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それは、あまりにも予想外で衝撃的な出来事だった。

完全に油断した意識の中で起こった、輝への致命傷を与える攻撃。

だが、凍りついた時間は一瞬。

一番魔王の近くにいた九条は、瞬時に頭を切り替えて攻撃体勢へ。

「ふっ!」

鋭く呼吸を吐いて抜き放つ居合い斬り。

『甘いな!』

闇の障壁が展開され、いともたやすく斬撃を阻んだ。

九条は舌打ちをして、腰に差したもう一本の刀を抜き放つ。

黒いジャケットを天空の強い風にはためかせながら、恐れを知らぬ踏み込みで魔王の間合いを侵略にかかった。

『貴様と遊んでいるヒマはない!』

両手を天に掲げて勢いよく振り下ろすと、黒い刃が駆けた。

「ちぃっ!?」

舌打ちをして、十字に交差させた刀で受け止めた。

勢いが弱まることがなく、そのまま押される九条。

その隙に魔王は、満身痩依の輝へと手を伸ばした。

『クックックッ、我が剣を返して貰おう!』

ズブリと魔王の指が、輝の身体へめり込んでゆく。

「ぐうっ!?」

闇の侵食してくる痛みにうめき声を上げた。

探るようにして指を動かし、輝の中へ封じられた闇の気配を探す。

そして、かすかに感じた闇の感覚をたぐり寄せ始める。

『……見つけた。見つけたぞ!』

求めていた剣に指が引っかかった。

柄を確かに掴み、引き寄せる。

剣が丘の奥の奥に突き立てられた魔王の剣。

ドプリと音を立てて、輝の身体から姿を現してゆく。

『これだ。これこそ我が求めていた剣!』

禍々しい濃厚な闇を振り撒きながら、外界の空気に触れる。

「……や……めろっ!その手を……離せ!」

ゴブリと赤黒い血を吐き出しながら、魔王の剣を握り押し戻そうとした。

手から流れる血と、侵食する闇を気にすることなく渾身の力を込める。

『もう、お前はおとなしく死んでいろ。』

空いた腕を振り上げて輝の顔面に拳を叩きつけた。

顔の形が変わるまで何度も、何度も。

抵抗の力が弱まり、魔王の剣がズルリと引き抜かれてゆく。

魔王の顔には、冷酷で残忍で狂喜を混ぜ合わせた笑みが浮かんでいる。

やがて、魔王の剣は完全にその姿を白日の元に晒した。

『……我が剣、今、我が手に!』

何も聞こえなくなるような静寂。

嵐の前の静けさ。

この後に訪れるのは、圧倒的な破壊と絶望。

あっという間に起こった目の前の事態に、光騎達は何も出来なかった。

膨れ上がる闇と殺気。

ここにいたくはなかった。

いや、いてはいけなかった。

だって、殺されてしまうから。

あの怖い剣で腹を捌かれて、膓を引きずり出しは引き千切る。

ばら蒔かれたそれは、風に吹かれて血風となり、大地を腐らせた。

そんな絶望的な光景を幻視する。

「……そんなことは絶対にさせないっ!!」

光騎は喉がはり裂けそうな程の声で叫んだ。

不吉な悪夢を振り払うように、明日への一歩を踏み出すように、凛と背筋を伸ばした。

構えた神牙偽刀の刀身が日の光を浴びてきらめいた。

勇者のその姿は、他の者達の心に勇気を取り戻す。

奏歌は拳を持ち上げ、ソフィアは腰の剣を抜き放つ。

眞彩は召喚の準備を整えて、美綺は聖剣の刃を創り出した。

九条は髪をかきあげながら笑い、ダイルは大剣を振り回して気合を入れた。

麻衣は光騎の隣に並んだ。

「光騎さん、結界破りの剣は?」

「ん?あるよ?」

光の粒子が集まり、剣を形作る。

「障壁を突破しないことには大してダメージを与えることが出来ません。

魔王にトドメをさしきれなかったのは四つに分断した時に結界破りの剣が離れて、

障壁を張ることが出来るようになったので、輝さんの光の刃を防いだんじゃないでしょうか?」

「……そっか、それで僕達が隙を見せるのを窺っていたんだね。」

輝が立っていた位置のすぐ後ろの地面に穴が開いていた。

「おそらく、光の刃で削った地面を潜り、輝さんの背後に回ったんですね。」

麻衣はグングニルとコキュートスを構え、有効そうな手札を選び始めていた。

(……とりあえずは、結界破りの剣を当てないと……。)

どれを提示するかは決まった。

後は行動に移すだけ。

『カカッ!我を楽しませてくれるのかな?』

魔王は脱力した様で、ニヤニヤと見下した笑みを浮かべていた。

「……深深。」

魔王の表情を歯牙にもかけず、麻衣はコキュートスの力を発動させた。

魔王の頭上に雪が降り始める。

『む?』

ちらちらと降っていたそれはあっという間に吹雪となり、魔王の視界を覆った。

「結界破りの剣を貸して下さい。」

光騎から結界破りの剣を受け取った麻衣は、刀夜の盾を使って空中を駆けた。

「ダイル、俺達の役目はわかってるな?」

ジャケットを脱ぎ捨てる九条。

「おうよ。復活の指輪を持ってるものの特権だな。」

絶望の中にいながらも溢れ出る笑み。

それは為すべきことのある証なのかもしれない。

『さて、どうくるつもりだ?』

剣を構えることもなく余裕たっぷりに吹雪の中で佇む。

麻衣は上空でグングニルを振りかぶって投げつけた。

ヒュンッと風を斬り裂く音がして魔王へと突き進む。

『……ヒット&アウェイといったところか。小賢しい。』

立ちのぼる闇がひときわ力を増し、魔王は全身を覆う闇の密度を上げた。

迫るグングニル。

しかし、簡単に闇によって弾かれてしまう。

魔王の剣を取り戻すことによって増した、魔王の基本能力。

「……さっきまでの攻撃はもう届かない。」

戻ってきたグングニルを掴むと、居場所を悟られないよう移動。

(……さっきまでの攻防は例え結界破りの剣が無くても、まだなんとかなる感じだった。

でも今の魔王は……。これ以上、力を取り戻させるわけにはいかない!)

刀夜の盾を助走のつけられる量の分だけ展開させた。

次は勢いをつけてグングニルを投げる。

『喰らわんよ!』

結果は同じだった。

懲りること無く、次の行動へ。

「爆発の矢、氷結の矢、嵐撃の矢、雷鳴の矢、火炎の矢、光塵の矢……。」

特殊効果を持つ矢の連撃。

武器化の指輪で魔石を次々と矢へと変えて放つ。

吹雪の中でそれらが着弾しては、効果が発動する。

『……。』

それでも、魔王は涼しげな顔で立っていた。

麻衣は効果を表すことが無くとも、それを続けた。

なぜなら本命は別にあるから。

「麻衣たんからの合図があれば突入する。」

九条とダイルと光騎の前衛組と、その他後衛組に分かれて合図を待った。

「合図って、連絡手段があるんですか?」

光騎が九条に尋ねる。

九条は首飾りを指差して、

「これと対になってるやつを麻衣たんが持ってるんだ。これで連絡が取れる。」

通話の首飾りの説明をする九条。

その時、首飾りが淡く輝いた。

『今です!』

麻衣の声。

光騎達にはあの吹雪の中で何が起こったのかはわからなかった。

それでも麻衣への信頼は確かなもの。

全員が頷き、駆け出した。

『これはっ!?』

驚愕の表情を浮かべる魔王。

その胸に突き立っているのは、結界破りの剣を先端に紐でくくりつけたグングニル。

他の攻撃の隙間にそっと忍ばせて投げつけたのである。

グングニルの追尾能力を生かした戦法であった。

『だが、こんなもの抜いてしまえば……。』

突き立つ剣に手を伸ばそうとした。

だが、伸ばそうとした腕が無かった。

「そう簡単にはいかせないさ!」

傷一つ無い輝が、剣を片手にニヤリッと笑った。

『貴様!まだ歯向かうのか!』

「そりゃあ、託されたものの責務だよ。」

頭上に積もった雪を頭を振って落とす。

光騎達を招くために吹雪が止んで、光騎達が現れた。

「輝さん!?」

「やぁ、光騎君。実は魔王の真似して死んだフリしてたんだよ。」

余裕の笑み。

「チッ、生きてたのかよ。」

復活の指輪の存在を確認していた九条達は驚かなかった。

「でもタイムラグが違うよな。」

特に追求する気も無い感じで呟くダイル。

「ははは、君達のレプリカと一緒にしてほしくないなぁ。てか、その辺の話は後で。」

一時も魔王から目を離さずに輝は言った。

光騎達は目線だけで合図をして、魔王を囲んだ。

『クックックックッ、こっちが遊んでいれば調子に乗る!お前達は我の手の平で踊っているに過ぎんことを忘れるな!』

闇の波動が強まる。

心が折れそうになるプレッシャー。

痛みに耐えるかのような表情を浮かべ、光騎達は魔王へと斬りかかった……。



あとがきっぽいもの。
作者「おひさ〜。」
聖「開いたの〜。」
作者「ウィンドやってたのもあるけど、なんだかんだで忙しいのだよ。後、やる気の問題かな。」
聖「やる気減退?」
作者「むしろ空回ってるのかも。執筆以外のところに力が入ってる感じ。」
聖「ふむ。溜めの状態かのぉ?」
作者「そうかも。とりあえず、五月中に光騎シナリオ終了が目標ということで。」
聖「頑張るのじゃ!」
                            おわり



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