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「うわぁー、こいつ変な髪の色!」

「母ちゃんが言ってたけど、シルビアってハーフなんだって!」

「離れないと変なのがうつるぜー。」

バカな男子、何が面白いのかわからないが、笑い声を上げて走り去っていく。

私はそれを一瞥すると、一人でただ空を見上げた。

両親の都合でこっちに引っ越してから、いつもこんな感じ。

女の子達も最初は話しかけてきたんだけど、男子がやれ髪の色が変だ、何かうつる(何がだ?)、気持ち悪い、なんて言うものだから今では離れて見てたり、同じような言葉を言うだけになってしまった。

先生達は現場を見つければ注意するけど、気休めにもならなくて、むしろ、厄介な子、面倒な子、そんな風に見られている。

だから私はいつも一人で過ごしているのだ。

広場を駆け回る姿を眺める。

楽しそうな笑顔達。

羨ましくないと言ったら嘘になる。

一緒に遊びたいし、おしゃべりしたいし、笑いあっていたい。

でも、私が近づくと皆が離れていき、さげすみ、見下し、心を切りきざむ言葉を投げつける。

少し泣きそうになってる自分に気がついて、何も考えないようにする。

そうすれば、心は痛まないし、何が聞こえても心に響かない。

ぼんやりと、ただ無感情に眺めていると、誰か知らない子と目が合った。

目が合い、向こうの誰かはこっちを認識すると、微笑んだ。

私は、無感情になっていたはずの私は、とてもびっくりした。

その微笑みは親からでさえも見たことのないようなもので、この世全ての愛が束になっても勝ち目の無いような微笑みだった。

愛なんてものは比べようがないものだとは思うけれど、それだけは別格。

くすぐったくて、眩しすぎて、私は目をそらしてしまった。

……そうしたら、あろうことか、その誰かは私に話しかけてきたのだ!

「ねぇ、もしかして泣いてるの?」

心配そうに覗きこむ。

無遠慮に近付いてくる誰か。

でも、それがすごく自然で嫌味にならず、突き放すのがためらわれた。

「な、泣いてなんかないわよ!」

覗きこむ顔から逃れようと、明後日の方を向く。

「それならいいんだ。さっき泣いてるように見えたから。」

安心したように言う。

チラリとその顔を見ると、やっぱり笑顔。

極上の笑顔。

それはとても魅力的で、どうしようもなく引き込まれてしまうような……。

「……あんた、私といるといじめられるよ。早く行きなよ。」

そんなものだ。たいした理由なんてない。

ただ、異端なものと一緒にいるだけで一緒にいたものも異端になる。

……あぁ、ある意味、感染るっていうのは合ってるかもしれない。

この笑顔の誰かにそんな目にあって欲しくないと思った。

だから、関わって欲しくない。

手放したくないものかもしれないけど、きっとこれが最良の選択。

「一人で遊ぶの?」

誰かは首をカクンと傾けて尋ねてくる。

どうやら、私が皆からどんな扱いを受けているか知らないようだ。

いや、そういうことがあることを知らないのかもしれない。

いつもならおめでたい奴とさげすむかもしれなかったが、この誰かなら知らなくてもいいことだと思えた。

「そ。私は、ほら皆と違うから一人なの。」

なんて言って遠ざければいいかわからなかった。

説得力の欠ける言葉を言い放つ。

誰かはぽけーっ、として理解したかどうか謎な表情。

いや、絶対にわかっていない。

「うーん?何が違うのかな?」

誰かは私の瞳を覗きこむ。

なんだか心の底を覗きこまれるような感じがした。

それでも、不快さを感じないのはなぜなんだろう?

ジッと見つめられて、頬が赤くなる。

むずがゆいような感覚にさいなまれて、居心地悪くて私は目をそらしながら言った。

「……髪の色とか、目の色がみんなとは違うし……。」

誰かは私にそう言われると、私の髪と瞳を見た。

きっと、変だとか思ってるに違いない。

そう思ったら悲しくなってきた。

そしたら、誰かはこう言った。

「すごく綺麗だよ。透き通るような金色の髪と鮮やかな空の青をした瞳!ねぇ?名前を教えて!僕は刀夜!」

刀夜は微笑みを浮かべた。

それはどんな悪をも癒すような天上の笑み。

ただの人である私が癒されぬわけがないのである。

「わ、私はシルビア!」

刀夜につられて声が大きくなる。

何か、さわやかな風のようなものが心に吹いた。

「さぁ、行こうよ。」

刀夜が手を差し出す。

私はその手を見ても、まだ迷う。

「……でも、私……」

とまどう。

一緒に行きたい。

その手を取って走り出したい。

でも、怖い……。

「大丈夫!シルビアはどこも違わないよ!とっても綺麗で、どこまでも気高いんだ!」

刀夜が私の手を掴んで引っ張る。

私はその勢いで立ち上がり、刀夜の顔がすぐ間近にあって驚いた。

刀夜はもう片方の手も取って踊るようにしてクルクル回った。

「わっ、わわっ!?」

別にステップも音楽も無いけど、ただ二人して笑って無邪気に、手をつないではしゃぐ。

「あははっ、あはははっ!」

心に太陽の光が差し込むようだった。

私達の笑い声が響く。

その声にさっきまで刀夜が一緒に遊んでいた子達が集まってきた。

……その中には、私へ悪口を言った男子もいる。

「刀夜ぁー、一体何してるんだよ?」

集まってきた中で、他の子達より少し背の高い男子が刀夜に声をかける。

「あっ、衛星。僕ね、シルビアと仲良くなったんだよー。」

にっこり微笑む刀夜。

衛星はチラリと私を見てから、

「そうか。じゃあ、皆で遊ぼうぜ。」

ニカッと笑う衛星。

「え〜、シルビアと遊ぶのー?」

不満そうな声をあげる子が多かった。

私はその声にうつむいてしまった。

「うん、シルビアも一緒だよ!ねっ?」

刀夜は私を引き寄せて至近距離でニコニコと無邪気に笑っている。

私はあたふたとして、刀夜から少し距離を置こうとしたら、刀夜は余計に近寄ってきて、ギュッと抱き締められてしまった。

「そんなに不安そうな顔をしないで。シルビアは何も悪くなんかないから。」

刀夜に前髪をかきあげられる。

近付く刀夜の顔をぼんやりと眺めていると、おでこにチュッ、とキスされた。

「な、なななっ、なにしてっ!?」

狼狽する私をただニコニコと見つめる刀夜。

後でこのことについて聞いてみたら、刀夜が悲しかったり、不安な顔をしているとお母さんがやってくれたそうだ。

刀夜はそんな風にして私を友達の輪に入れてくれた。

私に悪口を言っていた子達は、

「刀夜が言うならいいよ。」

という感じで、気が付けば一緒になって遊んでいた。

刀夜には誰をも惹き付け、納得させる何か理屈では語れないものがあるみたいだ。

刀夜と共にいつもいる衛星。

衛星は刀夜をまるで弟のように(年齢は一緒)かわいがり、刀夜では解決出来ない障害をことごとく片付けるのが生き甲斐のようになっていた。

一見、衛星のほうが中心にいるように見えて実は刀夜が何をするにも中心にいた。

私は刀夜の近くにいたくて、いつもいつも、刀夜と遊んでいた……。



……あぁ、今のは夢なんだ……。

随分昔のことを思い出していた。

私を変えたのは刀夜。

今、刀夜がいないことは有り得ない。

刀夜がいてこその私。

刀夜は眩しかった。

優しくて、温かくて、いつも近くにいないと不安になってしまう。

刀夜がいない世界なんて興味がない。

……でもそれはきっと刀夜は望まない。

世界に愛され、愛していた刀夜。

私にはとても無理だ。

……刀夜、いますぐ会いたいよ……。

私は自分の部屋で一人悲しみに暮れる。

ベットの上で泣き、疲れ果て眠って、刀夜の夢を見る。

目が覚めて刀夜がいないことにまた泣いて……。

私は、もう、死にたかった……。



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