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「さて、まずは何を尋ねるかな・・・。」

雑然とした屋内。

盗賊ギルド内には酒場も存在するゆえ、なかなかに騒がしい。

だらだら呑んだくれているギルド員を避けながら、情報を売買するカウンターへ。

「いらっしゃい。見ない顔ね?」

ざっくりとした髪型をした、いかにも男勝りという感じの女盗賊。

金勘定をする手を止めずに顔を覗き込んでくる。

「3ヶ月ほど前に何回か来たことはある。」

数えるほどしか来たことがないのだから、覚えられていなくても当然だ。

「ふふっ、商売柄、一度来た客の顔は覚えているわ。だから、私の前の担当の時に来たみたいね。」

盗賊のスキルの一つというわけか。

俺は武闘家のクラスだから、盗賊のことはわからない。

一瞬、場違いなところにいる気がしたが、なんとかなるだろう。

「入れ替わりは激しいのか?」

「最近はそうね。戦える人はどんどん駆り出されていくから。嫌な世の中よ。」

ということは、今残っている連中は戦えないか、レベルが低いやつらということか。

盗賊ギルドの内情も大変なようだ。

突っ込んだ話を聞きたいところだが、他に聞きたいことがあるのでそっちを優先。

「情報を買いたい。」

「どんな?」

お互いに顔を近づけ、声を潜める。

「勇者に関すること、全てだ。」

有り金の全てが入った袋と、メイディア家から提供された金塊も差し出す。

肝の座った感じのする女だったが、さすがに出された金額に目を丸くしている。

「・・・場所を変えましょう。」

奥の部屋へと案内してくれるようだ。

確かにここでは誰が聞き耳を立てているかわからないしな。

俺は情報さえもらえれば、どうでもいいんだが。

通路を抜けて、さっきまでとは違う作りの場所。

台風でも来ようものなら、吹き飛んでしまいそうな酒場とは違うところ。

案内された部屋はVIP専用の豪華な部屋だった。

座り心地の良さそうなソファーが置いてあり、調度品も立派なものがズラリと。 「しばらく待ってなさい。」

女は部屋を出て行き、俺は一人この部屋に残された。

これは情報に期待してもいいということかな?

手持ち無沙汰にして待っていると、さっきの女が飲み物を手にして帰ってきた。

さすがはVIP部屋、飲み物まででるらしい。

「すぐにボスが来るよ。」

グラスにワインを注ぎながら、サラリとそんなことを言った。

・・・ボス?

「・・・ボスって、まさかギルドの長じゃあ・・・。」

さすがにギルドの長が出てくるとは思っていなかった。

俺は内心の動揺を表に出さぬよう、差し出されたグラスを受け取る。

口にしてみると、芳醇な香りのするかなり良いワインだ。

「ボスが来る前に質問があるんだけど、いいかしら?」

女は自分の分も用意すると、俺の隣に座った。。

瞳は油断ならない気配を発している。

「ああ、答えられることなら。」

俺は深くソファーに座り直して、足を組んだ。

リラックス出来る態勢で迎え撃つ。

別にケンカをしに来たわけじゃないからな。

「率直に尋ねるけど、貴方は勇者ね?」

自信たっぷりの問いかけ。

まさか、こんなにすぐ見破られるとは。

おそらく、あっさりと見破られる要因があるのだろう。

ここはごまかすよりは正直にいくか。

「正解だ。正確には『勇者』ではあるが、クラスは勇者ではない。」

なぜ、わかったか尋ねてみた。

「簡単よ。まず、身のこなしで盗賊じゃないことは一目瞭然。でも、ただものじゃないことはわかるわ。

それで、そんな人が今ここにいるのが問題なの。」

「・・・そうか、ある程度の強さを持つ者はモンスター退治に駆り出されているか、

もしくは他のことで忙しい。この場に強い奴がふらふらとしてはいないということか。」

「そうね。王宮に雇われていたり、混乱に乗じて悪さをする者がいたり、そういう者に制裁を加える者がいたり。

今は本当に人材不足ってこと。」

「しかし、それだけで勇者と判断するには根拠が薄いな。もっとあるんじゃないか?

俺が勇者だという確固たる証拠が。」

俺の言葉に女は笑みを浮かべて、

「ふふっ、よくわかったわね。そうよ。貴方達の面は割れているわ。」

貴方達?

慎悟達もということか?

「貴方達が召喚された日、3ヶ月程前のことね。物乞いに成りすました私達の仲間が見ていたの貴方達4人の顔を。

盗賊は顔を記憶するように仕込まれているから、似顔絵も用意できたわ。」

見てみる?と言われてが、遠慮しておいた。

俺がその4人のうちの1人だとすぐに判断出来たのだ、相当似ているに違いない。

「・・・ということは、盗賊ギルド内には出回っているのか?俺達の面が。」

もしかすると、動きにくくなるかもしれない。

少なくとも隠密行動では盗賊に勝てるはずはないから。

「まさか。一部の幹部だけよ。勇者の情報は、慎重に扱うことになってるの。

はっきりいって、お金に換算することは出来ないわ。」

ニッコリと笑う女。

その手にはさっき渡した有り金の全てが握られていた。

それが目の前のテーブルに置かれる。

「・・・どういうことだ?」

わからない。

金が足りないということではない。

情報を渡さないということでもないはずだ。

なぜなら、こんな部屋には通さず、最初に追い出すだろう。

「簡単なことだよ。同胞。」

突然の男の声。

驚く暇もなく、目の前の誰も座っていない空間が揺らぐ。

現れたのは中肉中背で30代前半ぐらいの男。

ニンマリと笑った表情は、悪戯が成功した子供のよう。

「一体、どこから・・・。」

さすがに驚きの表情を隠せない。

ここまで鮮やかだと、タネも仕掛けもあるのは明確だ。

しかし、女が出て行き戻ってくるまで扉の開閉はなかった。

いつ入ってきた?どうやって、隠れていた?

「ふっはっはっはっはっ!疑問だらけのようだな!」

楽しくて仕方ないらしい。

女もクスクスと可笑しそうに笑っている。

俺もちっとも楽しくないんだがね。

「・・・魔術か、マジックアイテムといったところですか?」

姿を消す、気配すらも消せるようなそんなものがあるのだろう。

盗賊でなくても便利な代物があるに違いない。

「残念、不正解!まだまだ、勉強不足だねぇ〜。」

快活に笑う姿が、どうにも憎めない。

それはそうと、このおっさんは誰なんだ?

「・・・俺は仁といいます。貴方は?」

まず、他人の名前を尋ねる時は自分から。

俺が名乗ると、おっさんは女に目配せして、言ってやれというアイコンタクト。

「こちらは、かの有名な盗賊王、厳重朗様です。」

女はまるで自分のことのように誇らしげに言った。

盗賊王こと、厳重朗と呼ばれたおっさんは腕を組んで、ふんぞりかえっている。

・・・ふむ、盗賊王ねぇ。

「・・・誰だよ、それ。」

俺の一言にがっくりとうなだれる厳重朗だった・・・。



あとがきっぽいもの。
作者「えー、新キャラ登場しましたー。」
葵「覚えられませーん♪」
作者「君の場合、覚える気がないんじゃ・・・。」
葵「えっへっへー♪」
作者「・・・まぁ、何はともあれここらで加速していきたいところです。」
葵「私達の話もちゃんと書いてね〜。」
作者「ちゃんと書きますよー。」
おわり



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