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「……ごちそうさまでした。」

ゆかりが手を合わせてそう言うと、店内の緊張が和らいだ。

両頬を腫らした店長は助かったと言わんばかりに安堵のため息をつく。

微妙な空気の中で、縁と時也はゆかりの顔色をうかがいつつ、

「ゆかりちゃん、味のほうはどうだった?」

あれからおにぎりライスではない料理が並べられゆかりは食した。

それについての味の評論である。

「う、うん。美味しかった。」

これといって味にうるさかったり、舌が肥えているわけでもないのだが、成り行き上、ゆかりの一言が、この店の良し悪しを決める雰囲気だった。

そのゆかりが言った一言は絶大なる影響を及ぼす。

「ありがとうございますっ!!!」

店長はやかましいほどの声量で言った。

深々と頭を下げて、顔を上げた時には感無量の表情であった。

「店長、やったな!」

縁が物凄く親し気に店長の背中をバシバシ叩く。

「うむ、我が料理に満足せぬ鬼は無し!」

くわっ、と気迫を高めて言い放つ店長。

「……誰が鬼って?」

ゆかりは店長の失言を聞き逃さなかった。

ゆらりと立ち上がると、ギギギッと音がするかのように首を回して店長を見た。

「ごめんなさい。」

店長はありえない潔さで、額を地面にこすりつけ、土下座した。誠意ある謝罪である。

「……。」

ゆかりはなんだかなぁー、って感じでげんなりしていた。

「いやぁ、それにしてもこの店の味、最高でしたよ。やっぱり繁盛してますよね?」

時也が店長に尋ねる。

店長は調理器具を片付けつつ口を開いた。

「いや、おまえ達が久しぶりの客だ。」

「……へ?」

店長がさらりと言ったその言葉は予想外だった。

「何故か同じ客は二度と来ないんだ。」

さっぱりわからん、とそんな表情で言った。

「店長の料理美味いのになぁー。」

縁は爪楊枝を使いつつ正直な感想を言う。

「……おにぎりライスとか出すからでしょ。」

ゆかりがボソッと言った。一同沈黙。

その静けさが居心地悪くて、ゆかりも押し黙る。

店長がうつむいて、それから顔を上げた。

「それだー!」

『えぇー!?』

店長は一筋の光明を掴んだかのような表情をしていた。

「もしかして、店長におまかせとか、今日のお勧めとかに、おにぎりライスを配置してたり……。」

ゆかりの言葉に店長がコクコクと頷く。

店長以外の人間は深いため息をついた。

「そりゃ、流行らんわ。」

「自業自得ですね。」

縁と時也が鋭い言葉を放つ。

店長が、うむぅ・・・とうめく。

「あと、和食だけってのもダメなんじゃね?この街の雰囲気からすると、洋食じゃん。」

縁は完全に見た目でこの街を判断した。

確かにあながち間違いではないが。

「店内も暗いしね。そういう趣向を目指してそうなってるわけじゃなさそうなのに。」

遠慮なくダメ出しをする二人。

店長はかなりの勢いでヘコんでいった。

「あっ、でも、料理は美味しいわけだし、普通にやればそれなりに繁盛するんじゃないかな。」

なぜか店長のフォローにまわるゆかり。

店長のすすけた背中が憐れに見えたのは秘密だ。

「……お前達に折り入って頼みがある……。」

店長が厳かな口調で言った。

『?』

時也達は店長の唐突な言葉に疑問符を浮かべる。

「この店を繁盛させるためのアドバイザーになってくれ!」

90度に曲げ理想的に頭を下げる。

店を立て直したいという、心の底からの願い。

「そもそも、なぜそこまで?理由はなんですか?」

時也は明確な言葉を求めた。店長は真剣な表情で言葉をつむぐ。

「我が料理の味を多くの人に知ってもらいたい!……ついでに儲けたい。」

店長は正直者だった。

時也と縁が考え込むようにして黙る。

ゆかりは二人におまかせなので、様子を見守った。

時間にして数秒の沈黙だったが、それは長く感じられた。

そして、時也が顔を上げた。

「同じ料理人として、ぜひ手伝わせて下さい!」

縁が顔を上げた。

「儲けたい、というところに惹かれた!」

ゆかりは、皆のテンションが高くてついていけるか不安だったが、

「じゃあ、私も協力します……。」

仕方無しという感じで返事をするのだった。

「協力に感謝する!」

店長が再び深々と頭を下げる。

時也は苦笑しながら店長に頭を上げさせた。

「アドバイザー、ってちょっと大仰なんで、アルバイト、ということで雇ってくれませんか?住み込みで。」

下手に出てると思いきや、ちゃっかり要求もする時也。

「うむ。2階の部屋は余っているから問題無い。3食、寝る場所は提供しよう。しかし、給料に関しては儲かり次第で!」

親指立てて言い放つ店長。

「問題ナッシング!」

縁が同じように親指立てて返事をした。

ゆかりは、とりあえずお冷を飲みながら成り行きにまかせた。

「じゃあ、ゆかりちゃんはウェイトレスね。これを着て。」

時也の手にあるのはフリフリの付いた、かわいらしい制服だった。

「……こ、これを?」

ゆかりが後ずさりながら確認する。

時也、縁、店長が頷く。

時也から半ば強引に、手渡されて制服を眺める。

確かに可愛いくて一度は着てみたいと思ったが、

(これで接客するの?……考えられない……。)

ゆかりはとても自分には無理だと思った。

「きっと似合うよ。」

時也は率直に言った。

正直に似合うと思ったから。

ゆかりは目立つ人物ではないが、容姿はそれなりである。

「ちょっと着てみろよー。店長が夜なべして作ったんだぜー?」

縁がサラッと、衝撃の事実を言った。

店長の顔を見ると、確かに目の下にクマが出来ていた。

店長は満足そうに頷いている。

「サイズは合ってるはずだ。我が眼力をナメるなよ!」

店長はギラリとゆかりを見た。

舐めるように見られてる気がしたゆかりは、とりあえず店長のレバーに一撃加えて、沈めといた。

「とにかく、一回着てみてよ。それから判断しない?」

時也は一定の距離を保ちつつ、ゆかりをなだめるようにして説得する。

ゆかりは、深いため息をついてから口を開いた。

「……仕方ないなー。着てみる。」

時也と縁と青冷めた店長が手を挙げ喜ぶ中、ゆかりは頬を赤らめつつ、着替えることに。

「……なんかこれ、着方が難しいな、っと。ん?合ってるかな?」

学校の制服は横にきっちりと畳んで、ウェイトレスの制服の袖に腕を通した。

ちなみにサイズはぴったりであった。

(あの店長、怖いよ……。)

店長のわけわからない技能に畏怖しつつ、全身をチェックする。

「……オッケー。」

スカートの短さが気になるが、とりあえずお披露目することに。

「……ど、どうかな?」

ゆかりははにかみながら、時也達の前に立った。

一同凝視。

ゆかりはモジモジして視線に耐えていた。

「ゆかりちゃん、超似合う!」

「グッジョブ店長!」

「我が人生に一片の悔い無し!」

それぞれ好印象の様子である。

「……ありがと。」

これだけ称賛されると悪い気はしないもので、ちょっとポーズをとってみたり、その場でクルッと回ってみたりする。

男共は、おぉー、と声をあげたり、拍手したりで盛り上がるのだった。

そして、そんな歓声を浴びて気をよくしていたゆかりは、気が付くとその格好で外を歩いていた。

「……なぜ、こんなことに……。」

言葉巧みな時也達の陰謀だった。

ゆかりを褒めちぎり、断れない性格を理解した上で、情に訴えるかのような話術で丸め込んだ。

現在、ヒラヒラの制服で宣伝のプラカードを持たされ、街を練り歩いている。

時也と縁も付いてきてはいるが、こちらは和食料理店の制服。

派手ででなく、むしろ控えめ。

ゆかりの格好が余計に目立った。

ゆかりは人々の視線、まぁ、様々な意味のある視線を受けていた。

(うぅ、恥ずかしすぎる……。)

しかも、いつの間にか試着をした時よりスカートが短くなっていたりして、屈んだらアウト、風が吹いたら論外なのである。

プラカードを掲げることを義務付けられているため、心もとないスカートを押さえることも出来ないでいた。

ゆかりは泣きそうになりながらも、目的地である街の広場に辿り着いた。

今度はプラカードの代わりに試食品を持たされたゆかり。

これを配るのが次の仕事だ。

時也はプラカードを、縁はゆかりと同じく試食品を配る。

ちなみに、この試食品は時也が用意したもので居酒屋っぽいメニュー、要はつまみ類だ。

店長の和食の他に、時也の料理も居酒屋に加えられたわけである。

「どうぞー、試食してみてくださーい♪」

笑顔を振り撒きながら試食品を配るゆかり。

最初はぎこちなかったものの、次第に慣れてきたようだ。

縁とゆかり、双子の連携プレイで次々と試食品が配られていった。

配っているなかで、ゆかりにちょっかいかけるものやら、まぁ、そのセクハラまがいのことをする者もいたが、時也と縁がやんわりと退けた。

力は無いが、口は達者な二人。

なかなか良いコンビだ。

気が付くと、試食品を配りきっていた。

これがなかなか好評で、中にはもう一度貰いにくる人もいたぐらいだ。

「まぁ、実際に店に来てくれるかはわからないけどね。それでも、期待してもいいかもよ?」

時也は試食からでたゴミなんかを片付けながら論評した。

「姉ちゃん目当ての客が来るんじゃね?けっこう好奇の目で見られてたし。」

縁がニヤニヤして言った。

ゆかりは恥ずかしさで顔を真っ赤にさせて、

「……早く帰ろう。」

消え入るような声でそう言った。

その時、広場から遠く向こうのほうがざわめく。

それとともに、とてつもなく速いものがこちらに向かって飛んでいた。

それは光と闇の二つ。

縁が目をこらすと、それは人の形をしたものだった。

それらは街の人々には目もくれず、速度を落とさないまま街を低空飛行で通りすぎていった。

剣の交わる音と、風だけを残して。

……風?

「きゃあぁぁ〜!?」

甲高い声が響く。ゆかりの声だった。

ウェイトレスの短いスカートが風にあおられて見事にまくれていた。

ガーターストッキングに、清楚な白のそれ。

広場にいた男達を釘付けにしたのは言うまでもない。

「もう、いや……。」

ゆかりは泣き崩れた。

時也と縁がゆかりをなだめるのに数時間かかったのは内緒である。



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