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再度の召喚。

見覚えのある場所。

あぁ、そうか。

そういえば、前にいた場所に召喚されると聞いていたな。

素朴な感じのする家。

置いてあるものは最低限の生活に必要なものしかない。

というよりも、それだけしか揃えられない。

路地裏にあるような家はこんなものだ。

「ジンさん?」

家の真ん中につっ立っている俺に声をかけたのは、まぁ、家の住人だろう。

俺はゆっくりと振り向く。

そこにいたのは、やはりここの住人。

「エリスか。」

ふわりとした髪を、長く伸ばしたのが印象的な女。

少し垂れた瞳が点になっていた。

驚いた表情のまま、固まっている。

「……起きてるか?」

目の前で手をヒラヒラと振ってやる。

そうすると、ビクッと体を動かして俺と視線を合わせた。

「あの!お、おかえりなさい!」

頬にうっすらと赤みをさしてそう言った。

「……あぁ、久しぶりってことになるんだろうな。」

ただいま、とは言えやしない。

なぜならここは俺の帰る場所ではないから。

「カイは?」

エリスの弟、カイの姿がない。

ギルドか?

「カイはお仕事にいってますよ。あっ、お茶入れますね。」

いそいそとお茶を入れようとするエリス。

コップやら、お湯やらを用意するべく動きだすが、

「お茶はいらない、今から出かけてくる。」

白の部屋で購入したものを詰めた鞄だけを置き、玄関へ向かう。

「そうですか……。」

あからさまに残念そうな顔をするエリス。

しかし、気を取り直して口を開いた。

「晩御飯、作っておきますから!」

勇気を出して言ったのだろう。

エリスは頬の赤みをさらに増している。

「いつ戻るか決めていない。だから、作らなくていい。」

俺はそれだけ言って、ドアを開けた。

エリスは落胆した顔が視界の端に映った。

これ以上、エリスの心に入りこんではいけないな……。

そんなことを考えながら、俺はギルドへと向かった。

街は人で溢れていた。

道端で座っている人間が増え、争いの声があちこちで聞こえた。

以前より治安が悪くなっている?

俺達がいない間に何があった?

ひとまずはカイと合流して、情報を得なければ。

以前訪れたギルドの場所へ辿りつき、下っ端に符丁を示す。

「へへっ、旦那ぁ、その符丁はもう古いですぜぇ?」

そいつは意地汚い笑みを浮かべながら、そんなことを言ってきた。

新しい符丁を買えということだろう。

面倒を起こしたくはない。

なので素直に買ってやってもいいが、おそらくはギルド員なら無料のものだ。

金を払うのはバカバカしいと言えば、そうなのだが、どうしたものかねぇ?

「カイはいるか?」

試しに尋ねてみる。

その情報も売買のネタにされるだろうが。

「いくらで買う?」

やっぱりな。

どうも小金を稼ごうという輩が多い。

ここに来るまで、スリに何度遭遇したか。

もちろん好きにはさせなかったが、ギルドは正常に機能していないのだろうか。

「あっ、ジンさん!」

思考にふけっていると、聞き覚えのある声がした。

ギルドの扉が開いて現れたのはカイだった。

下っ端を押しのけ、カイは満面の笑顔を浮かべて走り寄ってきた。

さすがに姉弟だけあって、エリスと笑顔が似ている。

「どうやら随分久しぶりのようだな、俺の感覚よりも。」

やはり、慎悟の予想通りのようだ。

こちらの世界は、3ヶ月程の時間が経っているのは間違いない。

カイの顔つきが少しだけ大人びていた。

「ジンさん、どこに行ってたのさ?」

大変だったんだよー、と俺がいなかった間のことを話したくてウズウズしている気配。

盗賊として、どうなのかは微妙なところだ。

そうだな、まずはギルドで情報収集をする前にカイの話を聞いてみるか。

カイを促して、ギルド員がよく足を運ぶ酒場へと向かった。

カウンターに座り、適当に料理を注文をしてから話を始めた。

モンスターの凶暴化。

各地でモンスターの襲撃による被害の増加。

おとなしかったモンスターまでもが人を襲うようになり、世界は混沌としていた。

終末思想の蔓延。

モンスターの凶暴化に対して、世界の終わりが近いという結論に達したもの達による、終末思想の宗教が活性化していた。

これに対し、救世主思想の教団。

この世界の主な宗教、が魔王を倒した『勇者』を奉りあげて、教団の活性化をはかっている。

救世主信仰の教団から『勇者』への救済協力要請。

「この場合の『勇者』は、召喚された人間のことだな?」

「そうだよ。ジンさんは帰還していたけど、帰還していない人には協力要請があったみたいなんだ。」

「帰還していない、というのはどういうことだ?」

帰還しない、もしくは帰還出来ないということが在りうるのか?

「詳しいことはわからないんだけど、帰還出来なくなった、っていうことがあるみたいだよ。で、そういう人達に協力要請があったんだって。」

なかなか興味深い話を聞けた。

さらに、10年程前にあった出来事との酷似。

魔王を倒す→モンスターの凶暴化→魔王を倒す→魔術及び魔法の暴走→???

「情報が足りないな。10年前はどうなったんだ?」

「僕は小さかったから覚えてないんだけど、勇者が仲間と力を合わせて魔王を倒したんだってさ。かなりの犠牲が出たらしいよ。ほとんどの『勇者』が死んだみたい。」

その戦いで魔王を倒してからは、モンスターの凶暴化、魔術及び魔法の暴走が治まったらしい。

一体どういうことだ?

「……魔王を倒す順番があるのか、それとも倒し方に問題があるのか……。」

考えても分からない。

とりあえずはさらに多くの情報を集めて、慎悟に渡すしかないだろう。

考えるのはやつの仕事だ。

「どこかに、10年前の戦いで生き残った『勇者』がいるみたいだよ。」

ギルドに調査依頼をしてみたら、とカイは言った。

確かに貴重な情報源になるだろう。

あと、救世主信仰の教団が奉っている『勇者』のことも気になる。

魔王を倒したということは、刀夜である可能性が高い。

同時期に誰かが魔王を倒していたら話は違ってくるが。

「治安が悪いのは、世界の混乱のせいか。」

「ギルドも頑張ってるんだけど、とても手が回らないみたいだよ。モンスターの襲撃から避難してきた人が溢れてるから。」

「……そうか。」

ふと、エリスの顔が頭によぎった。

この治安の悪さが悪化していくのなら、家に一人残すのは不安だ。

かといって、側にいてやることは出来ない。

「カイ、エリスを守ってやれよ。」

カイは頷いた。

俺は席を立った。

カイに、ここの支払いと情報収集のための資金を多めに渡した。

金はメイディアによる提供で、たんまりとあるのだ。

俺はカイと違ったルートで情報収集を始めることにする。

……おっと、忘れるところだった。

「カイ。」

「何?ジンさん。」

俺は苦笑いを浮かべながら言った。

「新しい符丁を教えてくれ。」



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