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「刀夜、飯食おうぜー。」

隣りのクラスからやってきたのは衛星。シルビアも一緒である。

「うん。いつものとこだね。」

柔らかい笑みを浮かべた刀夜は弁当箱を持って席を立つ。

この3人はいつもつるんであり、いわゆる幼馴染というやつで仲良し3人組なのである。

3人並んで屋上に向かうべく廊下を歩いていると、曲がり角で思いもよらぬアクシデントが起こった。

そう、刀夜と誰かがゴッツンしたのである。

「おい、大丈夫かよ刀夜!?」

衛星とシルビアが駆け寄る。

なかなかにおっとりさんな刀夜は二人によく面倒をかける。

かといって、それを迷惑に思っていない二人は、弟分的な刀夜を助けるのは自分達の使命だと思っている。

シルビアにいたっては、刀夜に良い貰い手がなければ自分が貰ってやろうと本気で思っており、

衛星も心底それがいいと思っているのだ。

「怪我は無い刀夜?」

シルビアは心配そうに膝小僧とかをチェックする。

怪我が無いことを確認するとホッとした表情を浮かべる。

「うん、ありがとう。なんでもないよ。」

誰もを幸せにする笑顔で刀夜は答えた。

衛星とシルビアはそんな刀夜の笑顔を見て癒さるのだった。

刀夜はいわゆる癒し系なのだった。

さて、ほったらかしのぶつかったほうはというと、

「お怪我はありませんか?メイディア様。」

「えぇ、大丈夫ですわ桜。」

そう、相手はこの学校1のお嬢様、いやこの国特有のお金持ちであるメイディア嬢だったのだ。

二人共制服姿であるものの、その仕立ては豪華絢爛。

櫻はメイディアの侍従ということで、護衛も兼ねており防弾、防刃などの機能を備えた制服だったりする。

そして、今、お互いに守る者があるものどうしが合間みえることになる。

「ちょっと、刀夜に謝ってもらえるかしら?」

目を細めて冷酷な視線をメイディアに向けるシルビア。

ただでさえきつめの目つきをしているシルビア、かなりきょわい。

「それはこちらのセリフですね。メイディア様への謝罪を要求します。」

シルビアと櫻が同じような感じで言い放つ。

こちらもシルビアと同じくクールビューティ。一歩も譲る気配が無いのは両方同じである。

双方、ぶっちゃけきょわい。

「あっ、ごめんなさい・・・、大丈夫ですか?」

場の空気を読まない刀夜はあっさりと謝る。

それはとても申し訳なさそうにシュンとして。

その様は叱られた子犬のようで、逆に謝られたほうが申し訳なくなるのだった。

さすがの櫻も刀夜の表情にたじろぎ、メイディアへの忠誠が揺らいでしまう。

「あっ、お弁当落としちゃった・・・。」

ゴッツンした拍子に刀夜の手から離れた弁当は見るも無残になっていた。

刀夜は悲しそうな表情を浮かべていた。

今にも泣きそうな、見る者も共に泣き出したくなるような表情。世界の悲しみの全てを背負うかのような聖者の表情である。

そんな刀夜の顔を見たくない衛星とシルビアは、

「刀夜!心配するな!俺のを分けてやる!いや、いっそ全部おまえにやる!」

「私のもあげるわ!食べさせてもあげるんだから!」

溺愛であった。

ちなみにとても涙脆い櫻は刀夜の表情を見ただけで涙目になっていた。

「ご、ご飯が無ければお菓子を食べればいいのですわ!」

メイディアのほうはテンパっていてわけのわからないことを口走りながら高級そうなお菓子を差し出していた。

ここに、刀夜大好き同盟の誕生である。

「ありがとう。」

刀夜の天使をも凌駕する笑顔は、男女問わず胸の奥をキュンとさせた。

気がつけば仲良く5人で屋上に向かっていたとさ。




「あっ、お姉ちゃん!ここにいたんだ!」

刀夜、衛星、シルビア、メイディア、櫻が仲良く屋上でお弁当を食べていると、新しいキャラが現れた。

名前は菫(すみれ)、櫻の妹だ。櫻と共にメイディアの護衛をしている。

「あぁ、菫、すっかり忘れてた。」

酷い姉である。

「忘れてたじゃないよ!私のお弁当もお姉ちゃんが持ってるんだからね!」

ホッペを膨らませてガオーとお怒りの菫。実はあんまり怖くない。

「……あっ。」

櫻はしまったという顔をした。

菫は、うん?と首を傾げて、ふと置かれた弁当のほうを見ると、ほとんど残っていなかった。

「私のが無い!」

愕然とする菫。

そう、本来は菫の分を櫻は刀夜に食べさせたのだ。(刀夜様、あーん、して下さい♪、てな感じで)

「すまない、菫。お前より優先するべき人を見つけたのだ。」

グっと、拳を握る大真面目の櫻。刀夜を見て心酔の表情を浮かべていた。

「なによそれー!?」

キッ、と刀夜をにらみつける菫。

その頃、刀夜は口元のご飯粒をシルビアに取ってもらっていた。

「取れたよー。」

それを食べつつ、シルビアは言った。

「ありがとー。」

ほんわかした笑みでお礼を言う刀夜。マイペースである。

「あんた、私のお弁当返しなさいよー!」

ビシッと刀夜に指を差して敵意満々の菫。

そこでやっと刀夜は菫の存在に気付く。そして状況を把握した。

「あっ、そっか……僕が君の分を食べちゃったんだ……ごめんね……。」

その想いは全ての心あるものを引き裂く深い悲しみ。見るものの心に宿るのは悲哀の色。

それは菫の心に深く突き刺さり、自分の言葉に後悔した。

簡単に言えば、もう弁当のことはどうでもよくなっていて、刀夜にそんな顔をしてほしくない、ただそれだけを想った。

しかし、頑固というかプライドが高いというか、そんなのが邪魔して菫は何も言いだせなくなる。

「刀夜ぁー!そんな顔をしたら幸せが逃げるぞー!笑え、笑うんだ刀夜ぁー!」

衛星が決して人が少ないとはいえない屋上で叫んだ。力一杯。周りの白い目なんて気にしちゃいない。

「そうです、刀夜様!菫のことなど捨て置いて下さい!」

櫻はモロに刀夜の表情に影響を受けて頬には涙が伝っている。しかし、菫には容赦無い。

「そんな、櫻さん、泣かないで……ね?」

刀夜は櫻に近付く。それは極自然な動作でありながら、櫻やその他に反応させる隙の無い動きだった。

櫻や菫はメイディアの護衛として相当な鍛練を行なっているにも関わらず、刀夜の動きに反応出来なかった。

それは川の流れのようであり、広大な海の流れのようであった。

そう、所詮、人の身では自然にあがなえないのと同じことだ。

そして、刀夜の指が櫻の頬に触れる。

誰であろうと問答無用に温かい気持ちにさせる柔らかい笑顔を浮かべて、そっと涙を拭った。

至近距離からの不意打ちだった。それは絶大な効力を持って櫻の心を奪う。

(…あぁ、私は刀夜様の騎士になろう…。)

櫻は一瞬で決意した。

刀夜の人を惹き付ける表情、仕草は天然である。

それゆえに始末が悪く、無差別に人々は刀夜の元へと集う。

刀夜は比較的内向的な性格で、野心やらなんやらの欲望を持ち合わせていない。

だからその人を惹きつける能力が悪い方向に働かない。

おかげで世界のバランスを保っていたりいなかったり。そんなわけで菫も陥落していた。

「と、刀夜!私のこと無視しないでよね!」

菫がビシッと指をつきつけた。

自分の姉が羨ましいやら、さっきからないがしろにされてたりで、ウガー、って感じ。

いや、実際のところ単にかまってほしいのである。

「えっと、菫ちゃん?メイディアからもらったお菓子ならあるんだけど……。」

刀夜がお菓子を手に取り、普段シルビアにやってもらうように、

「はい、菫ちゃん、あーん。」

菫の口元まで運ぶ。たじろぐ菫。にやにやしながらそれを見守る一同。

顔を真っ赤にしてあたふたし出した菫は何も考えられず、ただ餌付けされたとさ。



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