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『おわぁっ!?こ、光騎さん!どこにいってたんですか!?』

光の奔流を抜けると、光騎は見慣れたコクピットに座っていた。

「眞彩ちゃんに召喚されて西部にいたんだけど……。」

AIの驚きの声に冷静に答える光騎だったが内心は焦っていた。

(ソフィアちゃん、眞彩ちゃん……。)

ドンッッッッッッッ!

という凄まじい爆発の音が聞こえた。

ハッチを失ったコクピット内に響く音と微かな熱風が、爆発の威力を物語る。

『む?西部の浮遊装置が爆発に呑まれたぞ。かなりの規模だの。』

聖の冷静な分析。

光騎は何も言うことが出来ずに、操縦悍を握り締めた。

(……何か、何かもっと出来たはずだ!なぜ僕は、ここにいる!)

歯をくいしばり、虚空を睨みつける。

灰暗いものが心の奥底から湧き出てくるのを感じて、光騎はそれを振り払うように頭を振った。

『光騎さん、西部の方に向かいますか?』

「……城に向かうよ。ソフィアちゃんに頼まれたからさ。」

零式を反転させると城の方向へ飛んだ。

機体を軋ませながら空を駆けていると、空中に黒い点があった。

「……あれは?」

『なんでしょうね?』

光騎とAIはそれが何なのか分からない。

『不用意に近付いてはならん!』

聖の警告の声。

その時、黒い点が瞬く間に増殖していった。

空を塗り潰してしまうのではないか、と思うほどの勢い。

そして、それは確かな存在感をもってこの世界に具現する。

オオォォオオオー!!

心をざわめつかせる音。

二体の闇の巨人。

零式と同じ背の高さだが、体格は巨人のほうがよく力強い印象。

城門の内側に降り立つ二体。

その二体は現れた瞬間に、零式を敵とみなした。

「やるしかないか!」

地上に着陸すると、excaliburを構えた。

軽い違和感。

(……機体の反応がドンドン鈍くなっていってる。)

早急に勝負を決めなければならなかった。

「簡単にいきそうにはないけど……。」

剥き出しのコクピットから見える巨人を、苦々しく眺める。

『来るぞ!』

聖の声を聞きながら、機体を操る。

二体の巨人は二手に別れて左右から迫る。

excaliburのある分、リーチに関しては有利である零式。

機体の鈍さを考慮に入れた機動で、まずは右の巨人のほうへ。

側面に回り込んでexcaliburを振るう。

斬っ先がかすかに巨人の腕の肉をえぐった。

(……腕をとったつもりだったんだけど、やっぱり誤差が出るか。

機動力が上でも、この誤差は厄介だなぁ。)

巨人は闇を取り込み傷を修復しながら、掴みかかってくる。

なんとも不器用なステップで避けつつ、再び側面から斬りつける。

今度は巨人の腕を斬り落とし、返す刃で胴を狙う。

しかし、思い通りに腕が上がらなかった。

『右肩が限界です!剣を振るうには難しい状態ですよ!』

「こんな時に!」

一瞬の硬直。

巨人達が見逃すはずもなく、突進を仕掛けてきた。

左手にexcaliburを持ちかえようとしていた光騎は、とっさに反応出来ずまともに巨人の突進を食らった。

「うわぁぁぁっ!?」

コクピット内に赤い光が明滅する。

投げ出されまいと、光騎はしっかりと操縦悍を握り締めて振動に耐えた。

仰向けに倒れた零式。

すぐに立ち上がろうと機体を操作するが、巨人がのしかかってこようと迫る。

「くっ!」

片腕が動かない状態ではなかなか立ち上がるのは困難だった。

スラスターを利用しながら腰を浮かすが間に合わない。

巨人があと一歩で零式に掴みかかれる距離に入る瞬間、突如地面から噴き出した炎に巻き込まれた。

『すごい熱量です!』

少し離れているとはいえコクピットが剥き出しゆえに、熱い空気を吸い込み光騎は咳き込んだ。

「……なんで炎が?」

凄まじい勢いの炎に呑まれて転倒した巨人。

その隙に零式を起こすと、もう一体の巨人が迫っていた。

とっさにexcaliburを構えようとするが零式の手には無く、離れた位置に落としていた。

「取りにいく暇はないか!」

壊れた右肩を突き出して、スラスターのペダルを力一杯に蹴り付けた。

突進。

シートに押さえつけられるようなGを体感しながら、巨人へと突っ込んでゆく。

お互いに容赦無くぶつかる。

右肩が右腕が、ギリギリギチギチと悲鳴を上げながらひしゃげてゆく。

巨人も同じ体勢でグイグイと力を込め、肉を潰しながら零式を破壊せんとする。

「くっ!押し通ることは出来ない!?」

『いえ!機体への負担を和らげるため、リミッターがかけてあります。

だから、リミッターを解除すればまだパワーは上がります!』

拮抗状態。

機体のダメージ量がめまぐるしく上昇する中で、光騎は決断した。

「すぐに解除して!」

(もう、この戦いで零式はダメになるかもしれない。それでも!あの巨人を倒すんだ!)

『……わかりました。解除します!』

AIの声が少しためらったように聞こえた。

だが、振り払うように明るい声でパワーの上昇率を語るAI。

光騎は気のせいだったのかと思い、戦いへ集中する。

スラスターが力強さを増し、巨人をジリジリと後退させた。

そして、バランスを崩した巨人が倒れる。

ドンッ、と零式の足を巨人の腕の肩へ。

左手で巨人の腕を鷲掴みにすると、力一杯引っ張った。

ブチブチと肉が裂ける嫌な音。

痛みに苦悶の声を上げる巨人を無視して、ただ力任せに事を進める光騎。

ついにむしりとった巨人の腕を興味無く放り捨てて、次は首に足を置いた。

激しく暴れる巨人。

巨人のこめかみを握りしめ、捻り切るようにして頭部を引っ張る。

コクピットから巨人の苦しむ様がはっきりと見える。

ミシリッと、ブチブチッと、零式の力に耐えきれず断裂してゆく巨人の首。

己の力でダメージを蓄積させながらも、巨人の首をもぎとった。

ドス黒い返り血のような闇が飛び散って、手や腕に付着したがすぐに無残した。

しばらく痙攣したようにビクビクと動いていた巨人は、完全に動かなくなる。

巨人の首を無造作に捨てた。

『右腕は……完全に使いものになりません。左腕もギリギリのところですね。』

AIの報告を聞きながら、壊れゆく零式に心を痛める光騎。

(でも、仕方がないんだ。

トリオンの人々を守るためや、もしトリオンが墜ちた場合の被害のことを考えると……。)

沈む気持ちと使命のような『勇者』としての責務が、光騎の心の中でグルグルと回ってたゆたう。

『光騎さん。私達は『道具』なんです。

性能の限界まで使ってくれることが私達の本望なんですよ。

だから、光騎さんは悲しむこともないし、悪いことなんて一つもしてないんです。』

AIの言葉は光騎の心に優しく響いた。

『遠慮せずに、ちゃんと使って下さいね?最期まできちんと♪』

明るくAIが言ったそのセリフに、光騎はただ頷いた。

excaliburを拾おうと零式を動かした時、振り向いた方に巨人が立っていた。

「まだ動けた!?」

炎に呑まれた方の巨人は表面を焼けただれさせながらも、

ゆらりと動いて零式のいる方向とは別の方向へ歩きだしていた。

進路上のありとあらゆるものを踏み潰しながら、城門へ向かう。

「もしかして、城の外へ出る気か!?」

それをさせるわけにはいかなかった。

外からの攻撃に手一杯な現状で、内側から敵が現れたとなると、混乱は必至。

(ここで、なんとしても倒す!)

なんとか動く左腕でexcaliburを拾い、スラスターを全開にして巨人の元へ。

上段に振りかぶり、零式の接近に反応を示さない巨人へexcaliburを振るう。

右肩にめり込む刃。

そのまま一気に左腰まで斬り裂こうと操作するが、ここで不運が起こった。

零式の後方の地面から飛び出す雷撃。

確かな破壊力を持ったそれは、零式の左肩を貫いて天へと昇っていった。

衝撃。

コクピット内が数秒間暗くなった。

すぐに再起動して明るさを取り戻す。

「大丈夫!?愛ちゃん!?」

激しく動揺しながら問掛ける光騎。

ノイズの後に、

『……大丈夫です!一部システムにエラーが生じましたが、許容範囲です!ですが、左腕はもうダメです!』

「わかった!なんとかする!」

操縦を受け付けない左手は、excaliburを離そうとしないので左腕を強制排除。

未練も無く左腕から離れると、スラスターと飛行石の力をフルに使って空へ。

excaliburを喰いこませたまま、もはや狂ったように城門を出ようとする巨人。

零式はexcaliburへとめがけて一気に落下した。

その勢いでexcaliburの柄を蹴りつける。

刃が巨人の肉を斬り裂き進んだ。

excaliburが地面に転がると同時に、巨人の体が滑り落ちてグシャッと音を立てた。

バランスを崩し下半身も倒れる。

『光騎さん!零式の姿勢、保つことが出来ません!』

巨人を倒したのを確認したその時、零式がついに限界をむかえた。

あちこちから火を噴きながら、地面へと落下してゆく。

「くっ!?」

辛うじてうつ伏せに地面と激突することを避けられそうだったが、

操縦を受け付けないということはどうしようもなく不安にさせた。

『舌をかまないよう衝撃に備えて下さい!』

歯をくいしばり、迫る地面に思わず目を瞑った。

訪れた衝撃は地面を砕き、次の戦いへの幕を開けさせることになるのであった……。



あとがきっぽいもの。
作者「零式大破!」
麻衣「わぁー!光騎さーん!」
作者「わははは、やっと零式が大破したぜ!自分で書いておきながら扱いに困った!」
麻衣「パワーバランスですか?」
作者「だって、絶対強いじゃん。ドラ〇エにガン〇ム出たら最強でしょ?」
麻衣「……はぁ。」
作者「まぁ、零式には色々ハンデがあったので助かった!とにもかくにも、クライマックスへと突っ走るぜ!」
麻衣「はい!」
                              おわり



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