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朝、7時30分。
光騎はまだ寝ていた。
そろそろ起きて準備をしなければ学校に遅刻してしまう。
だが、睡魔は手強かった。
ダラダラと、布団の中から抜け出すことも出来ず、既に3度寝を実行中である。
その時、光騎の部屋の窓がガラッ、と勢いよく開いた。
「おはよ〜!光ちゃん♪」
窓から身を乗り出したのは美綺。
幼馴染みで、お隣さんで、窓からの行き来があるのは決まり事なのである。
「……グゥ……。」
しかし、光騎はまだ夢の中だった。
それを確認した美綺はそっと部屋の中に入る。
静かに窓を閉じ、足音に注意しながら光騎が安らかな寝息をたてるベッドに忍び寄った。
光騎を起こさないようにかけ布団を上げ、滑りこむように布団の中へと侵入を果たした。
美綺は光騎の顔の隣に顔を出すと、光騎の寝顔を微笑みを浮かべながら眺めた。
自分の腰近くまである髪を掴み、毛先で光騎の頬をコショコショと撫でる。
「……ん……。」
こそばゆい感触に光騎は顔を背けようと動かした。
光騎の仕草が可愛いらしく思えて、美綺は光騎を抱き締めたくなった。
でも、起こしてしまいそうで美綺は悩む。
いや、本当は起こさないと遅刻してしまうのだが。
そうやって美綺が悩んでいる頃、別の所から光騎の部屋を目指す者がいた。
肩ほどまである髪。
少し凜とした顔つきになった光騎の一つ下の幼馴染み。
麻衣である。
髪型が変になっていないか気にしつつ、光騎の家の玄関をくぐり、光騎の母のひかりに挨拶する。
そして部屋へと続く階段を上がった。
光騎の部屋の前で深呼吸。
今よりも気が弱くて、大人しかった頃からの儀式みたいなものである。
今は昔と違った緊張を感じながら光騎の部屋のドアをノックした。
コンコンッ
美綺はその音に、麻衣が訪ねてきたことに気付く。
光騎はその音に、眠りの淵から目覚めかけようとしていた。
麻衣は反応が無いのでもう一度ノックした。
コンコンッ
美綺はどうしようか一瞬悩んで、布団に潜り込むことに決めた。
光騎は半覚醒状態で、美綺の甘い匂いと、体の感触、今までの経験やらなんやらが脳内を駆け抜けていって、瞬きほどの時間を硬直した後、一気に目が覚めた。
「み、み、美綺ね、うわっ!!?」
超至近距離の美綺を確認し、ベッドから飛び起きる。
しかし、かけ布団に足を捕られてベッドから落ちた。
その音に驚いたのは麻衣。
躊躇うことなくドアを開けて、部屋の中へと踏み込んだ。
麻衣が目撃したのは、ひっくり返った光騎とベッドの中の美綺。
麻衣の脳裏にチラリと嫌な想像が浮かぶ。
「あ、麻衣ちゃんおはよー。」
美綺がベッドから身を起こしながら、少し乱れていた制服を直す。
「ま、麻衣ちゃん、おはよう……。」
光騎はひっくり返りながらでも挨拶を忘れない。
「光騎さん、……大丈夫?」
しゃがんで心配そうに光騎を覗きこむ麻衣。
「だ、だいじょう……!?」
光騎は発見してしまった。
しゃごみこんだ麻衣のスカートの奥、そこから白いものが見えた。
光騎は転がって麻衣の正面を避ける。
そしたら今度はタンスに頭をぶつけた。
「あわわ、だ、大丈夫ですか!?」
麻衣が光騎を追いかける。
そのたびにスカートの中がちらつくために、光騎は転がり続ける。
麻衣は自分が原因とは思っていないので、いつまで経っても終わらない。
美綺はその光景を楽しそうに眺めながら、自分も混ざるか、止めに入るかを考える。
遅刻するのは良くないと思ったので、後者を選んだ。
「はーい、麻衣ちゃんストッ〜プ。光ちゃん、着替えなきゃだから部屋を出ようね〜♪」
麻衣の背中を押して光騎の部屋から出ようとする。
「え、あ、はい。」
麻衣は、光騎が大丈夫だろうか心配しながらも、部屋から出ていった。
「……ふぅ。」
光騎は助かったと言わんばかりに、息を吐いた。
それから時計を見て驚く。
「急がないと!」
大慌てで制服に着替える光騎。
鞄を掴み部屋を出る。
階段を降りた所で美綺と麻衣が待っていた。
「あの、これ……。」
麻衣は手作りのお弁当を光騎へと差し出す。
「ありがとう、麻衣ちゃん。」
光騎は笑顔を浮かべて受け取り、大切に鞄へとしまった。
光騎のお昼ご飯は麻衣の担当なのである。
そして、光騎達はひかりにいってきますの挨拶をすると、学校に向かった。
「はい、光ちゃん♪」
美綺がサンドイッチを光騎に手渡した。
「うん。ありがと、美綺姉。」
サンドイッチにかじりつく光騎。
朝ご飯は美綺の担当である。
いつもギリギリまで寝ている光騎のために、手軽に食べれて美味しいものを用意する美綺だった。
「あっ、タマゴがついてる♪」
光騎の口元についているタマゴを指ですくいとる美綺。
そのままパクッと自分の口に運んだ。
「ん?今日のはちょっとコショウが効きすぎたかな?」
「い、いや、そんなことはないよ……。」
顔を赤らめる光騎。
何気ない美綺の行動が光騎の心臓を高ならさせた。
「むぅ……。」
麻衣も顔を赤らめさせながら複雑な表情を浮かべて、自分もやってみたいなぁ、でも恥ずかしいなぁ、と思って一人悶々とする。
なんだか端から見てると光騎がとてつもなく幸せに見えるのは気のせいだろうか?
いや、気のせいではない。
「光騎く〜ん!」
手を振って走ってきたのは奏歌。
クラスは違うが同じ学年である。
サラサラとした髪を揺らしながら光騎達と合流する。
「奏歌ちゃん、おはよう〜。」
サンドイッチを平らげた光騎は奏歌に挨拶をする。
「おはよ♪光騎君、今日はこれ。」
綺麗にラッピングした包み。
光騎が受け取り中を覗くと、クッキーが入っていた。
「おやつに食べて。」
ニコッと微笑む奏歌。
「わぁ〜、ありがとう、奏歌ちゃん。」
甘いものが好きな光騎はお菓子作りの得意な奏歌に、毎日お菓子をもらっているのだ。
「光騎君のリクエストに答えて、アーモンドが乗ってるよー。」
奏歌は他の人にも包みを配る。
光騎だけに送れないのは勇気が無いからである。
四人で雑談しながら歩いていると、横の道から人が現れ、光騎へと飛び込んできた。
「おっ兄ちゃ〜ん♪」
「ぶふっ!?」
眞彩の体当たりが光騎へ直撃する。
危うくサンドイッチが逆流しそうだったが、なんとか持ちこたえた。
「お、おはよう、眞彩ちゃん。」
「おはよう〜、んふ〜♪」
光騎の胸に顔をこすりつけ、遠慮なく甘えまくる眞彩。
三人の女の子達が羨ましいやら、妬ましいやらな視線を向けていた。
「ま、眞彩ちゃん、そろそろ離して……。」
しかし、背中に腕を回し、ガッチリ光騎を捕えている眞彩。
なかなか解放する気配は無かった。
その時、学校のチャイムの音が辺りに響きわたった。
「うわっ、遅刻だ!」
光騎の焦った声。
「眞彩ちゃん!ほら、行くよ。」
美綺が眞彩の手を掴み走りだす。
「え〜、もうちょっとスリスリしてたかったのに〜。」
不満タラタラだが、遅刻寸前なのを理解している眞彩も走り出す。
「私達も急ごう、麻衣ちゃん!」
「は、はい!」
何気に足の早い二人は瞬時に最高速度で走り出す。
「てか、毎日こんな感じだよね。」
走り出しながら光騎は言った。
もちろんそんな毎日が嫌なわけではなく、心から楽しそうに。
四人も光騎の言葉に頷く。
だが、光騎はいつまでもこの関係を続けることは出来ないことを理解していた。
(みんなの好意は理解してる。でも、僕の気持ちはどうなんだろう?)
なかなか出すことの出来ない答え。
先延ばしにしながら、今はまだこの関係を楽しむことにした。
突然、五人が駆けている時、五人の視界が違った風景へと切り替わる。
どうしようもなく白い光りに包まれた。
細胞という細胞が光へと砕かれるのを感じながら光騎達は、ここではない場所へと旅立った……。
お気軽に叩いてやってください、喜びます(笑)
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