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私達は、約百人ほどの村人を引き連れてベンドへと向かう。

商業都市と呼ばれるベンド。

鉄を扱う技術が流通し始めると、急激に発展した。

製鉄、鍛冶の都市とも呼ばれている。

ベンドの武具が最も品質が良いと言われているのは周知の事実である。

そういう場所だからこそ存在するギルドがある。

傭兵ギルド。

鉄の技術を守るために雇われた荒くれ者達が起源と言われている、報酬を貰って戦う者達だ。

報酬でベンドの武具を購入し、それらを身に付けた最強の傭兵達。

この世界で最大の領土を持つルファの軍隊とも渡りあえると噂されていた。

そんなベンドならば村人を受け入れて貰えるだろう。

モンスターの襲撃にも対抗出来ているに違いない。

楽観的過ぎるかもしれないがそうするしかないのだ。

村からベンドまでだいたい一週間かかる。

しかし、足の悪いものや老人がいるため辿り着くまでもっとかかるだろう。

私達や、わずかに残っていた村の若い人達とでフォローしながら道を進む。

村は街道の近くにあるわけではないので、悪路を歩き続けなければならなかった。

「街道に出ることが出来ればもう少しスピードが上がるのでしょうけど……。」

お嬢様育ちのメイディアさんにはきつそうであった。

いや、私だってけっこう辛い。

普段からこんな道を歩いているわけじゃないから。

あの無機質なアスファルトが妙に懐かしく思えた。

私達は先頭と殿に別れて配置。

村の若者にはあいだの要所に配置してもらって、異常があればそのつど駆けつける。

はっきり言って、人材不足である。

だけど、弱音を吐くことは出来ない。

やると決めたことはやり遂げる。

「シルビアさん!あっちにモンスターが現れました!」

息を切らせて駆けつけた村人。

「すぐにいくわ!メイディアさん、ここはお願い!」

今日は3度目。

日に日に、モンスターとの遭遇率が上がっている。

もしかしたら、考えている以上に世界は切迫しているのかもしれない。

現場に駆けつけると、すでに衛星と菫ちゃんが戦っていた。

モンスターの数は五体だ。

「援護する!」

魔力が体を駆け巡る。

炎のイメージを脳裏に描いて、それを具現する。

「炎弾、『フレイムシュート』!」

突き出した指先に魔力が集中した。

うねるようにして炎が現れると、それは三つの球になった。

それらは3体のモンスターへと放たれる。

一切の障害無くモンスターにぶつかる。

顔を焼かれもの、腹を焼かれもの、背中を焼かれるもの、悲鳴を上げて悶え苦しんだ。

「ふっ!」

その隙に、衛星は槍でそれぞれの胸を貫きトドメを刺した。

残り2体。

「はぁっ!!」

菫ちゃんは小柄な体格を生かして懐に潜り込むと、至近距離からの掌打で一体を沈めた。

『キシャァァァッ!』

最後の一体が菫ちゃんの背後に迫る。

鋭い爪が菫ちゃんの背中を引き裂こうとした瞬間、

「甘いっ!」

そう言い放つと振り向きながら跳躍した。

振り上げられた腕を思いっきり蹴りつける。

鈍い音を立ててあらぬ方向へと曲がる腕。

菫ちゃんの腕力も脚力も、見た目以上の能力があるのだ。

「とりゃあぁぁっ!」

モンスターの背後に詰め寄っていた衛星の攻撃。

喉、胸、腹を貫く三連撃。

ひとたまりもなく息絶えた。

「これで全部か?」

死体から槍を引き抜きながら周りを見渡す衛星。

「見た限りはね。」

油断無く辺りを見渡すが、もう気配は無い。

「……だんだんモンスターと遭遇しやすくなってきたね。」

不安そうな顔をする菫ちゃん。

確かにそうだ。

今のところは対処出来ているが、これ以上数が増えるとわからなくなってくる。

「でも、進むしかないよ。ほら、私達が不安な顔してたらダメ。皆はもっと不安だろうからさ。」

それはまるで自分に言い聞かせるような言葉だった。

不安を拭い去ることは出来ない。

それを抱えながら精一杯やってやるしかないのだ。

「もう少し進んだら休憩にしよう。」

衛星の提案に頷く。

提案通り、しばらく進むと休憩時間にした。

村の人達には出来るだけ一ヶ所に集まってもらい、私達は交代で見張りにつきながら休息をとることに。

私が適当な場所でぼんやりしていると、同じく休憩をとっている衛星がやってきた。

両手に持った携帯食の干し肉を一つ差し出されたので受け取った。

「ありがと。」

「どういたしまして。」

二人並んでそれをかじる。

別に美味しくは無いので、単なる栄養補給。

「案外上手くいっているんじゃないか?」

「護衛のこと?」

「そうだ。怪我人が出たといっても、つまずいて転んだぐらいのもんだしな。」

もぎゅもぎゅと口を動かして咀嚼する。

「この程度の襲撃で済むならなんとか辿りつけそうだけど……。」

「まぁ、祈るしかないよなぁー。」

衛星は、ガブリッと二口で食べ終えると言いたいことだけ言って去っていった。

「順調にいけることを祈るだけか……。」

なんとも心もとない。

運命は神のみぞ知るってこと?

ダメだ!弱気になってる場合じゃない!

不安を振り払うように勢いよく立ち上がる。

「見張りの交代にいこう。」

そう思って櫻さんのところに行こうとした時、

何か慌ただしい声が聞こえた。

何かあったのだろうか?

現場へ急行。

すると、そこでは櫻さんと菫ちゃんが2体のモンスターを倒していた。

「1体逃がしましたが、被害は無いです。」

櫻さんの冷静な報告をうける。

「ついさっき襲撃にあったばかりなのに・・・。」

菫ちゃんは息を整えながら呟いた。

確かに遭遇率が高すぎる。

嫌な予感がする。

「大丈夫か?」

衛星が遅れて駆けつけてきた。

襲撃のことを伝えると、難しい顔して黙り込む。

きっと、衛星も私と同じ考えに到ったのだろう。

「・・・モンスター達は偵察をしてるんじゃないかしら?」

「あぁ、俺もそう思った。」

そう、おそらくは様子を探っているのだ。

どの程度の戦力があるのかを。

戦えるものの人数、力量、非戦闘員の様子。

「ということは、先程逃した1体は痛手でしたね・・・。」

くやしそうな表情の櫻さん。

逃していなくとも、どこかで戦闘の様子を見ているものがいたのだろうけど。

それでも、情報を持ち帰られたには違いない。

「どれだけの数がいるかわからないが、組織だって行動出来るってことだ。

手強そうなのに目を付けられたもんだ・・・。」 苦笑いを浮かべる衛星。

「すぐにでも出発しましょう。じっとしてると余計に危険よ。」

皆が頷くのを確認すると、予定より早く休憩を打ち切った。

準備をしてすぐに出発。

半ば強行軍に近い感じでベンドへと歩を進める。

私達は疲労していた。

ろくに休息を取ることも出来ず、モンスターの襲撃に対応していた。

「じわじわとやられてるな・・・。」

このままでは全滅する、そんな予感がしていた。

「やられるわけにはいかないわよ・・・。」

村人を連れ出した責任と、刀夜を復活させるという目標を達成するまでは。

何が何でも、屈するわけにはいかない。

「回復しましょうか?」

少しやつれた顔の櫻さん。

大丈夫だと口では言っているが、全身から疲労がにじみでている。

「温存しておいて。もしくは必要そうな村の人にお願い。」

村人達も疲労困憊だった。

動けなくなった人には回復の奇跡を使って動けるようにして進んでもらった。

しかし、人数が多すぎた。

櫻さんと菫ちゃんの二人しか回復の奇跡が使えないのだ。

確実に二人は精神的に参っている。

このままではジリ貧だ。

ベンドまではあと2日ほどはかかる。

そこまでもつのか?

「モンスターだ!!!」

後方からの叫び。

後ろを振り返ろうとした瞬間、右方からモンスターのおたけびが聞こえた。

そして左方から聞こえる村人の悲鳴。

目の前の茂みが揺れて、現れるオーガー。

囲まれた。

「クッ!?衛星後方、菫ちゃん右方、櫻さん左方、メイディアさんは村の人をお願い!」

私は指示を飛ばすのと同時に魔力を集中させた。

『ガアァァァアァァァッ!!!』

棍棒を振り被るオーガーに向かって私は走り出す。

「戦える人は防御専念で対応!」

恐怖を感じないわけではない。

だけど、震えていては何も出来やしないから私は走る。

振り下ろされる棍棒をかわして、地を蹴る。

オーガーの右側に滑りこむように着地。

「くらえ!『フレイムレイピア』!」

細長い炎の剣がオーガーの顔面に向けて放たれる。

『グオオオオオォォォォッ!?』

とっさに棍棒を持たない腕で顔をかばうオーガー。

たいしてダメージを与えることが出来なかった。

『グフフフフ、死ネ人間!食ッテヤル!』

片言の言葉を叫びながら、棍棒を振るい、拳を打つ。

それらの重い一撃を喰らうわけにはいかなかった。

おそらく、どの攻撃であれ致命傷になりかねないから。

「『シールド』ぉぉっ!」

避けきれないものは魔力の盾でガード。

しかし、これではキリがない。

魔力が尽きれば殺されるだけだ。

援護も期待出来そうにない。

他もギリギリの戦いを強いられているようだ。

私はオーガー1体だが、他の場所では数が多い。

1体1体は雑魚でも、数が集まれば対処しづらい。

なんせこっちは戦えるものが少ない。

・・・これはやばいかもしれない。

流れる冷や汗が気持ち悪い。

背筋が凍りそうになる攻撃を回避しながら、悪い想像がとまらない。

なんとか、なんとかしければ!

『オオオォォォォォォォォオォォォォッ!』

オーガーの蹴りが迫る。

「ちっ!?」

紙一重で避けるが、奴は土を一緒に蹴りあげていた。

目が開けられない!!?

『死ネェェェェェェェェェィッ!!!』

棍棒が空気を裂く音が聞こえた。

とっさにシールドを張るが、一撃を耐えて砕ける。

棍棒の連撃。

魔力を搾り出して、シールドを創りあげる。

しかし、また一撃をガードしただけで役目を終える。

次の一撃を絶えるべく、魔力を練り上げる。

しかし、間に合わない・・・!!?

「シルビアっ!?」

衛星が駆けつけようとして声をあげるが、数体のモンスターに阻まれた。

万事休す。

腕を持ち上げてガードの体勢を作るが、私の細い腕ではなんの防御になりはしないだろう。

死が近づく感触。

血の気が引いていくのがわかる。

気分が悪い。

吐き気がする。

涙が出そうになる。

いやだ。

嫌だ!

死にたくない。

誰か助けて!

「おおおらああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

予期せぬ叫び。

暑苦しいまでの叫びが大気を震わせた。

叫びの主が台風のように風を巻き上げて現れる。

躍動する筋肉のままに、私に迫る拳に自らの拳をぶつける。

これで軌道は逸れる、否、そもそも拳なんて無かったような状態になった。

要は、肘の辺りから千切れているのである。

「とりゃあぁぁぁぁっ!!!」

暴風は止まらない、むしろ止まれない。

地面を蹴り上げ、宙を舞う暴風。

体がねじれる。

凄まじい回転エネルギーを生み出しながら、回し蹴りを放った。

『ブゴオォォォッ!!?』

オーガーの喉に直撃、そのまま足がめり込んでいくと、オーガーの首が宙に舞った。

天に向けて吹き上がるオーガーのドス黒い血液。

ゆっくりと仰向けに倒れるゆくオーガーの体。

綺麗に着地した暴風は、クルクルと地に墜落してくるオーガーの首を右方に向けて蹴りつけた。

バゴッと鈍い音が鳴って、後頭部にそれを受けたゴブリンが倒れた。

暴風は倒れた私に手を差し出した。

「大丈夫か?我が生徒よ!」

「せ、先生っ!?」

暴風の正体は雅輝先生。

やたらとマッチョなくせに世界史担当の先生なのであった・・・。



あとがきっぽいもの。
作者「人気投票継続中。ちなみに期間は9月30日まで。」
リーア「投票は1人1票。慎重にお願いしますよー♪」
作者「てか、初日に書いとけよ、内容だな・・・。」
リーア「なにぶん初めてのことなのでご容赦願いたいです、ということですね。」
作者「そういうことです。(頭下げ)」
リーア「引き続き投票のほう、お願いいたしまーす!」
作者「お願いしまーす!」
おわり
お気軽に叩いてやってください、喜びます(笑)


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