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「勇者の鎧によって無理矢理高めたその存在力!今の器には過ぎたものだろう!」

刃を何度も何度も重ねながら言葉を交わす二人。

「あなたを倒すためにはこれしかないだろ!」

大空を光と闇が交錯する。

「その先にあるものがわかっていながら、それでもなお戦うか!」

いくつもの黒いカマイタチが刀夜を追いかける。

刀夜はそれをギリギリまで引き付けると急激な方向転換でカマイタチ同士をぶつけて相殺した。

「それでも!守りたいものがあるんだ!」

刀夜の剣から光が放たれる。

勇者の剣レベル2。

精神力を消費するのは、レベル1と同じだ。

しかし、レベル1と違い、レベル2は威力こそ落ちるものの、連射可能な光の剣である。

魔王は黒の剣を振りかぶると、力を込めて振り下ろす。

放たれたのはカマイタチとは違った形状の黒い衝撃。

光と闇がぶつかり相殺された。

「いいだろうその覚悟!俺の相手にふさわしい!」

漆黒の鎧の獣が、何発もの黒い炎の塊を吐き出す。

刀夜は空中で目の回るようなスピードでそれを避ける。

「光よ!」

刀夜の剣が光る。

剣を振るうたびに光の衝撃が凄まじい速さで魔王に向かう。

魔王も刀夜に負けず劣らずの機動をもってそれを避けた。

今、二人の戦いは始まった。

暗雲立ち込める魔王城から次第に離れる二人。

時に遥かな大空を、時に砂塵吹き荒れる荒野を舞台にして戦う。

いつ終焉を迎えるとも知れない戦い。

剣は数え切れないほど交わり、二人の体には傷が刻まれる。

血を流し、血を吐き、血を撒き散らして。

その傷を癒すために刀夜は新たな力を解放する。

「勇者の鎧、レベル3『魂の痛み』・・・。」

黄金の翼を背にした刀夜に、青白い羽衣が体を覆う。

それは刀夜の傷を見る間に癒し、精神力をも取り戻した。

しかし、そんな強力な能力にはリスクが伴う。

(魂が・・・痛い!?痛い!イタイ!イタい!イたい!いたい!itaiiiiiiiiiiiiiiiiiiii・・・・!!!)

気が狂いそうになる痛みが刀夜の魂を苦しめる。

串刺しにされるよりも、爪をはがされるよりも、肉を削ぎ落とされるよりも、痛い。

ただ痛い。

それしか考えられなくなる。

目を閉じても痛い。

耳を塞いでも痛い。

口を、鼻を、皮膚を千切っても、痛い。

その苦しみの中で刀夜が正気を保っていられるのは、皆がいるから。

皆が傷つかないように、苦しまないように、泣かないように。

それだけを想って、刀夜は自分を切り刻みながら立ち向かう。

「まだ苦しめるのか!自分を!他人を助けるために!」

魔王は血を吐き出しながら叫ぶ。

千切れかけた腕をぶら下げて、それでも揺るがない戦意。

「獣よ!俺に力を!」

魔王が力のある言葉を言い放つ。

黒の粒子が異形の獣を形成する。

それは千切れかけた腕に喰らいついた。

「はっはっはっはっはっは!喰らえ!そして俺の力となるがいい!」

異形の獣は腕に喰らいついたまま魔王が発する黒い粒子に取り込まれていく。

そのまま異形の体が押しつぶされていき、真っ黒な、墨を流したかにような腕が現れた。

「黒の獣撃!」

その腕が振るわれた。

獣の牙のような黒い光が刀夜へと迫る。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!」

痛みに耐えながら刀夜は空を駆ける。

矢よりも早く駆け抜けて黒き刃をかいくぐる。

「まだまだまだまだまだまだまだーッ!」

黒い腕が肉眼では捉えきれないほどの速さで振るわれる。

光の剣で迎撃しつつ、避ける、避ける、避ける。

しかし、避けきれなずに体を掠め、動きが鈍る。

そこから一気にバランスが崩れて、黒き刃が刀夜の体を貫いていった。

「くらえくらえくらえくらえー!」

たたみかけるように魔王が攻撃を集中させる。

純粋な破壊目的の攻撃。

それは確かに刀夜を破壊した。

攻撃が止み、爆発が収まると、地上にはクレーターが出来ていた。

そのクレーターの中心に倒れているのは四肢が砕け散った刀夜。

瞳からは光が失われ、ピクリとも動かない。

だが、それを見ても魔王は気を許さない。

油断無く見張っていると、刀夜の体が蠢きだす。

骨が、神経が、筋肉が、血液が、体を構成するありとあらゆるが刀夜の四肢を形作る。

巻き戻しでもするかのようなそんな光景。

あっという間に刀夜の体は元通りの新品になる。

だらりと弛緩したように腕を下げて立ち上がる。

顔を上げて、ジロリと魔王を見た。

無機質なその視線に魔王は顔をしかめる。

(・・・やはり壊れたか?)

そんなことを思いながらも構えを解くことはない。




刀夜は朦朧とする意識の中で、魂の痛みと戦っていた。

砕け散った四肢を再生させるには相当の魂の痛みとの代償であったのだ。

ほとんど本能に近いような感覚で立ち上がり、魔王に備える。

体を動かそうとするたび、いや、体を動かそうと想うたびに痛みが体を駆け巡る。

どうしても無視することの出来ない痛みをこらえながら、刀夜は思考する。

(魔王に・・・勝つ・・・ためには・・・残りの・・・勇者の・・・武具を・・・)

思考がどうしても途切れ途切れになる。

しかし、その痛みこそ刀夜が意識を保っていられる理由でもある。

その痛みが無ければ、自分を自分として認識出来ていない。

きっと、意識が消え失せた時にはただ、魔王を破壊するためだけの存在に成り果てるだろう。

そんな確信が刀夜にはあった。

それは自分が望むものではなく、皆が望むものでもない。

だから、ここで痛みに負けるわけにはいかなかった。

魂をすり減らしながらも、魔王と自分自身とに戦い続けなければならない。

しかし、その後は・・・。

(後のことは・・・後だ・・・。)

透明に近い金色の翼を広げた刀夜は、ふわりと舞い上がる。

輝く剣を虚空から取り出し、構えた。

「レベル3・・・」

その手には眩しい光を放つ剣が。

対照的にその瞳は暗く、刀夜を知るものにとって信じられないような目つきだった。

魔王はそれを見ると、かすかに笑った。

「踏み越えたか!はっ!いいねぇ、その目つき!」

黒い剣を構える。

獣の鎧が低く唸った。

お気軽に叩いてやってください、喜びます(笑)


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