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ここは砂漠の中のオアシス。
溢れる水を見ているだけで熱風が和らぐ気がした。
「・・・ひとまずは水と食料の補充だ。」
さすがに疲労を隠せないガナート。
補充が終われば一晩は宿で休むつもりだった。
「値段はぼったくりですけどね〜♪」
口調とは裏腹に困った表情のリーア。
二人は少ない店舗を巡って必要なものを揃えた。
そして、唯一の宿を目指して歩く。
その時、空気にピリッとした緊張が走った。
「・・・なんだ今のは?」
「なんでしょうね?」
不吉な感覚。
背筋がゾクリとする嫌な感じ。
オアシスの住人達もざわつき始めた。
砂漠が揺れる。
「・・・モンスターの気配がする。」
そう呟いてガナートは走り出した。
「うーん、追いかけるしかありませんね〜。」
スカートのすそを軽く持ち上げて、ガナートの後を追うリーア。
オアシスの外、小高くなった場所を二人は目指した。
地響き。
遠慮なく大地を揺らす存在があった。
恐竜の如き体躯が地を駆ける。
それも1匹や2匹ではない。
数十頭の群れ。
さらに超巨大化したミミズのような生き物までいた。
地中を海のようにザブザブと潜行しながら砂漠を突き進む。
他にも大小様々なモンスターが大波のように押し寄せてきていた。
「俺が倒れたことの影響がここまでとは・・・!?」
戦慄を隠せないガナート。
自分の責任とはいえ、あの大群の中に飛び込んで行く勇気は無かった。
「あれだけの規模ですと、このオアシス程度だと飲まれますね・・・。」
冷静に分析するリーアだが、焦りは無かった。
「今から逃げても間に合わないな・・・。」
飛び込む勇気が無くとも、出来るだけのことをしたかった。
例え、再びこの命が尽きても。
それが、使命を全う出来なかった者の責任。
「責任は取らないといけない・・・。」
足がすくむ。
心臓が不整脈にでもなりそうだった。
それでも、ガナートは前をみつめていた。
「リーア、お前はオアシスに戻って住人を避難させてくれ。
俺はここで出来るだけ食い止める。ほんの少ししか止められないだろうけど。」
まだ決意は出来ていなかったが、時間がない。
ぶっつけ本番で、当たって砕けてやるしかなかった。
「ふふふ、ガナートさん。私もそれなりに正義感とか持ってたりするんですよ?」
万能メイドはその場でクルッと一回転してみせた。
その手にはピンク色のメガホン。
「・・・なんだよそれ?」
この場にそぎわないものが出てきて、うさんくさげな顔をするガナート。
そんなガナートを無視して、
「これは長距離通信が出来る優れものなんですよ?一方通行ですけど。」
ほんわかする笑顔で商品説明をするリーア。
「・・・それって糸電話にも劣らねぇか?」
「ごちゃごちゃ言いっこ無しですよー♪」
有無を言わせず、メガホンを口に当てる。
空気を目一杯吸い込んで、リーアは・・・助けを呼んだ。
『レジストさーん!助けてくださーい!』
リーアの声がずっと遠くの方まで響いた。
遠く、遠く、遥か遠くまで。
それは次元を超えての援護要請である。
濃密な気配。
ただそこにあるだけで圧倒的な存在感のあるもの。
呼吸するだけで魅入ってしまいそうになる存在など、もはや人外の領域に属するといっても過言ではない。
だから、それはひっそりと隠れていた。
まとわりつくような闇と共にひそやかに、厳かに。
息を殺して覗いていたのだ。
かつて勇者が勝ち取った世界を。
しかし、世界は移ろうもの。
今ふたたび、世界は混沌とし始めていた。
そう、魔王の復活。
この身に宿る力が活性化を始める。
世界を壊せと憎しみ叫ぶ。
「……これ以上、解放させるわけにはいくまい。」
灯りの無い、まるで牢屋のような石造りの部屋で男が呟いた。
その時、自分以外の気配が無い空間に聞いたことのある声が響いた。
「・・・この声は・・・リーア?」
『レジストさーん!助けてくださーい!』
確かにそう聞こえた。
「・・・ふむ、リーアが助けを求めるとなると、よっぽどの状況か。」
重厚な鎧が奏でる金属音を聞きながら、椅子から立ち上げるレジスト。
何もない空間にズブリと手を入れて、どこからか手鏡のようなものを取り出した。
「リーアの現在地を示せ。」
命令を飛ばすと、鏡面に世界地図が映り、東の砂漠地点に赤い点が灯った。
さらに砂漠地帯がアップになり、詳しい座標が示される。
「ここか。ん?ガナートもいるな。」
登録された人物の居場所をナビゲート出来るマジックアイテム。
ストーカーし放題である。
ふと、思いついて一定以上の存在力をもつものを表示するように切り替えた。
すると、リーアとガナートの近くに大量の赤い点が表示されたのだった。
「・・・そういうことか。」
魔獣王の消失&魔王の復活によるモンスターの凶暴化。
そして大規模のモンスターの群れ。
「対処せねばなるまい。」
再び空間に手を入れる。
取り出したるは剣。
柄の部分にナビを接続させた。
二つは対になったもの。
「跳躍剣。」
虚空に剣を突き立てる。
ズブズブと空間を切り裂いていった。
そこに出来たのは扉。
見た目は扉とは程遠いような禍々しいものだが、空間なんてものを斬ったらきっとそんなものだ。
レジストは躊躇することなくそこへ足を踏み入れた。
そして、空間を超えていく。
援護要請のもとへと。
「マジかよ・・・。」
ガナートは呆れたように呟いた。
「マジですよ♪」
楽しそうな顔のリーア。
「本気だ。」
散歩のついでに寄ってみた、みたいな態度で現れるレジスト。
真っ黒な鎧を着込んだ姿が、砂漠に似合わな過ぎた。
砂漠の暑さをものともしない、クールな表情で大群の方を見つめる。
以前は鮮やかな金髪だった黒髪が熱風になびく。
「久しぶりだな、ガナート。リセミアとはたまに会うのだが・・・。」
「あー、変わりないようで。俺もリセミアとは生き返った時に会ったばっかだ。」
いまいち会話が続かない二人。
そもそも会話を楽しむ余裕は無い状況。
「まずは蹴散らしてからだ。」
気軽に言ってのけるレジスト。
それに対してガナート達が何も言わないのは、それが容易であることを知っているから。
ただ黙ってレジストを見守るのみ。
「・・・。」
レジストは無言で大群の規模を測る。
そして、おもむろに頷くと右手を天高く掲げた。
「喰らえ、我が最大攻撃。」
パチンッと指を鳴らした音が辺り一帯に響く。
すると、砂漠の空に避け目が出来た。
腹の底から響く重低音を放ちながら、何かが現れる。
それは巨大な建造物。
凶々しい気配を振り撒きながら降り注ぐ。
災厄そのものと言っても過言ではなかった。
その存在にモンスターの大群がざわめき、戸惑い、立ち止まる。
狂気に支配されても認識してしまえるほどの脅威。
それが、大群へと落ちてくる。
「『魔王城落とし』!」
叫ぶレジスト。
同時に勢いを増して、魔王城が落下を始める。
モンスター達に逃げる暇などなかった。
ことごとく、ひしゃげて、潰された、砕かれて。
原型をとどめることなく、大群を粉砕してしまった。
一切の容赦無く、慈悲のかけらも無い一撃。
レジストは思った。
(・・・やはり俺は毒されているな。魔王の力に。)
それは魔王であるがゆえの、苦しみであった・・・。
あとがきっぽいもの。
作者「載せる順番が滅茶苦茶な気がしないでもない今日この頃。」
リーア「きっとこれで大丈夫さ!と言い聞かせる作者でした。まる。」
作者「代弁ありがとう。次はたぶん騎理の物語。」
リーア「ペースあげていきましょう!」
作者「おうさ!」
おわり
お気軽に叩いてやってください、喜びます(笑)
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