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居酒屋『一刀料男』。

時也がそろそろ暖簾をしまおうと思った時、扉が開いて暖簾をくぐったお客がいた。

「すみません、今日はもう店じまいなんですよ。」

申し訳なさそうに時也が言うと、お客は顔をあげて、

「あら、もうおしまいなの?せっかく来てあげたのに。」

誰からみても、偉そうな態度な物言い。

その女性の顔と声と雰囲気が、時也の脳裏に一人の女性の名前を思い浮かばせた。

「……もしかして、リセミアさん?」

以前見たものと違う簡素な神官服に、開かれた両眼。

髪型や声が変わっていないのでなんとか気付くことが出来た。

「正解よ。よくわかったわね。」

リセミアはツカツカと時也の言葉も待たず、カウンターの席へと座った。

「いえ、人の顔を覚えるのは得意なんです。居酒屋やってると特にじゃないですかね。」

とりあえず、暖簾を下ろして、リセミアの貸し切り状態へ。

時也が飲み物を尋ねると、リセミアは迷うことなくワインを注文した。

「神官って、お酒飲んでもいいんですか?」

「水の代わりよ。それに般若蕩とかあるでしょう?」

「あー、言われてみれば。」

どうでもいいような会話をしながら、時也はワインを用意する。

「何かつまむものでもどうですか?」

「太るから。遠慮しておくわ。」

色を見てから口に含み味を楽しむ。

「なんとか及第点といったところかしら。」

辛口の評価を下しながらも、満足そうな笑みを浮かべるリセミア。

「やっぱり、眼を開いていると印象が違いますね。」

「そりゃそうよ。眼は口ほどにものを言う、って感じかしら?」

「ははは、わかるようなわからないような。その眼は『魔眼』なんですか?」

両眼とも綺麗な青みがかった色をしていた。

「自前よ。外に出る時は、自分のを『移植』するの。」

「カラーコンタクトみたいな扱いですね。」

「『摘出』『適合』『移植』が使えれば自由自在です。」

ふふーん、と自慢気な顔のリセミア。

「それはそうと、何か用があって来たんじゃないんですか?」

片付けをしながら問いかける時也。

慣れた手つきで皿をしまってゆく。

「ん?飲みに来ただけよ?」

2杯目を自ら注ぎながら、あっけらかんと答えるリセミア。

「えぇ?そうなんですかぁ?てっきり何か言いたいことでもあるのかと……。」

拍子抜けした、と言わんばかりに脱力する時也。

「そうねぇ〜、しいて言うならもっと上等なワインを置いて欲しいわ。」

ほろ酔い気分で、気持ちよさそうな表情。

「……今度仕入れておきます。」

苦笑しながらお客の注文を受ける。

しばし沈黙。

ゆったりとした時間が流れて、リセミアが口を開いた。

「……正直な話、『魔眼王』っていう重荷を降ろせてホッとしてるのよ。」

「……。」

「まず、魔王に狙われることが無くなったから命の危険が減ったわね。やっぱり死ぬのは怖いから。」

「……そりゃまぁそうですね。」

「これで教皇の立場を譲っちゃえば、かなり自由になるんだけど、なんせレベルが足りなくて。」

「同じレベルの人はいないんですか?」

「少なくともリプルにはいないわ。この世界を探せばどこかにいるかもしれないけど。」

空になったグラスに、3杯目を注いでやる時也。

「当分は教皇やらなきゃダメね。あー、かったるい。」

だんだんと、砕けた口調になってゆくリセミア。

(……愚痴をきいてもらう相手を探していたのだろうか?)

リセミアの素性を知るものにしか、きかせることが出来ないお話。

『魔王』が神官の長たる教皇であったなど、公の場で話せる話題ではないから。

「縁には悪いけど、せいぜい頑張ってもらいたいわ。隊長もいることだし、なんとかなるでしょ。」

グラスの中身をグイッと飲み干し、次を催促するリセミア。

ピッチがあがってきている。

4杯目を注ぐ。

「ほどほどにしといたほうがいいですよ。」

「このぐらい、飲んだうちに入らないわ。」

ゴキュゴキュと美味しそうに飲んでいる。

「それに、例え酔っ払っても『解毒』でアルコールを飛ばせるのよね〜。」

「……うわぁ、神官がかなり卑怯に思えてきた。」

「何言ってんの。勇者のほうがよっぽど卑怯よ?10年前の勇者部隊なんかハメ技じみた戦い方のオンパレードだったんだから。」

「……。」

話しが盛り上がる、というかリセミアが軽快に、そして一方的にしゃべる。

(まぁ、楽しそうにしてるからいいんだけどさー。)

完全に聴き役に徹する時也は、リセミアのストレス解消に付き合うのだった……。



あとがきっぽいもの。
作者「まったりとした話かな?」
麻衣「ゆかりさんがいませんけど……。」
作者「まだ寝てる期間ですな。まぁ、要望があれば書くよ〜。」
麻衣「次あたり、光騎さん達の話に入りますか?」
作者「そういう予定ではあるよ。ちょっと時間かかるかも、だけど。」
麻衣「それって、新作にも手を出してるのが原因だったり・・・。」
作者「・・・ソンナコトナイヨ?」
麻衣「ちゃんと両立してくださいね?」
作者「善処しよう・・・。」
おわり



お気軽に叩いてやってください、喜びます(笑)


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