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日が暮れて、夜の闇に包まれた。

隊長が最初に見張りをやってくれるそうなので、俺は先に休ませてもらう。

薄っぺらい毛布にくるまって就寝。

眼帯の奥の左目がジンジンとうずくけど、『移植』したばかりだから、まだ馴染んでないんだろうと思う。

あー、けっこう歩いて疲れたし、すぐ眠れるだろう。

夢も見ることの無い、静かな眠りの中へ。

そして、意識が途切れた。

――ドクンッ

――ドクンッ

――ドクンッ

鼓動。

一体、何の?

目が覚めた。

真っ暗な場所。

夜よりも深い闇。

ここは一筋の光さえも無い。

どこを見渡しても闇である。

「夢か?夢はあんまり見るほうじゃないし、今日は見ないと思っていたんだが……。」

本能が拒絶しようとする闇。

闇への怖れを紛らわそうと、無意識に独り言を呟いた。

なんとなく、眼帯へと手をやった。

「……?」

無い。

眼帯が無い。

まぶたに指を這わせると、その下には『魔王の眼』の気配がある。

――ドクンッ

闇の鼓動。

「っ!?」

思わず指を離す。

生々しい感触が肌をざわつかせる。

「何か違和感……。」

まぶたを触れていた指の感覚が消えた。

右目を動かして指を視ると黒く汚れていた。

けがわらしい。

きたない。

よごれている。

「うわぁっ!?」

気持ちが悪くて、片方の手で拭いさろうとした。

侵食。

汚染。

闇は感染する。

「ああぁあぁぁぁ!」

ジワジワと這い上がってくる闇が、痛みを伴って俺を喰らおうと牙を向く。

――ゴポッ

左目から黒い、とても黒いものが湧き出てくる。

―ゴポゴポッ

勢いよく噴出したそれは、噴水の如く闇を撒き散らした。

「ひぃっ!?」

体に降りかかる闇がえぐるようにして体内に入り込んでいく。

痛い、痛イ、いたい、いたイ、イタい、イタイ――

気が狂いそうになる痛み。

いっそ狂ってしまえばいいのに。

ジクジクと黒が這い回り、精神をズタズタに切り刻もうとする。

左目から湧き出る闇に溺れる寸前になって―目が覚めた。

「うわぁぁぁっ!?」

毛布をはねのけて起き上がる。

心臓の音がやたら大きかった。

「……夢?……ははっ、夢か……。」

胸を押さえて息を整える。

有り得ない程のリアリティ。

まだ残る侵食の痛みがただ恐ろしかった。

「……縁、闇に喰われる夢を見たのか?」

見張りをしていた隊長が声をかけた。

夢の内容を知っているのか?

「どうしてそれを?」

「『魔王の眼』は、闇の塊、魔王の一部だ。それを人間に埋め込めば、闇の侵食が始まるのは自明の理。」

隊長が語り始める。

『魔眼王』になるということはこういうものなのだと。

「それは闇の存在と、自分の存在の戦いだ。

『魔王の眼』を完全に屈伏させることが出来れば侵食に悩まされることは無い。

しかし、屈伏させるためには己の存在力を高めなければならない。」

レベル上げをしろ、というのはそのためか。

「存在力を高めることによって自己をより強固にしなければ闇に喰われ、お前は闇そのもの、魔王へと化すだろう。」

「……。」

確かに、これは一人の人生に匹敵する代償に違いない。

「『魔眼王』とは魔王のことだ。」

「……は?」

「魔王の力の一つを持っているんだ、当然だろう。」

いきなり何を言ってんだ?

その言い分だと、俺が魔王だということになる。

「リプルに現れた魔王とは違うが、世間から見れば魔王として分類される。

それは魔王の力を分散させるための作戦なんだ。」

「分散?」

「魔王は怖い、魔王は強い、そんな感情が存在力を増加させる。

それを、あの魔王は強い、その魔王も強い、あっちの魔王も強い、

と人々の魔王への感情をそれぞれの魔王へと分散させれば、一点のみに存在力が集中することを妨げられる。」

「……じゃあ、俺にも闇の存在力が流れ込んでくるのか?」

「そうだ。自分の存在を確固たるものにしなければあっという間に喰われるぞ?」

「……。」

あんな夢を、これからずっと見続けるというのか?

そして俺が闇に呑まれた時、全てを黒く染める魔王になると?

「……もし、お前が闇に喰われて魔王と化した時は、俺が殺してやる。」

隊長が哀しみを帯びた微笑を浮かべた。

俺はなんとも言えない表情を返した。

隊長は俺を鍛えるためと、俺を殺すために、ここにいるのか……。

「侵食による痛みを抑えたいなら、リセミアから持たされた聖水を飲め。多少は和らぐはずだ。」

出発の時に持たされた聖水。

このためのものだったのか。

ガラスの瓶に入った液体を口に含む。

染み渡るようにして体に入り込むと、痛みが薄らいだ。

無くなれば、適当な教会で作ってもらえばいいらしい。

「これからは夜に移動だ。昼間に休め。夜のほうが闇の力が強いからな。夜のほうが呑まれやすい。」

「……わかった。」

隊長は『魔王の眼』を持つことの痛みを知ってもらいたかったらしい。

初日で大ダメージだ。精神的にな。

「闇に負けるな。必ず制御しろ。」

店長の静かなる激励。

あぁ、やってやるさ。

絶対に闇の好きなようにはさせない。

この闇と痛みを必ず越えてみせる……



あとがきっぽいもの。
作者「これが代償の詳細ですな。」
麻衣「うわぁ、なかなかきついですね……。」
作者「クックック、闇に呑まれる夢の時の、筆のノリがやたらいいんだが……。」
麻衣「黒いですね。」
作者「ふはははー。」
麻衣「ところで、次の予定は?」
作者「えー、とりあえず、ゆかりシナリオは一段落かな。」
麻衣「後半は縁さんメインでしたね。」
作者「むしろ、店長かもな。いや、今は隊長だが。」
麻衣「隊長さんの、昔の話も気になりますね。」
作者「要望があれば書くよ〜。web拍手とかに頂戴!」
麻衣「あ、web拍手のほうに何かあるみたいですね?」
作者「あるといっても、絵とかがあるわけでは無いのであしからず。」
麻衣「百聞は一見にしかずなので、押してみて下さーい♪」
作者「で、次回の予定ですが。」
麻衣「どんな話ですか?」
作者「光騎シナリオのクライマックスに入る前に、補完しておきたい話かな。」
麻衣「クライマックスを盛り上げるためにですね?」
作者「うむ。麻衣シナリオ、ゆかりシナリオさえも!
光騎シナリオのクライマックスを盛り上げるための布石に過ぎん!」
麻衣「これで盛り上がらなかったら……。」
作者「一年ほど休業ですな(笑)」
麻衣「頑張ってください!」
作者「おうよ。」
おわり



お気軽に叩いてやってください、喜びます(笑)


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