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ここは零式のコックピット内。
光騎は座席に座り、私は座席の後ろの隙間から座席前のモニターを見ながら指示を出す。
「では光騎、動かしてくれ。」
「はい。」
光騎は操縦悍を握り、零式を前進させた。
倉庫を出て屋外へ。
重厚な音を響かせて、人気の少ない港へ向かった。
まぁ、零式見たさで自然と人が集まってくるのだが。
その辺は騎士隊にまかせてあるから大丈夫だろう。
「そういえば、ソフィアと剣の特訓をしているらしいな。」
見た目、怪我は無い。
神官の奇跡で癒しているからだろう。
しかし、動きに違和感が見られるので筋肉痛なんかは残っているようだ。
「ソフィアちゃん、手加減無しなんですよ。特訓なんで手加減しないほうがいいんですけどね。」
頑張っているようだ。
「ははは、ソフィアは真面目だからな。」
真面目過ぎて融通がきかないこともある。
真剣に光騎を鍛えたいんだろう。
「なんとなく、特訓でストレス解消してるような気がするんですけど。」
「あー、確かに特訓が終わった後に見かけたんだが、妙に清々しい顔だった。」
真相は、光騎と特訓するというか、一緒に過ごすということが嬉しいみたいだ。
恋心まではいってないかもしれないが、それなりの好意を持っているには違いない。
それはさておき、今回の目的を遂行せねば。
「愛ちゃん、各部位の負荷データを出してくれないか?」
『はいはーい♪』
モニターにデータが表示された。
思った通りの結果になっているようだ。
今回行ったのは、零式の大幅な改装である。
F・G、元の世界、のどちらにとってもオーバーテクノロジーである零式を完全に修復するは難しい。
元の世界に持っていくことが出来るのならば研究、解析でどうにかできそうではあるが、それは無理なので、手持ちでどうにかするしかなかった。
それで、今回零式に取り付けたのは飛行石。
それを数ヶ所埋め込んで、重量を軽減し、機体の負荷を和らげようというのが狙いだ。
痛んだ関節部分などが修復出来ないゆえの策である。
さらに、まともな使えるスラスターがほとんど無いので、代わりに風の魔術を刻んだ魔石を埋め込んだ。
魔力はマナ・エンジンから無尽蔵に取り出せるので心配無い。
これで機動性が上がったはずだ。
武装面の強化も行いたいところなんだが、なかなか難しい。
トリオンの施設では、巨大な零式サイズの武器を作ることが出来ない。
トリオンでなくとも、無茶だと思うが。
良い魔剣があればそれを組み込んでみたいと思っている。
魔術士をガンナーとして使えるようにするのもいいかもしれない。
ふむ、それならコックピットは複座にしたほうがいいな。
いや、攻防の両方を魔術で補えるように3人乗りか?
さらに、マナ・エンジンから魔力を供給すれば無限の魔力で、魔術を無制限に使えるな。
しかし、供給量をうまく調節しなければ肉体が耐えられないか。
なかなか難しいな。
マナ・エンジンに関する設計図か、データが欲しいところだ。
元の世界に持って帰ることが出来れば、研究出来るんだが……。
しかし、その場合、ドクターのクラスの能力が失われれてしまうから得策ではないのか?
『ドクター』で得られたものは、記憶容量の増加、思考速度の上昇、集中力の持続時間の上昇、閃き率の上昇といったところ。
とりあえずは、現状で出来ることをやるしかあるまい。
「朔夜さん、次はどうしますか?」
思考に没頭していたようだ。
悪い癖だ。
「飛行テストだ。トリオンから落ちないように飛んでくれ。」
「あはは、了解。」
地面から離脱する。
Gがかかって後方に引っ張られるが、コックピット内に取り付けたシートベルトがあるので問題無い。
以前、火竜との戦闘時にケガを負ったのが取り付けた理由だ。
『4番、7番、11番〜13番の魔石が正常に動いてませんよ。予定値の6割ぐらいですね。』
愛ちゃんの報告。
うーん、初のトライアルではこんなものか。
「飛行に問題無ければ、もう少しデータを取りたい。」
『問題無いでーす。他の部分で補える範囲ですからね。でも、魔石の摩耗度に差が出ますけど。』
「それは仕方ないな。今回の目的は飛行することだから、それに専念しよう。」
『はーい♪』
しばしフライトを楽しむことに。
「それにしても、なぜ零式のデータベースに美綺と私のデータがあるんだ?召喚した光騎のものがあるのは、まぁ、分かるが。」
前々から思っていた疑問である。
『簡単ですよー、元の世界で搭乗したことがあるからに決まってるじゃないですかぁ。』
フライトデータが隅においやられて、美綺と私のパーソナルデータが表示された。
年号とか違うんだが、あとはだいたい一致するな。
スリーサイズはいらないと思うが。
「愛ちゃんの言う元の世界と、私達の元の世界は違うだろう?パラレルワールドとかいうやつだな。」
『ですねー。真綺ちゃんなんか全然違いますし。元の世界の真綺ちゃんは、もっとちっちゃいですもん。』
モニターに映ったのは幼稚園生ぐらいの女の子。
眞彩ちゃんの小さい頃という感じだ。
「奏歌ちゃんはないの?」
光騎が尋ねた。
『ありませんよ。敵ですし。』
あっけらかんとした言い方に、一瞬、流してしまいそうになった。
「・・・ほう、敵か。色々違うんだな。」
『元々、颯香さんは光騎さんの恋人だったんですけどねー。色々あったんですよ♪』
再び、爆弾発言の愛ちゃん。
光騎と奏歌が恋人だったと?
「はははは、そっちはそっちでかなり楽しそうだな。」
端から見ていたら、さぞかし面白いだろう。
当事者は大変なんだろうが、知らん。
「……今までの話は、ここだけの話にしません?」
光騎が弱々しく提案。
まぁ、美綺達の前では話しにくい話題だ。
「いいだろう。」
光騎が助かったみたいな顔をした。
ふふっ、ちょっとイタズラしたくなった。
「ただし、条件があるな。」
「えっ?な、なんでしょうか?」
あたふたする光騎。
それを見ただけで満足なんだが、せっかくだから何か要求してやろう。
何がいいかな?
「そうだな……あだ名で呼んで欲しいな。」
私の要求に、戸惑う光騎の表情が可愛く思えた。
「あだ名ですか?」
「うむ。朔夜さんでは、味気ない。」
そんな遊び心も大事だ。
光騎はうんうん唸りながら考えている。
「えっと・・・さくやん?」
「微妙。」
すぐさま却下。
また唸りだす光騎。
「さくにゃん?」
「・・・それはちょっと、恥ずかしい。」
私には可愛いすぎると思う。
日常でそう呼ばれたら、赤面しそう。
「うーん、さーや?」
「どっかで聞いたことがあるなぁ・・・。」
悪くはないが、これもちょっと私には合わないか。
そもそも、あだ名をつけること事態がダメなのか?
軽くショックだ。
光騎は必死に考えているが、なかなか思いつかないようだ。
「仕方ない、次のフライトまでの宿題にしておこう。」
光騎はわかりました、と頷いた。
ふふっ、次のフライトが楽しみだな。
どんなものを考えてくるだろう?
お気軽に叩いてやってください、喜びます(笑)
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