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「炊きだし、なんてどうだろう?」

ある日の昼下がりに、時也はふと思い付いたことを提案した。

「ん?あぁ、それだったら俺達にも出来そうだな。」

自分達の力で出来る範囲で、何か人々の役に立てそうなことを考えていた。

(まぁ、炊きだしぐらいなら多少のいざこざがあったとしても、荒事にはならないだろうし。)

縁はゆかりや時也の身の安全が、確保出来そうなので同意した。

「じゃあ、店長にも聞いてみないと。」

ゆかりがフリフリエプロンドレスを揺らして立ち上がった。

今日は、メイド色の強いウェイトレスさんである。

あくまでも、ウェイトレスであることにこだわる店長だった。

「話は聞かせてもらった!」

「おわっ!?」

いつもならこの時間は調理場にいるはずの店長。

なぜか店長は、ゆかり達が休憩していた部屋の前にいた。

そして、ゆかりがよそ見をしながら扉をくぐったために、立っていた店長の分厚い胸板へゴッツンしてしまったのだ。

「うぅっ、痛い……。何?一体ここには何が入ってんの!?」

鼻をさすりながら、店長の胸板をノックするゆかり。

コンコンッと音が返ってきそうなぐらい硬かった。

「日頃から鍛えているからな!」

「一体なんのためにですか!?」

「漢とはそういうものなんだ。」

なにやら得意気な店長の表情。

「ふーん、そうなんだってさー。縁達は鍛えてんのー?」

男と漢の区別がついていないゆかり。

話をふられても困る縁達。

「いや、まぁ、鍛えてないけどさ……。」

「てか、ゆかりちゃん的にマッチョってどうよ?」

時也の問いかけに、ゆかりはチラッと店長の筋肉を見てから、

「好きくないかも。」

そう答えた。

その回答に、膝から崩れ落ちる店長。

床に手をつき、呆然とした表情で固まっている。

(……マッチョにならない程度にしておこうか……。)

実は最近、筋トレを始めていた縁は、姉に嫌われたくないので(ややシスコン)筋トレの量を加減することを密かに誓った。

「それはそうと店長、話を聞いていたなら手っ取り早い。避難民の人達のために、炊き出しをしませんか?」

時也は滅多に見せない真面目な表情で店長に問いかけた。

店長は時也の目をジッと見た。

その心意気を測るように。

床に崩れ落ちたままなので、いまいち格好つかないが。

「いいだろう。お前達の好きにやってみるがいい。」

時也達の人々のために何かをしたいという気持ちが、店長にとって心に明かりをともされたような、懐かしい感情を呼び起こされたような気持ちになった。

店長を含めた4人は、炊き出しのための準備に取り掛かった。

数日後。

端的に言えば、炊き出しは成功だった。

炊き出しを配るテントの前には長蛇の列が。

はっきりいって教会の支援活動は足りておらず、餓死者は出ていないものの、腹を空かせた者が多くいた。

時也達は、エプロンをつけて休む間もなくご飯をふるまい続けた。

その話を聞きつけた、居酒屋の常連、出前の常連達が、

「なんだ水臭い、俺達も手伝うぜ!」

「ゆかりちゃんのために協力するさ!」

下心が見え見えの者もいたが、人が集まり、避難民達のために救援活動を行うようになった。

「ははは、集まるもんだねぇー。」

お祭りめいた雰囲気になってきた。

そんな雰囲気が大好きな時也は、笑顔を浮かべっ放しだった。

「きっかけが欲しかったんじゃねぇの?何かを始めるってのは勇気がいるもんだしな。」

縁も嬉しそうに炊き出しを配る。

複数の協力者が列をうまく捌き誘導。

最初の数日に比べて、随分と配り易くなっていた。

「まぁ、でも、あれだね。私的に気に食わないのが、なんで『おにぎりライス』が人気なのよ!?」

うがぁー、とヒステリックなおたけびを上げるゆかり。

今日は割烹着っぽいウェイトレスさん。

店長のセンスが光る一品だった。

『おにぎりライス』、居酒屋『一灯料男』の店長のおすすめ品である。

その名の通り、おにぎりとライスがお盆に乗せられて出てくる。

米をおかずに米を食べる料理。

米にこだわりを持つ店長の究極の一品。

ゆかりは完全否定したものの、炊き出しでは何故か人気だった。

「うーん、確かに味はいいからね。」

「味はいいよな。」

時也と縁の言葉。

しかし、ゆかりは認めない。

「聞け、ゆかり。」

店長が腕を組み、自信に満ちた表情でゆかりの前に立ちはだかる。

「……。」

ゆかりは無言で店長の言葉に耳を傾ける。

「『おにぎりライス』は、そう!両方とも炭水化物!炭水化物はエネルギーに変換されることは知っているだろう?」

ゆかりは頷く。

「炭水化物+炭水化物のダブル炭水化物によって産み出されたエネルギーは、明日へと繋がる活力を産み出す!そう!『おにぎりライス』は!至高の!完・全・食・品!」

クワッ!と圧倒的な気迫を放ちながら言いたいことを言いきった店長は、やけに清々しい表情をしていた。

周りから拍手が巻き起こった。

『おにぎりライス』万歳の声がいくつも上がり、重なっていく。

『おにぎりライス』の名の下に、人々の心が一つになった……。

「……言いたいことはそれだけ?」

静かすぎる問いかけ。

ゆかりは周りの人間達のように流されることなく、店長の前に立ち塞がった。

視界の端で、時也と縁が退避していったのには気付かなかった。

「む?何か言いたいことがあるのかね?」

民衆の心を鷲掴みにした『おにぎりライス』の生みの親は、偉そうにふんぞり返る。

完全に調子に乗っていた。

「何が至高の完全食品よ!?炭水化物だけで完全食品なわけ無いでしょ!?」

「な、何を言っているんだ!具は、梅干しに、鮭や昆布、おかかに……ツナマヨだってあるんだぞ!?」

こんなにバリエーションがあるんだぞ!、と主張する店長。

滅茶苦茶必死である。

「その程度じゃ、栄養偏るに決まってるでしょ!そんなんで完全食品なんて言ってると、詐欺で捕まるわよ!」

「そ、そんな馬鹿な!?」

ガクッ、と力無く膝をつく店長。

信じていたものに裏切られたような表情。

店長、こんなんばっかりであった。

ざわめく民衆。

「これ、完全食品じゃなかったのか!?」

「・・・確かに美味かったけど、毎日は食えん。」

「ゆかりちゃんが握ったやつなら毎日でも食えるが、おっさんじゃあなぁ……。」

『おにぎりライス』の天下は三日も持たなかった。

店長はちくしょう!、と地面を叩きながらむせび泣いた。

離れたところで巻き添えを食わないようにしていた時也と縁は、

「……俺さぁ、店長って実は凄い大物だと思ってたんだけど、そうでも無さそうだよな……。」

姉に言い負かされて姿を、憐れそうに見守る縁。

「むしろ、ゆかりちゃんのほうが大物なんじゃない?」

口を動かしながらも、ちゃんと手を動かしている時也。

長蛇の列を着々と捌いている。

ゆかりは落ち込む店長を放置してウェイトレス再開。

さっきの騒動で増えたゆかりファンを適当にあしらいながら、炊き出しを頑張る。

笑顔を浮かべながら。

人々の笑顔を力に変えて、人々に笑顔を取り戻す。

笑顔は光で、光は闇を打ち消すもの。

闇が薄まれば、、負を力にするものは弱まり、歩み寄ってくるのは平和な世界。

しかし、それを許さないもの達がいる。

ゆかり達は、訪れる闇の足音に気付かなかった……。



お気軽に叩いてやってください、喜びます(笑)


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