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崩落してゆく。

はっきり言って予想外の展開。

重力に逆らうことも無く、落とし穴にはまってしまった感じ。

激しい衝撃に揺さぶられ、気持ちが悪い。

ただ耐えることしか出来ずに、衝撃が早く収まることを期待した。

粉塵が舞い、瓦礫が山積みとなる。

シェイクされた脳が休息を求めているが、あっさりと無視をして辺りを見回す。

そこはどう見ても、地下施設だった。

見たこともない材質の壁、だったものがそこら中に転がっている。

向こうを見ると通路が続いていて、ここの広い空間へと繋がっているようだ。

広い空間?

城の地下?

まさか、ここが?



崩れ落ちた天井。

外からの空気と光が入り込み、地下特有の陰気な気配が薄れる。

「……よっと。」

覆い被さるように積もった瓦礫を、テンペストが起こす風で吹き飛ばした。

無傷の輝が現れる。

反対側の瓦礫が闇に侵食され消え失せた。

厳かに、不気味に姿を現せたのは魔王。

お互いを認識しあい、お互いがある事実に気付いた。

最終防衛ラインであった最後の隔壁の崩壊。

「隔壁が……!?」

「開いたか……!」

苦々しい表情を浮かべる輝とは対照的に、魔王はニヤリと喜悦の表情を浮かべていた。

『メイン動力炉に侵入者。迎撃システム、エラー。防衛システム、エラー。』

為す術もなく動力炉を晒して、無機質な声がこだまする。

膨れ上がる殺気。

今までがまるで遊びだったとでも言うように、殺意の込められた闇が辺りを濁らせる。

「ククッ、もうお前と遊ぶのも飽きていたところだ。目的を果たさせてもらう!」

黒い翼を広げる。

黒い羽を舞い散らせながら、動力炉へと身体を向けた。

「させるか!」

輝の纏う風がうねりをあげて、魔王の身体を叩いた。

テンペストとゴッズレイジを構え、疾風の踏み込み。

「カカッ!」

輝の突風のような斬撃を喰らいながら後退し続ける魔王。

少しずつ、少しずつ、動力炉に近付く。

(チッ!一気にダメージを与えないと意味は無いな。剣の力を使うのはここか!?)

焦りを募らせる輝。

やられるがままの魔王は、歪んだ笑みを張り付かせていた。



「ここは機関部か?」

トリオンの一番重要な場所。

ここが守れないと、他の場所での攻防戦が無駄になる。

なんとしても守りきらないと!

『……光騎さん?』

なんだか元気が無い声の愛ちゃん。

「大丈夫?てか、零式の状態は……もうダメっぽいよね……。」

『……はい。私はなんとか大丈夫ですけど、もう、機体は動かないでしょう。』

「……そっか。やっぱり無茶しすぎちゃったのかな……。」

『零式はたくさん戦いましたから、きっとこんなものですよ。

だから光騎さん、ここからは一緒に戦えませんけど頑張って下さい!』

愛ちゃんの励ましの言葉は、僕の背中をそっと押してくれた。

「……行ってくるよ。待ってて。」

『はい♪』

僕は剣を創り出した。

そしてコックピットから出て、縁に手をかけながら眼下を見下ろす。

そこには、見知った顔が二本の剣を怒濤のように振るっていた。

「輝さん?」

輝さんと戦う相手。

それは暗黒そのもの。

星の無い宇宙。

ありとあらゆる負の集合体。

絶対なる敵。

本能で瞬時に理解することが出来た。

「あれが魔王……!」

首筋がチリチリする。

寒気にも似た殺気が、心を震わせる。

怖がるな!

立ち止まるな!

目をそらすな!

「おおぉぉおおぉ!」

叫ばずにはいられなかった。

コックピットを蹴り、空中に踊りでる。

突きの形に剣を構え、重力に身をまかせる。

僕は空気を切り裂きながら、魔王へと突撃した。



「あれは!?」

輝は魔王への攻撃を止めて、叫び声と共に現れたものへと視線をやった。

魔王もそちらに興味を示したのか、ゆったりと振り向く。

「巨人を操る勇者のようだな!」

魔王はニタリッと笑って、胸の獅子に似た獣が口を開いた。

ボッ、ボッと音を立てて黒炎弾を吐きだす。

「危ないぞ光騎君!」

輝が発する警告の声。

しかし、空中で軌道を変えることは出来なかった。

「盾は!?ダメか!」

炎無効化の盾を展開する光騎だが、炎のデーモンと同様に闇属性の混じっているため無効化が出来ない。

もし、光騎の盾が『炎』のカテゴリーに入るもの全てを無効化するのであれば可能であったが、

『炎属性』を無効化するのが光騎の盾の能力であるため、黒炎弾を消し去ることは出来ない。

『我が主のために、我は剣でも盾にでもなろう!』

光騎の目の前の世界が一瞬ブレた。

そして、突如具現したのは、聖であった。

「聖ちゃん!」

『まかせるがいい!』

聖は二本の剣を交差させ、全ての黒炎弾を受け止めた。

黒い炎は聖の剣を腕を焼き尽くしながら侵食しようと突き進む。

『はっ!』

気合を込めて黒い炎を振り払う。

しかし、稀薄になる聖の存在。

『……む、本体と離れ過ぎたか。主よ、後は頼むぞ。』

「聖ちゃん!?」

不敵な笑みを残して、薄れて消えた聖。

光騎は聖の無事を信じて、剣に力を込める。

「わあぁぁあぁぁ!」

魔王の頭上へと降りかかる光騎。

自分をここまで連れてきてくれたもの達を想いながら剣を突き出した。

「属性も付いていない剣で!」

闇が自動的に魔王を囲む。

『結界』が光騎の攻撃を阻もうと動いた。

「うおおぉぉおぉー!」

剣が闇の結界に接触。

それは一瞬にして亀裂が入り、硝子を砕くよりもたやすく粉々になり散った。

「なに!?」

魔王が初めて驚愕の表情を浮かべた。

全ての結界を貫き、光騎の剣が魔王の身体へ喰い込んだ。

光騎の剣は、結界破りの剣。

『結界』というカテゴリーに入るのであればあらゆる結界を破る。

あの聖都リプルを囲む結界ですら無用の長物となるのだ。

「ここだぁっ!!!」

輝は全ての結界を無くした魔王に向けて、ゴッズレイジの力を解放した。

「喰らいやがれ!神々の咆吼!」

ゴッズレイジが光へと変換される。

強烈な光であるはずなのに、その光は目を焼くことも無くただ闇だけを照らす。

声無き声は、もしかすると神々の叫びに似ていたのかもしれない。

音波のように反響する光に包み込まれる。

「おおぉぉおおおぉぉぉぉっ!?」

ボロボロと崩れる。

ぽろぽろと剥がれる。

光の中に溶けてゆく魔王。

ほどけてゆくゴッズレイジ。

その全てがほどけ切ると、光が収まった。

ゴッズレイジが剣が丘に収納された。

「……やったか?」

光騎の剣で貫かれた魔王はいない。

きょとんとしている光騎がいるだけ。

辺りを油断無く見回しながら光騎へと近付いた。

「……輝さん。色々尋ねたいこともありますけど、今はいいです。……魔王は?」

「うん。完全に捉えたから、例え生きていても無事ではないと思うんだけど……。」

二人で辺りを警戒。

ガラリッと瓦礫が崩れた以外には音が無い。

「倒せた?」

「……。」

輝はまだ嫌な感覚が離れなかった。

より目をこらす。

動力炉を睨むようにして。

「……!?」

微かに闇の気配。

微弱過ぎて、地下の暗闇に紛れてしまいそうな闇。

それは動力炉に張り付いて、何かをやっていた。

「貴様!何をやっている!?」

輝の今の感情を現しているかのように、テンペストから風が吹き荒れる。

『ふはっ!ふははははははははっ!!!お前達ごときに我を滅ぼすことは出来んよ!!』

魔王の耳障りな声。

不安を呼び起こすような声が響く。

『我は喰らう!この力を!そして、この世界も喰らってやる!』

動力炉に張り付いた闇がうごめいた。

何かを吸いあげるように、何かを飲み込むようにして、その闇を増大させる。

「あれって、もしかして動力炉を!?」

「……喰らっているのか!?」

ジクジクと広がる闇。

巨大な空中都市トリオンを動かす膨大なエネルギー、いや膨大な魔力を喰らってそれを力とする。

動力炉を取り込みながら、膨れあがる存在。

「……これは、さっきよりも強くなるぞ!」

「と、止めないと!」

二人は剣を構えた。

二人が駆け出そうとした瞬間、

「待て!動力炉が壊れればトリオンが墜ちるぞ!」

朔夜の声だった。

光騎が思わず振り向くと、数人の護衛を伴った朔夜が駆け付けたところだった。

「……仕方ないじゃないか。魔王が力を付けてしまうぐらいならトリオンには犠牲になってもらう。」

「そんなっ!?」

輝は非情な決断を下した。

「しかし、トリオンの人々が犠牲になれば、その分負の存在力が増すことになる。」

朔夜の言葉。

しかし、輝は首を横に振った。

「ここで魔王を倒しておけば例えトリオンが墜ちても時間稼ぎにはなる。次に繋げることが出来ればいい。」

テンペストが風を収束し始めた。

これ以上言葉が通じることは無いと判断し、朔夜は黙り込む。

(……一体、僕はどうすれば!?)

光騎が答えを見つける前に、テンペストから暴風が放たれた……。



あとがきっぽいもの。
作者「続きは早めに書きます。」
麻衣「あっ、断言しましたね。」
作者「大いに盛り上がるところだからね。ノンストップで行きたいのが本音さー。」
麻衣「全力で書ききるがいい!」
作者「うおおー!」
              おわり



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