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光騎が奏歌、眞彩、美綺にもみくちゃにされている時。

それを麻衣が羨ましそうに見ている時。

貴人がそれらを生温かく見守っている時。

シロウがナンを喉に詰まらせて苦しんいる時。

刀夜、衛星、シルビア、メイディア、櫻、菫が屋上で仲良く食後のお茶を楽しんでいる時。

慎悟と真矢が生徒会の仕事をしている時。

騎理が生徒会室のソファーで昼寝している時。

雅輝が窓から乗りだし煙草を吸っている時。

葵が銃耶とごろごろしている時。

縁がゆかりと時也と談笑している時。

仁がもそもそと昼飯を食べている時。

そんな23人の瞳の奥がチカチカと瞬いた。

眼球のその奥の脳に近いようなそんな場所がチカチカとした。

その時、世界は光に包まれた。

その強烈な白い光は体を走り抜け、ただ白一色が瞳に焼き付いた。

声を出す、ということが思いつかないほどの一瞬のこと。

体がフッ、と軽くなる。

エレベーターに乗った時の感覚に似た感じ。

それぞれが同じように感じ、それぞれが同じ場所に辿りつく。

ほんのまばたきの出来事でも強く印象に残った。

不快では無い。

むしろ喜びがある。

そう、新しい世界と限りない可能性に出会ったのだ。

彼らは、今、白き光の嵐を、越えた……。




そこは白い部屋。

清潔感にしているからとかではなく、そこは生活感が無いために清浄なのだ。

そんな白い部屋に23人が降り立つ。

誰もが戸惑う中、目の前に受け付けのような、カウンターのようなものがあった。

その奥には初老の男性が、カウンターの手前には若くて誰もが目を奪われるような美人の女性。

「よく来た、異世界の勇者達よ。」

初老の男性が重々しく口を開く。

「ふむ、今回の召喚はちと多いな。まぁ、よい。私の名前はセイドリック。案内人を務めている。ガイドと呼ばれている。」

皆が状況についていけない中、ガイドは淡々と語る。

「こっちは私のアシスタントだ。」

美人の女性に目を向ける。

「はーい♪万能メイドのリーアで〜す♪よろしくお願いします♪」

リーアはスカートの裾をちょいっ、と上げてご挨拶。

『メイドだ…。』

誰もがあの人こそ真のメイドだと認識した。何人かはメイド万歳三唱である。

それはさておきようやく、プロローグも終わりを迎えようとしていた……。




「では私が代表して質問をしよう。皆、色々と疑問があるだろうからな。」

慎悟が一歩前に出る。見回して異論が無いことを確かめるとガイドに向きなおる。

「まず……。」

そう言いかけたところで別の声がかぶる。

「うわー、白〜い、広〜い、大きいね〜!」

葵が珍しいところに来たせいではしゃいでいた。遠足に来た小学生レベルである。

「アオ姉!ほら、じっとしてなきゃダメだよ!」

柔耶があたふたと葵をたしなめる。しかし、葵は聞いちゃいない。

「あははははは〜!」

ひたすらだだっ広い白の部屋を、全力ダッシュし始めた。

「話聞いとかないとわかんなくなるよー!」

柔耶は手でメガホンを作り遠ざかる葵に呼びかける。

「柔耶が聞いとけばいいじゃないー!」

柔耶に丸投げした葵。葵の柔耶への依存は今に始まったことではない。

柔耶は仕方ないなぁ、といった感じで溜め息をつくと、事の成り行きを見守っていた一同へ向き直る。

「すいません、お騒がせしました…。続けて下さい。」

頭を下げて続きを促した。

慎悟はコホンと咳払いをして仕切り直しをする。

「まず、ここがどこであるか尋ねたい。地理的な問題もあるが根本的なところからな。」

ガイドはうなずくと口を開いた。

「ここは君達がいた世界とは異なる世界。名はファンタジア・ガーデン。そして、ここは君達の世界とファンタジ・ガーデンの狭間、中継地点とでもいう場所だ。名称は特に無い。好きに呼ぶがいいだろう。」

白い部屋を見回しながらガイドは朗々と語った。

「私達を『召喚』したようだが、目的と方法が知りたい。」

慎悟は簡潔に述べた。

「うむ、まず目的から話そう。それはこの世界を救う勇者が必要だったからだ。異世界のものは皆、総じて能力が高い。故に異世界から召喚されるという訳だ。そして方法は、魔法だ。神と呼ばれるモノが編み出した神秘。その魔法が発動したことによって君達は召喚されているらしい。」

「らしいとは?あなたたちがその魔法を使って召喚したのでは?」

ガイドは首をふる。

「我々では無い。そして誰が君達を召喚したのかも判明していないのだ。ただ私は召喚されてくる君達を導くだけなのだよ。」

「そうか、何か不可解な謎があるようだな。では次の質問だ。世界を救う勇者が必要だと言ったが、具体的に何をすればいい?ゲームのように魔王を倒せばいいのか?」

慎悟は大真面目に質問しているが、美綺やら菫やらは、そんなベタな展開な訳ないじゃなーい、って感じだ。

「その通りだ。君達には魔王を倒してもらいたい。」

『えー!?』

美綺や菫以外も、口には出さなかったがそんなことは無いだろうと思っていたらしい。

皆さん、驚愕の表情。刀夜と真矢はニコニコしていていたが。

「ということは、魔王を倒せば元の世界に帰れると認識すればいいのか?」

周りの人の反応など気にせずに話を続ける。慎悟もかなりマイペースな人である。

「そういうことだな。」

「ふむ・・・。」

しばし沈黙。

「…そういうことか。分かった。今から会議をするからしばらく待ってくれ。」

そう言って、慎悟は皆のほうに向き直る。皆は体育座りで行儀良く聞いていた。

理由は無い。なんとなくだ。

女性陣の何人かはスカートの中が見えているが気にしてはいけない。

「さて、そういうことだが、どうする?何か質問はあるか?」

しっつも〜ん、と元気良く手を上げるのは美綺。慎悟はうなずく。

「慎悟はなんでそんな冷静に状況を受け入れてるんですかー?」

慎悟は少し考えると答えた。

「うむ、何となくこういうものなのだろう、と認識している。」

「慎悟さんって、もしかして天然?」

「たまにねー。」

美綺と眞彩がなんだか失礼なことを言っている。

「単に適応能力高いだけな気がするがな。」

そういう貴人も戸惑っている様子は無い。

「いえいえ、召喚される方はみんな適応能力は高いんですよ〜。」

リーアがいつの間にか現れた。シロウ、衛星、縁がメイド万歳とばかりにぎらつく。

「では、皆は元の世界に戻ることを目標に、魔王とやらを倒すことで総意か?」

全員が頷いた。とりあえず目標が決まるのだった。




「どうやら話は決まったようだね。」

会議の様子を見守っていたガイドが声をかける。

「ああ、一応は満場一致だ。と言っても、せざるを得ない状況だがな。」

慎悟は苦笑する。

「では君達に『勇者』のクラスを与えよう。」

「ちょっと待て、クラスとはなんだ?ゲームでいう職業、ジョブとかいうものか?」

「クラスは様々な種類があり、それぞれに固有の技能がある。それらを駆使して戦ってもらいたい。」

「やはりか。で、私達のような召喚されたものは『勇者』にしかなれないのか?」

「そんなことはないがやはり相場は『勇者』であろう。だから『勇者』に・・・。」

「それは困る。」

「……。」

「……。」

「好きにするがいい。クラスの一覧表を見ながら決めるといいだろう。」

ガイドはリーアに一覧表を持ってこさせると慎悟達に渡した。

再び会議が始まる。

慎悟と騎理と真矢が顔をつきあわせて話し合っている。

「ふむふむ、勇者と言っても断然強いというわけでもないようだ。」

「ああ、どうやら勇者の剣、盾、鎧の勇者特有の魔法?が特殊なだけだな。好きな能力を付加出来るか…。」

「能力付加に限度はあるみたいだが、そこそこには便利だろう。騎理、お前がなってみたらどうだ?」

「俺が?そうだなぁ、勇者って響きはあまり好きじゃないがやってみてもいいな。てか、慎悟こそ勇者をやってみろよ?」

「私はもっとも安定していそうな剣士をやる。勇者は私から見ればバランスが良くない。勇者の武具に頼りすぎているように見える。」

「おいおい、それなら俺に薦めるなよ。」

「いや、騎理ならばうまくやってくれると思ったのさ。」

「はん、好きに言ってくれる。で、真矢は何にするんだ?」

真矢は慎悟と騎理の会話をぼんやりと聞いている風だった。

「わたくしですか?そうですわねぇ……。」

一覧表に目を通すがなかなか決まらないようだ。

「魔術師か、神官なんてどうだ?あんまり、前に出て殴り合うのは好みじゃないだろ?」

「そうですね、では魔術師にいたしますわ。」

こうして生徒会組のクラスが決まった。

「まぁ、生徒会メンバーといっても美綺がいないが。」

「美綺は光騎君のほうだろ。」

ということで、光騎組のほうに視点が移る。

「そもそも、皆で行動するのかしら?」

奏歌がさきほどから思っていた疑問を口にする。

「え?僕はそれぞれが好きに動くものだと思ってたんだけど。」

「そうじゃないのー?慎悟達もそんな感じだし。」

光騎と美綺が答える。

「お兄様をリーダーにして、美綺さん、奏歌さん、貴人さん、シロウさん、麻衣ちゃん、そして眞彩がメンバーだよね♪」

光騎の背中にガバッと抱きつく眞彩。美綺と奏歌が眞彩を睨むが、どこ吹く風の眞彩である。

「あ、俺、リーアさんについていくから。」

シロウが突然、そんなことを言った。

「病的なまでのメイド好きだな。」

貴人が冷静に切って捨てた。

「フッ、なんとでもいうがいい。」

シロウが不敵に笑う。その笑みは信念を持つものが出来る笑みだった。

シロウがリーアのもとへと駆けていくと、残ったメンバーは真面目に会議を開始した。

「それで、クラスはどうするの?パーティーを組むならやっぱりバランス良く決めないとでしょ?」

「そうだね。6人だから、勇者、剣士、魔術師、神官が基本で後はプラスα、ってとこかな?」

奏歌と光騎の会話を麻衣はコクコクと頷いて聞いている。

「俺は剣士で。ゆくゆくは騎士なんかになれることを期待する。かっこよさ重視で。」

貴人が髪をかきあげながら言った。様になってるあたりが貴人たる所以である。

「光ちゃんは、勇者やりなよー。むしろ、やるべき?」

美綺は眞彩を押しのけて光騎に抱きついた。

ぎゅー、と痛くない程度の力を込めて抱きついたので、背中に柔らかいものが!?、な光騎だった。

「じゃあ、私は神官やろうかな。あ、でも家の武術も生かしたいから、神官戦士で。」

奏歌は美綺を羨ましく思いながらも、話を進める。真面目な性格は時に損をするということだ。

「眞彩はねー、うーんと、武闘家をやってみるよっかな♪」

アチョー、ってな感じで構える。回し蹴りなんかやったらスカートの中が見えるのにおかまいなしである。

それはさておき、おずおずと手を上げて自己主張する麻衣。

「はい、麻衣ちゃんどうぞ♪」

見えないマイクを差し出す美綺。光騎達から注目されて頬を赤らめる麻衣。

「えっと、私、アーチャーをやろうかな、って思って……。」

次第に声が小さくなっていく。自信なさげに麻衣は話すのだった。

「そっか、麻衣ちゃんはアーチェリー部だもんね〜。」

美綺が納得したように頷く。麻衣も、そういうことなんです、といった感じでコクコクと頷く。

「ところで、美綺姉は何にするの?」

さっきから人のことばかりで、自分のことはほったらかしの美綺。

光騎にそう言われて少しばかり考えたあと、こう答えた。

「よし、サイコロか、なんかで決めよう!」

適当に決める気である。

『え〜!?』

皆から非難の声が上がる。しかし、自分ルールで生きる美綺には関係ない。

「何がでるかな♪何がでるかな♪」

なんだか楽しそうな美綺だった。

視点は再び変わる。

葵がはしゃぎ疲れて柔耶のいる所へと帰ってきた。

「おかえり、アオ姉。」

「つかれたぁー。」

そう眠そうに言うと、柔耶の足を自分好みの高さに調節し、それを枕にして寝た。

本気寝である。

「……あーあ、寝ちゃった……。」

柔耶は特にそれを迷惑そうでもなく、むしろ慈しむように眺めた。

心地良さそうな寝息を聞きながら微笑む。

流れるような髪をすきながら、葵が目を覚ますのを待つことにした。

葵を起こさないように小声でリーアを呼ぶ。

「時間制限とかないですよね?時間までにここを出ていかなきゃとか。」

リーアは葵をチラリと見たあと、微笑んで言った。

「大丈夫です、ありませんよ〜。準備が出来次第出発していただいてけっこうです。」

「分かりました。ありがとうございます。」

「いえいえ〜。」

柔耶はリーアを見送ると、再び膝の上で眠る葵を見た。

起こさないようにしながら葵の綺麗な長い髪をくるくるといじっていた。

「クラス、どうしようかなぁ…。」

そう呟きつつも、葵のやりたいものを優先させて、それを補うものをやるつもりでいた柔耶。

過保護なまでに葵に甘い柔耶である。




縁とゆかりと時也がクラス一覧を見ている。

「いきなり魔王を倒せって言われても無理だよなー。」

縁はやる気無さげに言った。ゆかりもそれに頷く。

「私達が倒さなくても他の人がやってくれるんじゃないのかな?」

ゆかりは慎悟達の方を見る。きっと、自分達とは違って真面目に議論をしているに違いないと思っていた。

「うん、僕もそう思うな。そういう面倒なことはやる気ある人にやってもらって、僕はコックでもやろうと思うよ。」

時也は特技の料理を、この世界でより高めるつもりである。

「俺はシーフだな。俺の足を生かせそうだから。」

ただそれだけで縁はシーフに決めた。

ゆかりはやる気無いにしてももうちょっと考えればいいのにと思ってため息をついた。

「私は神官かな。一番危なくなさそう…。」

ということで、なんだか適当というか無難というか、そんな感じで3人はクラスを決めてしまった。

さて、刀夜達はというと…。

「まぁ、あれだな、刀夜が勇者ってのは決まってるよな。」

事も無げに衛星が言った。一同頷く。

「うん、いいよ。」

刀夜も特に異論も無く即答した。

「問題は私達よね。いかに刀夜をサポートして、刀夜を英雄にするか。」

シルビアの言葉にやはり一同は頷く。

皆の気持ちは一つ、ただ刀夜のためにである。

「俺は剣士をやる。」

「じゃあ私は魔術師ね。」

衛星とシルビアが決まった。

「私も魔術師をやろうと思いますわ。この世界では私の家の力は使えませんから、魔術師として刀夜様をサポートします!」

メイディア嬢はやる気満々である。

「では、私は神官を。シーフはいりません。このシーフで身に付く技能は既に大半を習得済みです。」

「わぁ、櫻さんは凄いんだね。」

「メイディア様の近衛ですから、なんでも出来ないといけないのです。…今は刀夜様の近衛でもありますが…。」

刀夜の素直過ぎる誉め言葉に少し顔を赤らめながら櫻は答えた。

「私は神官戦士をやるからね。剣士よりじゃなくて、武闘家よりのほうで!」

ブンッ、と拳を突きだす菫。かなり様になっている。

「えぇ、菫は自慢の怪力を存分に生かしなさい。」

「怪力言うなーっ!」

ムキーッ、てな感じで櫻に反論する菫。櫻はそれを軽くあしらう。

「これで決まりましたね。少しバリエーションに欠けていますが、それぞれの努力でカバーしましょう。」

『賛成ー。』

こうして刀夜騎士団のクラスが決まった。ここで、刀夜はふと疑問に思ったことを口にする。

「ところで、なんで魔王を倒すのかな?」

そもそもの根本な疑問である。

「そりゃあ、魔王ってのは悪い奴だって相場が決まってるからじゃないか?」

と衛星は答える。メイディアや菫も同意見らしく頷く。

「そうね、やっぱり殺戮だったり非道な搾取を行なったりするんじゃないかしら。」

「もしくはこの世界のどこかの国の王が、そう呼ばれているのかもしれません。そうすると我々は国相手と戦うことになりますが。」

シルビアと櫻が真面目に答える。

刀夜は皆の言葉を聞いて少し考える。

「うーん、やっぱり人間が相手だと戦いにくいから、人間離れしてる魔王だったらいいかなぁ。」

のんきな刀夜だった。

「実際問題その方がいいよな。てか、俺達みたいな素人が戦えるのかね?」

衛星がこの物語の根底を覆しかねないことを言いだす。

「そうね。この世界の人達より、基本能力が高くて、適応能力が高いとはいえ無理矢理な話よ。」

シルビアもその辺りどうなのよ?、って感じである。

「大丈夫ですよ〜。世界の修正力が働きますから、こっちに召喚された時点で、感覚というか心構え的な部分がこっちの世界に合わせて修正されますので。モンスターがいる、魔王がいる、魔法があるなど、あちらの世界で言うファンタジー的な要素が当たり前になります。もちろん、現実でもあるので死なないように気をつけて下さいね〜♪」

リーアの補足説明。下手をすると死ぬということを笑顔で言われてもなぁ…、と何人かは思った。

「きっと皆、無事に帰ろうね。」

刀夜は皆を見回して、誰もかれもを安心させるような、平穏をもたらすような笑顔で言った。

皆、心の奥がほんわかして頷いたとさ。

その頃、前髪で隠れた瞳で状況を観察していた仁は、クラス一覧をもう一度だけ確認した後に慎悟達の方へと近付いた。

そして目配せして慎悟を呼ぶ。

「どうした、仁。」

「慎悟、俺もおまえ達についていく。まぁ、途中までだが。」

「ふむ、仁はどう行動するつもりだ?」

慎悟が問いかける。仁は前髪に隠れた瞳をギラつかせて答えた。

「俺は影だからな。お前達が表立って動いている間、裏で動かせてもらう。この召喚とやらに気に食わないところがあるんでね。」

ニヤリと笑う。風貌はだらしないが、雰囲気は凄味があった。

慎悟は頷くと仁にまかせることにした。




「ところでリーアさんのクラスってなんなんですかね?」

疑問が出るたびに駆けつけては、疑問に答えるということをやっているリーア。

それに付いてまわるシロウが尋ねた。

「メイドですよ〜。」

「ですよねー。」

シロウはメイド、キタ―(°∀°)―!とか思いながら密かにガッツポーズをする。

「やっぱり誰かに雇われてるんですか?」

「いいえ〜。今はフリーのメイドです。私は仕えるべき真のご主人様を探しているのですよ〜。」

ニコッと可憐に笑う。シロウはその笑顔にクラクラしながらも、足のチェックを忘れなかった。

足フェチの性である。

「それなぁ、軽い変態だぜぇ?」

雅輝がさりげなく現れて急所を突いた。

「足ならなんでもいいってわけじゃないんだよぉ!」

シロウの魂の叫びだった。

「うるせぇ。」

ボキャッ、と少し嫌な音がしてシロウは殴り倒された。雅輝の口より手が出る悪い癖が出たのだ。

「雅輝様はクラス、お決まりですか?」

ピクピクしてるシロウはほったらかしで話が進む。

「決めてねぇ。てか、クラスとか俺はいらねぇな。」

雅輝は煙草に火をつけると、うまそうに吸った。

「クラスは便利ですけどね〜。そのクラスに適した技能なら、普通に習得するよりも早く習得出来ますし。」

「ほう、そりゃ便利だな。だがな、そんな便利なものがあるのになぜ異世界の人間に頼る必要がある?俺はそこが気に食わない。」

「それは基本能力が低いからですよ〜。」

「基本能力、ってのは体力、筋力、器用さ、敏捷、精神力、知力、魅力ってとこだろ?努力次第でなんとでもなるだろうが。」

ぷっは〜、と煙を吐く雅輝。なんとなく、死に体のシロウを蹴る。

いい所に蹴りが入ったらしく、ビクンビクンと危ない雰囲気のシロウだった。

「私に言われましてもね〜。それがルールみたいですからー。」

リーアは手を頬に当てて首を傾げ、困った表情を浮かべる。

「あんたを攻めるつもりはないぜ?とりあえず、俺はしばらく踊らされておくさ。要は静観ってことで。」

雅輝は次の煙草に火をつけるとまたうまそうに吸い始めた。

そして話がまとまったら呼んでくれ、と言ってその辺に寝転がった。

「シロウ様は決まりましたか?」

「う〜ん、ガンナーで決まり…、ムニャムニャ…。」

半分以上意識が無い状態でシロウが答える。

心地良い感覚に身を委ねていると、何か違和感を感じた。

(俺は先生に蹴られて地面に転がされた。ならば地面は堅い。そんで冷たい?でも柔らかい。しかも、温い。……ということは地面じゃない……?)

「じゃあガンナーで登録しますよ〜。」

「は〜い……、ちょっとぉぉ、待ったぁぁ!これはなんだぁ!?鳥か!?飛行機か!?いや、太ももだぁぁ!」

リーアに膝枕されていたシロウ。一瞬で覚醒した勢いで太ももを、グワァシッと掴んだ。

テンションにまかせて軽く揉んでみる。

「ふぉぉぉぉー!?」

未知の感覚が頭の中を駆けめぐったあげく、ブチッと音がして何か壊れたシロウは気を失った。

「あらあら〜。」

リーアはシロウのセクハラをものともせず、とりあえず瞳孔が開いていないことだけを確認するとそのへんに適当に置いといた。




「君達のクラスが決まったようだ。中にはクラスを持たないものもいるようだがここに一覧表を用意した。各自確認してくれ。」

ガイドがリーアに一覧表を壁に貼らせる。

そこにはズラッ、と名前とクラスが記されていた。



光騎 勇者 奏歌 神官戦士 美綺 魔術師 眞彩 武闘家 貴人 剣士

麻衣 アーチャー

刀夜 勇者 衛星 剣士 シルビア 魔術師 メイディア 魔術師 櫻 神官 菫 神官戦士

縁 シーフ ゆかり 神官 時也 コック

雅輝 なし シロウ ガンナー

慎悟 剣士 真矢 魔術師 騎理 勇者 仁 武闘家



「まだ決まっていない者がいるようだが…」

ガイドが見回す。

「おかまいなくー。」

銃耶が手を振る。膝には葵がスヤスヤと寝ていた。

「では進めようか。各自、財布を確認してくれたまえ。」

ほとんどのものが何を言ってるんだ?、っと思いながらガイドの言葉に従う。そして誰もが思った。

『なんだこれ?』

そう、本来入っているはずの見慣れた紙幣、硬貨ではなく、元の世界で見たことも無いものが入っていたのだ。

「それがこの世界の通貨だ。世界移動した際に、元の世界の貨幣が両替されたのだよ。」

ガイドが説明する。

「貨幣価値はどうなっている?」

「10Gあれば普通に一日は暮らせます。」

「ふむ、ならそこそこ持っていることになるな…。」

慎悟が頷く。人によっては少なさに嘆いている。

「まずその金で装備を整えるがいい。」

「くれないのかよ!金とるのかよ!」

「世の中はそんなに甘くない。」

縁はつっこむがガイドに一蹴された。

「全ての種類、サイズは揃えてますから、自分に合ったものを購入して下さいね〜。」

誰もが、ここで買えるんだ…、とか、なんかのせられてない?、などの世の中の理不尽さを感じながら装備を選び始めた。

クラスに適したもの、自分の好みのもの、財布の中身具合に合わせたものなどそれぞれが装備を整えた。

「刀夜、剣はいらないのか?」

ハードレザーとスモールシールドしか持っていない刀夜を見た衛星が尋ねる。

「うん。ほら、『勇者の剣』があるしね。」

そう言うと刀夜の右手が光って光りの粒子から一振りの剣が現れた。

「もう出来るの!?」

衛星どころか、刀夜が剣を出すところを見たものは驚愕の表情だ。

「うーん、なんだか『勇者の盾』も出来そうな気がする。」

「ストッ〜プ!刀夜、お楽しみは後にとっておこう!なっ?」

「そう?」

左手に淡い光を帯び始めていたが衛星の言葉で消えた。ついでに剣のほうも消える。

「はっはっはっ、有望な勇者だ。」

ガイドが頼もしいな、といった感じで笑う。

「なんとなくさ、『出来る』、って思ったんだ。ん?理解した、が正しいかな?」

「ふむ、クラスに属した状態で一定の存在力に達すると、技能が使えるようになる。熟練するには修行が必要だがな。」

「てことは、刀夜の存在力とやらは、いきなり勇者の剣、盾を使えるほどなのか。」

衛星は刀夜の肩に手を回して、片手は頭をワシワシと撫でる。

「そうなるな。」

「クラスを極めるには存在力を高めるということかしら?」

シルビアの問掛けにガイドが頷く。

「それはどうやって高めるのです?存在力とは曖昧なものの印象を受けますが…。」

櫻に問いにガイドは簡単だ、と言う。

「存在を奪えばいい。平たく言えば、存在するものを殺せば自分の存在感が増す。モンスターでも、人でも。」

殺す、命を奪う、平和な、少なくとも自分達の周りは平和だった元の世界からは縁遠いことだった。

しかし、世界の修正力が働いている今、誰もがそれを受け入れていた。

そういうものなのだと。

「他にも存在力を増す方法はありますよ〜。」

リーアが付け足す。

「存在力とはまさしく存在感のことです。なので、誰もが認める、誰もが知っている、誰もが恐れる、要は有名になればいいんです。英雄でも、魔王でも。」

「ということは、魔王が力を持つというのは誰もが知っている、恐れているから?」

真剣にリーアの説明を吟味していた慎悟がその答えをだした。

「正解で〜す♪」

リーアはどこからか取り出した花輪を慎悟にかけた。

「…むぅ…。」

残念ながら慎悟にツッコミ技能は無い。花輪をかけられたままで、話はすすむ。

「存在を奪う、存在を認めさせる。これが、クラス、いや、この世界で力を手にする方法だ。」

「元々、存在力が高い人もいますね〜。刀夜様に、光騎様、慎悟様も高いほうですね〜。」

人を惹き付ける人ほど存在力は高いです、と付け加えるリーア。

ここで騎理が手をあげる。

「はいどうぞ騎理様。」

「もしかして、さっきの、えー、刀夜だっけ?が剣を出して、あいつすげぇなとか思ったのは刀夜の存在を認めたことになって、刀夜の存在力が増したりするのか?」

「微量ではあるが増しているだろう。」

「存在感が力になるのか…。」

騎理はつぶやくように言うと理解した。

「ようはあれだろ?RPGの経験値貯めてレベル上げるのと一緒だろ?」

縁が発言する。ゆかりがゲームと一緒にしちゃあダメだよー、と慌てていた。

「ま、そういうことだろうよ。ガイドさん、他に言っとくことが無ければ、習うより慣れろ、ってことで各自おいおい理解していくでいいんじゃねぇか?」

雅輝が煙草を捨てて火を踏み消す。ポイ捨てである。

「うむ。質問が無ければ、君達を世界の各地に飛ばそう。」

複数のグループならしっかり固まってくれ、と指示する。

各々が、グループごとに固まると次の言葉をまつ。

「では、君達の幸運を祈る。」

仰々しい身振り手振りでガイドが言った。それぞれの足元が光り輝く。

その輝きは次第に強くなりそこにいる者達を包みだす。

この世界に来た時の光に似ていたが、もっと薄い、稀薄なもので違うものだと感じた。

体が浮きあがる感じ。まるで、己自身が光の粒子となるような錯覚の中、光に包まれた者達は白の部屋から消えた。

「さて、今回はどうなることやら…。」

ガイドは消えた場所を見ながら呟いた。

「てか、アオ姉がまだ起きない…。」

柔耶が苦笑いを浮かべながら葵の頭を撫でていた。

お気軽に叩いてやってください、喜びます(笑)

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