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大聖堂。
聖なる力の満ちたそこは、闇のモノが手を出すことが出来ない場所である。
時也は店長の指示通りにそこへ逃げ込んだ。
中は、ひしめく人々を想像していた時也だったが、実際はそうでもなかった。
入る時も、
「時也様ですね?どうぞ、お入り下さい。」
と、丁重に案内されたのだ。
(……大聖堂へ避難出来る人間は、選ばれてるみたいだ。)
金持ちや、街の重要人物。
上手く立ち回った司祭達に、貪欲そうな高司祭。
(そして、僕がここにいられるのは『勇者』だから。もしくは店長のコネ?)
居心地の悪い大聖堂。
普段のここは清浄な空気が満ちているのだろうが、今は人の混沌とした意思が渦巻き、負の感情にあてられてしまいそうな雰囲気
時也は気分が悪くなりそうで少しでも気をまぎらわすために大聖堂の奥、何かを高らかに奉り上げているところへと歩を進めた。
それへ必死に祈りを捧げる司祭達。
今の絶望的な状況を何とかしてくれと願う。
祈ることで精神的な安定を得ようとし、祈ることで司祭として人々への救いを手助けしたと満足する。
(……腐ってる。自分達のその手では、何も救ってなんかいないのに。……いや、僕だって人のことは言えないか……。)
うつ向こうとしたが、顔を上げた。
縁達が戦っている。
自分だけ落ち込んでいては申し訳ないから。
司祭達が奉り上げていたものが視界に入る。
偶像があるのかと思っていた時也だが、それは違った。
「……氷?」
大きい氷の塊。
人が氷漬けになっていそうなサイズ。
いや、まさしくその中には人があった。
「……そうか、これがリーアさんの言っていたやつか……。」
氷の棺に封印された刀夜。
その表情は微かに笑みを浮かべており、まるで聖人のようだった。
(でも、なんでこんなところに?あ、そういえば麻衣ちゃんが勇者を探している人達がいる、って言ってたっけ。刀夜君のことだったのか。)
時也はボロボロになった刀夜の姿を直視出来なくて、その場を離れた……。
魔王の前へと立ち塞がる店長。
振り返ることなく前だけを見ている。
「魔眼を統べる王よ、いや、教皇のほうがいいか?」
「どちらでもないわ。昔なら私は、隊長の背中を見ていることしか出来なかったけど、今は戦友じゃなくて?」
リセミアは魔眼を使い過ぎたので両目を閉じた。
だけど、店長の大きな背中は、鮮明にイメージ出来た。
「……あぁ、戦友よ。縁達を頼む。少し派手になりそうだ。」
「頼まれました。」
クスッ、と笑ってリセミアは店長を送り出した。
「なんだ、二人で来ないのか?」
魔王が闇を翻して、ニヤニヤと笑いながら言った。
「今のお前なら、俺一人で十分だ。」
「言ってくれる!」
ザワザワと闇を展開しながら、それを収束。
凶々しい黒い剣を創り出す。
「ぐちゃぐちゃに斬り刻んでやろう!」
店長は魔王を見据えながら、己の武器を思い出す。
(上手く出来るだろうか?)
長い間忘れていた勇気の心。
その手に紡がれるのは闇を払う幻想武装。
「来い!斬星剣!」
星をも斬り裂く勇者の剣。
店長の身長の3倍はある巨大な大剣。
それを軽々と振り回し、威風堂々と構えた。
「行くぞ!」
神速の踏み込み。
石畳みの路を踏み砕きながら魔王へ迫る。
「オオォォォォッ!」
上段から一気に振り下ろされる斬星剣。
常人ならばその風圧だけで砕かれてしまいそうな勢い。
「カハハッ!」
魔王は闇を緩衝材変わりにし、地に根を張るようにして闇を展開すると、店長の剣を受け止めた。
「相変わらずの馬鹿力だなぁ!」
ギリギリと剣を押しあいながら、悪態をつく魔王。
「このまま両断してくれる!」
戦装束がキリキリと体を締めつけるように動いた。
そして店長の体からさらなる力を絞り出す。
「ガアァァァァッ!」
「クッ!」
魔王の黒い剣に斬星剣がめり込んでいく。
ピキッ、ピキッ、と音を立ててヒビ割れていく。
店長の体中の筋肉が悲鳴をあげていた。
戦装束は戦う力を増幅する『勇者の鎧』。
しかし、人間の領域を越える力を行使した場合には、それなりの反動がある。
「このままっ!押し通る!」
歯を食いしばり、痛みをこらえながら、魔王を剣ごと断ち斬った!
「グアァァァッ!?」
断末魔を上げながら両断される魔王。
闇を撒き散らして崩れゆく魔王。
「はぁ、はぁ……。」
息を整えながら、散っていく闇を睨みつける店長。
「終わりましたか?」
リセミアが縁に治癒の奇跡をかけながら問いかけた。
ゆかりへの蘇生の奇跡は、準備が必要なためにこの場では出来なかった。
「……いや、この感じは逃したな。やはり、今の俺ではとどめは不可能か……。」
「その通りだ!」
聞くだけで人々を不安にさせる魔王の声。
店長が空を見上げると、闇が螺旋を描きながら集まっていた。
「いいだろう!何度でもお前を斬り裂いてやる!」
ギチギチと、戦装束がさらなる力を生み出させようとする。
「フハハハッ!我も暇ではない!ここを通ったのも、ただ通り道だったからにすぎん!」
集まった闇が再び分散する。
「我はもう行く。お前達はこれでも相手にしているがいい!」
魔王の声が遠ざかる。
そして、代わりに魔王とは闇の存在が具現する。
それはリプルに満ちた闇を吸収し、膨れ上がり、巨大な闇の巨人を創り出した。
現れたのは二体。
20m程の大きさの巨体が建物を踏み潰し、確かな破壊の意思をもって混乱を招いた。
『アアアァァァァ!』
『オオオォォォォ!』
耳障りな雄叫び。
「クッ!これ以上は好きにさせん!」
筋肉が断裂しそうになるのを無視して駆け出す店長。
世界新記録を軽く凌駕する勢いで巨人の足元へと駆けつける。
「跳べ!斬星剣!」
ただ単純に力まかせに斬星剣を投げつける店長。
クルクルと空気を斬り裂きながら跳ぶ。
『ガアッ!?』
ズパッ、と巨人の首を両断。
そのままブーメランのように弧を描いて店長の手に返ってきた。
巨人が分解して消えきる前に次の巨人へと向かう店長。
「ウオォォォォォ!」
地を蹴り、民家の屋根へ着地。
屋根と屋根を地を駆けるのと変わらない速度で走り抜けた。
半壊した塔を駆け登ると、巨人の高さを越えて跳んだ。
「斬星剣!一刀両断斬りぃぃぃーっ!!!」
巨人の頭部に剣が入っていく。
ズズズッ、と剣の重みと、店長の人並み外れた力が合わさり、巨人が斬り裂かれていく。
「オオオォォォォ!」
遮るものは無い。
一直線に巨人を断ち斬り、あっという間に二体の巨人を倒した。
「グッ、ここまでか……。」
尋常ではない力を使った店長は膝をついた。
全身の激痛に耐えながら、もう一度立ちあがり、リセミア達の元へと歩き出す。
「……まだ、こんなところでヘバっている場合ではない。」
リプルから闇の気配は消えつつある。
モンスター達も、ここは通り道に過ぎなかったのか、次第に数を減らしていた。
神官戦士達の活躍と、店長の活躍をまのあたりにしたのもあるだろう。
多量の死傷者を出しながらも、リプルは最悪の事態だけは回避することが出来た。
「後は、ゆかりを蘇生して、それからは……。」
再び剣を手に取った店長。
再び勇者としての戦いに身を投じることを決意したのだった……。
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