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小高い丘の上に、一人佇むものがいた。

「……。」

空を見上げるその眼差しは、確かな意志を持っていた。

風が吹く。

青みがかった髪が揺れる。

輝は『剣が丘』に立つと、その手に剣を呼び出した。

「――テンペスト。」

その剣は風を放って輝の呼びかけに答えた。

再び空を見上げる。

雲を裂いて天空を駆けるものがあった。

その姿は見るものを圧倒させる。

その名は空中都市トリオン。

幻想の庭において、とびっきりの幻想の一つである。

「さて、行こうか、テンペスト。」

テンペストから風が起こる。

輝の周りに螺旋を描いてまとわりつく。

「ははっ、良い風だ。」

軽やかな風を纏い、その身を宙へ浮かべる。

重力に逆らい、風の翼で空を駆ける。

輝は風を操り、空中都市へと向かった。

トリオンへ向かうモンスターの何十体かを始末しつつ、人知れずトリオンに降り立つ輝。

「うーん、誰にも見つからずに潜入、ってのはなかなか骨を折るねー。」

しかし、一度潜入してしまえば、溢れる避難民の中に紛れてしまえばよかった。

「自由行動、といきたいところだけど、先に目的を済ませちゃおうか。」

輝がトリオンへ来た理由、それは伝説の七剣の一つと呼ばれる、エクスカリバーを回収することだった。

「さて、どこにあるかな〜?」

エクスカリバーが、岩から『勇者』によって抜かれたことは知っていた。

エクスカリバーについて、色々な噂を聞いていた。

『エクスカリバーを抜いたのは大男で、凄まじい怪力の持ち主だそうだ。』

『いや、抜いたのは巨人だ。』

『いやいや、竜が持ち去ったそうだ。』

『エクスカリバーは女の子だ。』

等々……。

煙の無いところに火はたたない。

詳しい経緯を知らない輝は、噂の真偽はどうであれ、楽しめそうなことに心踊らせていた。

そこらの人に話かけて情報収集。

大して苦労もせずに、目的の情報が集まる。

「ふーん、どうも派手に活動してるみたいだね。最初の印象がよっぽど良かったみたいだ。」

『勇者』といえども異端であることに違いない。

この世界の人々が慣れたとはいえ、時と場所によっては『勇者』でも迫害される。

光騎達が上手くやっていることに、輝は少しだけ嬉しくなった。

「……まぁ、問題は上手くやってることなんだけど。」

ため息をつく輝。

その矛盾点については解決の糸口がなかなか見つからず苦労していた。

「当面は、エクスカリバーをゲットすることを考えないと。」

気を取り直して、目的地へ向かう。

その目的地は、『勇者』である光騎という青年のいる場所。

「さて、どんな『勇者』かな、っと。」

散歩にでも出掛けるように、瓢々として輝は光騎のいる場所へ向かった。

「初めまして、こんにちわ。」

人当たりの良い笑顔を浮かべた輝は、初対面の光騎へ挨拶した。

「こんにちわ。」

柔らかい笑顔を浮かべて挨拶を返す光騎。

光騎は今日、珍しく一人で、時間が空いていたから、ブラリと零式の格納庫に向かっていた。

輝は集めた光騎の情報と、偶然歩いていた光騎と特徴が一致したので声をかけたのだ。

「光騎君だよね?」

念のため確認をする。

光騎は頷いた。

(こんなに早く見つかるとは、ラッキーだったねぇー。さて、早速本題に入っちゃおうかな。)

輝は微笑を浮かべたまま、目的を達成するための言葉を紡ぐ。

「僕は輝。いきなりなんだけど、君の持ってるエクスカリバー、僕にくれない?」

光騎は突然のことで、キョトンとしている。

「もちろん、それなりの代償は払うよ。お金だったら100万でいいかな?」

「ちょっと待って下さい!いきなりでよくわからないんですけど、なんでエクスカリバーが必要なんですか?」

光騎の疑問。

確かにそれは答えないといけない、と思った輝は単純明解、簡潔簡単に理由を言う。

「世界平和さ。」

その眼差しは嘘偽り無く、真に世界を想う心の有り様だった。

光騎はそんな表情を今まで見たことが無かった。

(本当に、世界の平和ために必要なんだろうか?本当に必要だったら……。)

頭の中がグルグルと渦を巻き、葛藤。

光騎を主と呼ぶ女の子の姿が浮かんだ。

「どうやら悩んでるみたいだね。」

光騎の様子を見て、輝はとりあえずエクスカリバーを見せて欲しいと言った。

「いいですよ。こっちにあります。」

光騎の案内に続く輝。

「帯剣しないのかぃ?」

「ええ、とても帯剣出来なくて。物凄く重いんです。」

「ん?それは光騎君の筋力が足りないということかな?」

「いえ、たぶん人間では無理なんじゃないかと。」

「それは興味深いねー。」

楽しみだと言う輝。

零式、エクスカリバーが置いてある格納庫へ辿り着く。

格納庫は朔夜に指示されて、幾人か零式の整備をする人間が出入りしていた。

光騎はその人達に挨拶を返しながら、輝をエクスカリバーの前に連れていった。

現在、人間サイズのエクスカリバーが立てかけられていた。

「ふむふむ、シンプルだけどスマートでいいデザインだ。ところで凄く重たいらしいけど、持ち主じゃないからそうなってる、というわけではないんだよね?」

光騎は頷く。

「触ってみてもいいかな?」

「いいですよ。」

輝は許可を貰ったのでエクスカリバーに触れた。

(さて、ここで『剣が丘』を発動して持ち逃げしたいところなんだけど、光騎君達を敵に回すわけにもいかないしなぁ……。)

不穏なことを考える輝だが、

「ん?これは……。」

あることに気付き、エクスカリバーから指を放す。

(ははっ、僕としたことが勘違いをしていたみたいだ。思い込みってのは怖いねぇー。)

苦笑いを浮かべて光騎のほうを向いた。

「いやぁ、ごめんね。やっぱりいいや。」

「え?」

あっけらかんと言う輝に、光騎は呆然とした表情。

「探してたものと違ってさ。トリオンにあるって聞いてたんだけどなぁ……。」

残念そうに言う割に、落胆した表情を見せない輝。

光騎は、輝の掴みどころのない雰囲気になんとなく好感を持った。

光騎の中で輝は悪い人ではないと、認識された。

「えっと、手伝いましょうか?探し物。」

人の良い光騎がそんなことを提案。

何の疑いも無く、ただ相手が困ってそうに見えただけで、手を差しのべようとする。

(……あぁ、なんだか眩しいなぁ。歪むことなく、そのまま『勇者』らしくあってほしいけど……。)

『勇者』らしくあればあるほど、『勇者』らしくいられなくなる現実。

そんな、自分の進んできた道を、他のものには進んで欲しくなかった。

「大丈夫。それは僕の役目だから。君は君のやるべきことをやるがいいさ。」

それだけ言って、輝は光騎へ背を向けた。

相入れぬ道。

偶然交わっただけの道だった。

「あの……。」

光騎は声をかけようと思って、やっぱりやめた。

輝が歩みを止めるとは思えなかったから。

(まっ、しばらくはトリオンにいるつもりだけど。てか、ちょっとやる気出たかも。)

軽快な足取りで光騎の前から去っていく。

トリオンの雄大な蒼穹を楽しみながら……。



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