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静けさと緊張感と殺気にも似た感情が漂う道場。

中心には道着をだらしなく着た葵が、構えらしい構えも無くぼんやりと立っている。

葵を囲むようにして、道場の壁際には道着を身に付けた老若男女が正座をして待機していた。

現在、葵と対峙するのはガッシリとした体格で真剣な表情の男。

男が身に付けた流派の構えを解くことなく、次の動作をシュミレートしていた。

(……隙だらけに見える、しかし、それは罠なのか?)

歴戦をくぐり抜けた勘が警戒せよと言っていた。

ジリジリと距離を詰めようとする男。

己の最も得意とするレンジに葵を収めようとしたその時、葵の姿を見失った。

「っ!?」

気が付くと男は天井を見上げていた。

足を払われたのだ。

葵は地を這うような姿勢で一瞬にして近付き足払いをかけていた。

次に男が見たのは葵の足の裏。

天井に届かんばかりの跳躍で葵は飛び蹴りを男に加えた。

男は勢いよく吹っ飛び壁に激突すると、動かなくなった。

仲間が駆け寄り命の無事を確認する。

それほど、危なげな叩きつけられ方だったのだ。

(柔耶に言われた通りに、手加減したから大丈夫に決まってるもんね〜。)

つまらなさそうにしている葵。

柔耶に言われたことを思い出す。

「殺しちゃダメだからね?二度と格闘技の出来ない身体にしてもいいけど、殺すのはダメだよ。後々、面倒だから。」

お昼ご飯のお弁当を渡すついでに言われた言葉。

「うん。わかった。半殺しまでにしとく。」

もし、面倒なことが起こっても事後処理を行うのは柔耶である。

柔耶は葵が起こしたそれらのことを、たいした面倒だとは思っていない。

葵に面倒が振りかかるのが嫌だから言っているのだ。

(私も柔耶を困らせたくないもん。だから、全殺しにはしない。)

葵は葵なりに気を使っていた。

朝から始まった道場破りの相手をして、気が付けばお昼時。

道場には老若男女の動かなくなった(死んではいない)身体が積み上げられていた。

たまにうめき声が聞こえるが、葵は興味無さそうにしていた。

それよりもお昼ご飯である。

鼻歌を歌いながら弁当箱を取り出す葵。

蓋を開けて無邪気に感嘆の声をあげる。

「おおぉー、エビフライだぁー♪」

他にもハンバーグやら唐揚げやら、お子様にバカ受けであろうラインナップであった。

もちろん柔耶のお手製である。

葵は思わず手を出そうとしたが、手を止めた。

「手洗ってからにしないと、柔耶に怒られちゃう……。」

弁当箱を丁寧に置き、ご機嫌のまま道場破りを蹴飛ばしながら洗面所に走る葵だった。



お気軽に叩いてやってください、喜びます(笑)


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