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世界から流れ込んでくるはずの闇が来ない。
恐怖、絶望、嫉妬、憎悪、あらゆる負の感情が入って来ない。
『……貴様、辿り着いているな?』
憎々しげに言い放つ魔王。
その言葉にニッコリと微笑む光騎。
その手は休むことなく、魔王を削り続ける。
「『勇者』だったら、そこまで行ってみたいじゃないか。」
ちょっとそこまで行ってきた、というような気軽な調子で光騎は言った。
魔王は苦い顔を浮かべながら、ただ容易に削られ続ける。
不完全で、なおかつ自動修復能力も無い魔王は、未来の光騎にとって敵ではなかった。
「きゃー♪光ちゃん、頑張ってー♪」
「光騎さん、頑張ってくださーい♪」
女子からの黄色い声援が飛びまくる。
光騎は余裕たっぷりに手を振ったりしながら戦っていた。
「……俺達って、何の意味が?」
「……前座じゃね?」
邪魔にならないように離れた所で、三角座りをして観戦中の九条とダイル。
かなりの勢いでいじけていた。
「まぁまぁ、あくまでもクロノスの能力はランダムだから、こんなこともあるさ。」
二人をなだめる輝。
「……でも、行く末はああなるんだろ?」
九条は半眼で光騎のほうを見る。
「いや、まぁ、ああなる可能性もあるということで……。」
「……けっ、やってらんねぇー。」
やさぐれる二人は、適当にその辺に寝そべってダラダラしていた。
苦笑いを浮かべた輝は戦況を見守ることにした。
一方的な戦いを繰り広げる光騎。
順調に魔王へダメージを積み重ねてゆくが、突然「しまった」という顔をした。
「あっ、時間切れっぽいかも。」
光騎のセリフ通り、身体が淡く光を放ち始める。
『ふはっ!どうやら押し切れなかったようだな!』
光騎の様子を見て、ニタリッと笑う魔王。
光の粒子となり分解が始まる身体。
「えーと、皆、後はよろしく♪」
かっこよくウィンクを決める光騎。
女子の士気は妙に上がった。
しかし、男達は冷静である。
「ちょっと待てぃ!あれをどうにかしていけよ!」
九条が飛び起きて、魔王を指差して叫んだ。
「はははー、美綺姉達とスキンシップ取った分の時間がね〜。」
「マジかよ……。」
げんなりする九条達だが、対照的に楽観的な光騎。
光騎は分解してゆきながら、魔王のほうへと顔を向ける。
「まぁ、わかってると思うけど、今の内に殺しておいたほうがいいよ?」
さりげなくそんな言葉を吐く光騎。
『ククッ、アドバイスありがとう。遠慮なく殺させてもらう。』
光へと還元されてゆく光騎を見守る魔王。
そして再び光の粒子が集まり、現在の光騎の姿へと再構成されるのを今か今かと待った。
光が収まり、現れた光騎。
その手にある結界破りの剣が、現在の筋力に合わせてサイズを変化する。
「……あれ?僕は一体……?」
状況が掴めずにキョロキョロとする光騎。
『……元の姿に戻ったか。』
獲物を狩る目つき。
いずれは強大な敵となるものを狩るべく、刺すような殺気を放つ。
「な!?」
光騎は近すぎた。
力を溜めて待ち構えていた魔王の攻撃を避けるには距離が近く、
ついさっきまで観戦モードだっため仲間も遠くフォロー出来ない。
受け止めるには力が足りない。
それを一瞬で理解出来るほどの一撃が来ようとしていた。
死んでしまえ、という嘲笑うような表情を浮かべながら魔王は剣を振るった。
『滅びろ!』
どうやっても避けることの出来ない凶悪な攻撃。
巨大な黒い斬撃が光騎へと襲いかかろうとしていた。
僕は死ぬと思った。
今までもピンチはあったけれど、今以上に死を感じたことはなかった。
血の気が失せて、何も考えられなくなる。
死の間際に過去のことが走馬灯のように頭をよぎってゆくというけど、
そんなものはなくてただ心に浮かび上がるのは『死』という現実。
思考がクリアになってゆく。
刹那の時の中、ただ真っ白な世界が広がる場所が心に浮かび上がった。
そこで無造作に散らばるイメージ。
剣。
盾。
鎧。
僕は何気なく手を伸ばそうとして、触れる寸前に止めた。
この選択が未来を決めることになる。
そんな気がしたから。
黒い斬撃を防ぎ、魔王を倒す。
それが出来るのは?
剣と盾?
それとも剣と鎧?
はっきりとしたイメージが浮かび上がってこない。
『…………しょう。』
微かに声が聴こえた。
耳を澄ましてみる。
『私は…………になりましょう。』
どこから聴こえてくるのだろう?
きっと女の人の声。
もっと耳を澄まして聴いてみる。
『私は主の剣にも盾にもなりましょう。』
はっきりとそう聴こえた。
そして、その声は案外に近くから聴こえてきていたんだ。
ハッと我に返る。
目前に迫る黒い斬撃。
当たる!、と思った瞬間。
目を覆うような光が噴出した。
闇を照らす、黄金の輝き。
そこから現れるものがあった。
スラリと伸びる手足。
造られたかのようなに均整のとれた身体。
整い過ぎた、人の幻想を具現化したような顔立ち。
長い髪は白銀のようで角度によっては薄い桜色である。
身体にピッタリと張り付いた、水着のようなものを纏っている。
その女の人は右手を掲げて光を展開。
黒い斬撃をいとも容易く受け止め、無残させた。
闇の斬撃は消え、光が収まると綺麗な髪をなびかせて僕のほうを向いた。
「マスター、次の命令を……???……鋼……んん???……光騎さん!」
目をパチクリしつつ、色々と思考しながら紡ぎ出した言葉。
命令を、と言った時の口調は少し低くて別人のように聴こえた。
でも、僕の名前を呼んだ時の少し高くて可愛いらしい声は……!
「あ、愛ちゃん!?」
思わずポケットの中に入れた愛ちゃんの記憶媒体を探す。
見付からなかった。
そして、一瞬にして理解した。
あの記憶媒体と、勇者の剣、盾を使って愛ちゃんを召喚したのだということを。
「わぁー♪再会出来ましたねー♪あれからどれぐらいですかぁ?」
「……えっと、一時間も経ってないかなぁ〜。」
「そうなんですかぁー?ちょっと記憶の混乱があって時間の感覚がいまいちなんですよー。
支援衛星とかがあればすぐに分かるんですけどー。あっ、一応アレが敵だってことは分かってますよー♪」
早口で喋られて、とりあえず相槌をつくので精一杯だった。
「どうも三つぐらいメモリー内に人格があるみたいで、記憶の整理が大変ですよー。
でもでも、片手間でアレの相手は出来そうなんですけどー。」
ピッ、と指を刺したのは、事の成り行きに唖然としている魔王。
『またしても、我をコケにするものが現れたのか!?』
……うわぁ、かなり怒ってる。
またしても、っていうのがよくわからないけど。
「ちゃっちゃっと倒してしまいましょうか?雑魚ですし。」
愛ちゃんはあっこらかんと言い放つ。
「ざ、雑魚って?」
「話すと長いんですけどぉー。私の世界、と言っても別の人格というか、この身体のある本来の世界?
で、アレぐらいは雑魚なんですよ。普通に完全体のやつが散歩してる世界なんです。」
どんな世界なんだ?、というツッコミは入れずに愛ちゃんにおまかせコースが無難なのかもしれない。
「……そうか、だから未来の光騎君は魔王を挑発するようなことを言ったのか。」
「え?」
輝さんは何か納得したと言わんばかりに、うんうんと頷いている。
ついでに九条さんも。
「どゆこと?」
ダイルさんが横の九条さんに尋ねている。
僕も凄く気になるんですけど。
「あー、えー、光騎だけを標的にさせつつ、
魔王を倒せるものを『勇者の武具』で具現させるために追い詰めさせたんだろ。ふん、食えない奴だ。」
何故かジロリと睨まれた。
『クックックッ、舐められたものだ!我を雑魚とのたまうか!』
強烈な殺気が叩きつけられる。
しかし、愛ちゃんはなんら臆すること無く僕の前に立った。
「ふっふーん♪瞬殺しちゃうぞー!」
元気一杯でヤル気満々だった。
だけど、そこでクルリッ振り向いてこんなことを尋ねてきた。
「私の武器ってどこにあります?」
「ん?無いけど?」
時が止まった……。
あとがきっぽいもの。
作者「帰ってきた愛ちゃん!」
聖「あの別れは一体……。」
作者「このためのお膳立て!」
聖「なにはともあれ、良かったとは思っておるぞ。」
作者「うむ。次は愛ちゃん大活躍の予感!」
聖「期待しておる。」
おわり
お気軽に叩いてやってください、喜びます(笑)
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