーい、お兄さまだぁ〜♪」
ものすごいラブなハグでホッペにチュウである。
気が付けば光騎の膝の上に眞彩のお尻がのっていて、向かい合っていた。
超至近距離で眞彩は光騎にスリスリしている。
「あ、あの眞彩ちゃん?」
妹のように接していたとはいえ一つしか変わらない女の子に、こんな風にされてはドキドキしないはずがない。
「む!お尻に何か!?」
「それはないです!」
光騎の人間離れした自制心がそれを可能にした。
しかし、それを無駄にするかのように膝の上で揺れる眞彩。
「いや、お尻より足だろ。あのニーソとのハーモニー!あぁ、俺も抱きつかれたい!!」
シロウの足フェチゆえの衝動だった。
「たちあがれ〜♪」
何がたちあがるのかはさておき、眞彩のセクハラは止まらない。
「キャー、そろそろ誰か助けてぇー!」
光騎は精神的に追い詰められていた。なんか色々ギリギリである。
「光ちゃん!今助けるからね!」
「光騎君!私が助けてあげる!」
二人の手が伸びる。
「よっ。ほっ。」
しかし、眞彩は二人の手のことごとくを避けきる。
そのたびに体が動いて光騎に精神的ダメージを与えていく。
「えぇーい!」
焦れた美綺は体当たりという強行にでる。
さすがに避けきれなかった眞彩。てか、光騎ごと倒れた。
「あぁ!光騎君、大丈夫!?」
心配そうな表情の奏歌はそこへダイブした。
「ガハッ!?」
いくら女の子とはいえ3人分。重かった。
「お兄さまぁ〜♪」
眞彩が甘い声でスリスリ。
「光ちゃ〜ん♪」
美綺がホッペに頬擦り。
「光騎く〜ん♪」
奏歌が手を重ね合わせる。
もみくちゃにされながら光騎の意識が薄れゆく。
「誰か助けて…」(泣)
と、うわごとのように力無く言った。
「幸せものは死ね。」
シロウは妬み全開で、ナンをほうばりながら言い捨てた。
貴人は我関せずといった感じで黙々と昼食を食べている。
「…いいなぁ…。」
羨ましそうにこの光景を見ていたのは麻衣。
自分が作った弁当を美味しそうに食べてくれているのを見ただけで満足だった。
しかし、自分もあの輪の中に入りたいというのが本音である。
眞彩のように積極的になれなくて、教室の外から見ていることしか出来なかった麻衣であった…。
お気軽に叩いてやってください、喜びます(笑)
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