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「お待たせしました!居酒屋『一灯料男』です!」

ヒラヒラのウェイトレスなゆかりは、ドアを叩いてそう言った。

「おぉー、ゆかりちゃん今日も可愛いね!」

普通のオッサンが出てきて、ゆかりをマジマジと見ている。

ゆかりは満面の営業スマイルを浮かべながら出前の商品を渡し、お勘定を受け取った。

「お皿は外に出しといて下さいね。取りにきますから。」

「うんうん。また出前取るからねー。」

オッサンは鼻の下を伸ばしてゆかりを見送った。

自転車にまたがり、次の家へ爆走。

風でスカートがめくれそうになるが気にしない。

見せパンだから。

世の男共に良い夢を見させながら、ゆかりは立ち漕ぎで街を駆け抜けた。

なぜ出前?

その疑問に対する解答は単純明快で、せっかく自転車があるんだから何かに役立てることが出来ないか?、という話になり、ごく自然にお店関係で活かす方にまとまった。

昼はランチの出前、夜は居酒屋経営である。

ゆかりと縁は自転車を巧みに操り、リプルの街を駆けているのである。

ゆかりは配達が終わった帰り道で、同じように配達が終わった縁と合流した。

縁はウェイターの服装でペダルを漕ぎまくっていた。

「姉ちゃんも今帰り?」

「そだよー。」

疲れた様子のゆかりは自転車を漕ぎながらぐったりとしている。

「セクハラ?」

「いつものごとく見られるだけだけどね。もう慣れたわよ……。」

接客をしていれば仕方ないことであった。

「てか、下町のほうには行くなよ?治安悪いから。」

「分かってる。まぁ、ここも充分下町なんだけど。」

「こことは全然違うんだよ。常に油断出来ないし。てか、油断してなくてもかなり危険だったりするんだぜ?」

縁はとても口では言えないことだったので、それ以上は語らなかった。

店に到着。

店先で時也が、箒を片手に掃除をしていた。

「あっ、二人共おかえり。」

『ただいまー。』

ハモったのは、やはり双子ゆえにだろうか。

二卵性だが。

店の扉に手をかけたゆかり。

「ちょっと待った。」

時也がそれを止める。

ゆかりが?の表情を浮かべた。

今、店長を訪ねてきた人が店内にいて、深刻そうな話の最中であると、時也は説明した。

「そっか。どんな話なのかな?」

「わからないけど、訪ねてきた人は神官だったよ。」

「神官か……。」

縁は、以前神官が訪ねてきたことを思い出した。

(『勇者』、いや、『救世主』を探してるんだったか。今回も、それなのか?)

考えてもわかりようがない。

だから、縁は『盗賊』らしくやってやろうと結論を出した。

忍び足で扉に近づき、聞き耳を立てた。

「そんなことしちゃダメよ。」

「静かに。後で教えてやるから。」

興味津々だったゆかりは、しばし葛藤してから引き下がった。

「僕にもよろしく。」

時也は止める気無しだった。

縁は頷いてから、扉の向こうへと集中する。

『盗賊』の能力で強化された縁の聴力が、扉の向こうの話し声を捉えた。



「……あなたも現在の状況は知っているでしょう?」

神官衣を纏った20代後半の男が真剣な目つきで言葉を放つ。

「……あぁ、わかっている。」

店長は表情を変えず、包丁を研ぎながら答えた。

「それならば力をお貸し下さい!教会は今、圧倒的に人手不足なんです!一人でも多くの人材を必要としているんです!」

熱意のこもった言葉。

「……。」

しかし、店長は揺るがなかった。

「救いを求める人々のために、どうか!こんなところで力を持て余している場合じゃありませんよ!」

店長はゆっくりと顔をあげた。

その瞳からは感情を読み取ることは難しい。

ただ、疲労に似たものが漂う。

「……お前もこんなところにいる場合じゃないだろう。こんな世捨て人同然の人間に構わず、自分の成すべきことをやれ。」

店長の言葉に、神官の男はため息をついた。

「……また来ます。」

それだけ言って店を出ようとした。



(おっと!扉から離れないとな。)

縁は忍び足で扉から素早く離れる。

ゆかりと時也が掃除をしているところへ合流した。

(と言っても、聞いたことをそのまま伝えていいもんかね?)

店長の謎の部分に関わる内容。

神官が店から出ていくのを見送りながら縁は考えた。

「どんな話だった?」

時也が待っていたとばかりに縁に尋ねた。

ゆかりも耳をかたむけている。

「……あー、簡単にまとめるとだな、支援しろだとさ。」

縁は、肝心なところを伏せて伝えることにした。

(とりあえずは、俺の胸の中にでもしまっておくか。)

「どゆこと?」

省略しすぎて意味不明のため、時也は詳しく説明を求めた。

「今、避難民の人達がたくさんいるだろ?人手不足で、なかなか支援が行き届かなくて、ボランティアを募集してるんだと。」

縁は、バッチリとそれらしいことを言ってのけた。

(ふはははー、よくもまぁ、スラスラと嘘をつけるもんだなぁー、俺。)

そんなことを考えながら時也達の反応を待った。

「ふーん、そういうことかー。」

ゆかりはうんうんと頷いている。

疑っている様子は全く無い。

(我が姉ながら、もうちょっと人を疑ったほうがいいような、このままでいてほしいような……複雑だな。)

時也のほうは頷きながらも、一つの疑問を口にした。

「それなら、内緒話みたいにしなくてもいいと思うんだけど。」

(そりゃそうだな。)

縁は自分の創作の中の穴を指摘されて、頭をフル回転させた。

「実は店長って、金持ちなんじゃね?」

「もしそうだとして、関係あんの?」

「金持ちってことは隠してんだよ。ほら、あの店って繁盛してなくても大丈夫というか、店長もあんまり儲けることとか考えてなさそうじゃん。俺達を雇った時は、そんな感じじゃなかったけど。」

「そういえば、そうだね。」

「おそらく、姉ちゃんに色んな服を着せたいから雇ったんだぜ?」

「……それはなんかけっこう引く……。」

ゆかりはげんなりしている。

「だから、店長はかなりの金持ちで、店は道楽でやってんだよ。それで、金持ちってことは隠してて、あっ、それは色々面倒だからなんだけど、それで、神官の人は店長が金持ちだってことは知ってんだよ。」

「どうしてだろ?」

「寄付してるとか、この街の税の管理は教会がやってるとか、そんなところじゃね?」

「なるほど。」

「で、店長に内密で支援を頼んだんだよ。店長が金持ちであることを隠したいのは知ってるから。」

「おぉー、そういうことかー。」

完全納得のゆかり。

「肝心なこと聞くけどさ、店長はなんて返事したのさ?」

時也の問いかけに、縁はどう答えようか迷った。

(店長は完全拒否だったけど、金持ちがボランティアを拒否、って感じ悪いよなぁ……)

自分の嘘で店長を悪者にしたくなかった縁は曖昧に答えることにした。

「えーと、保留、みたいな?」

「微妙な返答……。」

時也はつまらないなぁー、という表情をしていた。

「なんつーの?ただ金を渡す、っていう支援のやり方が嫌というか何というか……。」

(やばいな、なんかすぐにボロが出そうな気配だ……。)

縁はすでに正直に内容を話していればよかったと思い始めていた。

「じゃあ、私達で何かいいアイデアを出してあげようよ!」

ゆかりが、私良いこと言ったよー、みたいな表情で提案。

「いいね、それ。」

時也もその提案に賛成する。

楽しいこと優先にする時也の性格たるゆえんである。

縁は話しが別方向で盛り上がり始めたので、気付かれないように、ホッ、と一息ついてから会話に参加した……。



お気軽に叩いてやってください、喜びます(笑)


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